幻想滅失録   作:メイア・カルテシア

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最近、暑くなってきましたね……
ちなみに、私は冬派です


転移の行く末

「──ッ⁉」

すぐさま後ろに下がろうとしたその瞬間、シフに腕を掴まれた。

 

 

 

 

 

 

「は……?」

 

次の瞬間目にしたのは、広く青い空──

 

一瞬、思考が止まる。

 

何が起こったのか、情報を整理しようとする間もなく視界が大きく回転する。

 

 

回転した先にあったのは広大な自然の姿──

 

 

その景色はどこか見覚えがあった。

 

 

今見ているその景色はまるで空を飛んでいる時(・・・・・・・・)のようで──

 

「──っ」

そこで理解した。

今置かれているこの状況を──

 

 

すぐさま自身の体を浮かし、落下を止める。

 

地面へと落ちていっていた体は空中で止まった。

 

 

「ここは……?」

周囲の風景を見て今の位置を確かめるが、目印となる建物などもなかった。

「くそっ……」と、魔理沙はしてやられたと言うように呟き、あの場所を目指して、勘を頼りに空を飛んでいく。

 

 

 

 

────────

 

 

「グッ……ガッ……ァ……」

苦しそうに呻く鳴き声が響く。

やがてそれは静かになっていき、息途絶えた。

 

 

魔理沙の姿が消えた次の瞬間、シフの手にあったのは一羽の鳥の姿。

 

シフは息絶えたその鳥を無造作に投げ捨て、鼻血を手で擦り取りながら彩乃の方を向く。

 

 

「これで振り出しだな」

シフは彩乃へとそう告げる。

 

 

「振り出し…?もう忘れたのか?最初っからお前が優位に立ったことはないだろ」

「同じようにいくと思うな。あの巫女を殺す前にまずお前から殺してやる」

シフは彩乃に指を差して、そう宣言する。

 

 

 

(恐らくこいつはまだ何か隠している)

(一人ずつ始末するにしても不確定要素のあるこいつを後に回すことはできない)

 

(まだ余力のある内に殺すしかない)

 

 

まだ余力のある今の内に不安要素(彩乃)を倒し、残った分で巫女(魔理沙)を仕留める。シフはそう考えた。

 

 

 

シフは彩乃へ木の枝を投げ、それを木と入れ替える。

彩乃はそれを避け、シフへ弾幕を放つ。

 

(まずやるべきは──)

弾幕を避け、シフは彩乃の頭上へ土を投げて包丁と入れ替える。

 

彩乃は後ろに下がってそれを避ける。

 

 

 

(──奴の能力を炙る!!)

 

 

 

シフは彩乃の周りに弾幕を放って退路を絶ち、彩乃へ向けて木の枝を投げて、それを岩と入れ替える。

加えて、念のため先程入れ替えた岩に続けて、もう一つ岩を追加する。

 

 

しかし、彩乃は飛んでくる岩に弾幕を当てて砕き、続けてそれの後ろにあったもう一つの岩をシフに向けて蹴り返す。

 

 

シフは飛んでくる岩を避け、彩乃の方を向くと、手が自身の眼前に迫っていた。

頭を掴もうとする手、それはやけに遅く見えた。

 

 

 

それと同時にかつてない程の『死の気配』を感じた。

死神が背筋を撫でて、こちらに来ることを待っているようなゾッとする感覚が──

死、そのものが自身の体に纏わり付いているような寒気のする感覚が──

 

 

一秒にも一瞬にも満たないであろうゆっくり進む時間の中、自身の直感は『明確な死』の予感を告げた。

 

 

 

シフは反射的に近くを飛んでた自身の弾幕と入れ替わり、それを避けた。

 

「はぁ……はぁ……」

避けられたことへの安堵か、先程の感覚への動揺か、シフの息は乱れ、少し汗をかいていた。

 

 

その時できた一瞬の隙、その間に彩乃はシフとの距離を詰め、攻撃する。

 

「──っ⁉」

シフはそれに反応できなかった。

 

 

 

 

「ゴフッ……ガハッ……」

次に、シフは血を吐き出した。

シフ自身も何が起きたのかはわからなかった。

 

だが次第に痛みが伝わってきた。

ジワジワと、焼けるような、突き刺すような、そんな痛みが……

 

 

痛みの発生源──

 

それは頭部……その下側──

 

口の辺り……どちらかと言えば、顎……

 

 

「──ッ」

シフはそれ(・・)に気づいた。

 

 

 

自身の下顎と喉の間に突き刺さっている何かに。

 

 

(ナイフ……?)

