世界征服しようとしたらヤンデレに呼び出された~我が大正義軍は生え抜き軍に負けるのか~ 作:三重知貴
頭の中の整理ができない、というより受け入れるのを拒否しているというところだろうか。
1つを悩み、次を悩み、1つ戻ってまた悩みの繰り返し。終わりが来ない。
そんな僕を見てか、ユミリアはお茶を出してくれて、今はティーテーブル越しに向かい合っている。こんな高級なお茶は初めてだが、恐らくティータイムに相応しくないような顔をしているというのは、本来一般人のはずの僕でもすぐに自覚しているとこだが。
「もう1回整理しよう。君は僕の中身がこの世界の人間ではないと疑ってた。それで何故か今回だけは今までの記憶があった。それで魔法の研究をして僕をこっちに呼び寄せた?」
「そうだよ。頑張ったのよ?」
褒めてと言わんばかりの返事。なんだか犬のような子だな。
そういえば、ユミリアとは基本的に仲間にするため会話する時や、指示を出すとき以外は話していない。正直言って義務的というか、周回要素としてしか会話してこなかったのでこうして向き合うのは初めてだ。
まさかちゃんと向き合うのがこんな形になるとは思っていなかったが。
「えっと、呼び出すってどうやったの?」
「うーん、魔法というより呪術に近いのかな?それでハラディスの魂みたいなのを確定させて、あとは呼び出しの魔法の発展を繋ぎ合わしてこっちに魂ごと引っ張ってくるみたいな?ハラディスはよく仮想がどうとか言ってたから。仮初の体でこっちに定着してるのかなって予想したの!」
予想してできるとはどういうことだ。というかそもそも、ここはゲームの世界はずで彼女は架空の人物なわけで……まとまらないなこの話。
最低でもこの子が嘘をついているわけではなさそうだ。
「じゃあ、なんで今回は記憶があったの?」
「わからないわ。物心ついた時にすぐ気づいたの。神様の贈り物だと思ったわ。初めてよ、神様にありがとうって言ったの!それにやっぱりあなたも記憶があったのね。いつもこの人は未来を知ってるとしか思えなかったから、どうしてなんだろうと不思議に思ってたのよ。」
ティーカップを撫でるように優しく見つめる。そういえばこの子は僕が皇帝になった後もお茶を入れてくれることがよくあった。
飲んでも味なんてわからないから印象は薄いが、こんなに美味しかったのか。
「僕からすれば本来この世界は仮初で、存在しないはずなんだ。でもここは現実なんだね。」
「ええ、現実よ。私からすればいつもここは現実で、存在しないほうが嬉しかったのだけど、あなたがいてくれるなら素晴らしい世界よ。」
「一応聞いておくけど、僕は戻れたりはするのか?」
確認はしておく。テンプレというか全てを受け入れているわけではないが、展開としてはわからないこともない。
帰れるなら帰るか、についてはノーだろうか。ゲーム内とは言え、半年くらいの時間でも余裕で中に居られる僕だ。現実のすべてに未練が無いと言えば嘘にはなるが、この世界ならかなり恵まれた存在だ。残りたい気持ちの方が間違いなく強いだろう。だが戻れる、というより行き来できればベストだ。そしたらこちらの世界の生きやすさは格別だ。
そんな悩むような表情の僕を見て彼女は、一気に顔から先ほどまでの明るさが失われ、表情は笑顔とは正反対の感情を表さんとばかりに、精気が抜けたよなしかし怒りともいえるものを持った表情になる。そしてぽつりとささやく。
「帰りたいの?」
