幻想滅失録   作:メイア・カルテシア

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二人の戦闘、その裏で──


悪魔たち

彩乃とツドラの戦闘と同刻──

 

霧の湖から離れた森の中から、戦いの様子を見る者の姿があった。

 

「何だよ、押されてんじゃん、アイツ」

「あれだけ大口叩いておいてあのザマかよ」

馬鹿にしたような言葉を言い放つ者は、座っていた木の枝から飛び降りる。

そして、着地してそのまま歩き出してから数歩進んだところだった。

 

 

「私の館に何か御用?」

「──!」

その声に、何か言葉を発する前に頭が声のした方向を向いていた。

(こいつ……いつからそこにいた?)

そんなことを思っていると、向こうから話を切り出してきた。

 

 

「あなたがログかしら?」

「はっ、自己紹介はいらなさそうだな」

ログは警戒しつつ、そう答えた。

「ええ、あなたのことは聞いているわ」

きっとあの日取り逃がした妖怪が話したのだろう。

まあ、今はそんなことより……

 

「で、何の用だ?」

ログは端的にそう聞く。

「用があるのはそっちでしょ?」

 

「……?」

「まあいいわ、それよりも自己紹介がまだだったわね」

 

「私の名はフランドール……」

 

 

「紅魔館当主──フランドール・スカーレット」

 

 

「紅魔館……当主……」

ログはその言葉に反応した。

「へぇ……あんたが……」

「それで、一体何の用かしら?」

フランがログへと聞き返す。

 

 

「……一目、その姿を見てみたくてな」

「……」

ログは一拍置いて、話し出した。

それと同時にログの顔から警戒の色が消え、代わりに作ったような笑みが張り付けられる。

 

 

「この付近に近づいた獣が毎回破壊されるものだから、一体どんなやつがいるのか気になってな」

 

「獣……魔物のことかしら?」

「ああ、多分それであってる」

 

「だからこうして見に来てみたんだが……まさかこんな少女だとは……」

「あら、一体何だと思っていたのかしら?」

 

「てっきりおっかないバケモンみたいな奴かと……前に似たようなことになっている場所に行ったら、見たこともない化物が徘徊しててよ」

「そう、それは大変だったわね」

「ああ、それはもう」

 

 

◆◇◆◇

 

 

その後も特に荒れることもなく、会話は続いた。

その様子は、他から見ればただの談笑のように見える程のものだった。

 

 

「……なあ、フランドール」

改まって、ログはフランを見る。

「何かしら?」

 

「今日は一つ提案があってここに来たんだ」

これが本題だと言うように、ログの目付きが変わる。

「提案?」

「ああ、そうだ。お前にとっても悪くはない話だと思うんだが……」

 

「いいわ、話してみて」

「なら、遠慮なく──」

 

 

「俺と手を組まないか?」

 

 

「あなたと?」

「ああ、俺とお前ならあいつ(・・・)を殺すことだってできるかもしれない」

 

「あいつ?」と、フランが聞くとログは少し間を空けてから話した。

「……俺はガラという奴を殺したい」

 

「お前の力があれば、それができるかもしれない」

 

「その後はお前のしたいことを手伝ってやる」

「お前にだってあるだろ?嫌いな奴を殺したいとか、世界を支配したいみたいな願望が……」

 

「偵察でも何でも、お前に力を貸してやる」

 

 

「だからどうだ?俺と──」

そう言いかけたところで、何かに気付いたログは止まった。

 

 

「俺と……何?」

その言葉の続きを聞くのは、フランではない第三者。

だが、ログはその者のことを知っていた。

 

「……久しぶりだなぁ、妖怪」

その呼び掛けに反応して、その者は姿を現す。

 

「ええ、久しぶりね。ゴミ」

木の影から現れたのは、ピンクのような髪に、宙に浮く目玉を携えた一人の妖怪──古明地さとりだった。

 

 

「ゴミってなんだよ」

「そんな名前じゃなかったかしら?」

 

「ログだ、せめて一文字位は合わせろよ」

『そうだよ~、最初の母音しか合っていないよ~?』

 

 

「はぁ……」と、さとりは一度ため息をつく。

「ため息をつきてぇのはこっちだ!!」

 

