幻想滅失録   作:メイア・カルテシア

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人によって見える景色はどこまで違うのでしょうか?


心の底

「……」

ベッドの中に潜り、ただ目を瞑って横になる。

これを始めてからどれほどの時間が過ぎたのだろうか?

 

布団の中からでは時計が見えないために、時折そんなことを考える。

目を瞑っても、なかなか寝付けない。

 

この部屋ならば眠れると思ったのに、今度は空気が重苦しくて寝られやしない。

 

『ねえねえ、何してるの~?』

 

『早く起きてよ~』

 

ここなら少しはマシなものの、やはりうるさいことには変わりない。

それに、ここにいたら頭が痛くなる上にめまいがするほど気持ち悪くなる。

まあそれも、寝さえしたら気にならないだろうから我慢する。

 

 

……いや、違う。

ここじゃダメだ。

 

寝られる訳がない。

 

そんなことはわかっていたはず。

 

なのに、体がここに吸い寄せられた。

またここに来てしまった。

 

 

……仕方ない。

ここまで来てしまったのならもう我慢しよう。

そんなことを思い、再び目を瞑った時だった。

 

 

誰かいる。

何かの気配がする。

この部屋に自分以外の何者かがいる。

 

どうにかしなければ……

最初はそう思ったのだが、次第に面倒くさいが勝ってきた。

 

いや、やっぱりいいや……面倒だ。

 

そう諦めた次の瞬間、自身の肌に外気が触れた。

どうやら掛け布団を剥ぎ取られたようだ。

 

 

「……誰?」

ただ一言、そう聞く。

それに対して相手方は「博麗魔理沙だ」と答える。

その者は自身の背後にいるため、その顔は見えない。

 

ならばと、さとりは自身の第三の目だけを相手に向かせる。

 

(なんだ……起きてたのか……)

 

サードアイでしばらく見るも、別に不審な所は見られない。

ならば、本人ということでいいだろうか?

 

一応警戒しつつ、さとりは起き上がる。

 

 

 

 

サードアイを向けたまま、さとりは後ろにいる者のことを横目で見る。

 

「ノックぐらいしなさい……魔理沙……」

彼女に向けて、そう苦言を呈する。

 

「……したよ。それに、入っていいのかとも聞いたぜ」

魔理沙にそう返され、さとりは少し考えた後に返答する。

「……そう、なら次はもっと大きな声で言いなさい」

 

『お姉ちゃんは耳が悪いんだね~』

 

「……はいはい」

さとりのその言葉に、魔理沙は適当に返事する。

 

 

「……それで?一体何の用?」

一応、用は聞く。

ここに来たということは、普通それなりの理由があるはず。

そう思ったのだけれど……

 

「いや、別に用はねぇけど……たまにはお前の様子を見ておかないとと思ってな」

 

サードアイを通しても、本当に何の用も無さそうなことしか分からない。

でも、一つだけ気になる点は……

『フラン』という単語。

 

それは確か、あの吸血鬼の名前……

 

ということはあの吸血鬼の差し金……?

あの吸血鬼……私のことを病人だとでも思っているの?

 

あれのことだ、無くはない……

 

「あの吸血鬼が何か余計なことでも言ったのかしら……?本当に、私のことを何だと思っているの?」

そう言って、さとりはベッドから降りる。

 

 

「………」

特に何もない無言の時間が流れる。

その空気に耐えかねたのか、魔理沙が口を開いた。

「……あー……なあ、さとり……腹減ってないか?来る前にいろいろと買ってきたんだが……」

魔理沙は袋に入った食材などを見せて言う。

 

 

「……別に、いらないわ」

それを断るのだが、魔理沙は引かなかった。

「いや……さとり、とりあえず何かは食べておいた方がいいぜ……」

魔理沙は顔を見ながら言う。

 

『確かに~、お姉ちゃんって醜い顔してるもんねー』

 

私の顔に何がついているというのだろう?

それとも、そんなに酷い顔色なのか?

