世界征服しようとしたらヤンデレに呼び出された~我が大正義軍は生え抜き軍に負けるのか~   作:三重知貴

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革命前

 勇者、平和の象徴であるもの。だが、今この世界では何をしでかすかわからない爆弾のことを指している。

 

「ごめんね……ごめんね。私がいるせいで……」

「ユミリア、まだ確定してるわけじゃない。それに今の君はボスでもなんかじゃない。あいつらがいきなり来る可能性は低いはずだよ。」

 

 勇者、見つけたらすぐに地獄に叩き落してやるからな。うちのかわいいくてたまらないユミリアを悲しませやがって。

 

「それで、貴様らはどうするんだ。あの勇者、強さについては本物だぞ。敵うようには思えんが。」

「一応聞くけど、神龍のミズヴァ様なら次は倒したりとかはできる?」

「無理だな。不完全な復活だ。本気を出せというなら100年ほど待て。」

 

 無理だろう、と言い返す元気もなくなってきた。

 

「少し時間をくれ。なんとか考え出すから。お前、ユミリアをちょっと励ましててやれ!」

「慣れてきたが……初めてだよ。こんな雑魚のような扱いを受けたのは。」

 

 知ったものか。こちとらもういつ死ぬかわからないんだから今更龍の1匹や2匹どうともない。

 

 ミズヴァの口から語られた、勇者の発言――勇者は何かを狙っている。わざわざ強さを求めて命がけのボス戦をする狂った人間、こっちに来た人間ならもう頭のネジが閉まって無いどころじゃない。ネジ穴開け忘れてるレベルだ。

 

 だが現にやっている。可能性の話を考えよう。勇者の頭がまともだとしたら、リスクが低いかリターンが高いかの二択だ。リスクの低さ、つまりは自分の方が強いという確信がある。俺TUEEEってやつだ。だからボス戦をこなしている。調子に乗った子供のように。

 リターンが高いについて、こっちは様々な可能性がある。まぁなにか目的があるかもしれないくらいの話だ。

 

「ダメだ、なんもまとまらない。」

 

 なら勇者が僕たちを襲う可能性はどうだ。ユミリアがボスになれば間違いなく討伐対象になるだろう強さだ。勇者がプレイヤーなら忘れるはずがないであろう。

 だが今の状態ならそんなことはユミリアのイベントは発生しない。そしたら国が滅ばない。いつかは気づかれるだろう。

 

 つまり、いつかは勇者が僕たちのところに来るのはほぼ確定だ。

 

「目的だけでもわかれば対策できるかもしてないのに……!」

「勇者というのは人間では英雄だろう?ならば、少しはどんなやつかくらい知れているだろう?」

「そらそうだけど、普通のことしか知らないよ。ただ世界を救って、その後は各国の問題を解決する英雄様としかね。まさかこんなイカレ野郎だとは……ん?イカレ野郎が英雄様?」

 

 少しおかしい話だ。なぜ仮にイカレ野郎だとして、そんなやつがそんな()()()()の動きをしている?

 強さにかまけてしてるならもう少し変化もあるだろう。現に、いつか敵になるとわかっている僕は、勇者の情報はある程度チェックしていた。だが、どこにも違和感は感じなかった。

 

「まさか……勇者を演じているのか?」

 

 ロールプレイ、1つ出てきた単語。僕とは違うプレイスタイルだがありえる。

 

 どういう目的かはわからないが、彼は勇者らしく振舞っている。しかも、世界の平和を望むような典型的な勇者だ。

 

「そういや、あいつフルメンバーだったな。」

 

 勇者のメンバーは合計7人、だが本来は勇者含め4人である。これは追加メンバーイベントの影響だが、そのイベントは常に平和主義で慈愛の精神を突き抜けたみたいな選択肢を選び続け、キャラを助けて仲間にする必要がある。

 

 最初はデフォルトな勇者がそういうやつだと思っていたが、それは違う。今の勇者はメンバー全員を助け、各国と問題も起こさず問題を解決し、厄災を倒しに来た。勇者として完璧すぎる。

 

「なぁ、ユミリア、ミズヴァ。1つ勇者対策を思いついたかも。」

「ほう。」

「本当!?」

 

 ユミリアの顔が、先ほどに比べればかなり明るくなったように見える。まぁ僕は内心まだ落ち着いてもいない。

 それでも、息を整えてからその対策を伝える。対策というより賭けかもしれない。

 

「やることは変わらない。国の革命――いや再興だ。」

 

 

 

 

 

「なんかあっさり入れちゃったね。」

「まぁ誰も急に子供が大人になって帰ってくるとは思わないだろうからね。しかし背が伸びると、すこし違う町になったみたいに感じるな。」

 

 フードを少し深く被り、城下町の人込みの中に溶け込む。あれから僕たちは国に戻ってきた。

 当然家に帰るわけもない。なので、今からとあるところに向かっている。

 

「こっちだっけ?」

「うん、あってるよ。」

 

