あらゆる可能性のある中で、平民やそれこそモンスター、果ては奴隷など色々な転生先があったけれど、貴族の次男に生まれ落ちたのは運がいいと言えるだろう。
あるいは、命の危機に陥り幸運値を上げるとかいう魔法の効果によるかもしれないが、こうして俺が憑依というか転生というかしたのは考えても仕方ないことだった。
慣れ親しんだ日本語を使ってメモを取り、この国の言葉や文字を片っ端から調べていく。
ヴィルなんたらから、みんなヴィル爺と呼ぶ60くらいの執事にあれこれ質問しては部屋に籠もっていた。
兄貴は家庭教師と勉強漬け、妾の子の妹は人形遊びという名の放置で、俺は読書。
これが農民であったら労働力としてこんなことは出来てなかった事だろう。
優先すべきは文字であったが、それはどこか英語の文法に似ていて形で混乱するが理解するのは難しくなさそうであった。
文法さえ分かれば後は単語である。
単語の形が違うのは過去形とか複数形とか進行形とかそういうのだろう。
何も娯楽がない毎日が半年も続けば、少しずつだが文字くらい覚えることは出来た。
「なるほど、ナーロッパだな」
時代考証など細かい事を誤魔化すような利点のある、不思議な世界が俺のいる場所だった。
魔法のない世界を正史としたら、魔法のせいで色々可笑しくなったそんな外伝とかIFの世界だ。
俺には縁のない、内陸部にマティーナはあった。
地図は色んなのがあるし、周りは空白に動物とか人の絵が描いてある。
これは分かってる範囲だけをまとめてるからってのもあるが、文明が未熟なんだろ。
でっかい範囲の地図、そこには大陸があって、その中にたくさんの外国とウチの国がある。
中くらいの地図には家の国の貴族の領土と王の土地である直轄領、誰のでもない未開拓地が描いてあった。
で、最後がウチの管理してる土地なのだが端っこの方は地形がバラバラ、これは隣の領地と隣接してると小競り合いで変動するかららしい、毎日が紛争だってよ。
「問題は宗教だよなぁ」
俺の所属する国はサンダルモニカ王国、その起源は精霊と人の子が虐げられた人を率いて作ったそうだ。
建国の神話が書いてある絵本に書いてあるが、多分だが精霊と契約してる魔法使い的なのが当時の奴隷階級を引き連れて、でもって精霊だらけで誰も手を付けられない土地を開拓したのが始まり。
なので日本みたいに万物に神が宿る的な、精霊が宿ってるという多神教な感じであった。
他の国じゃ一神教なとこもあるらしいけど知らん、それより聖霊教とでも言う宗教がガチで信じられてることが問題だ。
シンプルに教義が精霊に従おうって感じ。
精霊の機嫌次第じゃヤバいことが起きるから気をつけようね、みたいな。
「なので、目立つと人じゃねぇと悪魔祓い的なのがあるというね」
悪しき精霊に取り憑かれてる!とか、聖霊に対して罰当たりな!とか色々とやろうとすると宗教ガチ勢がピキッてくる事が予想される。
まぁ、近代でも無ければ宗教が強いこともあるだろう。
で、ファンタジーだからモンスターがいる。
未開拓地域にはたくさんいるし、森や山とか生存圏以外から湧いてくる。
当然魔法もある。
精霊と契約できると凄いことが出来るし、多分メガテンとかデビサバとかみたいな世界観なんだと思う。
でもって始祖の血を引く奴らは沢山いると思うけど、濃度的なのを高めて魔法使いになりやすくしたのが貴族だと思われる。
で、魔法は手順を踏めば魔力次第で何でもできるそんな世界だった。
「魔力なんてあるんかね……」
呪文を唱えれば、あるいは道具を揃えて唱えれば、杖がないとダメとかでない。
謎のルールさえ守れば、意味分からん理屈で結果が出る。
動物の内臓と呪文で火を起こしたり、草と宝石で氷が生まれたり、オカルト的に合ってれば出来るって訳である。
なお、平民がやっても出来なかったり効果が弱かったりするので、それが魔力の違いらしい。
ついでに固有の魔法というのもある。
血統魔法というらしい、継承していく魔法とでも思ってもらえばいい。
その家の得意な分野というのは血筋で決まっており、要は適正が高くなるのだ。
で、ウチは星にまつわる魔法の適性があったりする。
長男であるレオンは一子相伝の魔法を受け継いだりして、予定では親父みたいに星を落とす魔法を覚えるらしい。
つまりはメテオだ。
なんで次男にも教えないかというと神秘性が薄まり効果が弱まるかららしい、細かい魔法のルールがある訳である。
神秘とか一子相伝とか聞くと、サーヴァントとか思い付くのは俺の前世の記憶のせいだろうか。
知ってる奴はいても原理までは分からん魔法は強いとだけ思ってもらえばいい。
ちなみにだが、俺は星と召喚の適性がある。
母親であるルミアの血、ガイウス家の血統魔法が召喚する系統だからだ。
ちなみに向こうの魔法は大量の召喚獣をけしかける奴らしい。
モンスターとか精霊と、召喚獣は違うんだろうか。
少しくらいは異世界転生っぽいことをしたい、そんな願望があった訳がないとは言えないが、シンプルに食を良くしたいと思った俺は執事のヴィル爺を伴ってキッチンに来た。
用意するのは卵、お酢、塩、油である。
「マルセル様、貴族の肉体は神聖であることから」
「長い、何が言いたい?」
「あまり、下のものを困らせてはいけないということです」
急な来訪は、キッチンで働くウチのスタッフ達を恐縮させてしまったと遠回しに教えてもらった。
でも、マヨネーズ作りたいんや。
「本に書いてあったこと試したい」
「では作るのは任せてもらいますよ、良いですね」
「じゃあ見てるだけ」
ありったけの物を用意してもらったのだが、俺の説明が悪くて色んなのが出された。
卵は色んな大きさの卵、お酢は葡萄や麦から出来たやつ、塩は岩塩と藻塩、油は獣脂からオリーブオイル的なの。
「よし、全通り試そう。まず黄身だけにして、塩とお酢を入れたら混ぜる。そして油をちょっと入れる」
「生の卵を!?」
「そうだよ、よく洗えば平気だろ」
「しかし……最悪魔法で、だが……」
「魔法で何とかなるから、やろう!」
そうだった。
海外だとサルモネラがヤバいって言うもんな。
でも俺はマヨネーズ食べたい。
乳化しか俺は知らんけど。
まぜそばで卵入れたらなんかマヨネーズっぽくなるあれしか。
なお、貴重なタンパク質として白身は集めて焼いてもらう。
醤油とか味噌とかって、豆と塩で出来んだろうか。
いや、そしたら違いがあるのがおかしいか。
「おぉ、トロみが出始めたぞ」
「匂いがすごいな」
「そうか?こっちは違うぞ」
ふと思考を巡らせてたらマヨネーズが出来たらしい。
どうやら卵や油の種類で、独特の匂いがあるらしく結構なバリエーションが出来た。
焼いた白身につけて、どれがいいかスタッフに考えさせた結果、出来上がったマヨネーズは確かにマヨネーズだった。
ただ、なんか草っぽい匂いと獣臭さが混ざって何か苦味と酸味が強い。
いや美味いけどね、うん、なんか違う。
「品種改良って大事なんだな」
「これはすごいぞ!」
俺の中ではイマイチだが、割と評判は良さそうだった。
でも添加物とかないから日持ちしなさそう。
衛生には気を付けないとな。
ちなみに夕食の茹で野菜に掛かってて、普通に美味かった。