幻想滅失録   作:メイア・カルテシア

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場面は変わって地底へ──


急襲─弐─

建物の建ち並ぶ旧都──

 

その屋根の上スレスレを飛ぶ影が一つ。

 

 

(魔理沙はどこにいるの?)

 

 

(もう地上に出た?)

さとりは一度、後ろを振り返る。

 

そこにいたのは唸り声を上げながら屋根の上を伝って追いかけてくる数匹の黒い狼。

 

さとりはそれに向かって弾幕を放つ。

 

正面の狼はそれを避ける。

──が、弾幕は屋根にぶつかることで爆ぜ、後ろにいた狼を二匹ほど吹き飛ばす。

 

建物の上、そして下から獣はさとりを追う。

(そろそろかしら……)

 

 

その時、一際大きな爆発音が地底に響き渡る。

 

(来た……)

爆発によって空いた穴から黒いナニかが溢れるように出てくる。

 

そしてそれらの中心となる場所にはその者の姿があった。

 

「ちょこまかと逃げんじゃねぇよ……捕まえるのが面倒じゃねぇか」

 

 

ログの背後から這い出るそれらの形は様々で、今さとりを追っている狼のようなものもあれば、それとは違った獣の姿や空を飛ぶ大きな鳥のようなものまであった。

それらは形こそ違えど、一貫してその体は深淵のように黒かった。

 

それらはさとり目掛けて脇目も振らずに向かってくる。

建物を壊しながら、一直線にさとりへと向かう。

 

 

「私が何も考えずにここに来たと思っているのかしら?」

「あれだけ大きな音を出したら……」

 

その時、さとりを追う黒い獣に何かが襲いかかる。

 

 

「──⁉」

(何だ?誰かいるのか?)

その様子を見ていたログは、目を見張った。

 

 

「──嫌でも気付かれるわよ」

 

 

ここは旧都、地上の者が忌み嫌う地獄の跡──

 

醜い魑魅魍魎の住処。

 

建物の中から、影から、隙間からそれらは這い出てくる。

そこにいる者を貪り食うため、それらは動き出した。

 

 

次の瞬間、黒い獣と、妖怪(それら)の大群同士がぶつかり合う。

 

 

「チッ……」

(なるほど……無策でここに来た訳じゃなさそうだな……)

ログは獣と妖怪がぶつかるのを見てそう考える。

 

ここに来た理由は恐らくこれだ。

こいつらを俺にぶつけることで自分の逃げる時間を稼ぐ……

単純なことだが、逃げることと俺を消耗させることの二つが同時にできる。

まさに一石二鳥。

 

「いいじゃねぇか……」

獣たちは襲ってくる妖怪を迎え撃つ。

 

 

「それなら……全員殺してから、お前を殺してやるよ!!」

 

 

────────

 

 

(上手く争ってくれて良かったけれど……本番はここからね……)

 

「鬟溘>迚ゥ窶ヲ窶ヲ閻ケ窶ヲ窶ヲ貂帙▲縺溪?ヲ窶ヲ」

 

さとりはすぐさま横に逸れる。

すると、さとりの進行方向にあった建物から屋根を突き破ってそれ(・・)が出てきた。

 

骨が浮き彫りになった、黒い人型──

黒の中で目立つその歯は獲物を食いちぎる形をしており、頭からは角のようなものが生えているのが見える。

 

それは最初に目についた獣へ向けて涎を垂らしながら一目散に走っていった。

 

 

『あー……残念』

この方法には私自身にも危険が伴う。

 

あいつらと戦ってはいるけれど、私の味方という訳ではない。

当然、私も奴らに襲われる側だ。

 

だから私は、奴らをかわしながら出口を目指さなくてはならない。

 

 

妖怪をかわし、こちらへ来た獣に弾幕をぶつけ、飛んでくる瓦礫を避ける。

まるで障害物競争のように、さとりは飛んで進む。

 

 

『あはは、お姉ちゃん頑張れ~♪』

(そっちは楽そうでいいわね……)

