幻想滅失録   作:メイア・カルテシア

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あの日の傷跡──


銃創

それは私がまだ幼かった頃の事だった。

 

 

私の父が処刑された。

 

 

────────

 

 

ある日、王の暗殺を企てたとして、父は捕まった。

 

当然父は否定した。

身に覚えはないと、そんなことを考えたことは無いと。

 

だけどその言葉は誰にも聞いてもらえず、父の処刑が執り行われることになった。

 

 

見せしめのためか、大勢の前で父は処刑された。

件の王に、告発した者、父の同僚、父の知り合い、面白見たさの野次馬、そして私と母。

大勢が父のその姿を見た。

ボロボロになって、ひどくやつれた父。

きっといっぱい拷問をされたのだろう。

 

父は刃が落ちてくるその時まで、必死に無実を訴えた。

 

 

頭だけになった父が、ゴロンと転がってきたことは、子供の私には耐えられなかった。

 

 

私の母は強い人だった。

母は人に何と言われようと、父の無実を信じた。

 

「大丈夫よ、エリシア。私はあなたを置いて何処かへ行ったりしないから」

そして、優しい人だった。

 

父がいなくなってからは、母が一人で私を育ててくれた。

 

王の暗殺を企てた者の妻という肩書き故に、親戚や知り合い等に頼ることができなかったのだろう。

 

父方の祖父母は、父が捕まった時に自らも捕まることを恐れてどこかへ逃げたらしい。

母方の方は、祖父が病死、祖母は母が幼い頃に事故にあって亡くなったそうだ。

 

 

だけど、頼る人がいなくても、母は強い人だった。

 

いつだって、堂々としていた。

 

父はそんなことをする人じゃないと、父は無実だと。

だから堂々と生きろと、母は私に言った。

私は罪人の娘では無いと、だから周りの事など気にするなと、私に言った。

 

 

母は本当に強い人だったと、私は思う。

 

罪人の一家だと罵られても、家のドアに心無い張り紙が張られていても、母は堂々としていた。

 

逃げなかった。

 

やり返したりもしなかった。

 

石やらを投げつけられた時は、母は私を庇ってくれた。

 

私は、母の弱いところを見たことが無かった。

いくら迫害されようとも、いくら罵詈雑言を浴びせられようとも、母はずっと、父を信じていた。

 

そんな母の姿を見て、私は勇気を貰った。

母のように堂々と生きようと、そう思った。

 

 

だから──

 

 

 

 

 

母が死んだ時、私はひどく絶望した。

 

 

母のような人でも死ぬんだと、そんな現実に絶望した。

 

 

それはある日のことだった。

母が私の誕生日に、一人ケーキを買いに行った時──

 

 

へこむこと無く、堂々としていた母のことを良く思わなかったのか、帰り道で突然襲われて、殺されたらしい。

 

 

誕生日を迎えた私に届いたのは、サプライズのケーキではなく、母の訃報だった。

 

 

不思議なことに、涙は出なかった。

ただ、空虚になった心と、深い闇がそこにあった。

 

明かりも点けずに、丸三日は何もすることなく過ぎた。

ぐちゃぐちゃになった感情が、私を縛り付けて離さなかった。

 

 

三日経って、ようやく私は動いた。

腹が減っていたのか、喉が渇いたからか、その時突然動いた理由は、自分にもわからない。

 

今思えば、虫の知らせというものだったのだろうか?

それとも、母の霊か何かが、私を動かしたのだろうか?

 

 

私は外に出ていた。

それもドアではなく、窓から。

足が勝手に窓に向かっていたのだ。

 

 

外に出て、ふと後ろを振り返ると、私の家に知らない人達が入っていくのが見えた。

 

 

「本当にいるのか?ここ最近は誰もあの家に入っていないし、電気すら点いていなかったぜ?」

「いや、娘が残っているはずだ──」

 

そんな会話が聞こえてきて、私は少し早足でその場を離れた。

 

 

 

----------------

 

 

 

私は歩き続けた。

目的地なんて無い。

 

行く当てもなく、ひたすらに歩いた。

 

 

今まで通ったことのない路地裏を進んで、見たことのない町並みを通り過ぎて、私はただ歩いていた。

 

 

もう何回目かもわからない路地裏に入った頃だった。

 

 

私の足を、何かが突き抜けた。

 

