世界征服しようとしたらヤンデレに呼び出された~我が大正義軍は生え抜き軍に負けるのか~ 作:三重知貴
「貴様ら……勇者の使いか……?」
龍の瞳がゆっくりと動く。黒曜石のようなその目が、僕たちを見下ろしていた。
町1つよりも大きな山に覆いかぶさる程のでかさ。黒一色に染まった鱗、うねるような身体、山を見えなくするほどの巨体。
ゲームでも裏ボス中の裏ボス、黒い天災。神に等しい存在。そいつが今、死にかけている。
死にかけにしても十分に強さを誇るが、死に近づいていることを示すように魔力が減っていってる。
「ハラディス。どうするの?」
ユミリアの声が上擦る。
どうするかと言われても、まずなぜこんなことになったのかがわからない。ただ、こいつは『勇者の使い』と言っていた。
つまりは、このクソボスを倒したのは恐らく勇者だ。他のプレイヤーがいると予想される中勇者が怪しくなった。その情報は大きい。
だが足りない。まだこちらに来て、勇者は新聞などで知る程度だ。
「情報が足りない、ほしい。こいつは死ぬ。そしたら情報がなくなる。」
このままでは間違いなく死ぬ。ではどうするか生き返らせる?
「あ、あれだ……復活薬だ。」
持ってきたあの希少なアイテムを取り出す。
小さな小瓶の中には金色の液体が入っている。たしかフレーバーテキストは 『死という絶対の理をも、時に超越する』だったか。
ゲームでは味方にしか使えないものだが、ここは現実である。
「ハラディス……いいの?貴重なものでしょ?それにそれはもしものことがあったときだし。もしハラディスになにかあったら……」
「いや、賭ける価値はあると思うよ。」
ギュッと僕の袖をつかむユミリアに優しくそう声をかける。
確かに惜しいアイテムではあるがそれ以上に目の前の龍の情報には価値がある。これからの敵、目標が明確になる。
そっとユミリアの手を外し、龍の方に近づいていく。
龍の巨大な鼻先にそっと近づき、栓を抜いた。
「これで襲ってきたら殺してやるからな。クソトカゲ。」
液体が蒸気のように空気に溶け、龍の鼻孔に吸い込まれていく。
――沈黙。
そして。
山が、震えた。
「余を……蘇らせたか」
山を圧するほどの声。けれど、先ほどよりもずっとはっきりしていた。まだ口すら動かさず、体を動かす気配もないが確かに聞こえる。
「死にかけてたけど、間に合ったか?」
圧倒的なそれに対して虚勢を張る。最低でもユミリアだけは守らなくてはならないだろう。まぁ僕がいなくなれば続いてきそうな勢いではあるんだけれど。
「半分も戻らぬ。欠けた器では、魔力は満たせぬ」
つまり、一命はとりとめたけど、完全復活には足りなかったってことらしい。
そうか、それでも“話せる”ならば充分である。
「そっか、一応聞くけどお前誰だ?」
「余の名はミズヴァ。黒き災厄。世界を焼き払った存在だ。」
言葉だけで背筋が凍る。やっぱり、こいつだ。ゲームでも隠しクエストでしか会えないやつ。プレイヤーの99%はまず到達するのも難しいやつ。
そんなやつと話している、そして僕らは生きている。
「よくもまあ、こんな中途半端な状態で起こしてくれたな。だが命をくれたことには感謝する。余は定めに従う。命を繋いだ者に、身を委ねる」
「それはまぁ……随分と素直だな?」
「龍には龍の掟がある。倒された者は勝者に従う。蘇らされた場合も同様。余のような存在であっても、例外ではない。」
たしかに、ゲームでもドラゴンの従わせ方は戦いに勝つことだ。しかし、目の前のはあの神龍で厄災だ。
「なんでそんないい子ちゃんが、世界を滅ぼした?」
「そういう理に産まれた。役目、使命。そんなものだ。」
随分とあっさりしている。そもそも本編では呼び出したら即戦闘で、倒しきるか倒されるかでセリフもほとんどないので性格はわからなかったが、こんなに丁寧な感じだとは思いもしなかった。
