世界征服しようとしたらヤンデレに呼び出された~我が大正義軍は生え抜き軍に負けるのか~   作:三重知貴

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革命は、死亡フラグを叩き折ってでも成し遂げる

 地図の上に、ピンがいくつも打ち込まれていた。

 そこに描かれているのは、この国の中枢――王都。

 

 すべては、すでに準備されている。

 

 作戦は簡単だ、一網打尽。ユミリアが王となるための障害となる人を全員一気にやる。事故でね。

 

「しかし、手早くすませたね。」

「それは坊ちゃんがいなけりゃ、私たちが革命をするはずだったからね。」

 

 世界の運命か、この国は遅かれ早かれ今の政治は滅ぶ運命だ。それはゲームのシナリオだからなのか、神様というやつがいるせいかはわからない。ただこうして革命の準備をする中で気づいたことだ。

 

「ユミリア、大丈夫?」

「ええ。というか初めてよね。私が手をかけずにこの国が滅ぶのは。」

「たしかに、そうかもね。」

 

 罪悪感というものはない。というより僕たちはもう慣れている。

 この国で革命が起こるのは、僕たちの記憶の中では季節ごとのイベントのようなものだ。緊張はあっても不安も悔いもない。

 

「しかし、あんたらはすごいな。仮にも肉親だろう。まぁ私たちには少ない感情だけどな。」

「信じるものが違っただけさ。それ以外は感謝してるよ。」

 

 王族はもちろん、恐らく僕の家族も軍人、しかも古豪の家系だ。恐らくこの作戦に巻き込まれないはずは無いだろう。

 唯一の救い、息子は行方不明で、その本人から殺されることに気づかないことだろうか。

 

「さっさとやろう。こっちにもやることはあるんだ。」

「なら始めるか。坊ちゃん。」

 

 

 ファーネが指を鳴らすと、部屋の空気が一層引き締まった。

 集まったのは、各部隊の隊長たちだ。

 

 緊張に汗をにじませる者もいれば、逆に顔を紅潮させる者もいる。

 どちらにせよ、今日この日が、ただの“仕事”じゃないと全員が理解している。

 

「さて、みんな作戦開始前。最後の会議だ。改めて、完璧に頭に叩き込んでくれ。」

「了解!」

 

 怒号にも似た応答が、室内に響き渡る。

 

 「まず第一作戦。ミズヴァの出現、天災。事故だね。」

 

 革命の第一段階、それは厄災ミズヴァの出現だ。

 一網打尽、そこに王族や貴族、邪魔になるであろう奴らを簡単に集める方法。それは、国家滅亡の危機だ。

 ミズヴァが急に現れ、領土、町、人、あらゆるものにその牙が襲い掛かる。

 王族と、それに呼ばれた貴族は一堂に会するだろう。

 

 そこに偶然、ミズヴァが降りてきたらどうなるだろうか。

 

 大変だ、王はいなくなり、国の重鎮どもがどこにもいない。

 国の舵取りは?それは当然偉い人達の順番。リーダーがいなくなれば副リーダー、さらにその下となるだろう。

 

 つまり、ユミリアの番だ。

 そのユミリアそして僕が龍と対話する。なぜ僕もか。簡単だ、将来王族と親戚になる予定だからね。

 まさか許嫁がここで役立つとはね。

 

 ユミリアとミズヴァには魔女と龍、御伽噺の存在同士、そういう伝説が()()()()()にする。

 

 僕とユミリアが攫われていることはわざと噂に流してもらった。龍が魔女を、そしてそれを守ろうとした僕を呪いで大人にした。

 

 ストーリーはこんなところだろうか。

 

 まぁ掲げる大義はなんでもよい。偶然の成り行きで、“救国の英雄”が王になる――それだけで十分だ。

 

「スピード勝負。最速で終わらせる。民衆の混乱がなければこんなでたらめは通じないからね。選別はちゃんとしてる?」

「ああ、保護するべき人やモノは偶然助かる予定だ。」

「ならよし。各自最終調整に入ってくれ。作戦の開始は――いやでもわかるはずだよ。」

「「了解!」」

 

 部下たちの盛り上がりは、僕に期待する熱気か、はたまた世界を壊すことのできる兵器を持った僕に対する恐怖か。

 それはどうでもいいだろう。ここにいるやつは、結局この国を好きなやつは1人もいないというだけの話だ。

 

 

 

 

 

 会議は終わり、各々が散っていく。

 ユミリアが、机の隅にそっと手を添えた。彼女の手は、震えてなどいなかった。

 静かに、確かに、彼女は立っている。

 