 

 

----------------

 

 

「はぁ……はぁ……」

口から垂れる血を魔理沙は手の甲で拭う。

 

「はぁ……はぁ……」

エリシアも同様に血を拭い、御札の刺さった銃を投げ捨てる。

 

 

「もう限界か?」

息を整えた魔理沙はエリシアへそう言う。

「そっちこそ、そろそろ降参したらどう?」

エリシアも負けじと魔理沙へ返す。

 

 

「ははっ──」

 

「それはお前の方だろ!!」

そう言いながら魔理沙は八卦炉を構え、即座にレーザーを放つ。

エリシアがそれを避けると、魔理沙はその方向へと弾幕を放つ。

 

エリシアはかわしたところに飛んできた弾幕を撃ち落とし、そのまま流れるように魔理沙へ向けて弾丸を放つ。

 

それをかわして魔理沙はエリシアへと接近し、肉弾戦に持ち込む。

その銃身もあり、エリシアにとって魔理沙との近接戦闘は不利なものであった。

距離を詰めれば、その状況からでも放てる魔理沙のミニ八卦炉は魔理沙を優位に立たせる。

 

しかしエリシアは銃を器用に扱い、魔理沙との距離を保つ。

距離が縮まれば銃身そのものを武器として攻撃をいなし、距離ができれば至近距離からの発砲。

 

それに加え──

 

(一発一発が重い……)

エリシアの打撃、そのどれもが重い。

文字通り骨が折れそうな相手だ。

 

半端な攻撃では簡単に防がれてしまう。

ならば密度を上げ、かわしきれない程の弾幕でごり押す。

 

 

レーザーを放ち、エリシアを動かしたところへ弾幕を放つ。

それに加えて即座にエリシアの側面に移動し、再度レーザーを撃ち、上へ飛び上がったエリシアへ予め放っておいた弾幕を、囲うようにして向かわせる。

 

しかし、エリシアはそれを半分は銃弾、もう半分を弾幕で相殺する。

続いてエリシアは魔理沙へと銃口を向けるが──

 

「まだ終わりじゃねぇよ」

魔理沙がパチンと指を鳴らすと、魔理沙の両サイドに魔法陣が展開される。

 

そこから弾幕が放たれると同時、エリシアの視界に別の何かが映る。

 

(弾幕……?)

そこにあったのは今放たれようとしているものとは別の弾幕。

そしてその弾幕の出所を見つけようと上を見た時だった。

 

「──っ」

そこにあったのは上空に張り巡らされた弾幕の数々。

それらが今、まさに雨のように降ってこようとしているのだ。

 

エリシアはすぐにそれの対応へと切り替える。

 

 

まず魔理沙へ向けて三発の弾丸を放つ。

一発は魔理沙へ向けて、残りの二発はその両隣の魔法陣へ向けて。

 

その直後に数個の弾幕を作り、上に放つ。

 

 

直後、爆発が巻き起こる。

 

上から降ってきた弾幕と、魔理沙が後から放った弾幕がぶつかることで、爆発が引き起こされたのだ。

 

爆煙が巻き起こり、視界が悪くなる。

 

 

(これでどうだ……)

こちらへ向けて放たれた弾丸をかわし、後ろへ下がった魔理沙は煙の中、目を凝らす。

 

一見人影らしきものは見えない。

魔理沙は辺りを見回し、再度確認する。

 

 

やがて煙が晴れてきた時だった。

煙の中を突き抜けて、弾丸が魔理沙へと飛んできた。

 

魔理沙はそれを間一髪でかわし、飛んできた方向を見る。

 

「ははっ、お前……羽なんて生えてたか?」

もはや変な笑いが込み上げてきた。

 

そこにはエリシアが確かにいた。

だが、先程のエリシアとの相違点を挙げるとするならば──

 

そこにいたエリシアには黒く大きな翼が生えていた。

 

 