 

自身の眼前に居る者が突き刺しているのはナイフのような刃物。

 

自身が投げた物とは違うナイフ。

(隠し持っていた……⁉)

 

 

彩乃はシフからナイフを抜き、シフの体を蹴り飛ばす。

 

「グッ……ガッ……」

言葉は出ない。

先程の一撃で舌もやられた。

 

 

彩乃は追撃を与えようと再びシフへ接近する。

彩乃が攻撃する直前、シフは彩乃から離れた位置にある木と入れ替わる。

 

彩乃の攻撃は木にあたり、辺りに大きな音を響かせた。

 

 

 

 

彩乃は姿を消したシフを探してキョロキョロと周りを見渡すと、一つの人影が見えた。

 

 

 

そこに居たのは、先程まで戦っていた者と同じくらいの年齢に見える外見の少年(・・)

 

「はぁ……まさかこれを使うことになるとは……」

 

先程とは違う見た目、別人としか言えないものの彩乃はその者の正体がわかっていた。

 

「へぇ、体を変えたか……」

「予備を残しておいてよかったよ。……いや、それよりも何なんだお前……?」

シフは、彩乃に理解できないものを見るような目を向ける。

 

 

「仮にも体は人里の人間──それも子供のはずなのに……それをお前は……人としてどうなんだ?」

彩乃は「お前が言うのか」と言いたげな顔でその話を聞く。

 

 

「この体だってそうだ……」

「この体にも帰りを待つ家族とやらがいるというのに…どうせお前はそんなこと関係なしに攻撃するんだろう?」

 

「私を傷つけるというのは、その子供を傷つけるということだぞ……?」

「いいのか?私を殺せば、それはつまり──」

 

 

その瞬間、彩乃は容赦なくシフに拳を振るった。

 

「だからなんだ?それがどうした?」

「──諭しているつもりか?」

 

次に彩乃はシフの腹を蹴る。

 

「子供の体?そんなことはわかっている」

 

彩乃はナイフでシフの顔を切りつける。

 

「何故?どうして容赦なく傷つけられる?」

「──何とも思わないのか……?」

シフは震えた声でそう聞く。

 

 

「うん、だってその子供(そいつ)のこと知らないもん」

 

 

「は……?」

 

 

初めてだった。

今まで通じた動揺を誘う作戦がそんな理由で通じなかったのは──

使命や覚悟、救済のためでも何でもなくただただ私情としか言いようがない理由。

 

 

こいつは他の人間とは違う。

シフはそう確信した。

 

 

再び彩乃がシフへ接近する。

その瞬間、シフは弾幕で地面を吹き飛ばし、巻き上がった土を弾幕と入れ替え、彩乃を囲む。

 

(こいつはここで殺す。後のことは考えるな。全力でこいつを殺すことに集中しろ!!)

 

彩乃の周りを漂う弾幕は彩乃のとの距離を詰め、今にも炸裂せんとしていた。

 

彩乃との距離が無いに等しくなったその刹那、弾幕はその姿を消した。

 

「──⁉」

困惑──

シフが抱いたのはただそれだけ。

 

先程まで確実にあったはずのものが一瞬にしてその姿を消したことへの困惑。

 

(何が……?)