「ハラディス、ここから国ができるんだね。」

「そうだね。」

「いつも、2人の最初はこればっかりだね。」

「たしかに――うん。そうかもね。」

 

 ユミリアとすることは、いつも革命、そして戦争だ。

 彼女は僕に黙ってついてくる。僕に文句も言わない、女と話しさえしなければ。

 彼女への情、そしてその愛情への返事、それが僕の世界征服という行動だ。でも、こうして本当の人間として彼女と接していると、足りない気がする。

 

「ねぇユミリア。」

「なに?」

 

 ゲームなら選択肢を選ぶように、義務のような言葉。そう思えばこれはすこし気恥ずかしい。

 

「これが終わったら。結婚、ちゃんとしようか。王と王妃になるんだし。」

「え?」

 

 ユミリアが固まった。そう表現するしかないほど、まばたき1つしない。

 

「あっ、えっとダメだった?」

「違う!!――えっと、そうだよね。嬉しくてね……初めてじゃないのにさ、こうなんていうか。凄くドキドキした!ハラディスはいつもロマンティックなのにどこか気持ちがないような……嬉しいんだけどね!今回は違ったなって、うん。わかってても嬉しいね!」

「えっと、そっか。うん、僕もうれしい。」

 

 いつも、というかゲームの僕はそういう風に見えていたのか。たしかに、女の子として扱ったのはもしかしたこれが初めてかもしれない。

 

「(なんか、急に心がざわつくな。)」

 

 今から国をひっくり返すところなのに、それ以上のなにかが心にある。

 ユミリアと目を合わせる。何を話していいかわからなくなってきた。

 

 

「(おい、お主ら。そろそろよいか?)」

「えっ!?ミズヴァ!?」

「ん゛っ゛!今いいとこだったのに!あなたわざとでしょ!」

「(会議が終われば話すといったのはそっちだろう。というかお前、魔法による会話は初めてでないだろう。なにを驚く?)」

「人にはタイミングがあるんだよ。」

「(そうか。で、始めるのは二刻すぎたあとで良いのだな。)

「ああ。派手にな。」

 

 ミズヴァは普段、天空、というより異次元にいるらしい。いつでも、どこでもそこにいる。

 次元の違う存在だ。両方の意味で。そして言葉ではない。思考の隙間に滑り込むように、“それ”は語りかけてくる。

 

「(とりあえず、領土の一部か。しかし本気には程遠い。山が無くなるくらいだぞ?)」

「その山は人間なら乗り越えるのに十日はかかる。十分すぎるよ。」

「(そうか。まぁ上手くやれ。未来の王よ。)」

「ああ。」

 

 未来の王、別に初めてやるわけでもないが、たしかに思い方が気ではあるな。

 

「ハラディス!」

「ん?ああ、ごめんね。話の途中に。」

「いいよ。でも、また続きはどこかでしてほしいな?」

「ああ、終わったらいくらでも付き合うよ。」

 

 さて、こんな国さっさとひっくり返すか。

 

 

 

 

 轟音が響いた。地は揺れる。町中でガラスが割れ、物が崩れる。

 

 しかし、慌ただしさの中に、悲鳴も混乱はなかった。

 誰かが言った。

 

「神か?」

 

 町より南、王城とは正反対の方向。そこには「黒い天災」が龍の形をして存在していた。ミズヴァだ。

 夜そのものを引き裂いたような巨大な影だった。

 全身を包む漆黒の鱗は、炎のような亀裂を持ち、内部から脈打つ赤熱がほのかに覗く。翼は空を裂き、雲を引きちぎりながら広がる。

 吐息1つで風が変わり、動くたびに大地が動く、神の名を冠するに相応しき存在だった。

 

 その目は赤く、この王国を見ていた。

 皆が理解した、死という直感は確信であることを。

 

 停止していたその巨大な龍が少し動きだす。数人がようやく気付いたのか、その言葉は波状的に広がった。

 それは生物として正しいと言えるものだろう。

 

「逃げろー!!!」

 

 町を混乱が支配した。

 

「始まったな。」

「えげつねぇ。坊ちゃん本当に私ら死なないんだろうな?」

「さぁ。正直自分の命の保証もしてないよ。反乱されたら終わりだし。」

「おい。」

「でも、唯一の勝ち筋だ。」

 

 ミズヴァを見ながら思う、あいつは最強だ。不完全な状態で国を滅ぼす、まさに天災であり期待していた戦力だ。

 ただし彼が僕に従うのは恩義、そして龍の決まりだ。縛るものはない、信頼も出会って少し、ただの気まぐれの可能性すらある。

 

「(今はいいけど、最悪どうにかする予定も立てておかなければ。)」

「おい、簡単に死ぬ仕事はしないぞ。」

 