 

「盗み聞きだなんて、いい趣味してるじゃない」

黙っていたフランが、さとりに向けてそう言い放つ。

 

ログ(そいつ)と仲良くおしゃべりしていたあなたには言われたくないわね」

さとりはフランを睨んで言い返す。

 

「前々から思っていたんだけれど、あなたは信用できないのよ」

「八雲紫といい、あなたといい、私たちを自分の都合のいいように利用しようとしていることが伝わってくるのよ」

 

「そんな奴を信用なんてしたら、どうなるかなんて分かったもんじゃないわ」

 

「あら、それはあなたのその瞳が示したものかしら?」

「……分かってて聞いてくるその態度も気に食わない」

 

ログなど最初からこの場にはいなかったとばかりに二人は言い争っている。

二人の会話にログが口を挟めるような部分がないため、ログはおとなしくこの言い争いが終わるのを待つことしかできなかった。

 

 

「ここは私たちが話す場なのだから、邪魔はしないでくれる?」

幾度か言葉を交わした後に、フランは最後にそう告げた。

 

 

「はいはい、邪魔者はどこかへ行きますよ~」

さとりは不満げな言葉を残して、この場を去って行った。

 

 

──かと思ったら「やっぱり死ね!!」と叫びながら弾幕をフランに飛ばしてきたが、フランは片手で軽々と弾幕を弾き飛ばした。

 

 

「あっ──」

弾かれた弾幕は、放った本人の下へと帰って行った。

 

 

 

「……そろそろいいか?」

一段落ついたところで、ログは恐る恐る聞いた。

 

「ええ、いいわよ」

何事も無かったかのように放たれたその言葉に、ログは少し恐怖した。

 

 

「あ、改めて……俺と手を組まないか?」

本日二度目となるその言葉を、ログは発した。

「フフッ、なかなか面白い提案だけれども少し確認したいことがあるの」

「確認?」

 

「ええ、それを確かめないと、あなたと手を組むことはできないわ」

「……ならわかった」

ログはフランの言う確認とやらに付き合うことを了承した。

 

 

「まず一つ目、私とあなたが組む理由──」

 

「あなたはガラという者を倒すために、私は私の成し遂げたいことのために……で、いいかしら?」

そう聞くと、ログは「ああ」と言って頷く。

 

この感じからするに、手を組むに当たって整理しておきたい要点の確認をしたいのだろう。

(そんなことを確認したところで、意味なんて無いんだがな……)

 

 

「二つ目、もしガラを討つことができなかったらどうするのかしら?」

「……その時はその時だ。そうなった時にお互い生きていたら、その時に考えればいい」

 

そうなった場合何か別の案を考えなければいけないから、できることなら倒してもらいたい。

 

 

「三つ目、あなたと私──どちらの目的を優先するの?」

「お前の好きにしたらいい。俺はガラを殺せればそれでいい」

「──そう……」

 

そう、あいつさえいなければいい。

やり方なんてどうでもいい。

俺はガラがいなくなればそれでいい。

 

倒すことができれば、こいつはもう用済みだ。

できれば奴と相討ちにでもなってもらいたいのだが……

 

 

「じゃあ四つ目、あなたはいつ頃に裏切る予定なの?」

「そりゃあ用が済めば……」

回答の途中で、ログの言葉は詰まった。

何も考えずに動いていた口を、即座に脳が止めた。

 

 

「──おい、一つ聞いていいか?」

回答を止めて、ログはそう聞いた。

「何?」

 

 

(何だよ……こいつ──)

 

「それは──どっち(・・・)の意味だ?」

ログの纏う雰囲気が変わる。

(最初から、分かっていたのか?)

