世界征服しようとしたらヤンデレに呼び出された~我が大正義軍は生え抜き軍に負けるのか~ 作:三重知貴
「ですので、第三王子当たりが丁度いいと思うんです!みせしめに殺すのは!」
さて、10歳に満たない小さな女の子が放つセリフとしてはインパクト山盛りな物だが、僕たちは真面目な話をしているし、彼女は特にふざけたわけでもない。
現在は革命について具体的な方法を会議している。自分自身も知識や経験は十分にあるが今までと同じようにはいかないだろう。そもそもここがゲームの中ではなく限りなく似通った異世界であればなにが起こっているかはわからない。なんなら計画はゼロからになったと考えるべきだろう。なのでユミリアからも情報収集は欠かせない。
「貴族って傲慢な人も多いし、革命前に間引きも必要よね。とりあえず半分くらいはいらないかな?どう思う?」
ユミリアと面と向かって話して気づいたが彼女の本来の性格というのは案外好戦的というか、落ち着いた雰囲気に対してかなり苛烈だ。元々心を閉ざしていたというのもあり、ついつい暗い表情が思い浮かぶが、元は才能溢れる少女で戦いにも積極的。何かが違えばこの世界を救う側になっていたのかもしれない。
「えっと、ハラディス?ねぇどう思う?えっと……私何か間違ってたかな?ごめんね?」
「(ただこういうところは課題だな。)」
いわゆるヤンデレといってもいくつかのタイプのがあると思うが、ユミリアその中でも依存型というか、僕の言う事が絶対的な典型崇拝思考といったところだろうか。僕に嫌われないために必死というか、顔色を伺って確かめてくる感じ。まぁ急に世界飛び越えて呼び出してくるくらいには我儘なところはあるのでかわいいものだが。
かわいいのかそれ?
とにかくほったらかしにでもしようのなら何をしでかすかわからない。ある意味僕がコントロールしながら僕もある程度コントロールされている状況だ。
「ごめん、少し考えこんじゃっただけだよ。貴族の事はそれで僕もいいと思うな。」
「そうよね!じゃあとりあえず残さなきゃいけないのからまとめないとね。やっぱり優秀な人達は残すべきかな……でも簡単に抑えられないと面倒かな……?」
机に向かって国の内部についてまとめた資料と向き合うユミリア。
なんでも僕のことを信じて待っている間に必要になりそうなものは少しずつだが集めていてくれたらしい。なんとも健気なものである。
しかしふと冷静になると、この状況は近くで見れば貴族の少年と小さなお姫様が1つの机越しに向かい合って談笑している。思い出の1ページにできるような微笑ましい状況なのに、会話の中身は国家転覆だ。
なかったはずの罪悪感を、少しは父に対して覚え始めた気がしてくる。まぁ世界征服するので罪悪感とかいらない気がするが。
「にしても、革命を2日で終わらせるって本気なの?いやハラディスを疑ったりはしないんだけど、正直難しくない?大国ではないけど歴史ある国なのよ、ここ。」
「なんなら本当は半日で済ましたいくらいだよ。大丈夫、僕らならできるから。」
そう、これは僕が何度も周回することによって得た結論だが世界征服は短期で行うものだ。というより短期でないとほぼ不可能だ。
攻略中、常に僕の障害となったのは勇者たち、原作生え抜きの強キャラ達だ。
まずは言わずもがな主人公の勇者。文字通りの世界を救った英雄であり、世界を悩ませていた魔王を撃破した男。しかも勇者にはシナリオ攻略後ストーリーまであり、全部クリアしていたら恐らくゲームではカンストレベル。
本当の上限がどこにあるかはわからないが、とりあえずこの世界に敵無しくらいには強くなってくるだろう。勝てないわけでもないかもしれないが厳しい戦いにはなるだろう。
そして、その仲間たちも同じように強くなってくる。こちらも強くなることはできるが、勇者ほど強くなれるかは未知数である。むしろ世界観に従うなら不可能であるのが前提だろう。
「とにかく、出来るだけ速く。特に戦争が始まったら一瞬だ。そのために圧倒的な量の準備が必要だ。そして同盟を組む前に一気にやるしかない。」
「うん……!」
そして何より、最大の問題は同盟を組む各国だ。
当たり前だが、世界征服するなら敵は世界全体となる。すると当然のように世界各国の同盟が誕生する。
そうなれば同時に勇者を含めた複数の国の精鋭たちを束で相手にしなければいけない。各国も勇者レベルに強いやつはいる。なにより、本編攻略後のストーリーは、改めて世界各国を回るというもので、勇者主導で危機となれば仲の悪い国すら同盟を組み始める。なので短期でなおかつ同盟を組みにくいような順番で国を制圧していく必要がある。
「でも、それにしても8年後って本気なの?」
「うん。8年が一番現実的な話だと思ってる。」
8年後となれば僕は13歳。現実の世界基準で考えればまだまだ子供ではあるがこの世界でいえば大人である。というか勇者なんて世界を救った頃の年齢だ。
そもそも見た目の成長も含めかなり違うのはゲームだからなのか、それとも魔法の影響なのかはわからないが、ユミリアを革命の旗印にするのは子供でもいいかもしれないが、そのあと自分自身が王位に座るには流石に今は若すぎる。