 僕の顔を見てなにか察したのかファーネは睨むようにこちらに言ってくる。

 

「ハラディス、私は命くらいなら懸けれるよ?」

 

 それもどうなんだよ。てか君がいないと意味がない。世界征服にはユミリアと一緒なのも入ってるのに。

 

「そういう話は、終わってからにしよう。それより報告は?」

「もう動きはあったようだ。王城はてんやわんやだぜ。」

「だろうね。」

「兵士やら召使いやら、とにかく色んな貴族のとこに飛んでる。招集と会議だろうな。」

「逃げ道はできるだけ潰すように、ミズヴァにも君の部下にも言ってる。大集合するだろうね。」

 

 ミズヴァへの注文は派手さと、確実な退路の破壊。

 元々山に囲まれた地形だ、そう簡単に逃げることはないだろうが、だからこそ王族たちが通る確実な道だけは潰しておいた。

 

「あれだけ地殻に影響を与えれば地下トンネルも崩れているだろうね。」

「ああ、本当にユミリアがいてよかったよ。」

 

 王家や貴族がそう簡単に追い詰められるわけがない。が、こちらには王家も貴族もいる。対策は簡単であった。

 

「ミズヴァには一度どこかで止まるように言ってある。まぁ寝てるふりとかするだろう。その間に貴族達には王城へと集まってもらって、軍も集まるだろう。標的と目撃者だ。」

 

 軍の配置はおそらく歴史上類を見ない速さで行われるだろう。

 彼らには目撃者になってもらう。神龍を抑えた実績と、それによる王としての信頼と尊敬をいただく。

 流石に優秀な軍人はこれから必要になるだろうからできるだけ残しておきたい。

 

「報告します、対象の約半数貴族。王城へと向かいました。一部逃げだしたものもいるようです。」

「予定通りまとめて事故だ。龍の通り道を塞ぐなんて愛国心があるね。」

「えげつねえな、坊ちゃん。」

 

 すでに状態は水面下で戦争になった。

 

 

 あれから、少し時間がたった。

 町のざわめきは落ち着いたと言えるだろうか。家をひっくり返すように何かを荷台に突っ込む人も、運命を受け入れる人もそれぞれだ。

 普段の喧騒とは程遠いものであることは誰の目にも明らかだろう。

 

「ミズヴァ、まさか棒立ちとはね。逆になにするかわかんなくて怖いからいいけど。」

「さっき話しかけてきたよ。暇だからなんか話題ちょうだいって。あの子空気読めないけどかわいいとこあるよね。」

「嬢ちゃん、もしかしてペットかなにかと思ってるのか?」

「家族計画的には……あり?」

 

 なしだよ。と言いたくなるがそれはいい。家族計画についてはすでに、この革命計画の倍くらいの資料を渡されている。

 もう全部任せたいが、そんなこと言ったら大変になるのはわかってる。彼女には悪いがしばらくはのらりくらりと躱すことにしよう。

 

「で、首尾はどうなんだ。」

「何人か逃げたが、偶然王城にいるべきやつはほぼ全員揃ったな。兵も集められたけど、士気は最悪だな。」

「人数でどうにかできるもんでもないからな。あれに向かっていけるのは狂人か勇者だけだよ。」

 

 ここまでは、ほぼ計画通りに進んできている。あとは、王城が破壊され、僕たちが国を救って終わりだ。

 油断、というほどでもないが、最悪な出来事はいつも最悪なタイミングで来るものだった。

 

 階段を上る激しい音がすると思うと人が入ってきた。ユミリアに扉の前でいいように扱われたモブ顔のあいつだ。

 

「ボス、大変です!勇者がっ!」

「勇者?なんだ、誰か龍に突っ込んでいったか?」

「いや、本物です。勇者が国に来ました!」

「はぁ!?」

 

 一番大きな声を出したのは、間違いなく自分だろう。

 計画は綿密に考えていた。急造で穴の多い作戦でもあるから分岐は沢山考えておいた。だが、それは考えていない。

 すべてを狂わす、この世界の最強が来ることは。

 

「おいっ!」

「はいっ!」

 

 肩を掴む。力が入り、骨までがっしりと掴んでいる、それを気付かないほどの焦りとともに。

 

「俺を連れてけ。勇者はどこだ。」

 

 革命の火は、業火となるか灰となるか、運命の分岐が始まった。

 




次回「くたばれ!クソ勇者が!」

じわじわとですが読む人が増えてくれてうれしいものです。読まれている実感てすごいものです。
連休入ったのでいっぱい書きたいですが用事もありますので毎日投稿とかは無理かな。皆様もお手すきの際にでも読んでください。


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