世界征服しようとしたらヤンデレに呼び出された~我が大正義軍は生え抜き軍に負けるのか~ 作:三重知貴
「ただいまより戦争犯罪人、ハラディス・ユミウリオス元ハラディス帝国皇帝の処刑を開始する。」
おかしいな、上手くやったはずではあったんだけれど。
ギロチンってのは処刑される方には刃すら見えないので、ただただ市民たちが熱狂しながらこちらに注目しているのが見えるだけだ。そんなに僕が死ぬのが嬉しいのだろうか。
視界の端には憎き野郎がほくそ笑みながらこちらを見ている。今はの際には贅沢なくらいだろうか。
すっ、とギロチンを落とす紐の音が聞こえる。なんだかすごい長い一瞬に思えたが、なんだか現実感がない。
最後に叫ぶか。
「我が大正義軍は不滅だ!」
ドンッ!とギロチンが落ちて首が飛ぶ。
「GAME OVER」
現実ではないのだから、当たり前か。
「リザルトが表示されます。」
人生終わったら色々と答えを教えてほしいとは言ったものだが、こんな活字ばかりなのは味気ないものだ。
最近世に出た物珍しきゲーム、仮想体験型人生ゲーム「STORY」。
人生をほぼそのまま体験できるという一風変わったゲームだ。ファンタジーだろうがSFだろうが、現代だろうがなんでも五感と共に体験できる。特に視覚はリアルと遜色ない。
恋愛を楽しもうが、冒険を楽しもうが、戦争をしようが自由。その世界の主人公にもモブにもなれる。そしてストーリーはランダムに無限大。キャラクター1人ずつにしっかりと背景があり、独自の生成エンジンで細かなところまで作りこまれており、できることは無限だ。
僕はそんな時間泥棒ゲームで僕は世界征服をしている。
もっと正確に言えば大正義軍プレイで世界征服を目指している。
簡単に説明すると、あらゆるところの優秀な人材を引き抜きまくる、強い権力を持ち、ルールを変える傲慢な存在、パワープレーの代名詞だ。
そういったプレイを楽しみながら、ネットに備忘録を投稿している趣味人、それが僕だ。そこそこ人気はある。
現在攻略しているシナリオは「ヤーキュリオン」
このシナリオは多くの人がオリジナルシナリオの作成をしている中で、ファンタジージャンルでトップの人気を誇るシナリオだ。
よくある、硬派な王道の剣と魔法が舞台で魔王を倒すといったシナリオとして人気なのだが、僕はその中で人気もない、本編なら数行程度で出番が終わりの小国からの世界征服を計画している。
しかし、これが上手くいかない。
簡単な話、世界を脅かす魔王を倒せる勇者を持った大国を相手にするのだ。本編生え抜きエリートどもが沢山でてくる。一騎当千という言葉があるが一騎当億千くらい強い。バカかな?
しかも、シナリオの強いキャラは大体仲間にしても裏切って勇者につくし、王道な世界観だけあって、金、暴力、闇討ち、よりも友情、努力、主人公補正の方が100倍強い。
基本的な設定は変わらないが、細かいところは常にランダムに変化するため、主要人物の情報以外は確定していないというのもあり、大正義攻略をしようがはっきり言ってムリゲーだ。生 え抜き王国が強すぎる。
どうするかと、攻略と動画用に情報をまとめた資料を眺めながら考える。
すると一通のメールが来ていたことに気づく。
「なんだこれ。」
それは運営からの一通のメールだった。
タイトルは、テストプレイへの招待。
「加速型仮想体験ゲームプレイのベータテスト?」
内容は、新しい機能のテスト。画質向上や五感システムの新設定もあるらしいが、そんなことより注目はゲーム内の体感速度を大幅に減らすことができるというものだ。
人生をすべて体験できるとは言うが、結局時間は有限で、人の人生を1年体験していたら、現実も1年かかる。そんなの誰もやりたがらない。
だから、ダイジェスト形式で人の人生を体験するというのが基本的な遊び方だ。それをゲーム内の時間のみ加速させることにより、細かいプレーを可能にする。
世界征服は調整がかなり面倒なのでダイジェスト形式でやるとかなり難易度が高く、細かく交渉や作戦指揮をできるならかなりあのムリゲーを攻略できるかもしれない。
「なになに具体的には……1年が1分!?」
意味が分からない、というのが最初に思い浮かんだ言葉だ。
何かしらの詐欺か、もしくは悪戯だろうか?
メールアドレスは……間違ってないな。SNSを確認……一部ユーザーに特別なプレゼントを贈りました?
