「別に……そこまで警戒しなくてもいいんだよ?」
「──と言っても、信じてはくれないか」
金色の長髪に翡翠の目を持つ、ボロ布のようなものに身を包んだ少女は残念そうにそう言う。
「私は敵じゃない。そこの二人とは無関係だよ」
少女は地面に倒れている二つの屍をチラリと見て、そう言う。
「……どうやったら信じてくれるんだい?死体蹴りでもしたらいいのか?」
少女はやれやれといったような仕草をして言う。
「……お前は誰だ」
それに対して彩乃は警戒心を露にしている。
襲ってきた二人を難なく倒したところまではよかったのだが、その直後に新たな問題が発生した。
それが目の前にいるこの少女だ。
少女は二人を倒した直後にその姿を現した。
その正体も、目的もわからない。
警戒するに越したことは無い。
「ん?……ああ、そうか……名を名乗れということか……」
少女は少し間を空けてから、口を開いた。
「そうだな……『メイ』と、名乗ろう」
少女──メイはそう言った。
「何の用だ?」
彩乃は端的にそう聞くと、メイは少し口角を上げる。
「少し、話そうじゃないか」
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「くっ……」
アトフィシアは後方へと吹き飛ばされ、砂ぼこりを立てながら勢いを殺す。
「そろそろ手札は出尽くしたかしら?」
「──っ」
直後にフランが眼前にまで迫ってくる。
腹部に衝撃が走る。
フランの拳はアトフィシアの腹を捉えていた。
アトフィシアは腹を押さえてその場に膝をつく。
「グッ…うぅ……」
(鳩尾をわざと避けた一撃、分かってはいたが……)
(──完全に遊ばれている)
「なかなか楽しめたけど……」
フランは口の中にあるものをペッ、と吐いて飛ばす。
「──決め手に欠けると言ったところね」
(……何なんだこいつ、痛覚が死んでるのか?)
こいつが今吐き出したのはドライアイス。
常人ならば、今のこいつのように喋ることなどできないはずだ。
それをこいつは喋るどころか、痛がる素振りすら見せなかった。
到底普通の感覚をしているとは思えない。
「最後に言い残したいことはある?」
フランは剣先をアトフィシアに向け、そう問う。
言い残すことか……
こうやって実際に聞かれると回答に困るもんだな……
でもまあ、今言うとしたら──
「そろそろ死ねよ」
その言葉を合図に、木の影から現れたボロボロのフィティスが魔法陣を展開する。
それと同時に、フランの周囲にドライアイスと水滴のようなものが浮かぶ。
白い煙を発する水滴のようなものが肌に触れると、焼けるような痛みが襲ってくる。
それと共に、魔法陣から放たれた炎がこちらに向かい、大きな爆発を起こした。
────────
爆風によって吹き飛ばされたアトフィシアが顔を上げる。
「はは……」
アトフィシアはもはや笑うことしかできなかった。
見えたのは、だんだんと晴れていく砂煙と、その中から出てくる人影──
片手を横に伸ばし、無傷の彼女の姿。
「悪くない足掻きだったわ」
その言葉を最後に、アトフィシアの視界が暗転する。
────────
「……さて」
次に彼女はこちらを向く。
その目からは嫌な予感がしてならない。
ボロボロの体を無理矢理動かして逃げようとした時にはもう遅かった。
彼女はすぐさま距離を詰め、私の足を払い、そのせいで私は倒れ込むことになる。
「さあ、少しお話ししましょうか?」
その状況で頭上から聞こえてきたのはそんな言葉だった。
────────
「君はコイツらがどこから来たかは分かるかい?」
メイは二つの死体を見てそう聞く。
「……さあ?」
それに対し、彩乃はさっぱりというような感じで答える。
「まあ、そうだね……私も詳しいことはわからないよ」
メイのその言葉に、彩乃は少し呆れる。
向こうから聞いておいて『知らない』とは、一体何がしたいのだろう。
「それに、私の話したい事とも少しずれてしまいそうだ。質問を変えよう」
「こいつらは幻想郷の者だと思うかい?」
彩乃はその質問の意図を理解するのに、少し手こずる。
「どういう意味だ?」
「何が言いたい?という意味のその言葉かな?」
「そのままの意味だよ。こいつらが幻想郷の者か、そうじゃないか、ただそれを聞いてるだけだ。何も深く考えなくてもいい、君の直感で構わないよ」
「……いや、ここの者とは違う」
彩乃は少し考え、そう答える。
その答えを聞いたメイはなるほどというような素振りをした後に言葉を続ける。
「そうだね……確かにこいつらは幻想郷の者じゃない。ならば何者か、その答えは君になら分かるはずだ。そして、私が話したいのは
彩乃には、話したいそれというものが何となくわかった。
そしてこれは自身にとって関係のある話だと、理解した。
「──別の世界」
彩乃のその言葉にメイは満足気だった。
返してほしい言葉がそのまま来て、余程嬉しかったのだろうか?
