新人トレーナーの日常   作:サラダ味

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8話

「頭蓋骨って案外頑丈ね」

 

脳みそを守っているだけあってやはり頭蓋骨は素晴らしい。ボクシングとか格闘技で頭突きが禁止されるわけだ。アレを鼻っ柱に喰らったらと思うとゾッとする。

 

さて、たづなさんのおかげで例のレポートは何とかなったし、コーヒーでも嗜みますかな。そうと決まればカフェテリアへゴーだ。

 

「…いや、混み混みだなおい」

 

時計を見るとちょうどお昼時、混んでない方がおかしい。だが俺も座ってくつろぎたい。部屋まで戻るのが若干面倒なんだ。とりあえずコーヒーを貰って空いてる席を探す。まぁ当然のように無い訳なんでございますけど。きれいに埋まってるもんだなぁ。

 

…お、ちょうど一つ空いてるところがあるじゃあないか。六人座っているが椅子自体は空いてるなら名古屋名物、相席としゃれこもうか。

 

「もし、ここに失礼してもいいかな?席がどこにも空いていなくてね」

 

「そういう事でしたら是非。何やらお疲れのようですし、お気になさらず」

 

ホッケ定食を食べようとしている子が許可を出してくれたのでお言葉に甘えて席に着く。お邪魔してしまっている手前、可及的速やかに疲れを癒すとしよう。

 

「グラスは一週間は和食デスね。たまにはハンバーグとか食べないと故郷の味を忘れてしまいマース」

 

「そうだよグラスちゃん!おいしいのは分かるけどもっといろんなものを食べないと!」

 

「そういう貴方は少し食べすぎじゃないかしら?…ほら、今日はキツめのトレーニングだったんだからいつものペースで食べてたらむせるわよ」

 

「そ、そうだねキングちゃ…グホアァッ!!」

 

「ほら、言わんこっちゃない…ってスカイさん!どさくさに紛れて私のコロッケを奪わないで頂戴!」

 

「あちゃ~バレちゃったかー」

 

仲が良い事はとてもいいことだ。見てるこっちがほっこりとする。癒しというのはこういう事なんだろうなぁ。

 

「すみません、賑やかになってしまって」

 

「いやいや、お邪魔してるのはこっちなんだしお構いなく」

 

…グラスって呼ばれてたか。きれいにホッケを食べるなぁ。小骨とか色々で食べるだけで手こずるのに…。味はいいんだけどなぁ。

 

「うーん…なんか物足りないデース」

 

マスクの子が目の前の料理に苦言を呈する。パエリアだから少し味が薄かったのか?そんなことを思っていたらカバンからおもむろにデスソースを取り出す。…何する気だコイツ。

 

「やっぱり辛い方が美味しいデース!」

 

予想的中、それを盛大にぶちまけやがった。その反動はグラスにも及ぶ。見事に身と骨に解体されたホッケの身の部分にだけデスソースがかかる。

 

「エ~ル~?」

 

そのかかり方は芸術を思わせるほどだ。グラス、君はエルをぶん殴っていい。ホッケに追悼の意を表しながらコーヒーを飲む。

 

「………ッ!!??」

 

なんだこのコーヒー、バチクソに辛いぞ!?大急ぎで容器についている蓋を外すとコーヒーの色で良く分からないが、よく見るとラー油のような感じで赤い液体が浮いているように見える。まさか、あの小さい穴からあのデスソースが入ったって訳か!?だが、まずはやらないといけないことがある。

 

「おいくそマスク…」

 

「ケッ!?まさかそっちにも被害が!?」

 

「表出んかいこらぁ!おどれのやったこと一生後悔させたるわ!」

 

コイツを確実にぶちのめしてやる。俺のコーヒータイムを邪魔した罪は重いんだよ!

 

 

 

 

 

所変わって三女神像前。

 

「コーヒーの弔い合戦や!往生せいや!」

 

「ふっふっふっ!さっきは少しばかり驚きましたが、獲るに足らぬ相手デース!」

 

「人間だからって甘く見てんじゃあねぇぜ!早速喰らいやがれぇ!」

 

俺は助走をつけて渾身のラリアットをかます。あいさつ代わりって事で受け取りなぁ!

 

「止まって見えマース!ほうら、足元ががら空きデスよ!」

 

「クッ、コイツ!」

 

あの身のこなし…コイツ相当動ける!躱す動きと攻撃が両立してやがる!このままだと足首を掴まれてしまう…仕方ない!

 

「跳ぶ!」

 

悪手だがこうするしかない。ウマ娘相手に掴まれたらまず振りほどけない。掴まるわけにはいかないんだよ。

 

「甘いデスよ!一気に捕まえマース!」

 

「何ッ!?」

 

掴む動作をキャンセルして後ろから一気に腰を抱えられる。まずい、これは非常にまずい!

 

「止めろぉ!人が一人死ぬぞぉ!」

 

「安心するデース、ちゃんと手加減してあげマース!」

 

その言葉の次には勢いそのままに俺の後頭部と頸椎は地面に叩きつけられる!まさか、プロレス名物のバックドロップをここで喰らう事になるとはな………。だがしっかりと手加減自体はしてくれたようだ。だってちゃんと死んでないモン。

 

「クックックッ…やるじゃねぇかエル。それならこっちも本気でやれるってもんだ!」

 

「アタシに手加減は必要ありまセーン!どこからでも掛かってくるデース!」

 

「いいぜ…ところで…これなんだ?」

 

そういう俺の手にはエルのマスクが握られている。

 

「それはエルのマスク!いったいいつの間に!?」

 

「俺さ、ちょいとばかり手癖が悪くってなぁ。目についたものは盗まないといられないんだよなぁ」

 

「か、返してください!」

 

「ほらよ、受け取りな!」

 

マスクをエルの頭上にぶん投げると同時に前に出る!エルはマスクに気を取られている。今なら俺の最大火力、ヤエノ師匠直伝の正拳突きが入る!