「…………もしかして、ガチか?」
もしかしたら、運営がありとあらゆるPCを乗っ取られた可能性もあるが、ほぼ間違いなく本物と考えていいだろう。
「やるか。」
まだ、土曜日の昼間。もし1分が1時間なら今日中に100年だって余裕だ。
仕組みは知らないが、青い狸が現実になんて言われる時代に不可能はない。
いそいでゲームに手をかけ、ベッドに横になる。
「待ってろよ、生え抜き軍団共が!」
「産まれましたよ!」
どこか安心感のある女性の声に目を開ける。
髭の生えた大柄の男と、優しそうな女性。両親だ。
「お前の名前はハラディスだ!ハラディス・ユミウリオスだ!」
いつもスキップしているが生まれ落ちた瞬間だ。正直なにもできないし、やれることも少ない。
ルート開拓のために、歩き始める時期から操作することもあるが、だいたいはある程度成長した体になってから。一部の界隈では赤ちゃん時代を楽しむ愛好家もいるらしい。
「(とりあえず、領地内の確認だな。)」
少しこの世界の事について改めて確認しよう。
まず、ここはあくまで本筋のストーリーとは一切関係ない。いわゆるモブばかりだ。
そしてそれらは基本的にランダム生成。当然本編に大きな影響を与えるほどのキャラは出されないが多少の上振れは存在する。
そしてこの国、まぁ国名はあとで革命を起こして乗っ取るのでハラディス帝国とするが、人口は小国だが20万はいる。最低でも中盤までは昨日できるキャラクターはだいたい4,50人くらいは見つけられる。本来なら王になってから徴兵するのだが、先に見つけて勧誘しておけば、国の乗っとりは早まって動きやすくなるかもしれない。なので、今回はとりあえず人員の確保をルート化したい。
普通にやれば、果てしない時間がかかるが今回からは違う。
メニューカーソルを出して、時間を確認する。時計はまだ一分も進んでいない。よく見ると秒針は進んでいるが本当に、現実では時間が経っていないようだ。
「(リーク情報で確かにプレイ時間に関するアプデはあったが、まさかこのレベルとは。)」
もう少し、今までも検証のために幼少期で探索自体はできていたが、これなら家の周辺だけではなく国中を回ることもできる。
「(とりあえず今回は検証かな。この世界にはランダムと言ってもある程度の確定ポイントは存在するし、見つけていないとこや時間がかかるところを探そう。)」
「ハラディス、お前はこの家の当主になり、国を守る男になるんだぞ。」
頭の中でこれからのプランを考えている中、夫婦の会話が続いている。
この家は由緒ある軍人の家系である。国ができた当初、将軍だった先祖から始まる、かなりの古い貴族。父も現在は国軍の幹部である。
王家で生まれてもいいが、強さとカリスマを考えるとこの家の方が効率的だ。王家はいざこざがありすぎるので、革命を起こしたらその後処理もなくなる。
「(ごめんな、父ちゃん。僕は国を乗っ取るし、なんなら反乱した時大体の場合あなたたち両親は捕まって、処刑される。しかもかなり拷問された後。貴族の子供が単独で反乱するわけないので仕方ないが、僕はまともに生きてるのをみたことない。忠誠心が強い父と優しい母は生きていてもくそ病む。なんなら自害ルートもよくある。)」
ということで、両親は死んでもらいます(無慈悲)。世界征服は両親より大事だからね。
「(とりあえず、おむつの世話をされる前に歩けるくらいになるまで飛ばすか。)」
5歳になった。
とりあえず3歳くらいから情報を集め初めて今に至る。所々飛ばしているが、体感時間は半年くらいだろうか。
一度ログアウトしてみたが本当に時間が経っていた。最新技術ってのは本当に想像を超えてくるものだ。
「坊ちゃん、明日はパーティーですので、必ずお家におられるようにお願いします。」
「わかってるよ。」
使用人からの言葉に適当に返事をする。
歩けるようになってからの僕は速攻で出歩きまくり、レベリングをしたり、情報収集をしたりで家出常習犯としてかなり目をつけられるようになった。
城下町でもユミウリオスの家出坊主として有名である。ちなみに革命後のために民衆の好感度は大切なのでむしろ効率がよかった。次の周回でもこれは利用できるだろう。
しかし、両親はまだ幼い息子が外に出歩くのでとても胃を痛めていた。今までと違いかなり関わり、ほぼ第二の親みたいなものなのでリアルすぎることもあり、流石に申し訳なくなった。
今回はできるだけ死なないように上手くやってあげよう。
そんな僕が家にいることを指示される今日。重要イベントの日だ。
王家で行われるパーティー。たしか長女の成人の誕生日パーティーだったか。
革命といっても、現在の王家は統治者としては十分な働きをしている。完璧な王では無いが有能な王ではあると認められる。
なのでいくら王の首を取ったとしても自分が王になるわけではない。革命にも大義名分というものが必要なのだ。
実際なくても、レベリングで国で最強レベルにはなっているので、恐怖の大王的な感じのルートもあるがその後が大変なので革命ルートが理想である。
「さっさと着替えに行くか。」
このゲームは本当にリアルなシミュレーションなので装備だって着替えたりしないといけないし、もっと言うならレベリングとは言ったが実際自分のレベルを把握しているわけではない。
