彩乃がこの世界に来る前の話となっております。
なので彩乃は出ません。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
な、何でこんなことに……
自身の背後から木がへし折られる音が聞こえてくる。
その音は先程よりも近くから聞こえてくる。
何なのここ……?ここが本当の地獄なの……?
いきなりヤバイ化物に追われるし……
人だと思ったのに……
死にたくない……死にたくないよぉ……
手足を必死に動かして、ひたすらに走る。
背後から自分のことを追いかけて来ているそれの雄叫びが聞こえる。
やばい……近い……
チラッと背後を見るとそれの姿が見え、さらに目が合った。
「うわああぁぁぁ!!!!」
私は思わずそう叫んでいた。
だ、誰でもいいから助けて──
そんなことを思った時だった。
「えっ──?」
気づいた時には、私の体は誰かに抱き抱えられていた。
────────
ほんの少し前──
彩乃と魔理沙は聞こえてきたその声の方を見ていた。
「……彩乃、行くぞ」
魔理沙は少し考えた後、すぐにそう言った。
それに対して彩乃は、一人で行けば?と言っているような目で魔理沙を見ている。
「……今日の飯のおかず多くしてやるから──」
「仕方ないなぁ……」
渋々彩乃はついていくことにした。
────────
魔理沙は追いかけられている少女を抱き抱えて、追いかけているそれと距離をとる。
彩乃は少女を追いかけているそれに蹴りを入れて吹き飛ばす。
「逃げるぞ、彩乃!!」
魔理沙はそう言って、この場から離脱する。
その言葉を聞いた彩乃もすぐにその場から離れた。
◆◇◆◇
「……ここまで来れば大丈夫か」
少女を連れて、魔理沙と彩乃はあの場所から離れた人里に近い比較的浅い森の中の道の上にいた。
魔理沙は脇に抱えていた少女をそっと地面に降ろす。
「あ、ありがとうございます」
少女はそうお礼を言った。
「怪我はないか?」と魔理沙が聞くと、少女は「怪我はないです」と答えた。
「まったく……一人であんなとこに行っちゃダメだろ?」
魔理沙はそう言って少女に注意する。
「い、いや……その……」
それに対し少女は何か言いたげだった。
しかし、魔理沙が少女の顔をじっと見ると、少女は若干震えながら「ごめんなさい」と謝った。
「よろしい」と謝った少女に魔理沙は言った。
次に魔理沙は彩乃を見る。
「そういや、さっきの奴は何だったんだ?」
「ん?えーっと……ルーミア……?だったか?」
彩乃は先程のことを思い出しながら答える。
あの見た目の奴は見たことあるし間違いはないだろう。
「そうか……」
「で、お前何であんなとこにいたんだ?」
魔理沙は再び少女に向き直って聞く。
「……それは──」
少女が訳を言おうとした時だった。
グーッと少女のお腹が鳴った。
「あ……えっと……」
少女は気まずそうに顔を赤らめた。
◆◇◆◇
「本っ当に、ありがとうございますぅ……」
人里にて、傘が再び戻ってきた小傘は泣きながら感謝の言葉を述べていた。
「ああ……死ぬかと思った~~!!」
小傘は魔理沙の足にしがみついてそう言う。
「は、離れろよ……」
その様子に魔理沙は若干引きながら言う。
「だって消えるかも、なんて脅すから……」
「脅してねぇよ……」
「……」
この場でその様子を眺める者の中に一人、気まずそうに佇んでいる者がいた。
「あ、あの……」
その者は近くに居る彩乃に声をかける。
「何ですか……これ……」
少女は見知らぬ者が泣いて感謝している光景を見せられて困惑していた。
◆◇◆◇
「い、いいんですか……?これ……」
小傘に傘を届け終えた後、少女を連れて来たのは人里にある飲食店。
そこでご飯を食べることになったのだが、少女は一円も持っていなかったため、魔理沙が少女の分を含めて会計してくれることになった。
「その分、話を聞かせてくれよ?」
────────
「──ごちそうさまでした」
食事を食べ終えた少女は手を合わせてそう言った。
先に少女の腹を満たして、話を聞ける場を整えて話を始める。
「──で、何であんなとこに居たんだ……の前に、まだ名前を聞いてなかったな……」
「そういえばそうですね……」
そうして、話の前にまず自己紹介を始めた。
「私は博麗魔理沙──見ての通り、巫女をやってる」