 

「どっち、って?」

フランはわざとらしい笑みを浮かべた。

「……分かっていて、ここまで続けたのか?」

 

「さあ、何のことやら」

「しらばっくれるつもりか?」

 

 

「しらばっくれるもなにも、私はただあなたに聞いているだけよ?いつ裏切るのか、それはあなたと関わるにおいて、とても大事な質問じゃないかしら?」

「それを分かっていると言っているんだ。何だ?俺をバカにしているのか?」

 

数秒の沈黙が流れる。

お互い、相手の様子を伺っている。

 

「……あなたの好きに考えたらいいわ」

するとフランは傘を取り出して、まだ雨が降っていないにも関わらず傘を差した。

「でも……その様子じゃあ、どうやら交渉決裂のようね」

ログは明らかな警戒を示し、いつでも動けるように構えている。

 

 

「──残念」

その一言を残して、フランはログに背を向けて歩き出した。

 

「まっ──」

 

『待て』と言って呼び止めようとした時、首の付け根の辺りに痛みが走る。

反射的に手で押さえると、微かに液体のようなものに触れた感覚が伝わってきた。

 

 

「……」

首元を押さえた手の指に付いた一滴の血──

 

それを洗い流すかのように、雨が振り出してくる。

血は雨によってあっさりと洗い流され、すぐに消える。

 

手に雨粒が落ちて、少し水が溜まったかと思うと、すぐに溢れて振り出しへと戻される。

ログは手を握り締めた。

「ふざけやがって……」

 

ログは雨の中、フランの歩いて行った方向を見て、ただ佇むことしかできなかった。

 

 

----------------

 

 

「あら、もう目を覚ましたの?」

雨の中を歩くフランの先に、ずぶ濡れのさとりが立っていた。

服はびしょびしょ、頭に被る水滴だけは黒の帽子が防いでいる。

 

 

「私のことを吹っ飛ばしておいて、自分は優雅に傘を差すとは……いいご身分ね……」

「少しくらいは感謝してほしいのだけれど」

 

「感謝?ぶん殴れだったら喜んでするけど?」

 

「自分でも分かっているのに、わざわざ死に赴く哀れな命を救ってあげたというのに……」

 

「……」

さとりは何も言葉を発することなく、フランの側へと近づいて行く。

すぐ側まで来ると、さとりは立ち止まってフランの顔を見る。

 

 

「あなたはいつだってそう。自分が正しいとしか思っていないのでしょう?」

「……私は出来る限り、最善の道を行こうとしているだけよ」

 

 

「最善?本当に?」

「それで何か良い方向へと行ったことはある?全員が納得できる道を歩めたの?」

 

「無いんでしょ?それはあなたの思う最善、あなたにとっての最善──」

「その道を歩む為に、いくつも犠牲を作ってきたのでしょう?」

「……」

 

「今回も、私のすることを意味の無い無駄な行動だと思ったんでしょう?」

 

「……」

「何か言ったらどう?」

 

 

「ねえ──」

 

 

「はっきり言いなさいよ……」

 

 

 

「相手の気持ちなんて考えもしてないんでしょ!!」

バシィッ、という音が鳴ったかと思うと、直後にフランの持っていた傘が地面へと落ちる。

 

雨で濡れた地面へと落ちた傘の姿を見て、フランは傘を持っていたその手を下ろす。

 

 

「何で、避けないの……?」

 

「さとり妖怪がそれ(・・)を聞くの?」

 

「……チッ」

さとりは舌打ちをして、背を向けてこの場を去ろうとする。

 

「感情的になっても、死を早めるだけよ」

 

フランがその言葉を発すると、さとりは足を止めてフランの方へ振り返った。

「あなたがそれを言っても、説得力なんて無いわよ」

 

 

「行くわよ」

『は~い』

最後のその言葉を言い終わると、さとりは雨の中を歩いて行った。

 

 

 

 

フランは空を見上げた。

空に浮かぶ黒い雲が、この場に蓋をしている。

光を閉ざし、闇が地上を覆う。

 

空から降ってくる水滴が自身の体を濡らし、雫が体に打ち付けてくる。

 

それに対して、何も思うことは無かった。

 

 

「説得力……ねぇ……」




おまけ

人物紹介コーナー(ミニ)──
襲撃組『リュシス』
毒や幻覚等の効果を持つ霧を操る悪魔。
主に霧を使って暗殺のようなことを請け負っていたが、関係のない者を巻き込むことが多いため、あまり彼に依頼をする者はいないらしい。
睡眠を促す霧をウリにしたところ、それを求める者が急増したらしい。

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