妹の言う通り、婚約者が出来た。
母親の派閥の人間を使って調べさせたら、危険な魔法を封じられたせいで基本的な魔法が使えなくなった次男を何とか結婚させようとする流れがあるらしい。
いや、俺もカード魔法は使えるのよ。
ただ、なんか魔法陣とか使って火を出したりとか簡単な魔法は使えない訳ですよ。
そういうゲッシュを誓ってしまったからね。
だから家同士の繋がりを強くするための政略結婚という訳で、隣の領地の三女と結婚させられる訳です。
お隣のトール領の三女、エレナ・トールが、この俺マルセル・マティーナの結婚相手である。
あっ、俺の名前から星の魔法を意味するホロスは没収されたよ。
お前には兄貴が死んでもウチの魔法は継がせないよっていう、可能性すらなくなったって意味だよ。
まぁ、継いだところでクソみたいなコストのカードになるだけだと思ったのだろう。
すごい不名誉な事らしくって母親が炊いてたけど、名前ごときでとシビアな発言をする妹に擦れちまったなと思った。
で、相手も名前が2つと言うことなので家の魔法を継がせる気がないって事がわかる。
隣の領地って母方のガイウス家みたいに召喚する感じではなく、肉体を強化するタイプの家らしい。
ははーん、女の子だから継がせられないとかだったのかな。
トール領の魔法は騎士の家系らしく肉弾戦こそ至高的なね。
「さて妹よ、作戦会議だ」
「あぁ、うん、慣れてきたけど人前では気を付けてよね。今はまだ目立ちたくないのよ、私」
「幼女のフリして甘えてるもんね」
「う、うるさいっ!」
さっきまでママとか言って、頭ぐりぐりしてたもんな。
でも、ウチの親父が抱きに行くタイミングで一緒に寝ようとして邪魔するのはどうかと思うよ、そのせいでウチの母親に息子に魔法を継がせないとはどういうことがキレられてたしさ。
愛人とエッチなことしようと思ったら、ヒステリックな妻に問い詰められる旦那、うーんエッチな事はいけないと思います。ほな、親父が悪いか。
さて、人払いをした部屋で作戦会議をするべく、ベッドの上で幼女とショタが座って腕組みしながら唸っていた。
で、どんな子なのよ。
「まぁ、エレナ・トールは地味で根暗で物静かで主体性のない女ね」
「すげぇ言うじゃん」
「侯爵と付き合ってからは、私そんなつもりじゃ……みたいな雰囲気出してるけど大体やって欲しい事を匂わせて、男にやらせてるタイプだと思うわ。あんまり関わりないから知らないけど」
「すげぇ、それって偏見じゃん」
俺の妹、素で性格悪くて死刑になってない?
やめてよ、巻き込まないでよ。
俺はカードやって、不労所得で生活したいだけなんだけど。
「聞いてる限りだと悪女っぽい、もしくは隠れた才能があるタイプ」
「勘がいいわね、あの女の特技は自分じゃなくて他人に対しての肉体再生能力の強化よ。それで死にかけの侯爵を落としたことは社交界じゃ有名だったわ。そんなことも気付けなかったと、ウチもトール家も馬鹿にされてたわ」
「今までの私怨じゃん」
あー、はいはい、追放系ね。
もう遅いって奴、あるあるだよね。
文学少女的な子が婚約者ってことね、把握した。
あと、妹の知識が役に立たないのも分かったよ。
「でも安心しなさい。既に知ってる私達はリードしてるわ!後はアンタが仲良く出来れば問題ないわ!」
「まぁ政略結婚だしね……」
「過去のアンタは、悪評立つくらい冷遇してたからね」
「マ?気を付けよ」
昔の……というか未来の俺ってどんな奴だよ。
すげぇ三下ムーブしかしてね?絶対デブで性格悪い悪徳貴族みたいな奴だよ。
若いうちからマッチョ目指せ。
さて、挨拶は王都の別邸で行われる事になった。
一応同じ国だけど利権で争うこともあるから仮想敵の領地に行くというのは、余程の信頼がないと成立しないのだ。
あと、王様の領地でもある国の首都でトラブルとか起こすなよという暗黙のルールがあるので、基本的に交渉とか挨拶は王都でするのが習わしであるそうだ。
1日目はウチ、2日目は相手の別邸でパーティーの予定だ。
パーティーはホストの我が家と、呼ばれたトール家の人間。
別邸周辺の伯爵家以下の貴族、関わってる商人が呼ばれた。
やってることは、近所の後輩達集めて店の人と飲みながら婚約発表みたいな感じだ。
伯爵家以下の奴らなので、呼ばれたら余程のことがない限り行かないといけない。
商人だってお得意様だから参加しろよって言われたら強制である。
そう考えると、貴族ってヤンキーだろ。
「この度は招いて頂き、マティーナ卿に感謝を……我が領にも御子息の仲が良いことは聞こえておりますぞ!」
「おぉ!よく来てくれたトール卿!なんの、御息女の博愛さに比べたら到らぬ点ばかりです」
へぇ、他の領だと兄弟仲が良いって伝わってるのか。
俺、今、避けられてるんだけどね。
あと、博愛って何だよ。優しそうってこと?
