幻想滅失録   作:メイア・カルテシア

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12月ですか……えっ?12月⁉


硝煙

「久しぶりだな──」

「どうだ?一緒に茶でも飲むか?」

巫女服を着た彼女は、階段の方にいる者にそう聞いた。

 

「断らせてもらうわ、生憎私は呑気に茶を啜りに来た訳じゃないの」

「まあそう言うなって、昨日の敵は今日の友って言うだろ?」

 

「友になった覚えは無いし、昨日の敵は今日だって敵よ」

 

「つれねぇなぁ……」

「あなたがおかしいだけじゃない?敵だった奴と一緒にお茶を飲もうとする奴なんて、見たことも聞いたことも無いわよ」

 

 

ここ──博麗神社の上空に、うっすらと雲がかかり始める。

 

「そう言わず仲良くしようぜ?エリシア」

 

「……覚えていたの?」

「そう簡単には忘れねぇよ」

 

 

魔理沙は八卦炉を取り出し、手の上で軽く投げて掴んでを繰り返している。

「ま、そっちがその気なら……付き合ってやらんこともないが……」

 

 

バンッ、という音が響く。

「御託はいい、やるならさっさとしなさい」

エリシアは銃を持って、魔理沙へと向けている。

先程の音と共に放たれた弾丸は、魔理沙の顔の横を過ぎ去っていった。

「……仕方ねぇな……後悔しても知らないぜ?」

魔理沙も八卦炉をエリシアへ向ける。

 

 

静寂が流れる。

風の音がこの場を支配し、その存在を主張している。

 

だがそんな空間は、一瞬にして上書きされることとなる。

 

 

一発の銃声、それが鳴ったかと思うと、魔理沙の方も弾幕を放っていた。

 

 

同時──

二人が動いたのは同じタイミングだった。

 

エリシアは引き金を引き、魔理沙は弾幕を放つ。

 

戦闘の始まりを告げるその攻撃は、両者が避けることによって火蓋を切る役割を成した。

 

お互い、そのまま距離を取る。

エリシアは銃弾で、魔理沙は弾幕で相手を狙いつつ、移動する。

 

 

「『ブラック・ストーム』」

「『ノンディレクショナルレーザー』」

 

エリシアは魔法陣から取り出した散弾銃と持っていた銃を素早く取り替えてからの、高速乱射。

魔理沙は魔法陣からの弾幕や、複数のレーザーを使って攻守を同時に行う。

 

近づく弾丸をレーザーが搔き消し、勢いそのままエリシアへと向かう。

 

エリシアは攻撃を続けながらレーザーをかわし、魔理沙へと接近する。

 

(近づくか……)

エリシアの戦闘スタイルからして、最高のポジションは遠距離。

だが、そんなことを感じさせない程のものがエリシアにはある。

 

この間の戦いからして、恐らくこいつが一番強いのは近距離か中距離。

こいつの警戒するべき点は銃だけではない。

 

打撃──平たく言えば肉弾戦。

あの日喰らった打撃、その一発一発の重みが違った。

 

下手をすれば一撃で骨がやられる。

いや──最悪死ぬ。

 

あれを頭にもろに喰らえば一発で御陀仏だ。

 

加えて、至近距離からの発砲。

それに対応するのはすごく神経をすり減らすからあまりやりたくはない。

 

だからなるべくこいつとは距離を置きたいのだが、そうは言ってられない。

こいつのタフさや体力からして、遠距離じゃあこいつはなかなか仕留められない。

 

確実に殺るには──

 

(至近距離でマスタースパーク(こいつ)をぶち当てるしかない)

 

魔理沙は八卦炉を構え、エリシアを迎え撃つ。

数個の弾幕でエリシアの足場を崩し、レーザーと残りの弾幕でエリシアを狙う。

 

エリシアは迫り来る弾幕を的確に撃ち抜き、レーザーをかわしながら距離を詰めていく。

 

 

「──!!」

魔理沙との距離が残り三メートル程となった時だった。

突如としてエリシアのいる位置の地面が光った。

 

それと共に、エリシアの足が何かに引っ張られたかのように動かなくなった。

エリシアはバランスを崩して前に倒れ込むが、完全に倒れる前に銃を杖のようにしてそれを防ぐ。

 

 

(結界……?)

