夏油 傑は緊張していた。
何せ、魔女とバレたら殺されてしまうかもしれないと師匠に口を酸っぱくして言われているのだ。
夏油が潜入した時に、夏油の知らない新たな隠れ家を増やしたほどの警戒ぶり。
そんな危険な所に潜入するのは無謀だと思う。
しかし、夏油にはお金が必要なのだ。
店の出店資金という途方もない大金が。
呪術師の給料は高いという。
一人前の魔女となる為、最も難関となるのがこの開店資金の調達だ。
ついでに呪術師の情報を流せば、大魔女様がご褒美をくださる。
もしかしなくてもスパイだが、開店資金が貯まるその日まで、夏油は頑張るつもりだった。
大魔女様は今回の任務にあたり、沢山沢山悩まれて、助言をくれた。
あくまでも其方の道ゆえ、あえて予言はせぬ。呪術界は悪意の坩堝とだけ知っておけ。
呪術界はハイパーブラックな世界ゆえ、ひとまず卒業まで生き延びること。
卒業を一区切りと考え、最低1ヶ月は呪術師を休み、自分を見つめ直すこと。
その上で、どう生きるか決めるが良い。
大魔女様は、何故かわからないが夏油に目を掛けてくださる。ありがたいことである。
夏油は、早速入学式を終えた後にクラスメイトに告げた。
「私の名前は夏油 傑。目標は在学中に雑貨屋の開店資金を貯めること」
これぐらいは言ってもいいよね。むしろ言っておかないと、スムーズに辞められない。
「雑貨屋ぁ? やる気ねーなら辞めちまえよ」
「卒業したら、辞めるつもりだよ。でも、力の使い方ぐらいは習っておかないと困るだろう?」
「ちっ 雑魚はこれだから志が低い」
「私の志は高いよー? 世界一の雑貨屋になるんだ!」
そう、ダンジョンを内在する超巨大雑貨店を作るんだ!
「変な奴……」
「ふふふ。かもね」
「雑貨って何売るの?」
「手作りのキーホルダーが主な売り物かな」
「ダッセー。で、いくら?」
「見せてよ」
「一個600円だよ」
二人は財布を取り出す。嬉しい。初対面で商品を見てもいないのに買ってくれるなんて。
「ふふ。たった二人の同級生だから、お近づきの印にあげるよ」
商品を取り出して見せる。お守り作りは隠さないというのはセオリーだ。
何でもかんでも秘密だと、商売もできないからね。
むしろ宣伝してくれって言われてる。
呪術師と魔女。適切な距離を保って交流できたら嬉しい。
私の仕事はその橋渡しでもあるのだ。
悟はキーホルダーをじっと見つめた。
「これ、600円? マジで?」
「えっ 高いかな? やっぱり500円にしようかな。でも割と手間が掛かるんだよ、これ」
「似たのを100万で買ったわ。流石にもっと出来が良かったけど」
「なるほど。全部売って。悟に転売するから」
その言葉に、びっくりする。
「えっ えっ? 100万? それ見せてもらってもいい?」
悟がカバンに付けているのを見せてもらう。百万のキーホルダーを鞄につけちゃうのか……。
これ、園田さん作のお守りじゃないか。見た目が悪いから売れないんじゃないかって悩んでて、やめようかなって言ってた。
すごいな、呪術師。羽振りがいい。ちょっと信じられないお値段だ。
「千倍って凄いね。千円だよ? それ。騙されちゃったね」
「ウケる。騙されたのはどっちだよ。これ作ったの傑の師匠かなんか?」
「違うけど。けどこの業界狭いから、誰が作ったかは大体わかるよ」
「業界なんてあったんだ? すげー興味あるんだけど。口利きしてよ」
「ん、明日にでもその人のベルを持ってくるよ」
「ベル?」
「そう。常連にだけ配る特別なベル。これは私のベルだよ。まだ一個しかないけど」
私はシーツのお化けの絵が描かれたベルを取り出して、携帯のネット画面を開いた。
そして、チリンとベルを鳴らす。魔力を使い果たしたベルは石となった。
すると、ポップアップで広告が出る。
それをクリックすると、オンラインショップに入れるのだ。
2人が覗き込む。
キーホルダーしか売られてない。それも10個しかない。
ぽちぽちと硝子が選択していき、カートに入れる。
すると、魔法陣と金額が出る。
「ここに乗せろって?」
硝子が6000円乗せると、お金が消えてキーホルダーが現れた。
全部買われたから、公開停止しておこう。
絶対に正体が割れない素敵システムである。
私の場合は自分でバラしちゃってるけど。
「悟、いくらで買う?」
「60万」
「毎度あり」
「そ、そんなのありかい!? そもそも、私のは気休め程度でそんな価値ないよ!?」
て、転売行為だー!? いや、嬉しいけど! 嬉しいけどさぁ! そして五条 悟、お金持ちだな!?