 薄暗い路地、隙間と言っていいほどの狭い道に入る。活気ある声は後方へとどんどんと消えていき、表にはいない人相のやつらがよそ者を見る目でこちらを見てくる。

 

 少し歩きついたのは、もう廃墟となった表向きは廃業した酒場。今はどうしようもない奴らの溜まり場である。

 

 ちょうど入口前。崩れた木箱の上に座っていた男が、うさんくさそうに僕らを睨んできた。

 

「おいおい、こんなとこにカップルで迷い込みか? 物騒だぜ、ぼっちゃん」

 

 明らかに絡みの構え。剃り込みの髪、ナイフを腰にぶら下げて、靴音すら威嚇してる感じのやつだ。

 

「……悪いけど、通してくれないか。ちょっと急ぎなんだ」

「おぉ? 俺の許可なく通るには、通行料が――」

 

 ナイフに手を届かせようとしながらのその言葉はすぐに遮られる。

 

 「ハラディスが通るよ?あとそれはどういうつもり?」

 

 ユミリアが一歩前に出た。笑顔のまま、ナイフの柄を指先でポンとつつく。

 

「……は、あ、あぁ……」

 

 下っ端は自分でもわからないうちに道を開けていた。本能というやつだろうか。ここらは力関係がシンプルなシステムだからとても楽でいい。貴族なんて絡めてばかりで退屈だ。

 

 僕たちは奥の扉を開け、廃酒場の中に入る。

 埃まみれの空間、破れた椅子とテーブル、誰もいないのに漂う“視線”の感触。

 その奥、階段を登り、突き当たりの部屋の前で、僕は足を止めた。

 

「どうせここでしょ。」

 

 ノックしようとした瞬間、中から女の声が飛んできた。

 

「入れ。」

 

 やっぱりだ。

 扉を開けると、そこにいたのは一人の女。長身、長い癖っ毛を後ろでまとめ、スーツのような服にベスト。脚を机に乗せ、酒瓶を片手にこちらを見下ろすようにしていた。

 

「……お久しぶりだな、ファーネ」

「私も有名人になったな。で、用は?」

「仕事だよ。」

「どっかのやつの依頼か?あいにく今は忙しくてな、高くなるぜ?」

「依頼じゃない。命令だよ。」

「あぁ?」

 

 酒瓶を置き、鋭い視線を向けてくる。まるで猛獣のような威圧的な目だ。

 

「私は誰の下についた覚えもないよ?喧嘩売りにきたならサービスだ。相手してやるぜ?」

「嘘つくなよ。“三歳にボコられて部下になった女”なんてお前くらいしかいないぜ?」

「……まさか、ハラディス?」

「察しがいいじゃないか。やぁファーネ、お仕事お疲れ様。次の仕事も持ってきたよ。」

「おいおい、どうなってんだよ。」

 

 

 

「話はわかった。いや、理解はしてないが本当に大人になって帰ってくるとはな。しかも神龍とはな。」

 

 先程の傲慢な姿とは打って変わり、口調は変わらずともまともな椅子の座り方をするファーネ。

 流石に僕たちが山で起きた出来事を大まかに聞いているときは天を仰いで酒を一杯いれていたが、こちらの話を丁寧に聞いてくれる辺り、彼女は従順だ。

 

「で、そっちは私たちが誘拐してるはずの王家の嬢ちゃんか。」

「えっと……はじめまして。」

「ああ、はじめまして。」

 

 先程下っ端をあっさりと相手取った彼女はどこに行ったのか、緊張するようなユミリア。言わずもがな、この子は本来、対人関係は絶望的である。

 

「紹介しておくか。彼女は。この国の反社会的勢《影鞘(えいしょう)》のボスで僕が三歳の頃ぼこぼこにして部下にした人だよ。僕たちを誘拐した犯人でもある。」

「誘拐した覚えはないけどな。いきなり「誘拐しといてくれ。」とかいう頭のおかしな命令をする上司は覚えてるけどな。」

「君優秀だからね。そのくらいで足りるんだよ。だから足蹴らないで。」

 

 彼女はいわゆるモブキャラ。であるが裏組織のリーダーということでスカウトした。その腕1つで成り上がっただけあり、本人の能力も確かである。

 

「で、これからどうするんだ?仕事があんだろ?」

「それだけど、まずは勇者の調査。周辺も含めてだな。手配しておいて。」

「ああ、いいよ。わかったか?行ってこい。」

「はい!」

 

 僕の話を聞くと彼女はすぐ隣の男に指示を出す。命令された筋骨隆々な大男が急いで出ていく。彼女がどういうボスかよくわかる。

 

「そんだけか?」

「だと思う?」

「そんな楽な事はないだろうな。坊ちゃんの命令で楽だと感じたことは1回もないよ。」

「そうだよ。まぁこっからだけど、国を取ろうと思う。」

 

 その言葉は、室内の空気を張りつめさせた。

 

 ファーネは口元を歪めて笑う。だが、それは皮肉ではなかった。

 

