世界征服しようとしたらヤンデレに呼び出された~我が大正義軍は生え抜き軍に負けるのか~   作:三重知貴

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あ、勇者。4にますように。

 

「なんで勇者が来てるんだよ!?」

「いや、俺にもわかんないですよ!」

「わかってるわモブ顔!こっちであってんだな!?」

「キースです!名前はキースです!あってます!」

 

 名前もモブみたいじゃねーかと口から出そうになるが、そんな掛け合いをしている暇はない。

 キースを担ぎ上げて、街の屋根を走る。

 

 この国に勇者が来た。この世界の根底を覆す化け物、それはその存在だけで今回の作戦を崩壊させてしまうものだ。

 

「(そのうち会う予定はあったが、今じゃないだろ。)」

 

 ミズヴァを作戦に使う。それを決めた時点で本来死んでいるはずの龍の出現が勇者の耳に入ることはわかりきっていた。

 だから、彼の調査を行い、現在は旅立ちの地でもあるタイグラント王国にいることも把握していた。

 情報の伝達と移動時間、この国が壊された後に乗っ取るには十分な時間があるはずだった。作戦中に来るなど考えていなかった。

 

「(なぜ来た――そもそもバレていた?いやそれなら調査報告の辻褄が……チッ!今考えても仕方がない。)」

「坊ちゃん!あそこです!」

 

 そこは西の大通り。大きな人々の声が聞こえる。今のこの国には似合わない、明るい活気のある声が聞こえた。

 

「あれか。」

 

 瓦屋根の上、隠れるように身を伏せた。覗き込むように下を見る。

 そこには多くの人々に囲まれた、7人の目立つ格好をしたやつらがいた。どれも見覚えのある原作生え抜きキャラ。勇者パーティーがいた。

 

「本当に勇者じゃねーかよ。」

 

 ――勇者。紛れもなく、あの男だ。

 

 白銀の装備に身を包み、光を纏ったような雰囲気を持つ男。立ち姿はどこまでもまっすぐで、顔は整いすぎて皮肉抜きに善人面だ。

 

「どいつも強そうっすね。」

「そら世界を救ってくださった方々だからな。」

 

 他の6人も含め、これまたどいつもこいつも豪勢な装備をしていた。どんな素材か予想もつかない輝きをもった鎧、同じものは2つとないであろう異質感を漂わせる武器たち。

 どれもレベルの違うものであることがよくわかる。

 

「(専用装備フルセットじゃねーか。マジでプレイヤーだな。)」

 

 適当にストーリーを進めていたら簡単に入手できないはずのものばかり。この世界に正史なんてものはあるはずないが、ゲームの原作には登場人物しない装備もあの中にはある。

 

「どうするんですか?」

「とりあえず観察だ。接触は危険すぎる。連絡要員できるだけ用意させとけ。何が起きるかわからん。」

「わかりました。」

「あと逐一、俺の生存報告をしろ!ユミリアが何を起こすかわからない。」

「あー……わかりました。お嬢様のとんでもなさは理解してます。」

 

 少し前のトラウマを思い出し納得するキース。

 

 ここに来る前、アジトを飛び出そうとする僕を全力で止めたのはユミリアだった。

 

「やめて!ハラディスが行く必要はないでしょ!」

 

 行く必要はいくらでもあった。それは彼女も理解していたはずだ。だが僕を失うことに比べれば些細な話だった。

 

「大丈夫、遠くから観察するだけだから。」

「なら私も」

「ダメだ!!」

「うっ。」

「それだけはダメだ。」

 

 勇者が今この国に来た理由は不明だ。だがあいつらがボス狩りをしているのは予想できる。

 なら、今は違うとはいえ彼女を近づけるわけにはいかない。

 

「大丈夫、約束だ。」

 

 僕は小指を出した。

 

「違うよ。あなたが私に出すのはこっち。」

 

 ユミリアはそう言い、薬指を強く結んだ。

 

「ああ。約束だ。」

 