「そう……その話──」
────────
「それで?あなた達の目的は?」
フランはフィティスを見下ろし、剣を片手に持ちながらそう聞く。
「……言わなくてもわかってるでしょうに……」
手足をやられ、胴に大きな切り傷を付けられ、動けない程度に調整された体を木に寄りかけたフィティスは、せめてもの反抗か、もう見上げる元気も無いからなのか、上を向かずに答える。
「あなただってそうじゃない?聞かれなくても、何を答えたらいいかは分かるでしょ?」
「……はいはい、コミュニケーションを取ればいいんでしょ?取れば」
フィティスは面倒くさそうにそう言う。
「あなたなら、この気持ちは分かってくれるわよね?」
「理解しても共感したくない」
「冷たいわね……」
「一応あなたは敵ですから」
「あまり喜ばしい出会いでは無かったとしても、彼らは嫌いではないので……ちゃんと恨んでますよ」
こいつへの同情はしたくない。
これでも、怒っている。
まだ出会って間もない間柄だとしても、それでも……
「それで……?これは尋問ですか?それとも拷問?」
フィティスは確認のためなのか、そう聞いた。
「……それで喋るなら拷問にしてあげてもいいわよ」
「……私たちはただの寄せ集め、深くは知りません。それでも、聞くのですか?」
観念したのか、フィティスは最後の確認のようにそう聞く。
「──もちろん」
フランはさも当然のようにそう答えた。
────────
「私たちは同類だ」
メイは彩乃の目を見て言う。
翡翠のその目に灯すのは期待であり、憎しみのようであり、怒りのようでもあった。
「君は八雲紫を信じるかい?」
次に、メイはそう聞く。
「……」
「回答はいい。何となく分かるさ」
彩乃が答えようとしたところでメイはそれを止める。
「そう、言葉の真偽じゃない。八雲紫そのものを信じるかどうか──」
「私たちはそこの彼らと同じ、ただの寄せ集め。八雲紫にとって、この世界に変化をもたらすための道具でしかないのだろう」
そう話すメイの言葉からは僅かに怒りを感じた。
「私も君と同じ。連れてこられた者──」
「君の前任……いや、先輩のようなものだよ」
メイは途中で言葉を止め、そう言い換えた。
別に先輩を名乗ったところで慕うつもりなど毛頭ない。
「……同じ、ね」
それに対して、彩乃はメイに聞こえるような声量でわざとそう呟く。
「何か引っ掛かることでも?」
その様子を見たメイはそう尋ねる。
「証拠は?」
彩乃は端的にそう聞く。
「……なるほど、証拠か……これまた難しいことを……」
「別の世界から来ましたと証明するパスポートなどあるはずがないのに……」
メイはそこで言うのを止めた。
何か思い当たることでもあったのだろうか?
「いや……無いことは無いか……」
そう呟いて、メイは改まってこちらを見る。
「君は、博麗霊夢を知っているかい?」
「──っ」
その言葉で、彩乃は確信した。
『博麗霊夢』
その名を知っているということは、この世界の者ではないという証拠になり得る。
この世界の博麗の巫女は『博麗魔理沙』だ。
その名を、魔理沙ではない博麗の巫女の名を知っていることは、この世界の者ではあり得ない。
「……知っている」
彩乃はそう答える。
「察しが良くて助かるよ」
「さて、話を戻そう」
────────
「悪魔に天使……ねぇ」
フランはそう呟くと、そのまま言葉を続ける。
「あなた達の目的は?」
「……わかっていると思いますので、言いません」
こんな状況で、フィティスはそう言った。
「あら、やっぱり拷問の方が良かった?」
「やりたければやればいいじゃないですか。まあ、もう殆ど感覚が無いので意味ないと思いますけど」
フィティスは余裕のある声でそう言う。
フィティスの体からは少しずつではあるが、血が流れている。
感覚が無いという話も嘘ではないだろう。
「私からのせめてもの反抗ですよ。予想が当たっていたらいいですね」
仲間を殺されたことへの恨みからか、フィティスはそう言った。
「はぁ……」
フランは溜め息を吐く。
これ以上の進展は見込めないだろう。
この話は聞くだけ無駄だ。
「ならば、誰があなた達に命令したの?」
フランは話題を変えて質問する。
その質問にフィティスは少し考える。
「……いいですよ。それくらいなら、答えますよ」
────────
「言うなら演劇だよ」
「演劇?」
「ああ、この世界には決められた筋道……台本のようなものがあると私は思っている」
真剣な面持ちで、メイはこちらを見る。
「そして、八雲紫の目的はその台本の破壊──」
「私たちはその演劇を破壊するために集められた舞台装置なのだろう」
「演者からではなくその外、舞台を彩る装置で台本を滅茶苦茶にしようとしているのだよ」
「舞台設定が変われば、台本は書き直さなければならない」
「だが、自分では変えられないからと、他所から取ってきたもので既存の物語を書き換える。そうしてできた物語は、一体どこに属するものなのか?」
「元となった世界と同じと言えば同じ、違うと言えば違う。そんなあやふやなのが今の世界」
「そして、この世界には台本を遂行したい何者かがいると、私は考えている」
「何者か?」
彩乃はその抽象的な言い方に疑問を抱く。
「私は全知ではないから、知らないことなんていくらでもあるよ」
メイは微笑を作ってそう言ってきた。
「それに、私としてはその者に、いや……そもそも台本というものにあまり興味がない」
「?」
その言葉に、彩乃は引っ掛かる。
メイの言う何者かでも、台本でもないのならば、何が彼女の怒りに触れたのだろうか?
