前半は雑誌記事風のお遊びです。
<「月刊トゥインクル・シンボリルドルフ引退記念号(お試し版)」>
(今回は、シンボリルドルフと激闘を繰り広げたライバルたちとの対談記事の中から、菊花賞で立ちはだかったグレイナイザーとの対談の様子をちょっとだけ公開します。)
シンボリルドルフ:以下、シ)と表記。勝負服を着用
グレイナイザー :以下、グ)と表記。パンツスーツで勝負服は持参。
グ)しかし、対談はともかく、勝負服を指定とは。無茶を言いますね。
シ)私としては身につけて欲しかったのだが、残念だ。
グ)この間まで着ていた貴方と違ってこちらは○年振りですからね。体つきも変わってますし、ひっぱり出すだけでも、一仕事でしたよ。
シ)まあ、私もこれで着納めだからね。ダメ元で頼んだものだし、持参してきてくれただけでも感謝すべきだろうね。
記者)○年振りと言うことは、つまり、菊花賞以来ということでしょうか。
グ)そうですね。結局、あの一戦しか着る機会に恵まれませんでしたが、それだけに思い出深いものがあります。
シ)私にとってもあの菊花賞は特別だよ。未だに夢に見る。写真判定が終わって順位が表示される瞬間に飛び起きるんだ。
グ)私も夢に見ますよ。目覚めるのは、ゴールの瞬間ですが
記)皇帝最大の苦戦と言われることもあるくらいですし、お二人にとっても忘れ難いレースなんですね。
シ)いや、実際にトゥインクルシリーズで最も苦戦したと言って間違いない。
グ)対談だからって盛りすぎですよ。無敗ならともかく、負けたレースもあるじゃないですか。
シ)確かに、私は生涯で3度負けた。ただ、これは傲慢な物言いになるかもしれないが、3度の敗北はいずれも私自身に敗因となる要素があった。例えば、連戦の疲労であったり、体調不良であったりね。もちろん、それを含めて私の実力だから、言い訳するつもりも、勝者を貶めるつもりもないけれどね。
グ)(肩をすくめながら)残念です。菊花賞の貴方がもう少し不調だったら、私が冠を被れていたかもしれない。
シ)(苦笑)実際には、あの日は調子がよくてね。レースに絶対はないが、それでも勝つのは私だと、陣営の誰もが半ば確信していたね。まあ、フタを開けてみれば、あの結果だ。伸びた鼻が叩き折られて、自身の未熟さと慢心に散々な気持ちだったよ。
グ)こんなことを言ってますが、勝ったのはこの人ですからね。散々なのは、負けたうえに怪我までした私の方ですよ。
(一同、笑う)
記)菊花賞では、審議が長時間に渡ったこともあり、判定を疑問視する声も一部にありましたが
シ)おっと、なかなか踏み込んでくるね。
グ)私の勝ちだったと言ってくれるのはありがたいんですが、私としては当時も今も判定に物言いをつける気はないです。不満があるとすれば、あと10cm前に出て、明確な勝利を掴めなかった自分自身にですね。
シ)それは私も同感だな。せめて、再戦が叶えばよかったのだけどね。そんな未練もあわせて、忘れられないレースの一つだよ。
グ)忘れられないのは同意ですが、私は再戦したくないですね。
記)グレイナイザーさん、すごい渋い顔をしてますけど、どうしてですか?
グ)再戦しても勝てないからです。あのレースは作戦もヨミもハマって、運も私に味方した。そのうえで、壊れるほどに無理もした。アレで勝てなきゃ、何やっても勝てませんよ。
シ)こんなことを言っているけれど、いざやるとなれば、キッチリ勝算を用意してくるコワイ相手さ。
グ)コワイ相手って、無敗の三冠バ。今でも最強論議では必ず名前の出る皇帝陛下がそれを言いますか。どう考えても貴方の方がコワイでしょう。
記)お二人、とても打ち解けた雰囲気ですが、トレセン学園在学中から親しかったんですか?