シフは頭を回転させ、あらゆる可能性を考える。

 

「まさか……」

やがてその結論にたどり着く。

 

「──能力……」

奴が持つ能力、それは数ある中で一番濃い可能性。

(一瞬能力を持っていないのでは、とも思ったが……)

(──隠していたか……それとも……)

 

(どちらにせよ、奴は能力を持っている。これがわかっただけでも進展だろう)

シフは能力を警戒する。

あの能力は嫌な予感がするとシフは感じていた。

 

 

(さて、どうしようか……)

今しがた、能力を使った。

あまり使うつもりはなかったのだが……

思ったよりも奴がしぶとかったから……

 

しかし、能力を使った今、あいつが能力を警戒するのは明白だ。

 

(さっさと決着をつけるか……)

彩乃がたどり着いた結論は早期決着だった。

 

シフは距離を取り、木の枝を投げ、それを木と入れ替える。

(奴の能力がわからない状況で距離を詰める訳にはいかない……)

 

(ならば、距離を保ちながら攻撃を続け──)

シフは再び見た。

彩乃が能力を使った、その瞬間を──

 

 

────────

 

 

入れ替わった木は勢いよく彩乃へと向かっていった。

その木が彩乃へぶつかる直前──彩乃は飛んでくる木に向かって片手を伸ばした。

 

そして、次の瞬間木のあった場所に木の枝(・・・)が現れた。

 

 

────────

 

 

「ん?ああ……そう……戻ってくるんだ(・・・・・・・)……」

彩乃は現れた木の枝を見てそう呟いた。

 

 

「?」

 

シフは弾幕を放ち、その内の彩乃の後ろへ行った弾幕と入れ替わる。

入れ替わった後、すぐさま彩乃へと弾幕を放つ。

 

しかし、それを彩乃は弾幕で相殺する。

彩乃は爆風の中を突っ切り、シフのもとへ行く。

 

シフはすぐに自身の弾幕と入れ替わり、それを炸裂させる。

しかし、爆破した直後にその弾幕は姿を消した。

 

空中にいる彩乃へまた同じように木の枝を投げ、木と入れ替える。

 

それに対し彩乃は木に向かって片手を伸ばし、次の瞬間には彩乃の手元には木の枝があった。

 

 

「………」

シフは彩乃を注視する。

(戻る……入れ替えが戻された?)

 

(いや、違う。そんなものじゃない……もっと違う……何か……)

(もっとおぞましい何か……)

 

 

『戻ってくるんだ……』

ふと思い出したのは先程のその発言。

(…あれは意図したものじゃない……?)

 

 

 

シフは考える。

今までのことから、相手の能力を──

 

(──ああ、そういう……)

シフの口角が自然と上がった。

 

「……?どうした?とうとう頭がおかしくなったか?」

それを見た彩乃はそう言った。

 

「舐めやがってクソ人間」

「……気づいたところでどうにもならないでしょ」

 

シフは弾幕を放ち、それを木と入れ替える。

しかし、彩乃は木と木の間を潜り抜け、シフへと接近する。

「引っ掛かる訳ないだろ」

彩乃はシフを蹴り飛ばし、シフは吹き飛ばされながら彩乃へ弾幕を放つ。

 

彩乃はそれをかわしながら進み、シフは弾幕の一つを木と入れ替える。

彩乃が飛んできた木に触れるとそこに木の枝が現れる。

(──やはり……ならばここは耐えるまで……)

 

 

(お前も気づいているだろうがな……)

 

シフはその場に立ち止まり、彩乃へ弾幕を放つ。

 

弾幕を掻い潜り彩乃が接近したタイミングでシフは後ろへ飛ぶ。

彩乃はシフへ手を伸ばす。

その手には魔力が込められていた。

 

(そうだろ?もう終わらせたいんだろ?)

(そうだ、能力(それ)を使われたら、私は終わる)

(だがそれはこのまま喰らった場合のみ)

 

 

(だが、この場には奴がいる。戻って来たんだろ?)

 

「霊砲──」

その時、シフの背後に人影が現れる。

 

それは赤い巫女服の少女──博麗魔理沙。

彼女は手に持つ魔道具に力を溜め、背後からシフへ放とうとしている。

 

 

「思い上がるなよ、人間」

 

彩乃の手が迫る。

 

それはシフの顔に触れようとしていた。

 

 

(私は既に触れている(・・・・・)──)

 

 

その瞬間、シフは魔理沙と入れ替わる。

 

 

彩乃の手は突然現れた魔理沙に触れた。

 

 

(終わりだ──)

 

