【完結】汚泥より這い出で、荒野を渡れ   作:不知東西屋

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区切りが悪く、ごく短いです。


第10話:圧巻のメイクデビュー

<Side:チーム・ティコ(三人称視点)>

 

 日に日に暑さが増していく7月下旬。

 グレイナイザー達チーム・ティコの3人はチームルームでテレビ画面を見つめていた。

 

 トレーナー用のデスク、来客用のソファとローテーブルに選手用のロッカー。

 かなり手狭な部屋のせいか、窓を開け、扇風機がフル稼働しても蒸し暑い。

 

 ただし、グレイナイザー達の頬を伝う汗は、何も暑さばかりのせいではなった。

 

 理由の一端は今まさに3人の視線の先、壁際に置かれたテレビの中にあった。

 映し出されているのは新潟競バ場。

 芝、1000mの新馬戦。

 

 シンボリルドルフのメイクデビュー戦が決着したところだった。

 

「なんてヤツ…、」

 冷や汗をぬぐうことも忘れ、半ば呆れたようにこぼしたのはグレイナイザー。

 

「ルドルフさん、強かったねぇ。」

 アオイソニドリがのほほんと応じる。

 

 続いて、難しい顔で口を開いたのは蜂谷トレーナー。

「確かに強い。しかし、それ以上のことはわからないと言う、困った状況ですね。これは」

 

「どういうことですか?」

 イマイチ、わかってない様子のアオイソニドリ。

 

「アオイソニドリ、あなたは今日のシンボリルドルフの勝ち方に何か違和感を感じなかった?」

 グレイナイザーに尋ねられ、アオイソニドリが考え込む。

「うーん、言われてみると、なにか、あるような」

 

 少し考えさせてみたが、回答は出ないようだったので、結局はグレイナイザーが引き取った。

 

「今のレースは1000mの短距離。メイクデビューで駆け引きも未熟なウマ娘が多いし、普通はヨーイドンのスピード勝負になるんだよ。」

「あれ?でも、シンボリルドルフさんは」

「ええ、周りが短距離のペースでとばしていく中で、好位に控え、ラスト200mでトップに、そのまま2バ身で勝ちきりました。これは、マイル以上の距離でのレース運びです。」

 

 ナイザーの言葉を肯定するように、トレーナーも頷いた。

「出走者が少なめで、かつ短距離なら、メイクデビューでもアクシデントが起こりにくい。おそらく、リスクを抑える選択をした上で、本来の適性に近いマイルのレース運びを試したんでしょう。」

 

「はあー、すごいんだ」

 率直かつシンプルな感想をもらすアオイソニドリ。

 

 グレイナイザーは険しい表情。

「どんな有望株でもメイクデビューでは必死になって、実力の底を見せてくれると思ったんですが、当てが外れました。」

 

 トレーナーの顔も悩ましげだった。

「今日の彼女は本気ではあっても、全力ではないでしょうね。メイクデビューで適性外の距離、さらにはマイルのレース運び。勝てば余裕、負ければ慢心と言われる中でやりきるあたり、心身ともに強いことは間違いないでしょうが」

 

「この調子だと、重賞レースでもなければ全力は見られないかもしれません。次はマイルレースを中距離のレース運びで走るなんてことをしかねませんよ。」

 平静な口調で言うグレイナイザーだが、トレーナーとソニドリしかいないせいか。どこか挑戦的な響きがあった。

 

「流石、シンボリ家の秘蔵っ子と言うべきでしょうか。」

 

………。

 

 この時のグレイナイザーの言葉を裏付けるように、シンボリルドルフは3ヶ月後、東京競バ場で1600mのマイルレースを中距離のレース運びで勝利した。

 

………。

 

「やはり、一度、彼女と対戦しておく必要があると思います。それも、できれば今年(ジュニア級)のうちに」

 秋も深まっている10月の終わり、チームルームでグレイナイザーはそう切り出した。

 

 シンボリルドルフの2戦目を観戦した直後のことである。

 

「え、ナイザーちゃん、シンボリルドルフさんに挑戦するの?」

 驚いたのはアオイソニドリ。

 

 蜂谷トレーナーは予期していたとばかりにうなずいた。

「その必要性は私も考えていたが、現時点での勝ち目はほぼないよ。さらに、情報戦でも分が悪い。」

 

 シンボリルドルフの視野の広さ、頭脳の明晰さは広く知られている。

 何より、格下としてとはいえ、対戦相手としてターフの上で相対すれば、対戦可能性があるだけのクラスメイトとは段違いに情報を吸収され、分析されるのは間違いない。

 

「それでも、やらねばなりません。もとよりこちらは圧倒的に格下。今のうちに相手の強さを肌身で推し測り、1年かけて対策をする。そうしなければ到底勝ち目など生まれないでしょう。」

 

 しばし、見つめあう形になるグレイナイザーと蜂谷トレーナー。

 アオイソニドリはきょろきょろと二人の顔を見比べている。

 

「わかったよ。私も腹をくくろう。」

 ため息をつきながら、トレーナーがそう言う。

 言葉とは裏腹に表情には不敵な色もあった。

 

「ありがとうございます。」

 グレイナイザーはの表情は平静だ。

 なぜかアオイソニドリがすごくほっとした顔をしていた。

 

「詳細は、シンボリルドルフの次走予定を調べてからになるが。君のことだ。すでにある程度のレースプランは考えているんだろう?一応言っておくが、本気で挑まねば、本気の情報は手に入らないよ。」

 

 言わずもがなの釘差しに、グレイナイザーは確信をもってうなずいた。

「わかっています。出場レースによらず、作戦は決まっています。」

 

 自嘲半分で肩をすくめる。

 

「火事場泥棒、あるいは空き巣作戦というところでしょうか。」

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