 

「せいやぁ!!」

 

「ぐえぇ!」

 

よし、手応え大有り!さて、ダメージはいかほどか?掴んだマスクを装備したエルが正拳突きを食らった箇所を手で払う。

 

「中々の威力でしたが、まだまだデース!」

 

………全然効いちゃいねぇ。やっぱウマ娘って固いわ。いや固いっていうか俺のATKが足りない、圧倒的に足りない。種族値って大事ねホント。…さて、こうなったら奥の手を出すか、めっちゃ早いけど奥の手であの世に送ってやるか。

 

「そうかいそうかい、もう後悔してもおせぇぞ!」

 

ポケットから緑色のタイツのようなものを取り出す。そいつを右腕にハメていく。

 

「そ…それは…!?」

 

完全にハメて右手首、肘と順に曲げ、手の先をエルに向ける。そして決め台詞だ。

 

「コーーーブラーーーー!!」

 

「や、ヤバいデース!アレを食らったらKOは免れまセーン!」

 

「喰らって田舎へ帰りなぁ!」

 

「…ねぇキングちゃん、あれってどういう技なの?」

 

「私が知るわけ無いでしょう…エルさんがあそこまで動揺してるって事はそれなりの技なんでしょうけど」

 

「スぺちゃんキングちゃんアレを知らないの!?WWEで伝説とまで言われたあの技を!」

 

「あぁマンボ!コブラに立ち向かってはいけまセーン!」

 

「何だぁこの鷹は!?だが向かってくるというのなら、コブラの餌にしてやるだけよ!」

 

そう意気込み、コブラを鷹に叩き込もうとする。だがさすがは鷹、華麗に避けて…次の瞬間には俺の髪の毛をむしりやがった!

 

「てめぇ、若ハゲになっちまったらどうするんだ!」

 

「確かにその髪の毛は鳥の巣にピッタリデース!」

 

「………!!!ぶちのめす!まずは鳥野郎、貴様からだぁ!」

 

むしることに夢中の焼き鳥の素材候補の首根っこを掴み、コブラをぶち込むとたちまち出荷待ちの状態になった。

 

「あああぁぁぁぁーーーー!マンボーーーーー!」

 

「次はエルコンドルパサー…貴様だ」

 

エルが少し後ずさる。その開いた距離の倍詰め寄る。その喉元にコブラを叩きこむために。

 

「エルちゃーーーーーん!」

 

その声に振り向くとリコーダーを持ったツルマルがいた。そしてそれを吹き始める。

 

「ハッ!インドの蛇使いか何かか?そんな大道芸が通用するわけ…が……あれ?」

 

コブラがリコーダーの音の方に向かって行ってしまう!なぜだ、コブラよ、そっちじゃない!

 

「♪~♪~ゴフッ!ゲフッ!」

 

「や、やっと自由が戻った…。しかし、危なかった…」

 

「隙アリデス!ツルちゃん感謝します!」

 

「フン!」

 

エルの飛び掛かりを何とか超反応で躱す!同時にエルの左足にコブラを叩きこむ!

 

「あ、脚に力が入りまセ~ン…!」

 

「では死ねぇい!」

 

「スぺちゃん、受け取って!」

 

「あいつ、まだ動けたか!」

 

リコーダーがスぺの方へ投げられる。それを腕を突きあげながらキャッチするスぺ。そしてそれを口へと持っていく。

 

「エルちゃん、頑張って!♪~♪~」

 

「コブラよ、惑わされるんじゃないぞ!」

 

しかしその言葉もむなしく、コブラは俺の制御を外れる。そして、予想だにしないことが起こる。

 

「こ、コブラよ、こっちを見るな!止めろ、俺たちは寝食を共にした仲だろ!?な、話し合おう!」

 

コブラの首辺りに左手を入れてその毒牙を受けないようにするが、いつまで持つか分からない!あのリコーダーをどうにかしなくては!………ダメだ、対処法が思いつかねぇ!かくなる上は!

 

「エルゥ!貴様も道連れだぁ!」

 

「その攻撃、苦し紛れと見ました!ヘッドシザース・ホイップでトドメデース!」

 

コブラをアッパーの形で強引に当てようとしたが飛んで避けられる。勢いそのままに頭を足で挟まれ、一気に体が宙を舞う!受け身も取れずに背中から叩きつけられる!

 

「ガッハアァッ…!」

 

「エルの勝ちデース!」

 

「コブラさえ、当てっていれば…」

 

軽く意識を失いかける。だが心を強く持って意識を手繰り寄せる。そして若干粉々になった疑惑のある背中をさすりながらなんとか起き上がる。

 

「あー負けた負けた。今回のデスソース事件については水に流そう。…また戦おう」

 

「ブエノ!いつでも相手になりマース!」

 

こうして固い握手を交わし俺とエルは和解と相成った。戦った後の和解というのはバトル物名物だろう。

 

「エ~ル~?何か忘れてはいませんか~?」

 

「ヒッ!ぐ、グラス~……」

 

「エルよ、死に候え」

 

「逃げの一手デエエェェェェェェェス!!」

 

…ありゃ死んだな。俺が色々やるまでも無かったらしい。という訳で今日の教訓。食べ物の恨みは恐ろしいという事でひとつ。

 

「さて、焼き鳥でも食べに行くか」

 

 

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