足の方を見ると、御札が足に巻き付いているのが見えた。

恐らく何かしらの結界の類いだろう。

エリシアはそう結論付ける。

 

だが、魔理沙がエリシアの足を取られたこのタイミングを見逃す訳がなく、転ける寸前の体勢のエリシアに向けて容赦なく弾幕が迫る。

 

 

──が、エリシアはその体勢のまま、弾幕の姿を見ることなく片手だけで全てを撃ち抜いた。

弾幕を撃ち抜くと、すぐさま足下へ弾丸を放つ。

 

結界は壊れ、エリシアは自由の身となる。

 

 

(なるほどな……)

 

(降ってくる弾幕を感覚で撃ち抜いたのか……)

先程の結界の核となる術式は簡単には見つからない位置に書いておいた。

 

大体奴の足下辺りにあった石畳の裏側。

 

集中すれば見つからないことは無いだろうが、あの状況の中、それもあの体勢で見つけることなどそう簡単にできることではない。

 

結界の核を探しながら、背後の弾幕を撃ち抜く。

それをやってのけるとは、敵ながら天晴れと言うべきか……

 

だが、これで奴は警戒せざるを得なくなった。

 

 

この境内には先程の結界のようなものが他にもまだある。

その可能性が出てきた中、下手に動くことはできない。

ましてや、その罠を仕掛けた張本人に無闇に近寄ることなんてできる訳がない。

 

 

これで相手から接近戦を仕掛けられるリスクは減った。

 

 

そう思った矢先──

 

「は──?」

 

エリシアは、近づいた。

 

事前に仕掛けた罠は確実に作動している。

その証拠に、エリシアは何度も結界に足を取られている。

その度に結界を壊し、核が見つからなければ自身の足を吹き飛ばして脱する。

足を飛ばしても、すぐに治してまた歩を進める。

 

何度も何度も結界を壊し、足を吹き飛ばしている。

だが、それでもなお歩みを止めない。

 

一心不乱と言うべきか、エリシアは結界のことなど意にも介さずに進み続けている。

空を飛んで来ればいいものを、あえて茨の道を進んでいる。

その姿に、魔理沙は少しばかりの恐怖を抱いた。

 

 

 

恐れは枷である。

危険へと歩ませないための重りであり、死へと近づけないためのストッパーなのだ。

 

これを弱さと言い、これを克服することこそが強さであると言う者もいる。

 

 

恐れのない者を相手することはとても恐ろしいことだ。

特に、こういった命の懸かった場では尚更恐ろしい。

 

相手を恐れず、危険を恐れず、死すらも恐れない。

失うものは何も無いとばかりに迫り来るその者は、恐怖の対象となる。

 

 

生物は恐れを持つ。

 

それは枷である。

己の命を繋ぐための鎖であり、枠組みから外れないための手綱である。

 

 

 

「──っ!!」

エリシアが銃口を魔理沙の頭に向ける。

その距離はほんの僅かなものでしかない。

 

 

体力の残っている内に境内にある罠を大方作動させる。

それは賭けであった。

 

このまま罠を気にして戦うとなると、精神はすぐにすり減る。

加えて、残り一撃で決着が付くという盤面で罠というリスクを残す訳にはいかない。

そう考えての行動であった。

 

罠によっては一気にこちらが不利となる可能性もある。

それを覚悟しての賭け。

 

 

銃を持つ手に力が加わる。

引き金に掛けた指に力が行き渡ると、指は引き金を引く。

 

銃声が鳴り響く。

 

 

しかし弾丸は空を切った。

 

間一髪、魔理沙は頭を傾けたのだ。

だが、その頬には弾丸が通り過ぎた跡が残っている。

 

魔理沙は八卦炉をすかさずエリシアへと向け、レーザーを放つが、エリシアもレーザーをスレスレのところでかわす。

 