なんとなく、この表情に覚えはある。たしか、特にいじめてきた兄弟の首に刃を突き付けていたときの表情だったか。地味に資産を蓄えてるやつが現われるので兄弟はよく脅しに行っていたが、ユミリアとしてはかなり恨みを持っていたようだ。なんでも優しくしてくれていたメイドをこの城にいなくさせるイベントが高確率で起こるようだった。
それよりも返答だ。これ間違ったらこの場で殺されても不思議じゃない。そういえば、殺されたらどうなるのだろうか。一応蘇生魔法はあるけど、かなり後半からしか使用できないので、ここで今すぐ助けてもらうのは不可能に近い。
まぁ、僕は流石にここで返答を間違えるようなヘマはしない。
「いや、帰れるかの確認だけだよ。行き来できればこれからかなり優位に立ち回れるからね。大丈夫、君の前からいなくなったりしないよ。」
「なんだそういうことか!でもごめんね、戻る魔法は開発してないの。今から研究すればできるかもだけど、正直こちらの世界の場所はわかるから呼び出しはできたけど、ハラディスの世界はわからないから難しいかもな。えっと……ごめんね?嫌いにならないでね!?」
「いや、大丈夫だよ!?大丈夫だから、落ち着いてね。ほらお茶飲もう?」
「うん……。」
急に懇願するような、慌てる彼女に不安を覚える。前提ではあるけど、この子は心を病んでいて、なおかつ国1つを滅ぼす力を持っている。
そして、うすうす勘づいていたがかなり僕に依存している。それは僕に何度も救われ、なんなら口説かれ、唯一の味方をしてくれた存在だからということで理解はできるのだが、もし僕のコントロールを失えば彼女はもしかしたら世界を滅ぼす魔王になるかもしれない。というか彼女は実際本編クリア後ストーリーのボスなので本当に魔王よりは強くなると考えられる。今の僕では止められない。
まずいな、ラスボスより強いヒロインじゃないか。しかもヤンデレ。
「えっと、とりあえずこれからどうする?」
「え?世界、取らないの?」
え?取るの?というかさらっと、そんな少年誌の胸が熱くなるようなセリフ出る?
というか、自分はもともと世界征服する予定だったんだ。うん、色々衝撃すぎて忘れていたな。
「えっと……じゃあ、取るか?」
「ええ、もちろんよ!嬉しいわ。私はいつもこんな世界嫌いだったけど、あなたはいつも私の住みやすいように世界を作り変えてきてくれたのよ。ちゃんとは覚えてないけど、あなたがわたしの為にしてくれたというのは覚えてるわ。」
「はは、まあね。」
それは、君を旗印にして大義名分を適当に作りまくってパワープレーで押さえつけてたからそうなるものなんだよ、なんてのは死んでも言えないというか、言ったら殺されるという感じだ。というか、これは非常にマズい展開になってきた。正直知識と使える力を合わせれば、贅沢な隠居生活だってできるし、わざわざそんなリスクのあることをする必要もない。
なんとか方向修正しないと、というかしなければ稀代の大魔王は僕だぞ。
「えっとユミリア。君は具体的にはどのくらい過去の事を覚えてるの?」
「うーん、あなたと結ばれたことや印象的な出来事は覚えてるわ。革命したことや、色んな国と戦争したこととか。でも不思議なのよね、あなたが少し関わらなくなると急に思い出せなくなるの。戦争が起きたのは覚えてるけど、どうなったかはわからないし。でも隣国のヤクルティアとの戦争は覚えてるわ。私がいっぱい活躍したわよね!」
「なるほど、部分的に。」
完全に覚えていないというのは助かったかもしれない。しかし、なぜこんな不自然な形になっているのか。
僕が関わらなくなると覚えていない、しかし隣国との戦争は覚えている……もしかしてパーティーシステムか?