 

 

サードアイによると、どうやら後者の方らしい。

まあ、別に断る理由はないか……

 

「……そう、なら好きにしなさい」

そんなに作りたいのなら作らせておけばいい。

そう言って部屋を出ようとする。

 

 

その時だった。

急な目眩によってふらついた後に、体のバランスを崩してしまった。

 

 

「………」

次の瞬間、倒れそうになったさとりの体は魔理沙によって受け止められていた。

「……はぁ、大丈夫か?」

「……ええ」

とりあえずの返事を返す。

 

『もぉー、迷惑かけちゃダメでしょー?』

 

 

「……肩貸してやるよ」

魔理沙は自身の肩にさとりの腕を回して、共に部屋を出て行った。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「ここでいいか?」

魔理沙に促されたさとりは、魔理沙の引いた席に座る。

 

 

「えーっと──」

何かを思い出そうとする魔理沙を見て、さとりは口を開いた。

 

「キッチンはあっち」

さとりはキッチンの方を指差してそう言う。

 

「……わかった、少し待ってろよ」

そう言って、魔理沙は買ってきたものを持ってキッチンの方へと歩いて行った。

 

 

『いってらっしゃーい』

「………」

 

さとりは椅子に座っておとなしく待つことにした。

 

 

◆◇◆◇

 

 

しばらくすると、魔理沙が出来立ての料理を持って戻ってきた。

 

机に料理を並べてから、魔理沙はさとりの前の席に座り、「いただきます」と言って魔理沙が先に食べ始めた。

 

『わぁー、おいしそー。お姉ちゃんなんかには勿体無いねぇ』

「……いただきます」

そう言ってから、少し遅れて食べ始める。

 

 

 

「……どうだ?口に合ったか?」

少し経ったところで、魔理沙はそう聞いてくる。

 

魔理沙の料理は初めて食べるが、別にそこまで悪い味という訳ではない。

 

「……そうね、あなたが料理をできるなんて思わなかったけど……味は悪くないわ」

「そ、そうか……」

 

『………』

 

 

 

二人の食事は黙々と進んだ。

 

こちらから話す事も特に無いため、魔理沙の方に何か話題が無ければまあこうなるだろう事はわかっていた。

 

そんな時だった。

とうとう耐えかねたのか、魔理沙が話を切り出した。

「……そうだ、最近──」

 

「彩乃、ねぇ……それともアリスとやらの方のことかしら?」

話の内容は最近あった出来事と言ったところだろうか?

 

『そんなことするから嫌われるんだよ?』

 

「ああ……両方……かな?」

こちらの質問に魔理沙はそう答える。

少しは場が持ちそうだなと、さとりは思った。

 

 

────────

 

 

その後も魔理沙は色々と話題を出してきたのだが、どうやらそれも尽きてしまったようだ。

途切れ途切れの会話と、食器の当たる音だけがこの場所に響いている。

 

『……ねえ』

 

『いつまで無視するつもりなの?』

 

 

「………なあ、さとり」

「……?」

すると、魔理沙は声のトーンを下げ改まった感じでそう言った。

 

そのせいなのか、何だか嫌な予感がした。

触れられたくない何かに踏み込まれるような気がした。

 

『聞いてるの?』

 

 

「お前……いつからこうなったんだ……?」

 

 

 

「………それは……」

そんなの知らない。

私の方こそ知りたい。

 

『……元からでしょ?』

 

黙って……お願い、今は……

 

「私の記憶違いか……?」

 

やめて……それ以上は……

 

思い起こさせないで……

 

『お姉ちゃんは元からおかしいでしょ?』

 

「何だか……」

 

あの事(・・・)を……

 

『認めなよ』

 

やめ……

 

「ここに『お姉ちゃんは壊れてるんだよ』

 

 

「──ッ⁉」

首が絞められたように、息苦しくなる。

同時に、それ(・・)の姿が鮮明になる。

 

 

『早く認めなよ』

 

耳を貸してはダメだ……

 

『お姉ちゃんは普通じゃない』

 

落ち着け……

 