 

「──チッ」

思わず魔理沙は舌打ちをした。

 

 

エリシアは魔理沙に急接近すると、持っている銃をバットのように振る。

 

魔理沙は御札で迫り来る銃を防ぎ、直後に向けられたもう片方の銃の照準から上に飛んで離れる。

魔理沙が飛んだ直後にその銃からは弾丸が射出され、先程自身がいた場所を撃ち抜く。

 

魔理沙はすかさずエリシアを蹴りつけるが、エリシアは体を反らしてかわす。

エリシアは落下中の魔理沙を狙おうとするが、魔理沙が事前に放っておいた弾幕の接近に気付き、先にそちらを対処する。

 

その隙に魔理沙はエリシアへと御札を振り下ろすが、その攻撃はエリシアに届く前にもう一方の銃の銃身によって防がれる。

 

 

ギチギチと、銃と御札が押し合う音が鳴る。

魔理沙は体重を乗せ、さらに力を込める。

 

 

すると、御札は銃身へと入り込み、そのまま銃を一刀両断する。

 

 

切り落とされた銃身は、重力に従ってストンと落ちる。

 

だが、エリシアはそんなことは気にせずに、短くなった銃身を魔理沙へ向ける。

 

「──っ」

魔理沙はそれを見てすぐに回避行動に移る。

足に力を入れ、その場から離れようとする。

 

銃声が耳元で鳴り響く。

放たれた複数の弾丸は魔理沙の髪に触れた。

 

 

 

魔理沙は一度エリシアから距離を取る。

 

(避けきれなかったか……)

魔理沙の左耳の端の方から血が垂れる。

 

耳鳴りがする。

あの距離であんな大きな音を聞いたせいだろう。

 

 

 

(札……)

エリシアは短くなった散弾銃を見ている。

そこには、発射口に刺さる御札の姿があった。

 

放たれる瞬間に御札を投げ、飛んでくる弾の数を減らそうとしたのだろう。

そのおかげか、あの至近距離で撃った割りにはあまり命中しなかった。

 

エリシアは御札の刺さった銃を投げ捨てる。

図ってか図らずか、札はその銃の機能を奪った。

使えなくなった銃の代わりに、新しい銃をエリシアは魔法陣から取り出した。

 

 

「やるじゃねぇーか、耳が切れたのはこれが初めてだ」

皮肉か何かのつもりなのか、魔理沙はそんなことを言った。

「そう……それは良かったわね」

 

「素っ気ねぇな、話すのは嫌いか?」

「別に、あなたと話すことが無いだけよ」

「そうかよ……」

変わらないその態度で返され、魔理沙は少し不貞腐れたように言った。

 

 

「ところで、今回は何が目的だ?」

魔理沙は話題を切り替える。

「……?」

 

「殺し損ねた奴をわざわざ殺しに来たのか?それはお前の意思か?」

 

 

「それとも、ガラって奴が言ったのか?」

 

殺す予定の人物を殺せなかった。

それは人によってはそのプライドを大きく傷つけられるものであり、故に塗られた泥を払拭するために、何としてでも殺そうとする奴だっている。

 

こいつがそのタイプだったら、恐らくここにいる敵はこいつ一人だ。

そういう奴は、自分の手で殺りたがるものだからな。

 

 

だが、そんなことを気にしない奴なら話は別だ。

あくまでも命令に従う。

 

私情ではなく命令を優先し、殺し損ねた落とし前をつけるためにそう命令されたのなら、恐らく敵は複数いる。

 

エリシアが仕留めきれなかった場合の保険として、近くに潜んでいる可能性があるのだ。

 

 

つまりエリシアの返答次第では戦い方を考えなくてはいけない。

 

 

「……」

だが、その質問にエリシアは黙り込んだ。

「……どうなんだ?」

その反応を魔理沙は不思議に思うも、再度問いかける。

 

 

「お前の独断か?」

 

 

「それとも、お前のボス(・・)が命令したのか?」

 