この世界は元が王道RPGというだけあり仲間を連れるパーティーシステムがある。彼女は優秀な魔法使いではあるが国を滅ぼす暴走状態でなければ上位互換となる人間は存在する。
なので初めの方の隣国との戦争では彼女は序盤の強キャラとしてかなり運用していた、しかし後半になると出番が減っていく。
革命や戦争の事を覚えてるのは、そもそも革命の旗印で王妃としてイベントでは常に僕の隣で参加していたからだろう。これなら僕と関わらないと記憶が薄いという話にも合点がつく。
となると、ここからしばらくの序盤は彼女もほぼ知ってると言うことだろうか。
「でも、記憶と違うところもあるのよね。兄弟姉妹に名前が違う人もいるし、そもそも人数が違う気もするわ。それに城の様子もなんだか違う気がするし。」
恐らく、ゲームの生成のランダム要素のことだろう。一応周回前と同じ設定にできるのだが、僕は難易度が高い方を攻略したかったので配置や設定が変わるようにしていた。
こんなんことになるのならランダム要素がなくてもよかったのだが、そんなことを嘆いても仕方ないのでこれからのことを確認する。
「改めて聞くけど、本当に世界征服を目指すんだな?」
「ええ?だってハラディスはいつも言ってたじゃない。『男なら一度は世界ぐらい取りたいものだ』って。」
「あぁ……」
それはゲームの中だから言った、ってのは言い訳だろうか。
まだこれが夢で現実じゃない、と心のどこかで受け入れていない自分がいるのも本当だ。それにもし本当だとした僕は人を殺せるだろうか、命を張れるだろうか。
そんな答えの出ない悩みがただ流れてくる。
「でも、」
「それにここはあなたの世界じゃないわ。好きにしていいのよ、『どうせ人生はやり直しがないのだから楽しんじゃおう。僕たちが主人公だ。』でしょ?」
「…………」
それって実は本編で主人公が行ったセリフなんだぜ、と言ったら彼女はどんな表情をしてしまうだろうか。そもそも僕がハラディスとしての人生を何回やり直したかわからないから僕が言えた事じゃないし。
でも、そんなことを気にしても仕方がないのかもしれない。僕の前世は一度死んだようなものだ。怖がることがどこにあるだろうか。
それに1つ思い出したことがる。
「僕が世界征服を目指す理由はまだあるよ。」
「ん?なに?」
彼女との出会い、それは僕がこの世界の勇者だった時だ。
元々縛りプレイとか好きだが基本はただのゲーマー、人気なシナリオと聞いてとりあえずやってた。楽しかったし勇者ってのはいいものだ。
そんな中クエストを達成してるなかで、彼女と出会った。今とは随分違い、人外のなにかになってはいたけど。世界への恨みつらみを吐きながら僕と戦い、最後は人としての彼女を取り戻し、幸せにはならなかった。彼女は「世界が私のものだったら。」と言って灰になった。
別に惚れたわけでも憐れんだわけでもない、所詮はゲームだ。確かに彼女は僕の好みで、何度も口説いたがゲームで攻略のためだ。一番の理由を言ってしまえば効率だ。
しかし、彼女は僕にきっかけをくれた。彼女の最後の一言は僕の新たな目標になった。そしてそれを僕は楽しんだ。何度も何度も繰り返して。それで言えば彼女には情が移ってるというのはあるんだろう。仮にも嫁で、何度も人生を共にした。彼女はほとんど覚えてないだろうけど。
「(ゲームキャラにガチ恋か。いや、もう現実になったからセーフか?)」
恋というほどのものでもないだろうが、彼女に対する意思の強さは、実際のところ存在してしまってる。なにより僕は、趣味人だ。前の世界も趣味に生きていた。
ならこれからの趣味は「世界征服」といったところだろうか。うん、そう決めた。彼女にも惚れていたということだ。
それはそれでいいだろう、彼女は僕の事好きみたいだし。
「世界を征服する理由は、君かな。」
革命まであと…………1???日
次回 革命会議 お前の血は赤色だ(確認)
ということで、僕はヤンデレものは好かれる方も重い方が好きです
感想とかくれるとすごくうれしいので、気軽にください。やる気が100倍なので。お気に入りもすごく嬉しいです。
平日は労働で更新遅いと思うので続きは気長にお待ちください。