親父達の会話を聞いてたら妹が小突いてきた。
何、耳貸せばいいの?
少し屈んで耳を近付けたら妹が囁いてくる。
「分かってないと思うけど、馬鹿にされてるからね」
「そうなの?」
妹の翻訳だと、お前のところで御家騒動あったらしいの隠せてねぇよと言われ、お前のとこの娘が武家なのに戦えないのに比べたら大したことねぇんだよ、的な意味合いで言われてたらしい。
ホントかよ、邪推してない?もっと素直に聞き入れたほうがいいと思うよ。
さて、そんなトール卿の足元にいる幼女が俺の婚約者なのだろう。
ピンクのドレスにツインテール、赤味がかった茶髪の幼女、染めてる訳ないから地毛なんだろうな。
そんな幼女が俺を見てはサッと父親の足に隠れる。
で、チラッと見ては隠れるを繰り返している。
人見知りか?
「これ!堂々とせんか!」
「ひゃい!」
俺の視線に気付いたのか、向こうのトール卿がブチギレた。
トール卿はマッチョで短髪で軍人らしい鋭い顔で正直怖い。
まんまガイルだもん、絶対待ち構えてソニックブーム打ってきそう。
顔が四角い、ウチの親父の方がライオンならこっちはゴリラだよ。
「エ、エレナ、トールで、ですぅ……」
「星の大家、レオンハルト・ベルグ・ドン・ホロス・マティーナの次子、マルセル・マティーナがエレナ・トール殿に挨拶申し上げます。今宵、素敵なレディとの出会い、精霊の導きに感謝を」
「…………」
「…………」
パーティ会場が一瞬静まり返った。
あっ、なんかまずいことした!空気が、なんかヤバい!
可笑しいなぁ、ちゃんと挨拶したのにな。
「う、ううむ。随分と聡明な……聡明であるな」
「家督は長子と決まっております故、この子には苦労を掛けます」
トール卿は苦々しそうに、親父は胸を張ってドヤ顔であった。
なんか大丈夫そうだな。
「……やり過ぎ」
小声で妹から小言を言われた。
後は若い二人でみたいな感じで、互いの護衛を連れて別邸の庭に来た。 互いに暗器を持ってるし、発言一つが政治的な意味合いがあるらしいから気を付けろと妹に言われている。
うわ、貴族って面倒クセェよ。
後、やっぱり将来はデブになるらしいので食べ過ぎにも気を付けるように言われた。
「…………」
「…………」
さて、困った。
余計な事を言うなと言われたから会話待ちだったのだが、奇しくも同じ構え。
お互いに相手が会話し始めるのを待っている。
陰キャ同士の戦いが始まってしまった。
「良い天気ですね」
「そう、ですね。曇りは、涼しい気が、します」
「…………」
「…………」
はい、終了!
天気デッキ弱い!デッキ構成見直さなきゃ!
3歳か4歳ってさ、もっと馬鹿なんじゃないの?
感情のままに生きろよ、会話出来ねぇよ。
「その」
「はい、なんですか?」
「マルセル様は……私のこと、どうですか?」
「大人しそうだなとしか、仲良くしたいです」
「えっ……えへっ」
急に聞かれたから素直に答えたら、この日初めて笑ってくれた。
うーん、落ちたか?俺ってばモテるんだろうか。