 

そう言った直後、突然大きな音が鳴り、魔理沙の頬を何かが掠めた。

「──?」

頬から血が垂れる。

 

魔理沙の頬に付けられた傷は一つ(・・)──

そのことに、魔理沙の背筋がヒヤリとする。

 

 

ここまでで、魔理沙の頬には二発(・・)の弾丸が掠めた。

なのに、傷は一つ。

 

 

それは二発目──先程放たれた弾丸が一発目が付けた傷と、全く同じ場所を掠めたことを意味する。

 

たまたまではない。

狙って放たれた弾丸が、だ。

 

 

「……」

魔理沙は無言になり、警戒を強める。

 

「これは私の独断。私があなたを殺したいと思ったからここに来た」

そう言うエリシアの声に、魔理沙は圧を感じる。

 

先程とは雰囲気が違った。

無関心で、何も感じていないかのような声に、怒りが籠った。

 

 

「あなた、名前は?」

エリシアはそんなことを聞いてきた。

「……博麗魔理沙」

「そう──」

 

 

「構えなさい、博麗魔理沙」

銃を構え直し、エリシアはそう告げる。

その様子を見て、魔理沙も八卦炉を握り直し、御札を構える。

 

「──ここからは、全力でいくわ」

 

 

 

この場を黒い雲が覆い始め、次第に辺りが暗くなっていく。

 

 

「──!!」

一発の弾丸が放たれる。

一見先程までと何ら変わらない攻撃──

 

(速い……)

だが、その速度が違った。

 

「マスタースパーク」

弾丸を避け、魔理沙も負けじと技を出す。

 

レーザーは地を抉りながら進み、エリシアを襲う。

 

エリシアはそれを避け、弾丸を放つ。

魔理沙がその弾をかわすと、弾丸はそのまま魔理沙の背後にあった木々へと向かう。

 

 

木の倒れる音が響く。

それも一本ではなく、何本も倒れる音。

 

後ろを振り返らずとも、その威力はわかった。

 

 

魔理沙はエリシアへと接近する。

対して、エリシアは咄嗟に銃で防御する。

 

だが、魔理沙は寸前で地面に手を付いて、下から蹴り上げるような攻撃に切り替える。

下からの攻撃によりエリシアの防御が崩され、がら空きとなった身体へ魔理沙は再び蹴りを放つ。

 

加えて、蹴りで体勢を崩したエリシアへ向けてレーザーで追撃する。

 

エリシアは身体に掠めながらも、レーザーの直撃を避ける。

 

 

すぐさま体勢を立て直し、エリシアは銃を構えて即座に放つ。

──が、その時既に魔理沙はその斜線上にはいなかった。

 

 

上空──エリシアの斜め上辺りの方向の先に魔理沙の姿はあった。

八卦炉をエリシアへ向け、魔力を溜めている。

 

「『魔砲』マスタースパーク!!」

その言葉と共に、蓄積された魔力が一気に放出される。

 

エリシアはすぐにそのレーザーの範囲から出る。

 

しかし、それは想定内──

範囲外に出たエリシアへ向けて、魔法陣から放たれる無数の弾幕が飛んで行く。

 

「ッ……」

エリシアは弾幕を撃つ。

 

だが、弾幕を何度撃ち抜けども、次から次に弾幕が飛んでくる。

 

ポツリと、雨が振り出す中、雨粒に混じって弾幕が飛んでくる。

 

エリシアは弾幕を撃ち続ける。

いくら撃てどもキリがないにも関わらず、エリシアは撃ち続けた。

 

 

だが、その速度は次第に速くなっている。

ペダルを漕ぎ出した自転車のように、エンジンを入れ、アクセルを踏んだ車のように、その速度は徐々に上がっている。

 

速度が増し、弾数が増え、飛んでくる弾幕の処理速度が上がっていく。

弾幕の波は次第に押され、弾丸の嵐が勢いを増していく。

 

 

そして、遂にそれは塗り替えられる。

この場を襲うものが、弾幕から弾丸へと切り替わる。

 