まさに神と呼ばれるような雰囲気である。
「じゃあ……仲間になるの?」
ユミリアが僕の背中に隠れるように来たと思うと、僕も気になっていたそれを質問する。
「”使ってみろ”とは言っておく。お前の命が惜しくなければな。まぁ関係の名称など、パートナーでもなんでもいいさ。」
「は?ハラディスのパートナーは私だけど?串刺しにして焼き上げるわよ?なんだっけ……クソトカゲ?」
「え?」
ユミリアのその一言は、恐怖の権化の口を、ついつい開かせるものだった。
「で、お前らはなんなんだ?人間にしてもガキだろう?エルフにも見えん。」
ミズヴァの問いに、僕は言う。
「ちょっと、足替わりにドラゴンを探しに来た人間さ。見つかったのは足というより道路そのものだったけど。あと、人間だよ。れっきとしたね。」
「面白いな。人間よりも魔物のほうが近そうだがな。」
「そらどうも。」
「で、それだけじゃないだろう。何が目的だ。ドラゴンでどこに向かおうというのだ。」
僕とユミリアは顔を見合わせて考える。正直まだこのミズヴァというやつを信用できていない面もある。どこまで言ったものかわからないのだ。
「いいんじゃない?多分大丈夫だよ。この子。」
厄災を「この子」扱いとは、うちのフィアンセは頼もしいものである。
「あー、とりあえず説明するよ。少し長いぜ?」
「もう何千年か生きた。数分くらいいいだろう。」
そう言うミズヴァに僕たちは一通りの話をする。
一応、僕の前世のことは話していないが記憶があることは伝えた。僕たちの目的も、今の現状も、大人になりたいことも。
「なるほど、つまり泉の妖精のところに行こうとしたな?あれはいたずら好きの悪い方だ。めんどくさいやつで、力も弱い。」
「知ってるよ。」
大人になるイベントはめんどくさい。イベント後姿をもう一度変えるが条件に魔力玉を持ってこさせる。しかも魔力玉(小)という指定付きで大量に。
魔力玉は途中からほとんど(小)ではなく(中)しかでなくなる。だからマップを戻って集めなおすめんどくさいイベントだ。
「生物の体は魔力。というより物質の核は魔力。たしかに人を成長させるなら魔力が手っ取り早いな。余でもできる。」
「そうそうお前もできる…………えっ?できんの?」
「ああ。ドラゴンは生物の中でも頂点。つまり魔力の頂点。妖精にできて余ができない道理はない。まぁ妖精ほど細かくはないが、見た目程度の加齢なら可能だ。」
「え、やってくれ。今すぐ。」
「いいが、戻すことはできぬぞ。」
それのどこに迷うだろうか。
「ならそこに立て。動くな。」
言われるがままにその場に立つ。
「ハラディス?大丈夫。わたしもいっしょに。」
「いや、僕が先だ。」
心配そうに言ってくる彼女を安心させるように、微笑みながら言う。
一応、もしものために実験台は僕だ。彼女にはなにかあってほしくない。
「なに、すぐさ。始めよう。」
なにか一瞬浮遊感のようなものを感じる。そして数秒ののち、体の中で何かが変わる。
骨格が伸び、意識が落ち着く感覚。世界の見え方すら違って感じた。というより視線が上がりすぎて本当に別世界である。
「わあ、ハラディスだ。ハラディスが、ハラディスになった!」
ユミリアは覚えているようだ。どうにも、彼女は大人になった後の方がお気に召しているようだ。
「ああそうだ、装備はサービスだ。」
自分の体にピッタリな装備。どこにも違和感がない。
なんで厄災のサービスがいいんだよ。
「ところで、君を倒したのって……勇者、だよね?」
ということでユミリアも大人にしてもらい、早速本題の方に移る。
ちなみに大人になったユミリアについて、僕は見たことあるのが特徴的な黒髪がさらに伸び、元々つけていた丸メガネにミズヴァの趣味なのか魔女ですと主張するような黒い衣装と紋様。
