新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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52話

「なぁおいオルフェ…もう一回言ってみろ。…俺は今、冷静さを欠こうとしてるから慎重に言葉を選べよ?」

 

「何度も言わせる出ない。なぜ二冠ウマ娘に甘んじている?」

 

「…そうかいそうかい。じゃあてめぇはこう言ってるって解釈でいいのか?『お前のような最弱の代表がなぜ二冠も取れてしまったのか』ってなぁ!」

 

シャカールが拳を尖らせるように握りオルフェーヴルに殴りかかる。それを流れるようにいなし、再び殴りかかろうとするシャカールに構わず話始める。

 

「曲解だな。言の葉を理解せよ。出来ぬ貴様ではあるまい」

 

「だったら何か?オレならもっと上を目指せたってか?…ふざけんじゃねぇぞ、オレが、どれだけ計算して計算してし尽して!それでも超えられたオレの心がてめぇに分かるか!」

 

「さぁな。余はそれを知らん。そもあの負けは貴様の勝手な決め付け、怠慢であろう?」

 

「てめぇ!」

 

次々に、恐れもなく地雷をぶち抜く。それが意図してやっている事なのは目に見えて明らかだ。明らかだからこそ、オルフェーヴルの真意が余計に見えなくなる。

 

「シャカールストップ!怒りたいのは分かるけど落ち着いて!」

 

「これが落ち着いてられっか!離しやがれファイン!」

 

「お願いだから落ち着いて!グルーヴさん、オルフェさんをお願い!」

 

「やってる!おいオルフェ、どういうつもりだ!?無為に神経を逆なでするお前じゃないだろう!」

 

「疾く下がれ。余はあやつに用があるのだ」

 

「暴君とはよく言ったものだ…」

 

事態は一向に収拾しない。そんな中、笑みを浮かべて静観していたジャーニーが口を開く。

 

「ファインさん、シャカールさんを離してあげてください。エアグルーヴさんもどいてあげてください。決して、悪意がある訳ではないはずなので」

 

「しかし…」

 

「大事になりそうでしたら私が止めますので…どうか、オルの好きにやらせてあげてください」

 

「…分かりました。ですが、危険と判断したら武力行使も厭いませんのでご承知を」

 

グルーヴがそういうと虚空からゲイボルクを取り出しながら3歩ほど下がる。それを見たファインも困惑しながらもシャカールを離す。

 

「余を実験材料にしようとした不遜な科学者もどきから委細聞いている。…何ともマヌケよな。自身が作った信頼に足る相棒とやらが、単なる木偶の坊とも気付かずに」

 

「Parcaeが木偶の坊だ?ワリィがオレの相棒は優秀だ。データ食わせてやれば成長曲線にレース結果の演算、何でもござれだ。それにコイツの計算は完璧だ。今まで外れたことがねぇ。ボンクラ王様のこの先のレース結果でも占ってやろうか?」

 

「不要だ。木偶を杖にする予定は無い。しかし…ハハッ、愉快よなぁ」

 

シャカールの弁を嗤う。まるで出来の悪い見世物をバカにするように。バカにされ続け、苛立ちがオーバーフローして冷静になりかけたシャカールに再び怒りがこもる。

 

「何が可笑しい」

 

「貴様が完璧でないくせにその貴様が作った木偶が完璧なわけがなかろう?」

 

「っざけンなよ!オレがどれだけ計算してもオペラオーにクリスエスはいとも簡単に計算を超えてきやがる!ドトウも気合だけで壁を壊しやがった!オレは…オレは……!」

 

シャカールの怒号が慟哭へ変わる。声もかすれていくように小さくなっていく。そして絞り出すように…ただ一言。

 

「…置いてかれたんだ」

 

そこには先程の覇気は欠片もなく、海よりも深い絶望がそこにはあった。

 