目にも留まらぬ速さで行われる連続射撃、数え切れない程の弾丸が高速で放たれる。

 

魔理沙はエリシアを囲うように弾幕を放つことで、自身に飛んでくる弾丸の数を減らそうとする。

 

狙い通り、エリシアはただ一点──魔理沙にのみに向けたものから、周囲に飛ぶ弾幕を含めた範囲攻撃へと移行する。

 

 

魔理沙は弾幕の密度を更に上げる。

だが、その中にエリシアへと届く弾幕は存在しなかった。

 

エリシアへと向かう弾幕はどれもその中心を撃ち抜かれて破壊される。

 

 

しかし、魔理沙の狙いはエリシアではなかった。

 

弾丸の嵐を潜り抜け、何発かの弾幕がそこに行き着く。

そこに辿り着くと、弾幕は炸裂する。

 

そして魔理沙の狙い通り、エリシアの周りにそれ(・・)が浮かぶ。

 

 

「──っ」

その光景を見て、エリシアは不審に思う。

 

 

まず、先刻放ったマスタースパーク──

これの本当の目的はエリシアではなく、その周りの地面。

レーザーによって石畳が砕け、周りに撒き散る。

 

次に、弾幕の物量でエリシアを狙いつつ、まだ残っている石畳を砕く。

 

そしてエリシアの周りに溜まった砕けた石畳を巻き上げるように、弾幕を放って爆破する。

 

 

今、エリシアの周りに浮かぶのはその行程を得た石畳。

 

 

エリシアの放った弾丸は、その石畳を捉えた。

 

「──まさかッ!!」

そこでエリシアは魔理沙の狙いに気付く。

 

 

だが、その反応は一瞬遅れた。

この場にはまだ、罠は残っていた。

 

次の瞬間には、いくつもの結界がエリシアの身体を捕らえていた。

 

 

魔理沙の仕掛けた罠は、感圧センサーのような仕組みで作動するものだった。

人が上に来れば、それに反応して術式が発動し、結界が張られる。

そんな至ってシンプルなものだ。

 

だからこそのこの作戦。

人が上に来たことで加わる重み、それを飛んでくる弾丸の勢いで代用する。

 

そしてその作戦は見事に成功し、エリシアを捕らえた。

 

作戦が上手く行ったことへの一瞬の安堵を感じ、同時に面倒くさがって魔力探知型にしなくて良かったと魔理沙は思った。

 

 

念の為、エリシアが放った最後の弾丸を確認してから魔理沙は動いた。

 

御札を構え、エリシアへと接近する。

 

(少なくとも腕は切断する)

いつまでこの拘束が持つかはわからない。

とりあえずの目標を掲げて、魔理沙は動いていた。

 

エリシアは抵抗する素振りすら見せずにいる。

その事を不気味に思いつつも、魔理沙は距離を詰める。

 

そして、エリシアとの距離が残り数メートルとなった時だった。

 

 

「──ッ⁉」

突然、魔理沙の体が地面に倒れる。

(何だ……?)

起き上がろうにも、身体が重くて動かない。

 

 

突如、地面に引っ張られたかのように身体が重くなった。

突然のことで体勢を崩されたせいか、力が上手く入らない。

 

 

「まさかこんなに仕掛けているとは……やるじゃない」

結界によって身動きを封じられているエリシアが、地面に倒れる魔理沙に向けて言う。

「だけど、これはどうかしら?」

 

 

コロコロと、金属のようなものが転がる音が魔理沙の耳に入る。

音のする方へ視線を向けると、倒れた時か、起き上がろうとした時に当たったのか、弾丸が転がっていた。

 

「──⁉」

すると、突然弾丸は先程まで地面に転がっていたとは思えないスピードで前へと飛んでいった。

 

弾丸が飛んでいった先には、別の弾丸が落ちている。

 

飛んでいった弾丸がその弾に当たり、上に打ち上げる。

 

打ち上がった弾丸は、まるで放たれた時の勢いを取り戻したかのように動いた。

 