勇者は設定的に10年以上はストーリー攻略までかかる。この世界がゲームでないと考えるならもっと先かむしろ早いかはわからないが、準備はできるだけするべきだ。
なので速さと準備、両方を取った結果8年が最適であるという風に結論付けた。
「8年かー。正直ちょっと長すぎる気もするけど、しかたないよね。」
「そうだね。まぁ世界征服の準備なんてのはいくらしても足りないからね。人員も集めなくちゃいけないし、各国の情報も必要だ。あっという間にすぎさるよ。明日には僕が王で君が王女だね。」
「王女……王女……結婚……お嫁さん……ふふふふ。」
顔を隠すように笑っているようだが明らかにバレている。この子の心が安定している分にはむしろ嬉しいことなのでいいのだが。
「じゃあ、ハラディス?これからも会いに来てくれるんだよね?」
「もちろん。さすがに王城に毎日ってのは無理かもしれないけど。」
「あぁそっか……そうだよね……うん。いやでも私がお父様に言えば?ハラディスの両親も貴族の方だしさ……?」
この子は本当にメンタルが安定しない子だな。いやわかってはいたことなのだが、こんな会話のひと言ずつで感情が急落下するのはもはや面白いくらいだ。
というか会いに来るか、たしかにうちの家なら王城には他の貴族よりも来ることは可能だろうし、一応王も親としては娘が心を開く分には許してくれそうではある。
ん?親?
「あ、僕そういえばパーティー抜け出してきたんだった。」
そうだった。このユミリアのいる別邸に来るまではゲームなので父親の言いつけなど知ったことではなかったのだが、ここはゲームの世界ではなく現実となっている。
ということは、パーティーへ来る時に言われた「パーティーを抜け出すな」というのをもし破ったら説教だろう。しかも今までと違いスキップできない最悪の仕様だ。
「ごめんね、ユミリア。僕パーティーに戻らないと。」
「えっ、じゃあわたしも……」
「え……大丈夫?」
「大丈……夫ではないかも。」
流石にずっと部屋に引きこもっていた娘がいきなり、パーティーに出席というのは周りからどう思われるかわからない。それこそ僕が連れてこようものなら、疑いなどはなくとも目をつけられても不思議じゃない。流石に目立ちすぎるのもよくない。
「とにかく一旦戻ってくる!ご挨拶も本当はしなくちゃだし!じゃあね!」
「あっ……。」
部屋の窓から急いで飛び出す。兵士はここらには配置されていないため、最速でパーティー会場を目指していく。当然道は最短。
この世界の人間は、一部は壁を走れるくらいには強くなれる。だからこれが本当の意味での最短ルートだ。
パーティーの近くの窓から場内に入り、扉から会場を覗き込む。
1つの巨体が慌ただしく動いている。すごく見覚えのある、その背中の主は誰だかすぐわかった。
「お父様だな……。」
しかし顔は見えないがあれはかなり怒っているだろう。今までは叱られてもゲームだろうからと気にしてなかったが、ちゃんと今から怒られると考えると流石に辛くなってくるな。
まぁここで悩んでいても仕方ないので行くしかないのだが。
「あのお父様……」
「おお、ハラディス!どこにいたんだ。まあいい、ついてきなさい!」
父は僕の腕を掴み、いつもの落ち着きからは考えられない足取りで会場の奥のほうへ進んでいく。
怒られると思っていたがまったく違う反応に驚きながらも、父の大股な歩きになんとか子供の足でついていく。
「(というかこの方向はまさか王族の?)」
パーティー会場の中央奥、それは本日の主役である王家の長女とその両親。つまり現国王がいる場所だ。
挨拶に行くとは言っていたが、こんなにも急ぐものなのだろうか。いや、王相手なら当然なのかもしれないが正直わからない。こんなことならちゃんとスキップせず教育を受けておくべきだった。
気づけばすぐに周りとは違う、雰囲気の一角。王の御前についてしまった。
「大変遅れながらに失礼します陛下。我が息子ハラディス・ユミウリオス、連れてきました。大変お待ちいただき、なんとお詫びすればよいか。」
「大丈夫だ。子供のすること。今日は祝いの場でもあるんだ。気にすることはない。」
「寛大な心に、感謝いたします。」
なんだかよくわからないがとりあえず許されたようである。いい人だ。今後ほぼ確実に首を取る相手だが、少し惜しいと思ってしまったよ。
まぁ殺すんだろうけど。
「しかし、あのユミウリオスの神童か。流石長年王家に仕えてきた素晴らしき名家だ。」
「光栄です。」
神童、僕のことなんだが家出常習犯として、一般庶民には親しまれているが貴族の中では神童扱いだ。成長が早い世界とはいえ、流石に3歳のころから魔法を使い、国のあちらこちらで色々とやっていれば名前は広がるというもので、時代の国の担い手として神童とも言われている。将来の軍の将軍候補と呼ぶ人もいる。
なるのは王様なんだけれど。
「わかった。では早速だがトーアを呼んでくれ。」
トーア、聞き覚えのある名前だった。たしか王家の5女だっただろうか。ちゃんと覚えてはいないがたしか王家のお嬢様であったはずだ。
しかし、なぜわざわざお姫様が呼ばれるんだ?