 そう言って出てきた。

 あの場はどうにかなったが彼女はきっと心労でヒステリックを起こしているか寝込んでいるかの二択だろう。

 だが、それでもここにいる必要があった。

 

 民衆に囲まれる勇者たちを睨むように見る。

 人々は喜びに歓喜し、泣く者もいる。子供は憧れを目にし、老人は感謝に頭を下げる。

 勇者が手を上げ、民衆を落ち着かせる。そして、みんなに言い聞かせるように優しく、人々に安心を与えてきた声で話し始める。

 

「安心してください。僕たちが来たからにはかならずあの龍を倒して見せます。なので落ち着いて待っていてください。」

「(またバグ使って倒す気か?異世界来て無双気分かよクソ野郎が。)」

 

 今すぐあの場に行ってボコボコにしてやりたいところだが、返り討ちに合うのが関の山だ。

 ため息をつきたくなってくると勇者たちのもとへ馬車が来た。

 

「さぁ、乗ってください!王城まですぐです!」

「ありがとう!ではみんな、行ってくるよ!」

 

 眩しいほどの笑顔で民衆に手を振り、勇者たちは馬車に乗り込む。民衆はさらに熱狂する。

 余計にまずくなってきた。恐らくだが、彼らが王城にいれば貴族たちを一気に叩きつぶすことはできない。

 不意打ちを行ったとしても守り切れるだろう。そういう確信があった。

 

「モブ顔!俺は王城に行く。お前は報告と人員俺の方に回せ!」

「はいっ!」

 

 王城、まさかこんな形でまたあの場所に向かうこととなるとは思わなかった。

 

 

 

 

 城の城壁はそれほど高くない。城は山の上に、後ろはさらに高い山と天然の城壁があるからだ。

 そして今は緊急事態、城に入り込むのは容易であった。

 

 ゲーム的な話をするなら、僕は隠密能力が高い。正面火力は既存キャラで揃えやすいので、不意打ちや奇策のレパートリーを増やすようにしていた。

 そして本来なら貴族、王城にいて違和感を感じさせることはない。本気を出せば視界に入ったことを覚えられることもないだろう。

 

「(だが、あいつらなら気づくかもな。最低でもこの世界のトップだ。)」

 

 警戒はいくらしても足りない。目の前には兵士に連れられて廊下をあるく勇者パーティーたち。

 一瞬でわかるほどの巨大な圧、誰もが世界を救った肩書を持つ神々とも戦える者たちだ。

 

 そのまま、彼らは廊下を進み、会議室の扉の前についた。そこには兵士が2人、見張りとして立っている。

 

「勇者さま、こちらです。」

 

 甲冑を来た兵士がそう言う。

 

「(会議室に行くか。たしか会議室は情報を盗むのに天井への抜け道を確保していたはず。)」

 

 焦る脳を落ち着かせ、計画にあったその抜け道を思い出し、急いで向かう。

 

 暗く狭い天井の通気窓。だがそんなことに文句も言ってられない。会議室の天井裏に張り付き、小さく開けておいた穴から会議室を覗き込む。

 王と高官たちが硬直した面持ちで座っていた。その中には自分自身の父もいる。彼らの前に立つのは、誰よりも神々しい存在、勇者たちがいる。

 

「本来であれば、このように急な来訪は礼を失するものでしょう。しかし、緊急事態です。――我々は、あの龍、黒き厄災を討伐するためにここへ参りました。」

「おお、勇者様!」

 

 その言葉に、会議室の空気が震えた。

 

「やつは人々に害をなす、邪龍です。かならずこの国に被害をもたらすでしょう。人々を守ること、それが我々の役目です。つきましては、王家より討伐の正式な許可をいただきたい。」

「……な、なるほど。勇者殿……我が国の民は、貴殿のような存在を望んでおりました……」

 

 穏やかな口調。しかしその背後にある圧倒的な実力が、誰の口も挟ませなかった。その実力はこの場の緊張を解く。

 

「しかし、なぜ勇者様がここに?お国はかなり遠かったと記憶しておりますが。」

「我々は魔王討伐以降、世界の脅威となるものを阻止するために動いていきました。今回の黒き厄災も追っていたのです。なので早く気づき来ることができました。しかし復活の予兆に気づけず、申し訳ございません。」

「そんな……頭をお上げください。」

「(だろうな。気づくはずない。)」

 

 勇者たちから本来倒したはずの敵だ。復活なんて予想外だろう。

 それよりも、この質問は自分もしたかったものだ。調査した時は国に帰っていたはずだ。どうしてこんなにすぐこの国に来た?というよりなぜわかった?