「最適解を見つけて、レース直前まで計算を繰り返して、それでもアイツ等には届かなかった。オレや同期が負けるたびに、向けられる期待が疑惑に、疑惑から確信に変わっていった。『アイツ等の世代は最弱だ』ってな。そうなればオレの二冠にも当然目が向けられる。『シャカールの二冠は偶然だった』『運が良かっただけだ』。負けがかさむたびに、オレもそう思うようになっちまった」

 

俯きながら話すシャカールに3人は声を掛けられなくなる。しかしその中で、腕を組み、目を閉じて聞いていたオルフェーヴルは。

 

「腑抜けが」

 

顔に怒りをにじませ、ただ一言、発するのみであった。

 

「そう見えるだろうな。何とでも言いやがれ。オレはただの負け犬だ」

 

「では貴様は、木偶の坊に『自害しろ』と言われたら遂行するのか?」

 

「はぁ?する訳ねぇだろ。第一そんな命令誰に言われても拒否するに」

 

「そうだ。であればその通りにすればよかったのだ」

 

オルフェーヴルの物言いはどこか遠回しで一見聞いただけではいったい何のことかさっぱりだ。過去を引きずり出し傷心しきっているシャカールでは真意を読み解くことが出来なかった。

 

「禅問答だな。とっとと核心を話してくれよ」

 

「…まぁ良い。貴様はただ、木偶の坊を否定すればよかったのだ。そして自分自身をな」

 

その言葉を飲み込めないシャカール。しかしオルフェーヴルは構わない。

 

「理論でレースを制することも出来よう。しかしその程度のモノが名誉に届く訳がない。貴様には足りなかったのだ。心のまま、想いのまま、なりふり構わずに走っていればあんな無様な負けは無かったはずだ」

 

「想い如きでどうにもならなかったからああなっちまったんだろうが!」

 

「まだ現実を見ぬか!すぐ近くにいたであろう、貴様の無下にしたその想いですべて覆した者が!」

 

「…ッ!」

 

そう、知らない訳がなかった。執念だけで壁を叩き壊したメイショウドトウ、ジャングルポケット。そしてその隣…

 

「お前も…そうだったよな。ファイン」

 

走るのが好きで、務めすらかなぐり捨ててそれでも走ることを選んだファインモーション。シャカールは最初から気付いていたのかもしれない。しかし彼女は言うなればデータの信奉者。現役時代にそれを認めることは出来なかった。

 

「天上天下遍くを統べる余の才に比べるまでもなく貴様らは等しく凡夫だ。しかし、不遜ながら私よりも先に功績を残した者たちも、俗世から見れば非凡なのだろうな。それは三冠を取り逃しこそすれ、貴様にも当てはまろう」

 

「オルフェ?」

 

「エアシャカールよ。その脚の使い方、二度と間違えるでない」

 

オルフェーヴルは踵を返しその場を去る。ジャーニーも3人に一つ礼をし後を追う。

 

「全く何だったんだ…。何事も無くて良かったが」

 

「…チッ。全く勝手なこった」

 

ポケットに手を突っ込みながらシャカールもその場を後にしようとする。それをファインが呼び止める。

 

「シャカール、パソコン忘れてるよ?」

 

「…いや、いい。あとで取りに戻る、置いといてくれ。それよりもファイン、エアグルーヴ、ちょいと面貸せ」

 

「なんだ、私も暇じゃないんだが?」

 

「一本付き合えよ。オレに勝てたら生徒会の仕事手伝ってやるよ。ファインのウマチューブも少し凝った奴にしてやるよ。まさかビビってるわけじゃねぇよな?」

 

シャカールはそう言って子供のように、少し悪そうな、しかしながら純粋な笑顔を見せる。その様子を見た二人がその誘いを断れるはずもなく。

 

「吐いた唾は飲むなよ?」

 

「シャカールと全力で走るのなんて久しぶりで楽しみだよ!絶対負けないからね!」

 

「楽しませてくれよ、女王様方?」

 

その後のシャカールの様子は普段とは何も変わらない。…が、よく見ると顔の険が少しだけ無くなった…らしい。

 

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