シ)いや、在学中はほとんど付き合いはなかった。クラスメイトではあったが、事務的な会話ぐらいで。恥ずかしながら、直接対戦するまではライバルと意識もしていなかった。菊花賞の後は多少、話をする機会もあったが、グレイナイザーは高校からは外部進学してしまったしね。
グ)スクールカーストと言うとイメージが悪いかもしれませんが、戦績や出自で棲み分けは自然と起こるんですよ。もっとも、私の方は何か攻略の手がかりはないかと、授業中でも目を光らせてましたけどね。
シ)(笑いながら)ね、怖いだろう?
ただ、これは他のライバルにも言えることだけど、10年分の会話より、1回のレースの方が分かり合えることもある。だからこそ、私の競技人生とそこで巡り合ったライバルたちはかけがいのないものだと断言できるのさ。
(続きは、「月刊トゥインクル シンボリルドルフ引退記念号」で。カツラギエースやミスターシービーなど、シンボリルドルフと激闘を繰り広げたライバルとの対談やインタビューがたっぷり!!)
………。
<Side:グレイナイザー(三人称視点)>
「対談の後まで時間をもらってすまない。」
「いえ、むしろ対談だけで解散されなくて、ホッとしてますよ。」
月刊トゥインクルの対談後、夕方の居酒屋にシンポリルドルフとグレイナイザーの姿があった。
個室こそあるが、まごうことなき場末の居酒屋である。
店を指定したのはグレイナイザーで、いまだに酒が飲める年齢には見えないが、それでも落ち着いた様子。
一方のシンボリルドルフは、なんとはなし、不釣り合いで、ほんの少し物珍しげだ。
清潔だが、年季の入った木のテーブルを挟んで2人は腰掛けた。
お手拭きを置きに来た店のおかみにグレイナイザーは迷うことなく注文を告げる。
「何かすぐにできる軽いものをお任せで。飲み物はウーロン茶を氷抜きでお願いします。」
「、、、私も同じものを」
おかみがもどっていくと、カウンターの中で料理担当の旦那が作業を始める。
「よく来るのかい。この店は」
「時々ですね。いい店ですから。ニンジン料理が美味しくて、お店の方は口が固い。」
「なるほど」
そんなことを話しているうちに、料理と飲み物が運ばれてくる。
もやしのナムル、ニンジンのマリネ、胡瓜の浅漬けがテーブルに並んだ。
「では、」
グレイナイザーがウーロン茶を掲げながら促してくる。
シンボリルドルフは思いついた言葉でそれに応じた。
「○年振りの再会に」
「再会に」
ジョッキグラスが軽く触れ合う。
「それで何の要件なんですか。旧交なら、対談で十分温めましたが」
小皿にニンジンマリネを取り分けながら、グレイナイザーが話を振る。
「君なら察しているとは思うが、言うなれば、そう。同盟の申し込みだよ。」
「私はすでに競技の世界から離れたウマ娘ですよ?」
「とぼけないでくれ。私は来年度からURAに乗り込むシンボリの次期当主として、政界進出が噂されるNPO団体の代表と話をしているんだ。」
どちらの口角も柔らかく上がっているが、その瞳はどこまでも冷徹な光を宿している。
グレイナイザーが尋ねた。
「貴方の口から、目標を聞きたいですね。」
シンボリルドルフは迷いなく答えた。
「私の目標は昔から変わらない。全てのウマ娘の幸せだよ。」
「具体的には?」
「吐故納新。現在のURAの体制を刷新し、よりウマ娘本位のものへと変革したい。」
グレイナイザーに驚きはなかった。
「コンクリートよりも固い、利権の巣へまた挑もうと言うんですね。生徒会長時代にあれだけ苦労したのに」
からかう口調。意地悪だが、自然な笑み。
シンボリルドルフは苦笑した。
「そうだな。制服を変更するだけで、3年も掛かってしまった。今もだが、あの頃は本当に未熟だった。」
生徒会長就任時の公約にして、功績の1つを口にする。
少し、打ち解けた空気を引き締めるように、グレイナイザーは笑みを引っ込めた。
「現在の主流派を追い落とし、貴方がトップに立つ必要がありますよ。いくらシンボリの次期当主でも、一筋縄ではいかない。」