その弾が別の弾に当たり、さらにそれによって動いたその弾が別の弾に当たる。

弾数を増やしながらそれを繰り返していき、気が付けば魔理沙の周りを先程のように弾丸が飛び交っていた。

 

 

倒れ込む体に雨が打ち付ける。

弾丸がいつ向かってきてもおかしくはない。

 

 

「………」

それはまるで敗北したかのような気分だった。

地面に倒れ込んで、相手を見上げるのは……

 

 

重い腕を動かし、起き上がりやすい位置に移動させる。

両手を濡れた地面に付き、力を入れる。

重い上半身を起こし、片膝を曲げて、足の裏を地面に付ける。

 

足に力を入れ、魔理沙は立ち上がった。

 

 

飛んでくる弾丸を弾幕で撃ち落とし、エリシアの顔を見る。

 

「──ッ」

 

エリシアを見る魔理沙の顔は、笑っていた。

まだ戦えると、まだ負けていないと言うように、笑っていた。

 

「……」

エリシアを拘束する結界が壊れる。

先程の弾丸で結界にダメージを与えていたのだろう。

 

 

「振り出しだな……」

「そうかしら?あなたの方が追い詰められているような気がするけど?」

 

傷を負い、今もなお謎の体の重みを感じている魔理沙と、目立った傷はないエリシア。

どちらが押されているかは分かりきっている。

 

「はっ、準備運動ってやつだよ。お前をぶっ飛ばすために身体を温めてたんだよ」

 

 

「強がっているの?」

「それはそっちだろ」

「……?」

魔理沙のその言葉に、エリシアは疑問を浮かべた。

 

「……お前がどうしてそんなに強いのか分かったよ」

 

「お前は死ぬことを恐れていない」

「死ぬのが怖かったら、あの時のように罠のあるところへ自ら突っ込むことなんかそうそうできねぇ」

「だけど、お前は迷い無くそうした」

 

「それがどうかしたの?」

「自分は死ぬことなんて怖くないって言い聞かせてんだろ?そうやって強がってんだろ?」

 

 

「だったら私もそうする。お前と同じ土俵に立ってやる」

魔理沙は足に力を入れる。

重くなった体を動かすために、いつも以上に力を込める。

 

 

地面にヒビが入る程の踏み込み──

魔理沙は一瞬にしてエリシアに接近する。

 

「──!!」

エリシアは即座に銃を構える。

 

弾幕を放ちながら近づく魔理沙に向けて弾丸を放つが、その全てをかわされる。

 

「……ッ」

魔理沙はエリシアへ一直線に向かっていく。

 

エリシアは横に逸れてそれを避けるが、魔理沙はすぐに方向を切り替えて再びエリシアへと向かう。

 

エリシアは銃を撃って牽制をするが、それは意味を成さない。

魔理沙は飛んでくる弾丸に見向きもせず、エリシアへと向かっている。

 

「──チッ」

 

その時、魔理沙の身体が突然軽くなる。

それによって魔理沙は一気にエリシアとの距離を詰めるが、そう簡単にはいかなかった。

 

エリシアが飛ばした弾丸が突然軌道を変え、魔理沙へと向かっていったのだ。

「……」

魔理沙は即座に御札を構え、飛んできた弾丸を捌く。

そしてそのままエリシアへと攻撃を仕掛ける。

 

エリシアは銃で防御をするが、魔理沙は攻撃の勢いを使って防御した銃を遠くへ弾き飛ばす。

魔理沙はすぐに八卦炉を構えるも、エリシアはお返しとばかりにもう片方の銃身を使って魔理沙の手から八卦炉を弾く。

 

だが魔理沙は動揺することなく、エリシアの持つもう片方の銃へ御札を投げて壊そうとする。

銃口に御札が刺さった瞬間に、エリシアは即座にその銃を見限り、魔理沙の方へ投げる。

 

投げつけられたそれを魔理沙は片手で弾き、お互い武器を持たぬ肉弾戦へと持ち込む。

 

 