ただ強くなってるのは実感する。人気なシナリオなのでかなり検証勢もおり、イベントや装備、敵との戦いなどで大まかな現在の強さを把握はできる。
今は、大体本編なら7割は余裕で攻略できるくらいだろうか。
ぶっちゃけ、人間基準なら世界最高峰である。ただしここ数年で魔王は討たれて、勇者はレベルが上がってるだろうし、隠れたキャラやらも表に出始めている。1人で無双攻略とはいかないだろう。
もっと早く動けばそういうこともできるが、そもそも本編キャラと戦うのが楽しいという縛りプレイみたいなものなのでそういったことはしない。
「ハラディスそろそろ出発だ。」
父の声が聞こえる。うちは貴族の中でもかなり古株で、特に忠誠心も強い。なのでパーティーに遅刻なんてありえないし、そもそも父が軍人なので仕事としても早くに出なくてはいけない。
「いいか、ハラディス。今日は王家の方々に失礼のないようにだぞ。特にパーティー中に絶対に抜けだしたりするなよ?」
「わかってるよ、お父様。」
「本当に大丈夫だろうな……」
流石にゲームなので、礼儀作法やら立ち振る舞いはどうにかなるが、抜け出すといったアクションはどうにもならない。
一度試しにムカつく貴族を殴ったが、普通にお家同士の騒動になった。革命中にその家は焼き払ったので実際どういう結末になるかわからないが、最悪家を追い出されることもあるだろう。
とりあえず今回はそんなことはしないが、普通にパーティーは抜け出す。フラグ管理のために。ごめんな父さん、俺強くなりすぎて、拳骨ノーダメどころか反射ダメージあるから、怒られるの怖くないんだ。むしろ最近お父さんの方が怖がっている気がする。軍人だからか流石に表情には出ていないけどわかるのだ。
馬車に乗り少し、王城についた。
王城は国中を見渡せるところにあり、後ろはさらに巨大な山がそびえ立つ。革命中に戦場になるので半壊くらいするのだが、まぁ治すのでいいだろう。
パーティー会場は豪華と言わんばかりに煌びやかで、貴族達も他のパーティーとは違い気合いの入っているものと違うのがよくわかる。
なにせ長女は王位継承権上位。お近づきになりたい貴族達ばかりだ。
まぁ革命を起こすので関係ないけどね。ごめんね。
「ということでつまんないパーティーなんて抜け出してしまおう。」
今から会いに行くのは、王家七女のユミリアだ。
なぜ彼女かと言えばこの国で少ない確定キャラ、つまりは原作キャラだからだ。この国は本編では数行しか出てこない。
そしてその出番とは国が滅びるシーンだ。
ユミリアは王とある古い貴族の女性との間に産まれた子供だ。しかし、その相手というのに少々問題があった。
この国はとある伝承がある。なんでも巨人族と人が共に作り上げた。その時使われた槌が王城の後ろの山になったとも。
しかし、巨人と人の和を乱す魔女がいた。巨人と人は別れ、人は魔女を討伐したが遅かった、巨人は去り、そして魔女は血を残したと。
それによって、魔女の特徴、黒髪で琥珀色の目を持つ女性は不吉で人々の和を乱すとされ、特に貴族の中ではかなり嫌われる。
そしてユミリアとその母親は見事にそれに該当している。
おかげでユミリアは城の中でも避けられ、唯一の母は産まれてすぐ亡くなり、ずっとひとりぼっち。
人を恨み、国を恨み、世界を恨んだ彼女は恵まれた魔法の才で国を滅ぼす。そして勇者達に討伐される。
そんな運命だが僕のルートは違う、革命の旗印になってもらう。具体的には黒髪で琥珀色の目は本来の王家の物で、歴史のとある時点で国は乗っ取られていた、彼女こそ正統な王家に相応しい人物だ、という感じだ。
そんなものはないし、実際は王にあれこれして国民の不満を貯めて後はいい感じに革命の旗を掲げるだけだが。あとは単純に彼女が僕の好みなだけだ。
「えっと、たしかあっちの方だよな。」
ということで魔法使いとしてかなり優秀で、しかも革命を行いやすい特徴、好感度の稼ぎやすさと、かなりいいキャラクターなのでさっそく迎えに行く。
厄介者扱いで城の外のはなれに住んでおり、そこには普段メイドなどもいるが今日はパーティーで忙しいので出払っている。あとは兵士の目をかいくぐっていけば、簡単に出会う事ができる。
はなれといってもほぼ豪邸みたいなものだが、正面の大きな扉から入り、いつも二階の奥の部屋に閉じこもっているはずなので階段に向かおうとする。
しかし、誰もいないはずの扉の向こうは明かりがついていた。
「(まずい、誰かいたか。)」
急いで辺りを見回す、メイドや兵士はいない。消し忘れたのかとも一瞬思ったが、その疑問はすぐに解けた。
階段に人影、高級なランプから出る暖かい光から顔はすぐに見えた。
靡くように綺麗な黒い髪、眼鏡の奥には琥珀色の目が輝く。間違いない、自分が何度も出会い、結婚に政争、ありとあらゆることを共にした国を滅ぼす魔女となるはずだったあの女性。
ユミリアだ。
目が合い、彼女はニコッと微笑む。本来の彼女なら心を閉ざして笑顔なんてありえない。そもそも余程のことがなければ部屋すら出ないはず。
なぜここにいるのか、いつもとは違う行動をしていたから、フラグがあったのか?