「私は……
「私を道具のように使おうとした奴が、本当に……」
メイのその声には怒りが籠っていた。
メイの怒りの矛先、それは八雲紫そのもの。
何をされたのかは知らないが、その存在が、彼女の気に障っているのだろう。
「そこで、だ……」
メイは彩乃へと手を伸ばす。
「私と共に来ないかい?」
メイはそう提案する。
「………」
しかし、その手を彩乃は取らなかった。
「……まあ、わかってはいたさ」
メイはそう言ってあっさりと腕を下げる。
「君は別に彼女にそこまで興味は無さそうだしね。別に無理強いはしないさ。でも、気が変わったらいつでも言ってくれ」
そう言い終わると、メイは何かを思い出したかのような素振りをする。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、私は今回の件にそこまでの興味は無いよ」
「関わる気は無いし、どうなろうとどうでもいい。そんな感じだ」
最後に、というような雰囲気でメイは言う。
「今回の件について何か知っているのか?」
彩乃はふと、そう聞いた。
こいつは何か知っている、そんな気がしたのだ。
「……まあ、少なくとも何も知らないという訳では無いかな」
そう言うとメイは彩乃のことを見て、言葉を続ける。
「……この異変を簡単に言い表すなら、『己の存在を懸けた戦い』かな」
「この世界は実に様々な世界がくっついているようだ」
「しかしそれ故に、今この世界を称する名が無いのだよ」
「……?ここは幻想郷ではないのか?」
「それは間違いではないよ、確かにここは幻想郷ではある」
「だが、先程も言ったと思うが、幻想郷と一概に言い切れないのが現状だ」
「この世界は多くを受け入れすぎたんだよ」
「そこの二人も、私も君も、元は別の世界の住人」
「幻想郷が存在する世界があれば、存在しない世界もある」
「ここが幻想郷と言うのなら、元々幻想郷の無い世界にいた者は何だ?」
「それは部外者に過ぎない。いや、ここの言い方だと外来人か?」
「世界が融合し、外来人でも何でもなかった奴が、いきなり外来人という枠組みに入れられるんだ」
「この世界は私たちの物だ、お前たちが後から来たんだという物言いで、彼らは呼ばれる」
「だから争うんだ。己の存在が正しいと証明するために、ここが己の世界であると証明するために、この世界の名を、どちらが部外者なのかを決める戦い」
「勝った方の世界が、この世界の本来の世界となる。そんな戦い」
「ま、本当のところはよく知らないけどね。当たっているのか、全く見当外れのことを言っているのかは当事者にでも聞いてくれ」
真剣な雰囲気から一転して、ヘラヘラとしたような感じでメイは最後にそう付け加える。
真偽のわからぬ話をベラベラと……こいつはただ人と話したいだけなんじゃないか?
彩乃はメイの話を聞いて、そう思った。
「……悪いね、私の話に付き合ってもらって」
「如何せんしばらく人と話していなかったものでね……少し語りすぎていたらすまない」
やはり話したいだけの奴だったか。
「じゃあ、この辺りでお暇するよ」
そう言って、メイはこちら側──地面に転がっている死体の方へと歩いて行く。
「君が
メイは近くに転がっている二つの死体の襟元を掴み、そのまま数歩歩いたところで歩みを止めた。
「……そうだ、最後に一ついいことを教えてあげよう」
────────
フィティスはフランを見て、口を開く。
「奴は……奴の名は……」
────────
メイはこちらを振り返って、それを告げる。
「今回の件、その元凶の名は──」
────────
「「『ガラ』」」
少し難しいような話をしてる部分は自分も書いててちゃんとできているのか心配になっていました。
今も不安です。
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