「覚悟の上だ。」
「なるほど」
2人の視線がまっすぐぶつかる。
シンボリルドルフと同じく、グレイナイザーの瞳にも意思の力が宿っている。
「私も聞きたい。グレイナイザー、君は何を目指しているんだ。」
「何を、とは?」
「トレセン学園を去った後の君の動向は気にしていたし、失礼ながら生い立ちの調査もさせてもらった。」
プライバシーの侵害だが、グレイナイザーは気にした様子もなかった。
ただ、面白そうな顔をしながら、キュウリを齧っている。
「私は最初、君はビジネスの分野に進むと思っていたんだ。君の支援者だった鳴鐘氏は立志伝中の人物だし、その関係でツテもあるだろう。」
シンボリルドルフの言葉に、付け加えるようにグレイナイザーが続けた。
「それに、分かりやすいストーリーでもある。貧困世帯出身のウマ娘が経済的に成り上がるというのは。レース時代の知名度もプラスしてメディアも利用できる可能性が高い。」
聴く側に回ったためか、今度はシンボリルドルフの方が、興味深い顔をして、ニンジンのマリネをサクサクと噛んだ。
「だが、君はそうはしなかった。学生を中心に人を集めて社会活動を行い、成果を上げた。次の選挙では国政へ打って出ると噂されている。」
グレイナイザーは小さく笑った。
「大学生は、お金はともかく、時間と体力があって、何かやりたいけど、なにをやればいいのかわからない層が一定数いますから、上手く力を借りられただけです。」
自分の今までをそう謙遜し、それから視線を少し上げる。
体の大きいシンボリルドルフと視線が合うように。
その目の底には、かつてと同じ溶岩のような熱が宿っている。
「私の目的も昔から変わりませんよ。気に入らないやつを、無様に転がしてやりたいだけです。」
「本当に?」
あまりに剣呑で、しかも卑俗な回答に思わず尋ね返してしまう。
グレイナイザーは獰猛な笑みで頷いた。
「かつて、貴方をコケにしてやろうとしたようにね。さしずめ、今の敵は社会。かつての私のような子供が未だにゴロゴロしているこの社会です。」
このふざけた社会を否定してやりたいと語る元同級生。
シンボリルドルフは感心と納得、そしてわずかな呆れと面白さを感じた。
「それで、政治か。」
「それで、政治です。」
頷いた後、一拍置いて言葉を足す。
「私の支援者だった鳴鐘は優れたビジネスマンでした。能力で言えば、おそらくトップクラスでしょう。私がビジネスに取り組んでも同じだけの成功を収められるかは疑問です。しかも、私が欲しいのは財力よりも、もっと社会に直接影響を与えられる権力です。」
財力はおおよそ万能な力だが、完全に万能ではない。
特に、一代の成り上がりでは結局は成金扱いが精々だ。
聞く者によっては、顔を顰めたかもしれないが、シンボリルドルフは真っ直ぐに視線を向け、小さく笑った。
「私は知名度とシンボリ家の財力を活かし、君の政治活動を支援できる。君は政治家としての立場、さらには社会活動を通じてURA改革を助けて欲しい。」
グレイナイザーも小さく笑った。
「菊花賞のあと、半べそをかいていた皇帝陛下が随分と頼もしく成長されたようで」
応じるシンボリルドルフの苦笑に獰猛さがわずか滲んだ。
「あの時の気持ちは忘れたくとも、忘れられないよ。あの判定について、ツテをたどって色々と調べてしまうくらいには」
グレイナイザーの口調にも獰猛さが伝染する。
「なにか、わかりましたか?」
「ああ、今の主流派につながっていたよ。あの頃から変わらず、権益の上に繫栄し続けているわけだ。直接の指示を出した者は今や幹部に名を連ねている。」
「なるほど、それは素敵です。実利もあり、感情的にも燃えてくる。」
「それじゃあ、」
グレイナイザーが獰猛な笑みのままで右手を差し出した。
「気に入りました。貴方の改革を手伝わせてください。」
シンボリルドルフも右手を差し出す。
「こちらこそ、よろしく頼む。初志貫徹、必ず理想を実現しよう」
テーブルの中央で、固い握手が交わされた。