まずエリシアが放った拳を魔理沙は姿勢を低くして避け、地面に手を付いて流れるように蹴り上げる。

魔理沙の足先は、エリシアの顎スレスレを通過する。

 

エリシアは一度少し下がってから、魔理沙へと近づいた。

魔理沙の身体へと蹴りを放つが、当たる寸前のところで魔理沙はかわした。

 

すぐに体勢を立て直して魔理沙はエリシアへと接近し、握り締めた拳を振る。

 

エリシアはその打撃を腕で防御するが、魔理沙はすぐに何発も打撃を放ってくる。

この状況から脱するために、魔理沙から少し距離を取ろうとするが、後ろに下がったことで二人の間に空間できた瞬間に、魔理沙は回し蹴りをエリシアへ当てる。

 

その攻撃でエリシアの防御が崩れたところへ、魔理沙は追撃を加えようとするが、その足を止める存在があった。

 

 

エリシアが先程撃った弾丸がまだ飛んでいる。

足元にその内の一発が落ちたのだ。

魔理沙が同時に放った弾幕によっていくらか防げてはいるが、弾幕の正確な操作無しで全て防ぐことはやはり厳しいようだ。

 

エリシアはその隙に体勢を直し、逆に魔理沙へと肉薄する。

 

迫ってくるエリシアを魔理沙は迎え撃つ。

互いの攻撃をいなし、すぐさま反撃をする。

殴る蹴るの応酬、両者一歩も引かない肉弾戦を繰り広げる。

 

 

肉弾戦の果てに、二人の動きが止まった。

 

魔理沙の右の拳がエリシアの頭を狙うが、エリシアはそれを左手で受け止め、エリシアが魔理沙の腹を狙った右の拳は、当たる前に魔理沙の左手で受け止められている。

 

 

「……チキンレースでもするか?」

弾丸と弾幕が二人の周りを飛び交っている。

 

お互いの頭上を弾丸と弾幕が通り過ぎ、両者の足元へと弾丸や弾幕が次々に落ちる。

その間、二人は時が止まったかのように動かなかった。

 

やがて弾丸と弾幕が全て地面へと落ちていく。

残り三つ、二つとその数を減らしていき、最後の弾丸と弾幕が同時に地面に落ちる。

 

 

それを合図に、魔理沙とエリシアの両者が同時に動いた。

 

お互い逆方向へと走り出し、それを目指す。

 

魔理沙は八卦炉を、エリシアは銃を手に取り即座に放つ。

 

二人が放った弾幕と弾丸は空中でぶつかり、爆発を起こす。

 

爆風の中を両者は突っ切り、お互い弾幕と弾丸を何度も放つが、どれも相殺されるかかわされる。

 

 

『埒が明かない』

そう思ったのは、両者同じタイミングだった。

 

魔理沙から距離を取ったエリシアは今持っている銃で魔理沙を狙い、銃身が壊れる程の威力の弾丸を放つ。

 

しかし、弾丸は魔理沙の頭の横を通り過ぎる。

 

エリシアはすぐに銃を投げ捨て、魔法陣から新しい銃を取り出す。

 

魔理沙はエリシアへと距離を詰めながら八卦炉に魔力を溜め、エリシアも取り出した銃に魔力を籠める。

 

 

最後の一撃──

互いが直感でそう感じた。

 

 

二人の距離はあっという間に狭まっていく。

 

 

「──ッ」

 

そして、二人の距離が一メートルも無くなった時相手の額に武器を向けていたのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──魔理沙だった。




おまけ

人物紹介コーナー(ミニ)──
襲撃組『ダイスト』
触れたものを炭にして粉々にする悪魔であり、普段は手袋を着けている。

一見、力が思わぬ時に発動していまうことを防いでいるように見えるが、本当のところは素手だと自身のことを知っている者に警戒されてしまうので、少しでも敵意がないということを表すためらしい。
そのため、力のオンオフはできるが誰かと素手で触れ合うことができないらしい。


結構長い回になってしまって申し訳ないです。
感想、コメント等お待ちしてます。
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