「ある。傑のベルは言い値で買う。当然、また使えるようになるんだよな?」
「使えるのは1ヶ月に1回位かな」
「私も欲しい」
「私のベルは売らないよ? 一個しかないって言っただろ……。明日持ってくるベルも、特別に譲るんだからね?」
「悟ばっかりずるい。私にもベル一つちょうだい」
「傑、ベルいくつ持ってるんだ? 何奴が評判いいか教えろよ。明日と言わず、今日傑の部屋集合な」
ええ……。まあ、宣伝してほしいとのことだったし、いいかな?
授業を終えて、二人を部屋に迎え入れる。
二人とも、その鞄いっぱいのお金はなんだい……?
怖いよ、欲望通り越して恐怖が湧いてくるよ。
唾液が溢れて、ゴクンと飲んだ。
不要なベルと書かれた小さな段ボール箱と、見本1と書かれた箱を押し入れから出して渡す。
「「おおー」」
「ここからだったら好きに持ってきな。お店畳む予定だったり敵情視察して研究終わった、もういらないのだから」
「不要なベル……」
「あそこに飾ってあるのが有用なベル?」
「ってより、仕入れ専用のベルかな。それ以外のベルはあっちの箱。これが悟の欲しがってた園田さんのベル」
そういって、不要なベルの箱から園田さんのを出して悟に渡す。
「不要なベル枠かよ! せっかくだから最高級品見たい! 机の上のがそれ?」
「そうだよ。業界ナンバーワンと私の師匠の作」
机の上に見本に飾ったお守りが2つ。大魔女と師匠のである。竜のデザインのキーホルダーと、盾のデザインのキーホルダー。攻撃を軽減する効果がある。
「すげー」
「キラキラしてて綺麗」
「その机の横の段ボールからもっとすげー気配がある」
「すごいね悟。お金貯めて買った雑貨だよ。キーホルダーは最大で2000円位だからね。箱の中はもうちょっと高い奴を入れてる」
箱を開けると、楽しそうに大切そうに眺める。その手はとても丁寧で手袋までしていた。
なんだ、予想以上にスムーズに受け入れてもらえそう。とてもホッとした。
「すげー。ちなみにいくら?」
「一番高いので一万したかな、凄く痛かったよ」
「……呪具の価格破壊起こすつもりか?」
「へ? いや、価格はきちんと、ガイドライン通りにやってるよ」
「……ちなみに傑の目標金額いくら? 雑貨店開くんだろ」
「五千万。だから早くキーホルダー以上の物を作れるようにならなきゃね」
「一番高そうなこの攻撃を代わりに受けるこれがそれぐらいのお値段かなー」
「よく効果わかったね。でも残念。それは3500円だよ。一番高いのは交換日記セットかな。片方に書けばもう片方のノートにも字が現れるやつ」
悟と硝子はポカンとした顔でこちらを見ていた。
「……傑。今度の休暇は、俺の実家の蔵で呪具見学ツアー開いてやるよ。硝子も来いよ」
「えっ 良いのかい? 凄く興味ある」
「ウケる。常識を教えてやんな」
ということで、不要なベルとお守りと私とのスポンサー契約書を二人は引き取って帰った。
費用を全面的に援助する代わりに二人の望む物を作るという、私に有利すぎる契約である。
その次の日には、先生から呼び出しを受けた。
あのベルは上層部に提出されたらしい。
私の所属する「業界」について話が聞きたいそうだ。
マシュマロ
https://marshmallow-qa.com/lucaluca
今度からマシュマロ返信していくことにしたので、よろしくお願いします!
返信不要の場合は返信不要と書いておいてください。
こっそりな感想はこちら
https://odaibako.net/u/karin2022v
リクエスト、返信不要の匿名感想はこちらにお願いします。