「……」

エリシアは何も言わずに立ち上がり、埃を落とすように数度翼を羽ばたかせると、その翼は姿を消した。

 

 

「まあ人間ではないだろうと思っていたが……吸血鬼か何かか?」

魔理沙はその様子を見てそう聞く。

吸血鬼を例に挙げたのは身近で羽を持つ者が吸血鬼だったからであり、深い理由はない。

 

「吸血鬼ではないわ」

ただそれだけを言って、エリシアは再び銃口を魔理沙へ向ける。

「それくらい教えてくれてもいいだろ?」

そう言って魔理沙もミニ八卦炉を握り直す。

 

 

始めに、一度大きな銃声が鳴り響く。

魔理沙は自身に向けて放たれた弾丸をスレスレでかわし、エリシアの背後へ移動する。

その後にレーザーを放ちつつ、魔法陣を展開する。

 

それに対してエリシアは魔理沙の進行方向へ向けて弾丸を放ち、飛んでくるレーザーを避ける。

 

魔理沙は四方八方に移動しながらそれを繰り返し、エリシアはその場から殆ど動かずにそれを行う。

 

 

エリシアの攻撃は次第に激しさを増していく。

その場から動かずにいることで、銃撃に集中しているのだろう。

 

魔理沙の体に細かい傷が作られていく。

感覚で致命傷は避けられているものの、この量の銃弾は完全には避けられない。

 

だが、それを承知で魔理沙は作り上げた。

 

四方八方からエリシアを囲むようにできた魔法陣のドーム。

逃げ場は無い。

全方位から弾幕が奴を襲う。

 

「──?」

その時、エリシアは手に持つ銃を手離した。

 

この光景を見て、諦めたとでも言うのだろうか?

 

 

そして全ての魔法陣が発動し、数え切れないほどの弾幕がエリシアを襲った直後だった。

 

 

「──っ⁉」

何かが、魔理沙の頬を掠めた。

 

 

そのことに、魔理沙は目を見開いた。

それと同時、体がその場から離れようと勝手に動く。

 

 

次の瞬間、この場は弾丸の嵐に飲み込まれた。

 

 

木を吹き飛ばし、そこら中に弾の痕を付けていく。

周りにあるもの全てを破壊し尽くす嵐に、魔理沙は巻き込まれる。

 

距離を取りながら魔理沙は飛んでくる弾を避ける。

しかしその弾の数によって、何発かが腕や足を掠める。

 

「クソッ……」

 

 

────────

 

 

自身を囲うように配置された魔法陣から弾幕が放たれる。

 

逃げ道はない。

隙間なく弾幕が埋め尽くしている。

 

エリシアは両手の先に魔法陣を展開し、手慣れた手付きでその魔法陣から銃を取り出す。

 

すぐにそれを引き抜き、放つ。

もう片方の銃で別方向の弾幕を撃つ。

 

銃は一度引き金を引いただけで、銃口がまるで花が開くかのように裂けてしまう。

 

一発射つと今ある銃を手離し、もう一度同じ手順で銃を取り出して撃つ。

 

エリシアはそれを自身に弾幕が到達するよりも速く、何度も繰り返す。

 

弾丸は正確に弾幕を捉え、穿つ。

これにより、エリシアを囲む弾幕は消え、代わりにエリシアの放った弾丸がこの場を襲うことになった。

 

 

────────

 

 

弾丸の嵐が止む。

後に残ったのは、へし折れた木々の残骸と更地となった森だった場所。

 

空間は拓け、硝煙の香るこの場所に立つ者が二人──

 

 

「はぁ……はぁ……」

(かわしきれなかった……)

体中に擦り傷の付いた魔理沙は、足の震えを止めて相手を見る。

 

エリシアは一度深呼吸をして、荒くなった息を整える。

 

 

『撤退』

その言葉が強く脳裏に浮かぶ。

明らかにこちらが押されている。

 

特にあの一撃を喰らったのは不味かった。

 

一度目のエリシアからの蹴り──

腕で防ぎはしたものの、咄嗟の行動故にダメージを抑えきれていなかった。

 

