「お!いたいた」
魔理沙は何かを見つけると、それへと走っていった。
「?」
そこにいたのは眠っている少女。
だが、その少女にはどこか見覚えがあった。
「お前の方へ向かっている時に見つけたんだよ。余程のことがあったのか、気絶してたけどな」
「……」
そういえば、最初シフを見つけた時、もう一人誰かいたような気がする。
戦いで忘れてたような……気のせいかな?
魔理沙はその少女を肩に担いで立ち上がる。
「とりあえず、人里に戻ろうぜ」
「……それはどうするの?」
彩乃は子供の方を見て聞いた。
「一応医者にでも見てもらって、何もなかったら家まで送り届ける」
「家は知っているのか?」
「いや、知らん」
魔理沙は即答した。
「だから探す。なるべく早く見つかったらいいんだけどな……」
そう言って歩き出す魔理沙の姿は、どこかしみじみとした雰囲気のようにも感じた。
彩乃は魔理沙を追うように歩き出した。
◆◇◆◇
「……ありがとう、巫女さん」
「ん?ここでいいのか?」
時刻は日の落ち行く夕暮れ。
あの後、病院にて少女を診てもらったのだが、たいした怪我もなく、かすり傷程度だったため、少し治療してもらってすぐに帰ることになった。
目を覚ました少女に付き添って、魔理沙と一緒に家まで送り届けていたところ、家が近いのか、分かれ道となっている道の前でそう言われた。
「うん、もう家も近いから……」
「……無理しなくていいんだぜ。あんな怖い目にあったんだ。別に、私たちは迷惑とか思ってないからさ……一緒に居てほしいならそう言っていいんだぜ?」
魔理沙は屈んで少女と目線を合わせ、やさしく微笑みながら言った。
「っ……」
少女は一瞬何かを言おうとしたが、それが声として口から出る前に少女は口を閉じた。
「…だい…じょうぶ……です……」
少女は俯き、途切れ途切れにそう言った。
「……そうか…わかった……」
魔理沙は少し考えた後、そう答えた。
そのまま少女と別れを告げ、少女は一人歩いて帰っていった。
「いいのか?」
「……ああ、下手に干渉しすぎるのもよくないからな……」
「あいつはまだ、怖いんだろ……そこまで酷いものじゃなさそうなのが幸いだったが……」
「あの年だ……あんなことがあったら、誰も信じられなくなってもおかしくない」
少女を家に送る前、少女にいろいろと聞いていた。
何があったのか、何かされていないかなどの簡単な事情聴取。
少女は時折体を震わせていたが最後まで話してくれた。
曰く、一人泣いている少女が居たという。
気になった彼女はその子に話しかけた。
その少女は『友達に仲間外れにされた』と言った。
それを不憫に思った彼女は代わりにその少女と遊んであげていた。
その最中に『綺麗な花畑を知っている』と少女が言い、自分にも見せてあげたいとせがまれ、仕方なくその花畑へ行くことにしたらしい。
だが、近いと言われたのにいつまでも着かないことが不安に思った彼女は迷子になる前に帰ろうとしたらしい。
しかし、少女はそれをさせてはくれなかった。
彼女は少女に騙された。
花畑に案内するという話も、すぐ近くにあるという話も、友達に仲間外れにされたという話でさえ、全てが嘘だった。
彼女の善意はただただその少女に弄ばれていただけだった。
纏めるとこんな話だった。医者も外傷よりも精神的な傷の方がひどいであろうと言っていた。
「トラウマになってる可能性もある。下手にそれを刺激したくはない」
魔理沙の顔は満足気ではなく、仕方のないことだと言い聞かせているようだった。
「……帰るか」
魔理沙はそう言って、少女の歩いて行った方向とは逆、来た道を戻って行った。
「……」
────────
怖い
すごく怖い
人というものが─いや、自分以外の他人が怖い。
それが何を考えているのか、私に何をしようとしているのかわからなくなった。
巫女さんも、私を助けに来てくれたあの人も、みんな怖い。
町行く人も、お医者さんも、みんな怖い。
何を考えているの?私に何をしようとしてるの?
みんな怖い。
みんなが得体の知れない怪物のように見える。
またあの時のように信じてしまったら、殺されてしまう。
みんな私を騙そうとしている。
みんな私を殺そうとしている。
怖い、怖い、怖い
何で?何で?
私に何もしないってわかってるのに、騙そうとなんてしてないってわかってるのに……何で?
何でみんな、こんなに怖いの?
ああ、帰りたくない。
帰ってもそこに居るのは安心できる家族じゃない。
そこに居るのは私を騙そうとするナニカ。
考えただけでも怖い
思い出しただけでも怖い
嫌だ……帰りたくない……
いっそのこと、このままどこかへ消えてしまいたい。
ゆっくりと、重い足取りで家まで歩いて行く。
「ねえ」
その時、後ろから声をかけられた。
一瞬体がビクッとしたが、すぐに息を吸って落ち着かせ平静を装う。
恐る恐る後ろを振り返り、声の主を見る。
「?」
何の用だろう?何をしに来たんだろう?
私が何かしてしまったのだろうか?
不安だけが自身の内に溜まっていく。
その人はこちらへ近づき、屈んで私のことを見る。
呼吸が速くなる。
ダメ、落ち着いて……怖くないから……
「な、何ですか……?」
すると突然、その人は人差し指を私の額に当てる。
その人に何かを言われた後、急にデコピンされた。
「イタッ……」
少女は額を擦りながら、目の前の人を向く。
少女はキョトンとした顔でその人を見る。
「──お姉さん、誰?」
「……何でもないよ」
そう言って、その人はその場から立ち去って行く。
「?」
訳がわからないし釈然としないが、早く帰らないと怒られちゃう。
私は早足で家へ帰って行った。
そういえば私、今日何をしてたんだろう?
