ナガレボシ短編集   作:ナガレボシ

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わたしとはなんだろう?

 私は時々、自分が何者なのか、わからなくなる。

 

 

 ある冬の土曜日の寒い夜。夜も深まり、家族は寝静まり、我が家は静寂に支配される。 私は自分の部屋を暗くして、机のライトだけで本を読んでいた。それは私が小学校の頃、『世界名作劇場』でアニメ化された物語の原作の本だ。主人公の田舎から出たばかりの少年が、街の風景に目移りしている場面が、忙しくも楽しそうに描かれており、ついこの少年の身の上を忘れてしまいそうになる。少年の言動や動きが、幼い頃に見たアニメと重なったり、今の私の経験が、少年の動きを自分のオリジナルに独立させたりしていると、ふいに頭がボウっとしてくる。時間は既に午前1時を過ぎていた。土曜日は日曜日になっていた。私は先ほど淹れたばかりの濃いコーヒーを1口飲む。苦さと甘さの両方が強く、やや下品な味だが、夜更かししたい時にはもってこいの味だ。ガタガタと窓ガラスが夜風に叩かれて音を鳴らす。隙間からわずかに冷たい空気が入ってくる。同時にそれがストーブの効いている部屋の温もりを実感させてくれる。ふと耳に意識を集中すると、時々車の音がしたり、こんな時間にも関わらず大声を出して何やらうたっている外国人の声がする。昔と比べてここらへんも随分と騒がしくなったものだと思う。そして自分も年を取ったものだなと、少し悲しくなる。社会人になったばかりの頃は、徹夜でミステリーを読んだ次の日でも、目をこすりつつ、仕事に行ったものだが、今は夜更かしをするのなら、次の日が休日でないと無理だ。

 

 私も年を取ったな・・・。あの頃は楽しかったな・・・。

 

 ふいに美しい思い出だけが、更に美化されて、心の中を優しく舞う。眠気が更にその思い出たちを、幻想的に、より美しく飾り付け、思い出たちが、より眠気を暖かく、心地よいものにしていく。 私はいつしか思い出たちと手をつなぎ、幼い子供のように、彼ら彼女らにエスコートされ、楽しく踊った。

 

 ふいにガタガタと窓が鳴り、冷気が頬を撫でて来た。 自分が眠っていた事に嫌でも気が付かされる。

 

 現実は情けないほど面白くない。 部屋の静寂が、外の車の音をよりうるさく感じさせ、温もりが、頬に当たった冷気を不快なものへ変えていく。当たり前に広がる今が、先ほどの夢を更に美しいものへと昇華させ、この瞬間が更に虚しいものへと堕落していく。 ここまでの感覚を噛み締めてから、また私は考える。

 

 私 とは なんだろう?

 

 さっきまで思い出と踊っていたのも、今虚しさを感じているのも、私だ。更に言うと、その思い出たちだって、私から産まれ出たものだ。 私とこれらとの違いとは、いったいなんだろう? いや思い出たちと、今と、私を分けている見えない壁が確かにある。だがよく考えてみると、その壁だって私だったものではないか?

 

 すべてが私であると同時に、全部が私ではない。ならばここにいる私とはいったいなんだろうか? 膨らんでいく疑問も私、疑問そのものも私、疑問を膨らませる力そのものも私。だけど、すべてが別のものである。そしてまた振り出しに戻る。 私とは、いったい、なんだろう?

 

 気が付くと身体がだらしくなっている。眠気がゆっくりと神経を支配していく。さっきまで感じていた恐怖にも似た感情が、静かに消えていく。私は読みかけの本にしおりを挟み、ストーブを切る。部屋の温もりが冷気に奪われない内に布団の中に潜り込む。心地よさが一気に眠気を加速させ、睡魔が夢の世界へエスコートしてくれる。私はすべてを忘れ、されるがままに身を任せる。しかしこれだけはわかる。この一連の流れも、私であり、私ではないものが起こしている。と。そして日常を普通に生きるためには、このような問は無駄なのだと。 そして私はまたつまらない人間へと戻っていく。

 

 





 時々、このような疑問に取りつかれ、気持ち悪くなることってありませんか? 私はわりとあります。そういう自分に酔っている時でさえありますが、そんな時も、軽い気持ち悪さと恐怖がありますね。

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