身長は相変わらず低いが大人になったという感じだ。あまり言われたくないだろうが魔女という感じが出すぎだ。
「えへへ、これで結婚できるね。」
中身は結構幼いままだけど。さっきからずっとこの調子だ。
「お前たちの話は自分たちですませておけよ。そして、問いに答えるならば、たしかに勇者だ。呼び出されたと思えば、木を切り倒してその斧でそのまま攻撃してきた。ふざけた自殺志願者だと思えば、その斧は我を吹き飛ばした。初めてだった、他の神龍でもあの力を経験したことはない。」
「あぁー…………」
なんとなく予想してたけど本当にバグ技使ったんだ。ていうかこの世界でもバグそのままなんだ。デバッグしろや。一応ゲームでは修正されたんだけどな。ここバージョンいくつだよ。
まぁバグについてだが、簡単な話「カンスト攻撃力斧」である。厄災召喚の儀式の後、所定の木を切り倒して攻撃すると何故か攻撃力カンストになる。
それでもこいつ5回殴らないと倒せないバグボスなんですけどね。一時期は正攻法がこれだと言われていたレベルだ。
「それ、勇者はいたの?」
「他に6人いた。どれも人間にしては強そうだったな。人間以外もいたが。」
「じゃあ、パーティーで来たのか。」
となると、勇者がプレイヤーということだろうか。まぁこのゲーム勇者でプレイしてるやつが大半なので予想外でもなんでもないが。
「目的はわかるか?」
「さあな。だが「経験値が手に入る」と「予防ができた」とは言っていた。あとは「カンストも近づく」とかも言ってたな。戦えば強くなる人間の特性の話だろうか。」
「カンスト、それに経験値と予防ねぇ……」
予防はこいつの災害を防ぐということだろうか。設定的にはしばらくは暴れないだろうが、この世界が現実化したなら変わってくるかもしれない。
そして、経験値はどう考えてもゲームそのままの意味だろう。自分もやった経験値稼ぎだ。まさか裏ボス相手にするやつが表れるとは思わなかったが。
しかし、このゲーム経験値やレベルは可視化されていない。そもそもカンストの存在が確定しているかわからない。もしかしたら青天井に強くなる可能性すらある。
「ねぇハラディス、カンストってなに?」
「うーん、上限みたいな?ここで言えば強さの上限かな?」
「余みたいなものか?」
「…………そうかも。」
そういえば目の前のこいつこの世界の頂点の存在だったな。
「てなると、勇者は最強を目指してるのかな?」
「そうかもね。」
「不遜だな。だが生物としては正しい。だから我らも存在する。」
バグ技で世界最強になるのは正しいのだろうか。いや、現実のバグは仕様か。
「経験値には強い奴ら倒すのが効率いいからね。」
「つまりは、あやつらはこれから強者を狩りつくすと。」
「そうなるだろうね。」
となると、倒してないボスと隠しボスなどを回るのだろう。
ボスはかなり多い、今回はバグ技であっさりいったが、他のボスにはそんな都合のいいものもないだろう。どんなに強くても数年単位でかかるはずだ。
「隠しボスか――」
強いボス、それはもういろいろ思い出せる。
「絶剣妃」「天蓋の大天使」「終天残響」、これらの裏ボスはどれもマゾ向けの頭のおかしな強さをしていた化け物ばかり。このゲームが神ゲーじゃなければ許されなかっただろう強さだ。
それこそ、僕の隣にいるかわいらしい彼女だってボスの時の二つ名は「国葬魔女」だ。倒せる範疇だが十分やばい。
「ん?じゃあユミリアは?」
「…………あっ!そういえば私……」
紛れもない。僕たちはその頭のおかしい勇者の討伐対象であった。
次回「とりあえず、盾。すなわち国。」
相変わらずの遅い更新です。
少し文体やらテンポ感変えてみたけどいかがでしょうか。
しばらくはこっちのやり方に変えてみようかな。
ヤンデレ要素が消えてきたのでそろそろスパイスを投入したいですね。