例え巫女と入れ替わったことに気づいて発動を止めたとしても、その巫女がお前を焼き払う。

そうなりたくなければお前は能力を使うしかない。

だが、そうすれば巫女は──

 

 

 

一秒にも満たない時間が流れた時、シフの目の前には彩乃がいた。

「──っ!」

彩乃はポンッ、とシフを押し出し、その場から離れる。

 

シフが背後に視線を向けるとそこには巫女がいた(・・・・・)

 

「──は……?」

「──マスタースパーク!!!!」

 

 

何が起こったのかを理解する間もなく、巫女から放たれたその光にシフは直撃する。

 

 

「ア"ア"ァアアアアッッ!!!!」

 

 

『霊砲「マスタースパーク」』

それは悪しき妖魔を焼き尽くす光の奔流。

『魔砲』とは違い霊力を主として構成され、妖怪や怨霊といった相手を目的として作られた技。

それは、妖怪であるシフにとって致命的な技であった。

 

 

熱い、焼ける、体が……

 

そのレーザーはシフを焦がしながら、森の中を突き進む。

 

体が……魂が……

 

木をなぎ倒し、地をえぐり進んで行く。

 

ここで……おわる……

 

人間に……負ける……?

 

 

なんで……?

 

 

なんで……?

 

 

 

私が……?

 

 

 

どうして……?

 

 

 

どうしてこんなことに……?

 

 

 

 

何でこんな目に合わないといけない……?

 

 

 

 

そうだ……愛だって……まだ……知らない……

 

 

 

 

何であいつらは……私に愛を与えないんだ……?

 

 

 

 

なぜ……?

 

 

 

 

どうして……?

 

 

 

 

いや……そうか……

 

 

 

 

お前らだろ……

 

 

 

 

お前らのせいだろ……

 

 

 

 

お前ら人間が……私を……

 

 

 

 

ふざけるな……

 

 

 

 

ふざけるな……

 

 

 

 

殺してやる……

 

 

 

 

殺してやる……

 

 

 

 

私を見下しやがって……

 

 

 

 

お前ら全員……

 

 

 

 

皆殺しにして……

 

 

 

 

熱い……痛い……なんで……?

 

 

 

 

死ぬのか……?

 

 

 

 

私が……?

 

 

 

 

何で……?

 

 

 

 

いやだ……まだ……まだ終わって……

 

 

 

 

まだ……

 

 

 

 

 

まだ……

 

 

 

 

 

 

まだ……

 

 

 

 

 

 

 

マダ……

 

 

 

 

 

 

 

 

マ……

 

 

 

 

 

 

 

レーザーは十数メートル進んだところで止まった。

 

レーザーが通った跡にあるのは削れた地面、倒れた木──そして黒く焦げた死体。

 

硝煙と血の焼けた臭いが漂ってくる。

 

魔理沙は辺りの気配を探り、彩乃は焼けた死体に近づく。

 

 

屈んでその死体を見る。

「……」

息はない。

 

心臓は──そもそもその部分が消し飛んでいる。

 

生きている気配はない。

 

何も感じない、ただの肉塊。

 

「……あっけないね」

ポツリとそう呟いた。

 

「それにしても、よかったよ」

「──たいして疑いもせずに鵜呑みにしてさ」

 

 

もう聞こえていないであろう耳に囁く。

 

「お前がガキで助かったよ」

 

彩乃は立ち上がり、再びその死体の全貌を見る。

 

「ま、念のため──」

彩乃は弾幕でその死体を完全に消し飛ばす。

 

 

こちらに歩いてくる音が聞こえてくる。

「どうだった?」

そちらを向き、そう聞く。

 

「ここらでシフの気配はしなかった」

 

「どっか遠くに逃げたかもしれねぇが……まあ、それはないだろ。ちゃんと手応えあったし」

「──多分、終わった」

 

「……そうか」

 

彩乃は魔理沙のもとへ行く。

 

「彩乃、お疲れ」

「……?」

魔理沙は片手を出して、いかにもハイタッチしようというような感じでいる。

 

 

 

彩乃はぎこちなくも、その手を叩いた。




戦いというのは、意外とあっさり終わってしまうものだ……
感想、コメント等お待ちしてます。
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