時間が経つに連れて直撃した左腕の痛みが増している。

確実にヒビが入っているだろう。

 

もう一撃喰らえば、確実に腕がダメになる。

 

それに加えてこんな時間での戦闘。

一日分の疲労と眠気がある上に、本格的な戦闘の準備をしていないため御札もそろそろ無くなる。

 

(そうなる前に、撤退するべきか……)

このまま続けたとて、勝ったとしてもただじゃ済まない。

 

隙を見つけて逃げる。

それ以外にないだろう。

 

「………」

魔理沙は痛む左腕を押さえる。

(それまでは……)

 

 

「──!!」

そう考えたと同時、エリシアが動いた。

腕に気を取られ、魔理沙はその初動を見逃す。

 

辺りを見渡し、警戒する。

エリシアは四方八方に動き回り、撹乱する。

 

 

その時は、突如として訪れる──

 

エリシアは狙いを定め、魔理沙へと一気に距離を詰める。

 

相手はこちらを見失っている。

この一撃は確実に入る。

 

そのはずだった。

 

「──右!!」

何者かの叫ぶ声が、この場に響いた。

 

その声にいち早く反応したのは魔理沙だった。

 

魔理沙はすぐに後ろへ下がると、直後にエリシアが先程の場所の右側から現れ、攻撃を仕掛けてきた。

魔理沙はすぐにレーザーを放ち、距離を取る。

 

 

魔理沙が振り返ると、声の主はそこにいた。

 

つばの広い黒の帽子を被った、ピンクのような髪色の者──

古明地さとりの姿がそこにはあった。

 

しかもそれは、何かに追われているさとりの姿。

さとりを追うのは、妖怪とは何かが違う黒い獣。

 

(何だ……あれ……魔物か?)

魔理沙は黒い獣に向けて弾幕を放つ。

 

弾幕は獣を捉え、その体を吹き飛ばす。

 

 

すると、さとりがこちらへ手を伸ばしてきた。

 

どうやら、考えていることは同じのようだ。

魔理沙も手を伸ばし、さとりの手を取る。

 

 

さとりを携え、魔理沙はすぐに飛び立つ。

 

「逃げんなよぉ!!」

 

すると、さとりの来た方向から何やら少し楽しげな声色の声が聞こえてきた。

 

それに対し、魔理沙は振り返りもせずにレーザーを放った。

 

「あ?」

レーザーはさとりを追っていたログを襲った。

 

 

一方、エリシアの方へはさとりが複数の弾幕を放ち足止めをする。

 

 

このタイミングを逃すまいと、魔理沙は動く。

念のためレーザーを放って目眩ましをしつつ、追手が足止めを喰らっている隙に、魔理沙はさとりを連れて全速力でその場から空を飛んで離れた。

 

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

 

雲と雲の間から星がこちらを見つめる。

この夜空に、人影はもうなかった。

 

「何だよ……逃げられてんじゃねぇか」

ログは自身に付いた砂ぼこりを払いながらこちらへと歩いてくる。

 

「そっちこそ、逃がしてるじゃない」

「あれは戯れてやっただけだよ。そもそもあの妖怪は今回の目的じゃないだろ」

言い訳にしか聞こえないが、ログはそう言って弁明する。

「だとしても、それで許してくれるような奴じゃないでしょ」

 

 

「はぁ……少なくとも、あのクソ天使は絶対何か言ってくるな」

「あいつは無視しておけばいいじゃない」

そう言って、エリシアはどこかへと歩き出す。

 

 

「帰るのか?」

「もうそれしかないでしょ」

もうどうしようもできないのだから諦めろと、そう言いたいような目をログは向けられる。

 

「冷たいなぁ、悪魔同士仲良くしようぜ?」

「断るわ」

 

「そうかよ」

 

 

「はぁ……終わった後、生きてることでも祈っておくか……」

ログはそう呟いた後、エリシアの後を追った。




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