『誰もお姉ちゃんのことなんか見ない』

 

ご飯でも食べて、気を紛らわせろ……

 

『誰もお姉ちゃんの話なんか聞かない』

 

聞くな……

 

『誰もお姉ちゃんのことなんか覚えていない』

 

落ち着け……

 

『お姉ちゃんは一人なんだよ』

 

気を紛らわすために、料理を食べ続ける。

皿に盛り付けられているのは、切り分けられた生々しい猫の死骸。

 

『こんなに図々しくて、面倒くさくて、頭のおかしい奴になんか関わりたくないんだよ』

 

気のせいだと、そう言い聞かせる。

今食べているのも、目の前にあるそれではない。

 

『そんなことも分からないの?』

 

いくら食べても、料理は減らない。

赤い血のスープの中からまた死骸が出てくる。

 

『頭も悪いの?』

 

やめて……

 

『それとも、私には魔理沙がいる……って?』

 

お願い……

 

『そんなわけないじゃん』

 

料理を食べる手は止まらない。

 

『お姉ちゃんのことなんか心配しないよ』

 

言葉の一つ一つが鮮明に聞こえる。

 

『むしろ死んでほしいって思ってるに決まってるでしょ』

 

それ(・・)から目が離せない。

 

『お姉ちゃんなんか生きてても意味ないもんね♪』

 

言葉が頭の中で反響する。

 

『あっ、そうか。お姉ちゃんが死んだかどうかを確認するために来たのかな?うんうん、そうだよね、そうに違いないね』

 

そう……なのかな……?

 

『だとしたら可哀想に……こんなクズが生きてるなんて思わないもんね……』

 

違う……そんなの……

 

『おまけにクズのためのエサまで作らされて……ほんと可哀想』

 

ごめんなさい……

 

『あっ、そうだ!!』

 

 

『今ここで死んだらいいんじゃない?』

 

嫌だ……

 

『そうだねそうだね、そうしたら魔理沙ちゃんもわざわざ来た甲斐があるってもんだよね♪』

 

お願い……

 

『そうと決まったら早速しようよ♪』

 

嫌だ……

 

『どうやって死ぬ?』

 

死にたくない……

 

『首でも吊る?』

 

許して……

 

『腹でも刺す?』

 

ゆるして……

 

『毒は……無かったか……残~念♪』

 

ごめんなさい……

 

『ねえねえ、どうやって死ぬの?』

 

ごめんなさい……

 

『ちゃんと苦しまないとダメだよ♪』

 

 

『お姉ちゃんに価値なんて無いんだからさ』

 

 

『だからせめて、人様に迷惑かける前に惨めに死になよ』

 

あ……あぁ……

 

『ねえ、聞いてる?』

 

何か……聞こえる……

 

『お姉ちゃん』り……」

 

 

『お姉ち』とり」

 

 

『お』さとり!!」

 

 

「──っ⁉」

魔理沙のその叫び声で、さとりの意識が引き戻される。

 

目の前には心配そうにこちらを見る魔理沙。

自分の手はガタガタと震え、全身に変な汗をかいている。

周りを見渡すが、それ(・・)は居なかった。

 

 

「大丈夫か……?」

魔理沙がそう心配する。

「……え、ええ」

さとりは震える声でそう返した。

 

手元を見ると、出されたご飯は既に無くなっていた。

いつの間に食べ終えていたのだろうか?

 

「……なあ、さとり」

 

「お前……本当に大丈夫なのか?」

魔理沙のその目には心配と困惑が浮かんでいた。

 

 

「大丈夫」

さとりはそう言った。

 

「少なくとも、今は落ち着いたから……」

先程よりは幾分マシ……なら、今のうちに動かなくては……

 

「それよりも、少し疲れたから休んでいいかしら?」

「あ、ああ……食器は片付けておくよ……」

 

 

そうして、席を立ち何かに導かれるままに部屋へと歩いて行った。




前回は魔理沙視点、今回はさとり視点と分けてみました
……遅れた原因の一端はこれかも

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