9月の中旬。蒸し暑さが涼しさの心地よさを引立て、涼しさが蒸し暑さの不快さを引立てている。波の音は心地よくもあり、潮風は肌にべっとりとした嫌な感触を容赦なく叩き付けてくる。そんな中で、制服を脱ぎ、私服を我が家に置いて、ジャージ姿で過ごす宿泊訓練は、日常から距離を置きつつ、非現実の世界には入りきれない、独特な世界観と興奮を私に与えていた。家族とではなく、友達と衣食住を共にし、勉強ではなく、イベントと共に学生として過ごす。ここでは私は私であり、何処か私ではなかった。たぶん、周りのみんなもそんな感じだと思う。浮足だった興奮と、何かに挑むような緊張、お互いの関係が、いつもと変わるような、そんななんとも曖昧な空気がその場を支配していた。そしてその支配に屈するまいと足掻く自分と、支配そのものを心地よいと感じる自分が、常に互いを引立てあい、引き落そう必死になっていた。
私達はこの時、間違えなく青春の中で過ごし、酔いしれていた。 そしてそれが青春だと気付くには、精神的に未熟過ぎた。経験に乏しかった。 ただ自分の感情を追いかけるのに必死で、それを言葉にする力を持ち合わせていなかった。 故に味わい尽くせていなかった。
みんなで夕食を食べた後、入浴時間がやってきた。 そして就寝までの間、30分ほど自由時間が訪れた。
それは異様な熱気だった。入浴後のクラスメイトが、男女が一緒に過ごす。そんな事は日頃ならありえない。お互いに何を離したらいいのかわからないし、近づく事すらも恥ずかしい。かと思えば、普段通りに、いやそれ以上に近づき、楽しそうに会話をしている男女もいる。2人の周りにある空気が眩しく光っているように見えるのは、きっと、私の気のせいではないはずだ。
あいつとは廊下ですれ違った。いやそれ以前にも何度も顔を合わせているし、話だってしている。 でも今回はすれ違った。声もかけなかった。あいつも何も言ってくれなかった。 制服姿じゃない私とあいつ、入浴後の私とあいつ、ちょっとダサイジャージ姿の私とあいつ。あいつは私の事を、どう思ったのかな? 私はどうして欲しかったのかな? あいつとの距離が開いた。あいつは振り返ってもくれない。いやむしろいつもより急ぎ足で逃げるように、そこから離れて行った。 さみしさが込み上げてきた。苦しさで息が詰まる。なんでそんな事になるのかわからないし、別に知りたくもない。だけど少し涙が出て来た。あぁ、これは潮風のせいだ。湿気のせいだ。ジャージの匂いのせいだ。
私ももう振り返らなかった。逃げるようにそこから離れた。あぁ、こんなイベント早く終わってしまえばいいのに・・・。等と思いつつも、こんな感情の中で足掻く自分を、まるでドラマの主演女優にでもなったかのように、演じることに酔いしれる私もいた。 やっぱり宿泊訓練は私をおかしくさせる。
あとがき
まずはここまで読んで頂きありがとうございます。ナガレボシです。まだ生存しています。
最近は趣味と仕事で忙しくも充実している中、昔の事を思い出す事が多々あり、このようなものを投稿させて頂きました。