ほの暗い通路を歩く二つの影が、十字路のように分かれている曲がり角に差し掛かった時だった。
「なぁんだ、生きてたの?」
残念そうに言うその言葉が、ログとエリシアの耳に入ってくる。
声のした方向に居たのは、白い翼に、先端が少し巻かれている薄い水色の髪をした、白のワンピースのような服を着た彼女。
「何の用だクソ天使」
ログはその声にすぐに反応した。
「クソ悪魔どもがやらかしたって聞いてね、惨めな顔か哀れな死体でも拝んでやりたくって」
声の主は火に油を容赦なく注ぐ。
「あ"?」
その態度と言葉で、ログの頭に血が上っていく。
「何?図星だった?」
しかし、彼女は煽ることを止めない。
「殺すぞクソ天使」
ログが明らかな殺意を見せると、お返しとばかりに彼女もログへと殺意を向ける。
「さっきからクソ天使って……私はそんな名前じゃないんだけど?」
二人はどんどんヒートアップしていく。
今にでも殺し合いを始めてしまいそうな空気が漂ってくる。
だが、一触即発の状況はその一言ですぐに変わった。
「何をしている」
「「──っ⁉」」
ログと彼女はすぐに振り向く。
そこにいたのは、白い服を着た薄い金髪の男。
男の着る白の服は、男をまるで神父や神官のように見せる。
だが、二人が驚いたのはそこではない。
(いつの間に……)
(気配がしなかった……)
言葉を発するその時まで、二人はその者の存在に気付けなかったのだ。
「また喧嘩か?」
突然現れた男は呆れたようにそう聞く。
「いつものやつよ」
すると、エリシアがその男へと告げ口する。
その言葉を聞くと、男は一度ため息をつく。
「ログ、ツドラ……同じ四天同士、仲良くしたらどうだ?」
「はいはい」
そう言われ、ログは適当に返事する。
「はぁ……」と、『ツドラ』と呼ばれた彼女はため息をつく。
「あまり騒ぎは起こすなよ」
一旦は収まった二人の様子を見て、男はログとエリシアが歩いて来た方向へと立ち去った。
「……命拾いしたわね」
男が立ち去ったことを確認すると、ツドラはすぐにログへそう言った。
「そっちこそ、『カリエル』に感謝しておくんだな」
ツドラを睨みながらそう告げ、ログはそのまま歩いて行った。
「……あなたもよ、クソ悪魔その2」
次にツドラは、この場に残っていたエリシアへとそう吐き捨てて、ログとは違う方向へ歩き出す。
「あなたたちが仕留め損なったから、次は私が行く羽目になるじゃない」
そんな愚痴を溢しながら、ツドラはどこかへと行った。
「……何であんな奴ばっかなの?」
エリシアは不満を吐露した後、この場を離れた。
───────
「──ガラ……」
魔理沙は初めて聞くその名を、思わず復唱した。
「はい、私を追っていた者がそう言っていたんです」
続いてアリスが、そのことを思い出しながら話す。
『ガラ』
その名を、彩乃は知っている。
昨晩、メイが告げた元凶とやらの名前。
何故メイがその名を知っていたのか、そんな疑問が湧いてくるが、今は置いておこう。
そして、昨晩の奴らはその刺客ということで間違いは無いか……
そう考えているところに、一人の声が入ってくる。
「待たせたわね」
扉を向くと、そこにはフランと咲夜の姿があった。
「遅い」
まず始めにさとりが口を開いた。
「悪かったわね」
フランはさとりを適当にあしらって、魔理沙の方を見る。
「体の方はどう?」
「まあまあかな、動けないことは無いが少し休みたい」
「そう……暫くは二人のことは預かってあげるから、その間に医者にでも診てもらうといいわ」
「悪いな」
──と、そこで終わりそうな何気ないような会話にさとりは引っ掛かった。
「ねえ、私は?」
「……?」
フランはわざとらしい疑問符を浮かべる。
「だから、私はどこに行けばいいのよ⁉」
さとりがこう言うのには訳がある。
昨日の件で旧都が滅茶苦茶になったのは当然のことながら、地霊殿の方はログの強引な侵入により崩れ、さらに地底の所々が崩壊してしまったため、地底には戻れなくなったのだ。
帰る場所が無ければ、当てなどあるはずがない。
一体どうしたらいいと言うのか?
