異世界転生、それは子ども頃は目新しくて、いつの間にか認知されてた概念。
あー、あれね、アニメとかの、程度に言われるくらいには浸透していた。
何なら溢れかえって新鮮さなんかなかったくらいだ。
で、実際に転生したらのネタは、あーだこーだ捏ねくり回されて現実逃避のイージーな物からリアリティばかりのハードな物など幅広く扱われていた。
うん、だからね、予想は出来てなかったけど絶望は出来る。
「マルセル、ご飯よ」
「はい、ママ」
自分より年下と認知してる巨大な女を母親扱いするのには、この世界に来て2ヶ月くらいで慣れたよ。
「今日は、何?」
「お父さんが取ってきたペティンよ」
「へぇ……」
ペティン、初めて知る単語ですね。
夕飯が謎すぎて、俺は苦労した最初の頃を自然と思い出した。
自分の名前がマルセルと言うのは、この世界に来て最初に理解した物だった。
細かい情報は後々になるまで分からなかったけど、来た直後は謎の魔法陣の中心に寝かされていたのは覚えてる。
うおっ、ファンタジー!なんだコレ、ドッキリ!?
なんて、人間って突拍子もないと夢と疑うより現実だと認識してしまうんだと、俺は身を持って知ったよ。
あるいは、才能あふれる異世界転生主人公様なら当然のように夢と疑えるのかもしれない。
謎の言語が飛び交い、理解出来たり出来なかったり、後に母と判明する謎の女に抱えられてベッドに移されて看病された。
起きてるのも辛い俺はそれはもう、ずっと寝てた。
当時は分からなかったが、マルセルは熱を出して死にかけたらしい。
あぁ、よくある序盤の奴ね、異世界転生で言葉が通じるのおかしいとか慣用句が文化と合ってないとか、アンチに言わせない対策の奴。
自然に日本語に変換してるんです、現地の言葉は転生した時に学んでます、みたいなね。
……と、捻くれた大人の俺はそんなのを知った直後思ったりした。
「ペティンって鴨肉か」
まぁ、転生と言えばいいのか憑依と言えばいいのか定義が難しい、ジャンルタグ警察に言われそうな状態の俺だが、そんなイージーなことも無く、マルセルは三歳のため頭が殆ど真っ白だった。
つまり、知ってることが少ないので勉強するハメになった。
謎言語で会話してる自分の完成である。
日本語もかけるし、喋れるけど、簡単な言葉なら謎言語で可能。
なお、脳内では謎言語は日本語に変換してから理解してたりする。
今日なんかは親父が鴨を狩ってきたようだ、なるほどね。
「来たか」
食事をする専用の部屋、美術館とかで展示されてるような貴族って感じのデカいテーブルのある部屋に案内された。
で、そこにはテーブルクロスと皿に盛られた鴨肉のステーキがある。
フレンチのレストランに来たような気分になる。
そう、マルセル君はそんなテーブルで座って待ってた威厳たっぷりな髭レオンハルトの息子、貴族なのであった。
なお、奥さんは3人いて正妻のイザベラ様、家督を引き継ぐ予定のレオン様、側室のソフィアさん、政略結婚の駒マリア、親父レオンハルトを含めた家族5名が俺を迎えた。
俺は側室のルミアの子供、次男マルセルである。
「揃ったようだな。精霊の導きに感謝を」
親父の言葉に復唱する形で、俺も感謝を口にする。
精霊である、実にファンタジー。
お前ら名前に聞き覚えあるけど、どこの文化圏だよとか。
テーブルクロスとか時代設定いつだよとか。
精霊に感謝する宗教観って何なのとか。
疑問はあるけど流されるままに俺は鴨肉を食べた。
だってすぐには結論でないからね。
食事中は会話する。
しないと後で面倒なことになる。
周りには侍従の皆さん、名前は全員覚えられてないがスタンバっており、裏で色々言うネタにしてんだろうなと思う時間である。