「ハラディス、失礼のないようにだぞ。」
父が小声で僕のほうに言ってくる。もうすでに遅刻という失礼をおかしているような気もするがそれはいいのだろうか。
そんなことを考えていると入ってきた扉のほうが妙に騒がしくなる。何かあったのだろうか。
跪きながらも顔を傾けなんとか後ろのほうを見る。扉の周りはまるで道を開けるかのように扇状の人の中から小さな少女が出てくる。
長い黒髪にあの琥珀色の瞳。
「(ユミリア!?)」
なぜここに、と叫びたくはなるが流石に王の手前でそんなことはできるはずもなくなんとか心の内に留める。
来たそうにはしていたけどまさか本当に来るとは。想定外をよく出す女の子ではあるが、流石にこのタイミングは予想していなかった。
「(とにかく、王の話が終わったらすぐにユミリアを部屋に帰さないと。)」
なんとか平静を取り戻し、ここからの展開を考えていると、目の前にやけに豪華で目立つドレスを着た女の子が立っていた。
「知っているとも思うが、我が娘トーアだ。」
知らねえよ。てかうしろの騒ぎ声近づいてきてないか。
「確認しておくが、ユミウリオス家の当主としてよいのだな。」
「当然でございます。どこに拒否する理由がありましょうか。」
なにがだよ。てか本当に後ろ近づいてきてるだろ。
「では、改めて宣言しよう。」
おうさっさとしろ。俺はユミリアが待ってるんだ。
「我が娘トーアとハラディス・ユミウリオスはこれから許嫁となってもらう。」
そうかよ。じゃあもうおわりで――ん?
「お父様?」
「ああ、ハラディス。許嫁というのは、お前がトーア様と結婚する約束だよ。」
ん?
けっこん?ん?
急いで後ろを振り返る。そこには聞くまでもないだろう。明らかに今の話を知ってしまってはダメな一番の人間がいた。
「どうしたハラディス……ユミリアお嬢様?」
「ユミリア……?」
やばいな、父も王様も、周りのみんなが騒いでいる。一番心が騒がしいのは恐らく彼女なんだろうけど。
「失礼します!」
もうこれはどうしようもないので、一旦はユミリアをなんとかなだめようと急いで彼女の元へと駆け寄る。
魔力が駄々洩れというか、もうこれはこの場の人間全員殺してしまうんじゃないだろうか。それはそれで革命が楽になるのでいいかもしれないが、流石にそれはやけくそというやつだろう。
ユミリアの近くに行くと彼女は僕を見て口を開く。
「ハラディス?ねえハラディス?ハラディス?」
まずい状況というには遅すぎるが、彼女になんとか声をかける。
「えっと、まだ決まってないから。ほら、僕は君のだし……」
「そうよね。そうよね。そうよね。そうよね。――うんあなたは私ので、私はあなたので……でもお姉さまがそれで、お父様がそれを決めて。私が先なのに……」
よし、貴族10人までなら許容範囲だろう。なんの範囲かは口が裂けても言えないけど、10人までならなんとなるはずだ。仮にも王女なら命の数はごまかしがきくはずだ。
「そっかお父様が決めたんだ。国の王のお父様が。王様か。王様、王様、王様――ねえハラディス?」
「えっと……なにかなユミリア?」
何かが抜け落ちたように明るい顔をした彼女は、恐らく今日一番の笑顔とともにこちらに1つ提案をしてくる。男女でいうなら、パートナーの我儘といったところだろうか。
「もういらないよね?あれ。国取っちゃお?」
指さす彼女の先には、どう見ても彼女の父親。つまりは玉座を奪うことをおねだりしてくる。
「(世界征服よりは……簡単か?)」
革命まであと???日→ NOW!!!
あれ(国王)
次回、(革命くらい)できらぁ!!
思いのほか評価を頂きましてとても嬉しいです。
なんとか休日に書き溜めて定期的に投稿したいのですが難しいものですね。週一以上は必ずしたいですね。
感想とかくれるとすごくうれしいので、気軽にください。やる気が100倍なので。お気に入りもすごく嬉しいです。