────────
「どこ行ってたんだ?」
魔理沙のところへ行くとそう言われた。
「何でもない」
魔理沙は「ふーん」と言って、ただ興味がないのか、怪しいとでも思っているのかわからない顔をしていた。
「まあ、いいや」
そう言って魔理沙は人里の外へと歩いて行く。
「……そういえば、何であの場所に来れたんだ?そこそこ離れてただろ?」
あの場所──シフと戦った場所に来れたことについて、魔理沙に聞く。
魔理沙はチラッとこちらを見た後、答え始めた。
「──里の人が遠くから爆発音みたいな大きな音が聞こえる、って私に伝えに来てな……でも、その方向はお前の管轄だったし、別に行かなくてもいいかなとは思ったんだがな……でもまあ、一応、博麗の巫女としては確認しておいたほうがいいと思ったから行ってみたんだ」
博麗の巫女としては迷わず行った方がいいとは思うが、まあいいだろう。
「そしたら案の定、戦ってるような音が聞こえてきたし、妖力も感じたし……ってことで、音の出所へ向かってる内にあの子供を見つけて、安全な場所に隠した後、お前たちを見つけたって感じだ」
彩乃は「ふーん」と先程のお返しというような感じで言った。
「……そういえばお前、ナイフなんて持ってたんだな」
恐らく魔理沙が言っているのはシフとの戦いで少しだけ使ったナイフだろう。
まあ、隠す必要はないか……
「──買った」
「いつ?」
「五日前」
「………私があげた小遣いか⁉」
「うん」
「な、何でナイフ買ったんだ?」
「いつか使えるかなって」
まあ、こんなすぐに来るとは思わなかったが。
そんなたわいもない雑談をしながら神社へと帰って行った。
その後、神社に帰ると咲夜が居て、異変解決を祝ってのディナーを紅魔館でご馳走になったのはまた別のお話。
この世界に来てからというもの、色々なことがあった。
いきなり妖怪に襲われて、博麗魔理沙という巫女に会って、シフという妖怪を倒して……
この世界は元居た世界とは色々なことが違っていた。
人も、妖怪も、何もかもが……
きっと、しばらくは退屈しないだろう。
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眼前に広がる自然の夜景を眺め、その者を待つ。
すると、背後からこちらへ近づいてくる足音が聞こえてきた。
────
その者は崖とも言えるような場所に腰掛け、その幻想的な風景を眺めていた。
その眺めている姿もその自然のせいか、どこか幻想的で美しくもあるように思える。
華奢というか、細身というか、一見するとただの少女としか思えないような彼女と彼女の眺めている自然によってこの場は神秘的な空気に満ちているように感じる。
「──どこに行ってたんだ?」
彼女はこちらを見ずにそう言った。
「周リにダレモイナイか確認シテイタダケヨ」
「……で、何の用?」
彼女はこちらを振り向いてそう聞く。
その瞬間、この場の空気がガラッと変わったような気がした。
おぞましい
彼女を一言で表すとするならば、それが近いだろう。
その顔は可愛らしいとも綺麗とも言えようなただの少女。
しかし、感じられる
それは言葉にできないような悪意か、殺意か、それを決めることはできない。
両方と言えるかもしれないし、どちらとも違うと言えるかもしれない。
しかし一つだけ言えるもの、それが『おぞましい』
これを感じられぬ者にとっては何を言っているのかわからないかもしれないが……
感じられる者にとっては近寄りたくない気配。
彼女に故意に近付こうという者なんて、何もわかっていない愚か者か、少し変わった奴だけだろう。
「怒ッテイルのカシラ?」
一言、そう聞く。
「?」
どうやらそういう訳ではないようだ。
まあ、分かっていたけど……
「……ソノ圧、収メテクレナイカシラ?少シ緊張シチャウジャナイ」
「……」
そう言うと、彼女は大人しく引っ込めてくれた。
「警戒シテタノカシラ?」
「お前に対して警戒するに越したことはない」
そうはっきり言われると傷つくじゃない……
ともかく、ようやく落ち着いた。
あのままだったらストレスで老けちゃうところだったわ。
あの圧を出していなかったら、ただの可愛い少女で済むのにね……
「デ、決メテクレタカシラ?」
「?」
彼女は何の事やらというような顔をしている。
「異変ノ解決。ソノ手伝イの話」
八雲紫は少しはマシになったものの、依然として若干聞きづらくはある声で話す。
彼女は少し考えた後、答えを出した。
「……お前とはあまり関わりたくはないし、指図も受けたくない。だから、好きなようにさせてもらう」
「ヘェ……ソウ……まあイイワ」
その回答を意外なものと思ったのか、思った通りのものだったのか、どちらとも取れるような感じで紫は言った。
どう答えようとも……あなたが異変と関わるのであれば、私はどちらでもいい。
「ナラ、好キにシナサイ」
「……いいのか?」
彼女にはその回答は意外なものだったらしい。
「アナタはソウシタイのデショウ?ナラ、ワタシはアナタを尊重スルワ」
「………」
彼女は疑いの目を向ける。
まあ、当然か……
「ソレト、近イウチに忙シクナルと思ウワ。ソレマデにシッカリ休ンデオキナサイ……」
そう告げ、紫はその場から去って行った。
この小説ついに、終わりを迎えました。
ええ、そうです…
この小説は……
第一章を終えることになりました。
まさか、ここまで続いているとは思いませんでした。
ですので、ここまで読んでくださっている皆様方、改めて本当にありがとうございます。
まだまだ頑張っていこうと思ってます。
それでは最後に……
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