その光は温かかった。
それに真意など必要ない。
ただこうして、側に居てくれるだけで十分だった。
それはまるで、私を光のない底無し沼から引っ張り出してくれたような気がした。
ただただ温かかった、仄かな光。
私を照らしてくれる、優しい光。
私は一人じゃなかった。
『違う、お姉ちゃんは一人だよ』
私にはこの子たちがいる。
私は無力じゃなかった。
『ただのペットに何ができるって言うの?』
私には家族がいる。
私にも意味があった。
『そんな訳がない。誰もお姉ちゃんを必要となんかしない!!』
「この子たちは私を必要としてくれた!!」
『そんな戯言並べて何になるの⁉』
『お姉ちゃんは孤独なの』
『お姉ちゃんは無力なの』
『お姉ちゃんは無意味なの!!』
「例えそうだったのなら、私は見つける」
もう一度、やり直してみてもいいかもしれない。
もう少しだけ、生きてみてもいいかもしれない。
「私の側に居てくれる人を、私にできることを、私の意味を……」
そう、きっとそれがこの子たちが私に示した道。
それは私の生きる意味──
そして、私のすべきこと。
私はゆっくりと立ち上がり、そして──
『──⁉』
優しく、
「そして……あなたのことを、きっと見つける」
次はちゃんと、この子と向き合う。
いや、向き合わなければならない。
「だから、安心して……」
例え名前がわからないとしても、例えその存在を知らなかったとしても……
この子が『お姉ちゃん』と言ってくれたのなら──
私はこの子の姉として、本当のこの子を見つけてあげなければならない。
ただ、そんな気がした。
『……そう、やりたいなら勝手にやれば?』
怒りのような感情が籠った声でそう言って、彼女は姿を消した。
「……はぁ」
思ったよりもあっさり引いてくれてよかった。
あの子のことだし、罵詈雑言並べ立ててくるかと思ったのだけど……
いや、幻覚を他人みたいに言うのも何か変な感じがするけど……
それよりも……
「これ、絶対後で反動が来るわね……」
自分でもおかしいと思うくらいに、さっきから感情の移り変わりが激しい……ような気がする。
恐らく、しばらくしたらその分何かで祟ってくるような気がする。
その時、扉を叩く音が聞こえてきた。
「さとり、大丈夫か?」
扉を見ると、その隙間から魔理沙が声をかけてきた。
「ええ、問題ないわ」
一旦さとりはそれにそう返した後に、
「あなたがいつから盗み聞きしていたのかは知らないけれど、全く問題ないから安心していいわよ」
と付け加えた。
「そ、そうか……」
(いや、大丈夫じゃないだろ……あいつ、一体どうしたんだ?)
魔理沙は内心困惑していた。
食器を片付け終え、心配なのでさとりの歩いて行った方へと向かったところ、さとりを見つけた部屋から大声が聞こえてきたのだ。
何事かと思い、少し扉の開いていたその部屋を覗くとそこには先程とは一転して床に伏せてぶつぶつと何かを呟いているさとりがいた。
どうしようかと思っているところで扉の隙間から猫とカラスが入って行ったかと思ったら、今のような状態になった。
思い返してみてもよくわからない状況だ。
何が何なんだ?
先程とは別ベクトルでヤバイことになっているようにも思えるのだが?
「どうしたのかしら?魔理沙」
すると、さとりがそう言ってきた。
「い、いや……何でもねぇ」
魔理沙はあまり深く考えないようにしようと思った。
◆◇◆◇
「………はぁ」
少し経ち、さとりはキッチンにて一人うずくまっていた。
(疲れた……)
慣れないことはするもんじゃない。
さとりはそう思った。
突然溢れてきた感情に流され、解放感と共に来た少しばかりの高揚感に身を任せた結果がこれだ。
コップに水を注ぎ、飲む。
頭が痛く、少し気持ち悪い。
「はぁ……」
思わずため息が出る。
先程まではそうでもなかった疲労感が、今となってどっと襲いかかってきている。
「………」
いつぶりだろうか……
こんな風に、一人静かな時間を過ごすなんて……
いや、一人ではあったのか……
なら、あの子以外でちゃんと話したのが久々ということか……
「そう……か……」
久しぶりなのか……誰かと、人と話すの……
あの子には無かったものが、そこにはあった。
ただ冷たくて無機質なものじゃなかった。
私以外にも、ちゃんとそこに居た。
おいしかったなぁ……ご飯……
ちゃんとしたものを食べたの、久しぶりだなぁ……
ここのところ、何を食べていたのかの記憶があまりない。
まあ、だからと言って思い出したくはないけれど……
思い返したら、何だか涙が出てきそう……
でもダメだ、泣いたらまたネガティブな思考になってしまうような気がする。
私は涙を堪え、一度目元を拭き取る。
その時だった。
「ニャ~」と、その鳴き声と共にお燐が私に近寄って来た。
「……?」
すぐ側に来たお燐の頭をそっと撫でる。
私を探していたのだろうか?
「……」
この子たちはずっとここに居たのよね……
それなのに、私は何で気が付かなかったんだろう?