 

 ワープ、転移、そういったものはない。ゲーム的にそういったこともあるが、あくまでそれは移動シーンをスキップしているという前提だ。

 この世界にそうした便利な魔法は存在していない。

 

「(明らかに、ごまかしたよな?なにか別の方法があるのか?いや、プレイヤーならむしろその可能性を考えておくべきか。)」

「安心してください。必ず討伐します。私、アーサーが神に誓いましょう。」

 

 アーサー、ゲームでは名前を選択しなかった際に自動で設定されるデフォルトネームだ。

 

「(他のやつらもゲーム通りの名前だったはずだ。)」

「さっそくですが、街から出てあの龍のところへと向かおうと思います。」

「さっそくですか!?」

「ええ、早く動かなければ人々に被害も出ますから。私たちが戦う間、できるだけ民衆の避難をお願いします。」

「ああ、すぐに指示しよう。あと、龍のところへ行くなら王家の馬車を出そう。普通の馬よりも何倍も速いはずだ。」

「ありがとうございます。必ずやご期待に沿う働きをしましょう。」

 

 王の手をがっしりと掴み、固く誓うアーサー。これは確かに世界を救う勇者そのものといえるだろう。

 確信めいたその言葉には安心感を覚える。

 しかし、立場が違えばそうもいかない。

 

「(もしかして、マジで倒せるのか?)」

 

 その確信めいた自信に不安を覚えるハラディス。

 

「(フル装備で理論値レベルでも倒すのがは難しい。バグ利用以外に簡単に攻略する方法はない。だがバグは儀式とステージの2つの要素が必要だ。今回は儀式なしの出現だ。)」

 

 ならばギミック抜きの正攻法に自信を持っているのか。しかし、いくらこの世界にはパーティー人数に制限がないとはいえ、人数でどうにかなるものでもない。

 なにより、ハラディスは「負けるような戦い方」をしないようミズヴァに指示をだしている。ギミックは解除されているのだ。

 

「(自信過剰で自爆してくれるならありがたい。弱体化してるとはいえ、ミズヴァのステータスは異常だ。勝てる可能性の方が高いだろう。)」

 

 勇者たちの足元をすくうことができればベストではある。だがそう簡単にいく相手でもない。

 

「では早速向かいましょう。作戦会議は馬車の中で。」

「「「わかった。」」」

 

 勇者が仲間に指示を出す。

 王家の馬車、馬でも魔物に近い特別な馬を使ったものだ。自分も何度かは乗せてもらったことがある。

 作戦会議を盗聴したいところだが流石にそんな準備はできていない。

 

「(どうすべきか…………あっ!。)」

 

 

 

 

 

 

「勇者様、こちらになります。」

「ありがとう、助かるよ。」

 

 勇者たちは王城の外、正面に回された馬車の前に立ち止まる。

 

「おい、頼んだぞ!」

「はっ!お任せください!では勇者様方、お乗りください!」

 

 甲冑を着て見えないが、上司であろう人物に命令される()

 

「(さてと、この馬車でミズヴァの口にでも突っ込めば解決か?)」

 

 さて、国の未来を戦場に送り届ける大役を任せていただいたのは、先程馬車の操縦者に転職させていただいたこの僕、ハラディスだ。

 

「(元々乗ってた人、ひん剥いたけど風邪引かないかな?)」

 




次回「こちら地獄、黒き厄災行き。」

なんとか書き上げました。長くなりそうですが、とりあえず革命が終わる一区切りまでは書き終えたいですね。
地味に初めてユミリアの描写が少なかった回かも。

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