「ずいぶんとストレートな言い方だな、坊ちゃん。お姫様ごっこでも始めるのか?」

「いいや、“王様ごっこ”だよ。ちゃんと、台本も準備してある」

 

 僕は静かに続ける。

 

「君らも神龍くらいわかるでしょ。流石にミズヴァは知らないかな?」

「知らねーな。お前らは?」

「あ、俺わかります。」

 

 手を上げたのは1人の男。先程扉のところでユミリアにいいようにあしらわれたあの男だ。

 ファーネに幹部は入っていいとは言ったが、こんな下っ端みたいなやつが幹部なのか。扉の番とか明らかに仕事じゃないだろ。

 

「で、どんななの?」

「いや、おとぎ話というか神話ですけど。世界を滅ぼす龍と牧師が言ってました。」

「お前、牧師の話とか聞くんだな。」

「親が熱心な信者だったんで。敬虔な人ってやつです。」

「お前の父親詐欺師で母親は放火魔だったろ。どこが敬虔だ。」

 

 漫才みたいなやりとりをする二人。てか下っ端フェイスのくせにキャラ濃いなこいつ。

 

「で、どうなんだ。そのはた迷惑な龍であってんのか?」

「ああそうだよ。」

「それを使って国を取ると?」

「ああ、正確に言えば再興だけどね。」

「狙って潰して再興とは、私たちでも中々やらないえげつなさだね。」

 

 ファーネは酒瓶を手に取り、ぐいと一口煽る。

 そして肘をつき、こちらを見た。

 

「で、それでどうすんだ?あんたの目的は元々知ってるが、急ぐのは勇者の方に理由があんだろ?」

「よくわからないけど、たぶんあいつ平和主義者なんだ。再興中の急造の王様相手を殺しにくると思う?」

「つまり、国は盾か。しかしなんでそんな狙われるんだ――いや、やっぱりいいや。聞いてもろくな事にならないか。」

「ああ。そうしてくれ。」

 

 あの勇者、あれから多少調べたりしたがあまりにも平和主義者すぎる。世界で一番注目を集める存在なのに、あまりにも黒い噂がなかった。

 捏造でもなんでも、本来そういう存在は多少なりとも言い掛かりがつくはずなのに、それすらない。

 つまり、あいつが意図してやっている。ならば、僕たちが国の重要人物ともなれば話は違ってくる。

 

「でも嬢ちゃんなら王家としての名があるだろ?あんただってお家はかなりいい。私たちと違ってな。」

「そこは事情があるんだよ。」

「事情ね――まぁそれもそうか。」

 

 ユミリアの顔を見て納得するファーネ。王家の厄介者というのは、彼女らくらいなら知っている。

 まさかユミリアが国を滅ぼすかもしれないことは知らないだろうけど。

 

「で、再興のための破壊。それを龍にやらせっるてわけか。」

「ああ、不完全といっても世界を滅ぼす存在。国1つ、片手間でできる。」

「されても困るけどな。」

「いつも困ってるだろ、君。」

「誰のせいだと思ってんだよ。」

 

 呆れた表情をしながら、また足を蹴ってくる。いや僕もかなり無理言っている自覚もあるが、まぁその点彼女はだいぶ慣れてきただろう。

 そう思いながらユミリアの方を見ると、深く、暗くなった瞳が見開いて僕を覗いていた。

 

「ねぇ、ハラディス。なんか近くない?」

「え?」

「いや話す必要はあるんだろうけど。なんか近いよね?というか仲いいね?そっか、私より先に出会ったもんね。今回は。…………ねぇ、あんまりこういうの嬉しくないな。仕方ないのかもしれないけど、私の前は嫌だーなって。うん、ごめんね。困るよね。ごめんね?うん。困るよね。」

「えっと……うん。大丈夫だよ。」

 

 空気には微妙な緊張が残っていた。が、それはそれとして、凄むのか病むのかどっちかにしてくれないかな。

 

「へー。」

 

 ファーネは肩をすくめつつも、どこか興味深そうにユミリアを観察する。

 

「そういうのがタイプなんだな。意外だよ、もっと色を好むと思ってたぜ。」

「は?ハラディスはそんなことしないけど?」

「ぐっ!?」

 

 ファーネが宙に浮く。何かに首を掴まれたように苦しむ。

 

「ちょっ!あぁ!」

「ユミリア。やめてあげて。」

「……うん。」

 

 そういうと、ファーネが宙から落ち、膝をつく。

 

「ユミリア、一旦外行こうか。ファーネ次はもう少し話し方を考えておくよ。国盗りの件はよろしくね。」

「“その距離”を間違えないでくださいね。ファーネさん?」

「ああ。……坊ちゃん、すげぇ女、連れてきたな。」

「ね? ほんとすごいでしょ?」

「ほめてねーよ。」

 

 扉を開ける。

 さてと、やっと革命の時間だ。

 




やっと革命です(本当に)

ここまで、長かったな。次話からどんどん進めたい。
あとは閑話も書きたいな。

ゆっくり書いてきますので、気長によろしくお願いいたします。
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