一通り撫でた後、お燐は物欲しそうにこちらを見つめてきた。
「お腹空いたの?」
そう聞くと、お燐は目を輝かせてこちらを見てきた。
まあ、そうか。
ちゃんとこの子たちにご飯をあげれていなかったもの……
「少し待って」
そう言って私は立ち上がる。
棚などを物色して、何か食べさせてあげられるものがないか探す。
魔理沙が買ってきたものがあったため、とりあえず食べられそうなものを与える。
お空は置いておけばそのうち食べているだろうと思い、お燐が勢い余って食べてしまわないように少し離して置いておく。
「さとり、大丈夫か?」
その時、魔理沙がそう声をかけてきた。
「ええ……少しはマシになったわ」
まだ疲労は残るが動けないことはない。
後でゆっくり休むとしよう。
さとりはゆっくりと魔理沙の方へと歩いて行った。
「帰るのかしら?」
「言わなくても分かってるだろ?」
さとりの問いに魔理沙はそう返す。
「はぁ……せっかくコミュニケーションを取ってあげようとしたのに……」
若干嫌味のようにも感じる言葉を吐いた後、さとりは魔理沙の目を見た。
「……その、ありがとう」
その言葉に魔理沙は少し驚いた。
まさかこうしてさとりに感謝されるとは思わなかったのだ。
「──別に、大したことは……」
そこまでさとりに何かしてあげたような気はしない。
そう思い、魔理沙は言った。
「……居てくれるだけで助かったわ。久しぶりに人と話せて……よかった」
ぎこちないかもしれないが、そう感謝を伝える。
きっと魔理沙が来たから私は少し変われたのだと思う。
こうして誰かと話して、自分というものを改めて見つめ直せたから……
私一人では、何も変わっていなかっただろうから……
せめてもの感謝を伝える。
「そうか、それなら良かったよ」
魔理沙にとってここに来たことは意味のある事になったのだろう。
魔理沙は微笑を浮かべてそう返した。
「……少しは顔色も良くなったんじゃあないか?」
「そう……だったらいいのだけどね……」
それに関しては鏡を見ないと私からは何とも言えない。
だけど、少しだけ身体が軽くなったような気がする。
「じゃあ、そろそろ私は帰るとするよ」
さとりのことはまだ気がかりではあるが、フランに二人を押し付けたままにするのも申し訳ない。
……いや、フランよりも咲夜に申し訳ない。
今度は二人をここに連れてくるのもいいかもしれない。
「……あんま無理しすぎるなよ」
魔理沙は最後にそう言った。
たぶんさとりの体はまだ良いとは言えないだろう。
そう思って言った言葉に対して、さとりは「分かってるわよ」と、一言そう返した。
(それくらい、自分が一番分かっている)
言われるまでもなく、さとりはそれを自覚していた。
無理をすればどうなるかなど、嫌でも理解した。
魔理沙はさとりの言葉を信じて背を向ける。
「またな」
そう言って、魔理沙は地霊殿を後にした。
────────
「………」
魔理沙が帰り、
……いや、私とあの子たちだけとなった。
以前のような孤独感は無かった。
その代わりに、不思議な満足感があった。
それの正体など分からないが、今日はゆっくり休めるような……そんな気がした。
◆◇◆◇
魔理沙が帰ってからほんの少し経った頃──
「………!」
さっさと寝よう。
そう思った時だった。
あの二匹が目に入った。
その直後、私の頭に一緒に寝るという選択肢が現れる。
少し悩んだが、せっかくなんだ──
「……」
たまには……そういうのもいいかもしれない。
そう思ったところで向こうも私に気付いたようで、こちらへと向かって来た。
「……?」
その時、微かな揺れが体を伝った。
(地震……?)
揺れは次第に大きくなっていく。
ここが崩れたりしないか少し心配だが、それよりも眠気が勝ったため気にしないことにした。
「──⁉」
次の瞬間、私の体は何かに押し飛ばされていた。
(お燐……お空……?)
私の体を押し飛ばしたのは今さっきこちらへ向かって来ていたその二匹。
二匹によって押し飛ばされた体は、後方へと倒れる。
それと同時、私の居た場所の天井が崩れた。
「………っ」
煙が視界を覆い、周りがよく見えない。
だが、私を押し飛ばしたあの子たちが側に居ないことは分かった。
「お燐……?お空……?」
嫌な予感が頭を駆け巡る。
必死に探すがその姿は見当たらない。
見えたのは、瓦礫の山から出てくる
「………っ」
さとりは警戒する。
それは魔理沙の影ではない。
もっと別の、誰か……
「ん?ジャストここだと思ったんだけどなぁ……」
煙の中から男の声が聞こえてくる。
「何だこれ……?きったね」
その声の直後、煙の中から何かが飛んでいき、壁に叩きつけられる。
「……っ⁉」
壁に叩きつけられたもの──
それは先程までそこにいた、
「はぁ……はぁ……」
受け入れたくない。
今目の前にあるその光景を、信じたくない。
『あ~……死んでるね、あれ』
煙の中から何者かが出てくる。
「……誰?」
さとりはその者を睨み、問う。
「ん?あー、そうか……名乗りは必要だよなぁ……」
頭をかいて面倒くさそうに男は言う。
上着を腕の辺りまで下ろした、黒い服の男。
ネックレスやらピアスやらを付け、緑のメッシュの入った髪。
あまり行儀が良さそうには思えないその男は、目の前に立ちそう名乗った。
「ログ……四天が一翼──ログだ」
さとりは現時点では、幻覚がうるさくて二日程は寝れてません。
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