次に魔理沙は彩乃を指差す。
「こいつは彩乃──居候だ」
「……白月彩乃」
彩乃は付け加えるようにそう言った。
(居候は否定しないんだ……)
少女は心の中でそう思った。
「魔理沙さんに彩乃さん……改めて、危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
少女は頭を下げてお礼の言葉を言う。
少女は姿勢を整え、二人に向き直る。
短い金色の髪におしゃれな洋服を着た、青い目の小さな少女は軽く頭を下げて名乗る。
「私は『アリス』と申します。気軽にアリスと呼んでください」
「おう。じゃあ……改めて、アリスは何であんなところに居たんだ?」
名前も知れたことなので、魔理沙は話を戻す。
「それは……」
そこでアリスの言葉が詰まった。
アリスは考えた後、少し間を開けて言った。
「逃げて……いたんです……」
「……ルーミアからか?」
「……いえ」
「じゃあ──」
魔理沙がそれが何かを聞こうとする前にアリスが口を開いた。
「それについては教えられません……」
「……何でだ?」
「私は関係のない人を巻き込みたくないんです。特に……あなたたちのような心優しい人を巻き込みたくありません……」
アリスは申し訳なさそうにそう言った。
「だから、教えられません……」
「……」
「でも、このご恩は忘れません。ですから……私に出来ることならするので……それで、お許し下さい」
アリスはまた頭を下げた。
これが今アリスができる最大限の誠意なのかもしれない。
「何謝ってんだ?」
魔理沙はアリスに言った。
「別に私らはお前を責めちゃいねぇよ。謝る必要なんてない」
「そう…ですか……」
その言葉にアリスはどこか申し訳ない気持ちになった。
「それにしても、何でもしてくれるんだよな?」
魔理沙は確認するようにそう聞いた。
「?わ、私にできることならしますけど……」
「なら──」
「お前が何に追われているのかを教えてくれ」
「……えっ?」
魔理沙の要求にアリスは困惑した。
当然の反応だろう。それは自分の問題なのだ。
誰か他の人が……ましてや魔理沙が首を突っ込む義理も理由もない。
どうして……?
何でそんなに知りたがるの?
「だから私は──」
「言ったろ、私は巫女なんだぜ」
それに何の関係があるのだろうか?
巫女だとしても、そんなに気にかける必要などないはずなのに……
どうしてそんなに私のことを……
「それでも……」
「ただの巫女じゃねぇよ。私は幻想郷の守護者──博麗の巫女なんだぜ」
アリスの言葉に被せるように魔理沙は言った。
「……博麗の……巫女……?」
「ああ……困ってる奴を放っておけない、お節介な巫女のことだ」
魔理沙は笑顔を浮かべてそう言った。
(もしかしたら……この人なら……)
「……少し……考えさせてください……」
魔理沙の思いが通じたのかどうかはわからないが、アリスはそう言った。
「ああ……いつでも言ってくれ」
魔理沙はアリスに優しくそう返した。
「「………」」
話が一旦終わり、この場には何だか気まずい空気が漂っていた。
(どうしよう……)
(私のせいだよね……こんな空気なの……)
アリスは責任感に駆られ──
(何て言ったらいいんだ……?)
(私が何か別の話題を出すべきか……?)
(彩乃も何か言えよ……)
魔理沙はこの空気を変える方法を考え──
「……」
彩乃が何も言葉を発さないため、無言の時間が続く。
「あっ、あの……」
そんな中、最初に口を開いたのはアリスだった。
「こ、こんなこと言うと図々しいと思われるかもしれませんが……いいですか?」
「ああ」
魔理沙の許可を取り、アリスは話した。
「その……私、帰る家がないんです……」
「……えっ?」
魔理沙は唖然とした。
そして、その後に言うであろう台詞も大体わかってしまった。
「だから……その…今夜だけでも……と、泊めていただけませんか……?」
「私の家は宿じゃねぇ!!」などと言える訳もなく、魔理沙はそれを受け入れるしかなかった。
「あ、ああ……私の家に……泊まってけよ……」
(
魔理沙にチラリと見られた彩乃は何だか嫌な予感を感じていた。
久しぶりのルーミアなのだー
しばらくしたらまた会うのだー
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