「待ってたよハラディス!」
大きな声と共に駆け寄ってくるユミリア。
こんな元気な声を出すのは国を滅ぼして貴族を火の海に投げ込んでいた時以来だろう。
彼女がこちらの方に来ると僕を抱きしめてくる。ああ、甘いようないい匂いがする。
「ずっと待ってたのよ。本当に来るか不安だったけど、あなたは何度も来てくれていたからずっと待ってたの。やっぱり今日だったのね。」
どういうことだ、何度も?やっぱり?
ルートごとに多少の性格の変化やエピソードの変化などあれど、ここまで変わることはない。そもそも彼女は心を閉ざしているという不変の設定があるはずだ。
前の周回の記憶があるのか?確かにそうしたことならこのゲームならできない事もないかもしれないが、僕はそんな設定などしていない。
アプデによるバグだろうか。確かにそれが現状なら一番ありえる線だろうか。
「えっと、覚えてるの?」
「ええ。全部じゃないけど、あなたと結ばれたことはちゃんと覚えてるよ。」
思考が定まらない。覚えてるということは確定した、結婚したことも。
バグか、一旦ログアウトするべきだろうか。いやこのまま原因究明のためにもう少し残るべきか。でもそうなるとそもそもレギュレーションが違うのだろうか。そんなことが脳内で堂々巡りになる。そんな僕を置いて彼女は興奮ぎみに僕の耳元でささやく。
「あのね、こっちに来てほしくてね。来てくれるよね?」
「えっと……」
「えっ……来てくれないの?」
絶望したような表情に慌てて彼女を抱き寄せて伝える。
「大丈夫、全然行く。どこでも行こう!」
そう言うと彼女が一瞬震えたように感じると、また彼女は強く僕を抱きしめてきた。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう。」
縋るように感謝の言葉を続けてくるユミリア。正直どうなっているか全然わからないが、彼女を何とかなだめ、部屋に向かう。
「久しぶりね。初めてのはずなんだけれど。」
「えっと、そう……だね?ていうか来てくれないってどこか行くの?」
「あ、それなんだけどね……えっと、もう来てもらっちゃた。」
来てもらった?もう?
どこに来たのだ?部屋だろうか。それならいつものことだけれど、彼女は確か言ってた……「こっち来てほしくてね。」
こっち?どういうことだ。
「あの、どこに僕はどこに来たの?」
「えっと、なんだろう……世界?」
「世界?」
世界とはどういうことだ。確かにこのシナリオは冥界や天界など別世界というか異世界的な要素はあるけれど。
ん?異世界?
「(メニュカーソル!)」
いつもは手を動かせば出るそれが出ない。そして動かした手は妙にリアルな感触を覚える。
妙な汗が出てくる。汗は実装されている要素だがここまでリアルには感じない。
近くにいる彼女の甘い匂いがしてくる。匂いも実装されていたが、甘いや臭いがわかる程度のはずだ。
どんなにリアルなゲームとは言え、一定のラインで現実と区別がつくようにされている。視覚だって睨み付けるように見れば、ポリゴンのようなゲーム的なものがわかるはずだ。だが、一切違和感がない。
それを理解した瞬間、違和感がないことの不自然さに恐怖を覚えた。まさかと言える、シナリオが頭に浮かんでくる。そんな僕を見て彼女はニッコとほほ笑む。
「やっぱりこっちの人じゃなかったんだね。良かった、呼び出せるようにいっぱい魔法の研究したのよ。」
どうやら、ここはゲームの世界ではなく現実になってしまったようだ。
革命まであと…………???日
次回 ハラディス一世一代の告白!
という感じでなんかいい感じに世界征服する話です。
主人公はわりと変人よりです。ヤンデレ初めて書いたけど楽しいね。
感想とかくれるとすごくうれしいので、気軽にください。やる気が100倍なので。