「人里かどこかにでも行けば?」
フランが適当にそう言う。
『そこら辺で野宿でもすれば?』
「適当に言わないでよ!!」
この件は一旦後回しにすることになった。
◆◇◆◇
「じゃ、一旦情報を整理すると──」
「まず、敵は天使と悪魔の集団。その目的はアリスだが、理由は不明」
「昨晩私たちを襲った奴らの目的は、アリスを手に入れるために邪魔になりそうな存在の排除──」
「彩乃とフランの方は全員倒したようだが、こっちは二人とも逃がした」
「そして、それらを指示した……言うなら黒幕の名はガラ」
「簡単に纏めるとこんな感じか?」
ある程度話が進んだところで、魔理沙が今ある情報の整理を行う。
「まあ、そうね。私たちを襲った奴らはあなたたちを襲った二人と同じ目的と考えてもいいと思うわ」
「話からすると、私たちを襲ったログとエリシアとやらの方が格は上なのかもしれないわね……」
「ログの言っていた四天はその称号のようなものだと思うわ」
「ガラという名は私も聞いたわ」
「私が聞いた奴の反応からするに、あまり慕われている感じはしなかったわ」
「ただの寄せ集めとも言ってたし、元からある組織のようなものでは無いのかもしれないわね」
魔理沙に続いて、フランとさとりもそれぞれ考えを言っていく。
そんな中──
「彩乃は何かあるか?」
魔理沙は彩乃へと質問を振る。
「……」
すぐに口は開かず、彩乃は一度考える。
二人の天使と見られる者たちの事は伝えたが、メイについてはまだ言っていないのだ。
メイがまだ何者かがわかっていない。
目的、そして今回の件との関係性も不明。
まあ、本人は関わる気はないと言ってはいるが本当のところはわからない。
それに、躊躇う理由の大元となっているのが、メイとの会話内容。
それは自身にとっては関係があれども、それ以外の者にとっては基本関係のない話だろう。
加えて、その話をすれば色々とややこしいことになりそうな予感がする。
メイのことを話すべきか否か……
そう彩乃が迷っている時だった。
ふと彩乃が前を見ると、ちょうど直線上にフランがいた。
魔理沙はこちらを見て、さとりは咲夜から出された茶菓子を食べている最中だった。
その時に、フランは人差し指を立てて口元に当てる仕草をした。
「……いや、何もない。ただ襲ってきた奴らを倒しただけだから、フランの方が分かっていると思う」
「そうか」
「私が聞き出せた情報は大方もう言ったから、今ある情報から今後の対策を考えるしかないわね」
フランは何事も無かったかのように、そう言った。
◆◇◆◇
その日の夜──
「こっちよ」
その者はこちらを見ると、そう言って手招きする。
月光が照らすこの場で、彼女は優雅に茶を啜る。
その場には不思議かつ独特な空気感があった。
どこか神秘的とも言えそうなその空間──
この場にある席は二つ。
彼女の席と、こちらの席。
「さ、座って」
言われるがままにこの場に呼ばれた客人──彩乃は席へと着く。
「……知っていたのか?」
席に着いて早々、彩乃はフランにそう問う。
「あら、そんなに早く終わらせたいのかしら?」
単刀直入のその質問に、フランはそんな反応をする。
「長々と話すつもりは無い」
彩乃はそう断りを入れる。
その言葉を聞いて、フランは改めてこちらを見る。
何を思ってこちらを見ているのかは分からないが、どこか不思議な感覚がした。
こちらを見るその目は、まるで全てを見透かしているようであり、この場に漂う独特な空気感の源のようにも思えた。
「まあ、いいわ。お望み通り本題に入りましょう」
そう言って、フランは紅茶を一口飲む。
「まずは、あなたが会った人物について詳しく聞かせてくれないかしら?」
「……?知っているんじゃないのか?」
てっきり知っているものだと思っていたため、彩乃は少し意外に思う。
「ええ、その場に居合わせた訳じゃないから、詳しくは知らないわよ」
当然と言うような顔でそう言われ、彩乃は渋々メイのことを話した。
メイのことを話し終わるまで、フランは何も言わず静かに話を聞いていた。
「なるほど……興味深い話ね……」
「そのメイという人物……私も会ってみたいわ」
顎に手を当て、フランはそう呟く。
「……」
フランは目を閉じ、少し考える素振りをする。
そして次に「彩乃」と、こちらを見て言う。
「……?」
「この話は基本、他言無用としなさい。話すとしても、別の世界の話はしないように」
真剣な眼差しで、フランは告げる。
「何故だ?」
「……別の世界とどう関わるか、別の世界の者をどう扱うか……それは自分自身で答えを見つけるべきもの──」
「あなたと魔理沙では置かれている立場が違う……それを分かって頂戴……」
「……まあ、わかった」
「理解が早くて助かるわ」
フランは微笑を浮かべて言った。
「……さて、話も終わったことだし、ここでお開きとしましょうか」
その言葉を聞いて、彩乃は席を立って歩き出した。
「おやすみなさい」
立ち去る彩乃の背中に、フランはその言葉をかける。
「……なあ、最後に聞いていいか?」
すると、彩乃は立ち止まり、振り返ってそう聞く。
「いいわよ」
「──どうしてメイと会ったことを知っていたんだ?」
フランは一度考えた後に、口を開く。
「機会があれば、教えてあげるわ」
おまけ
人物紹介コーナー(ミニ)──
襲撃組『フレム』
炎を操る悪魔であり、炎を自在に操って戦う。
悪魔の中では温厚な方で、別に天使のことは嫌いではない。
特に何も無ければ人間にとっても害はない。
だからと言って不必要に接触することはおすすめできない。彼も立派な悪魔なのだから。
何回かに分けて本編であまり語られなかった彼らの紹介でもしようと思ってます。
感想、コメント等お待ちしてます。