やれ長男のレオンがどんなかと正妻がマウントを取り、ウチのマルセルもと母親がマウントを取る、一番立場の低いソフィアさんは黙っていて、マリアはキョロキョロしながら肉を食べるのに苦戦していた。
女同士の戦いに辟易していると、話を振ってくるのが親父である。
「レオンは勉学に励んでいたようだが、マルセルは何をしていたんだ」
「今日は一日魔法の訓練でした」
嘘である。
本当は本を読んでは寝てただけだ。
そりゃ俺だって魔法で無双したいが、2ヶ月もあれば才能と努力の必要な分野だって分かる。
モチベーション持続しねぇよ、してたら前世はマッチョマンだよ。
「そうなのです、ウチのマルセルは既に蔵書の殆どを読んだのですよ」
「3歳でそれはすごい、理解は難しいと思いますけども」
「イザベラ様のおっしゃる通りかと、まぁそれも基準にもよると思いますよ」
家督争いしたくないのに母親のマウント、対してヘイトスピーチ、しかしカウンターでレオン様を見ながら何と比較して判断したんですかと言外に問う舌戦が始まった。
親同士の仲が悪くて嫌になるぜ、そんなんだから親父は20にも満たない平民のソフィアさんにマリアを作るくらい入れ込んでしまったんだなと現実逃避する。
「あっ!」
「マリア!?」
で、大人の喧嘩にフルフル震えてた幼女のマリアは慣れないフォークとナイフで切った鴨肉を落としてしまう。
あーあ、貴重な肉ですが衛生や格を気にして廃棄です。
マナー的に怒られるだろうな、現に喧嘩してた母親達が同時に睨みつけてるもん。
まぁ、異世界転生を読んだことある俺は妾の子がと虐めて、ざまぁされる可能性を捨てきれないので優しくするけどね。
「立派な鴨肉だったから落としてしまったんだね。マリアには大きかったようだ。僕のを分けてあげよう、多すぎるくらいだったからね」
「そうかしら、親の躾がなってないのではなくって?」
「イザベラ様はレオン様を基準にしてるからわからないでしょうが、僕達には立派な鴨肉は大き過ぎて落とすと思いませんか?それとも、このくらいの鴨肉はありふれてると?」
「そうは言いませんが、レオンと比べるのは酷というものですわね」
およそ、3歳児がするような会話には思えないが、なんかレオンも大人とそれなりに会話出来るし大丈夫やろとフォローする。
迂遠な言い回しだが、落とすのも仕方ない大きさだね、息子さんが立派なだけ、親父の肉が貧相とでも言いたいんか、と言えば流石に黙る。
あとは粛々と夕食である。
あぁ、貴重なタンパク源が勿体ねぇ。
食事が終わったら母親の総評、反省会である。
俺には分からないが実家との関係を考慮して家督云々、ようは政治である。
これ、俺じゃなかったらマルセルは悪い影響を受けて兄貴が嫌いになるんだろうな。
まぁ、親のせいだとは分かっていても嫌なやつに変わりはないけどな。
「分かってます、ママ。口では立てていますが家督は僕が引き継ぎます」
「それでこそガイウス家の人間です」
いや、マティーナだけど。
ガイウスは隣の領地で母親の実家の名前やろうが。
名前にも命名規則みたいなのがあるの知ってるから分かるぞ。
ルミア・ガイウス・ヴィ・ホロス・マティーナって名前がどういうのか家庭教師から習ったからな。
ルミアは名前、旧姓はガイウス、何か間に挟むTheみたいなの、我が家の魔法を意味する言葉ホロス、今の姓で領地が由来のマティーナ。
ちなみに俺は、マルセル・ホロス・マティーナと短い。
これが、ころころ変わって増えたり減ったり、戦国武将並みに名前が変わるし、領地の名前と被るところもあるから、俺は歴史の授業は苦手である。
っていうか、3歳からやらないと間に合わないのかもしれんが覚えられないって、覚えてる貴族の大人なんかおらんやろ。