 

「ようやく見つけたぜ、嬢ちゃん?」

後ろを振り返ると、ハンドガンを持った男に、その取り巻きのような男が二人いた。

 

「ダメだろォ?ちゃんと掃除しないと。窓際にホコリが溜まってたぞ?」

 

窓際に溜まったホコリ、そこに私が外に出る時の手形が付いてしまっていたのだろう。

 

「やれ」と、真ん中の男が言うと横の二人がこちらへと向かってきた。

 

 

私は逃げようとした。

何かに引っ張られるように、私の体がこの場から逃げようとした。

 

だけど、それはできなかった。

 

直前に足を撃たれたせいで、私は地面に倒れていた。

 

 

二人の男は倒れた私の側へ来ると、私を思いきり蹴った。

「うッ……」

壁に向かって蹴っ飛ばされ、その後も、何度も何度も蹴りつけられた。

 

血を吐いても、気が遠くなっても、それが終わることは無かった。

 

 

 

「……こいつ、中々しぶといな」

しばらくすると、私を蹴っている男の内の一人がそう呟いた。

 

その言葉を聞いてか、ハンドガンを持った男が二人を止めた。

二人をどかして、男が私の目の前でしゃがんだ。

 

「丈夫なんだな、お前」

私をバカにするような声で、男は喋った。

 

 

「親譲りってやつか?」

 

 

「お前の母さんも、中々にしぶとかったもんなァ」

男は私の頭を手でポンポンと叩きながらそう言った。

 

 

「……え?」

その言葉を、私はすぐには受け止められなかった。

 

 

「ンだよ、にっぶいなァ」

男は頭を掻いた。

「嬢ちゃんでも分かるように言ってやるとだな──」

 

 

「お前の大好きなお母さんの下に連れていってやるよってことだよ!!」

男はそう叫びながら私に銃口を向けた。

 

 

 

それが初めてだった。

 

 

 

「うわぁぁぁァ!!」

目の前の男の後ろにいた者が、突然吹っ飛んだ。

 

「ん?」

その叫びで男が後ろを振り返った瞬間、私はその男を殴った。

ひどく弱った、虫の息の少女が放った一撃──

 

 

だがその一撃で、男は反対側の壁にまで吹き飛ばされた。

 

 

 

本気で誰かを殺したいと思ったのは──

 

 

 

「兄貴ッ⁉」

残った男が何かを叫んでいたが、そんなことは気にならなかった。

 

「テメェ!!」

男はすぐにこちらへ殴りかかろうとした。

 

「近づくなッ!!」という、先程殴った男の警告も虚しく、私へと殴りかかってきた男は壁に勢いよく激突して死ぬことになった。

 

 

「こいつ……」

(何だ……?土壇場で覚醒でもしやがったのか?)

 

男は即座に少女に向けて弾丸を放つ。

かなり適当に放たれた弾丸、動かなくても殆どが当たらない。

 

男は最初に吹き飛ばされた者をチラリと見る。

(……頭が潰れて即死……残っているのは俺だけ……出し惜しみをしている場合じゃねぇか……)

 

百発百中の弾丸(トリックショット)

その時、少女の横を通り過ぎた弾丸の向きが突然変わる。

 

 

「磁力ってのを知っているかな?お嬢ちゃん!!」

自身の魔力を籠めた物体に磁石のような性質を付与し、何か別の物へと引き寄せられるようにする。

それが男の力だった。

 

 

今まで通り、勝てると思っていた。

 

殺して、金を貰って、良い飯でも食いに行こうと思っていた。

 

 

自身が放った弾丸が、少女に辿り着く前に全て潰れるまでは──

 

 

----------------

 

 

気が付いたら、私の目の前には血溜まりが広がっていた。

真っ赤になった手に、返り血がベットリとついた服。

気付けば足も治っていた。

 

 

初めて誰かを殺した。

だけど、どこか清々しい気分だった。

何かをやり遂げたような気分だった。

 

それを知ってしまったのがいけなかったのかもしれない。

 

 

ザワザワと、路地裏の外から声が聞こえた私は、警官が来る前にその場から逃げた。

 

 

----------------

 

 

私はその後も逃げ続けた。

路地裏であの三人を殺したことで、私は追われる身となった。

だけど、それでもよかった。

 

追手を殺して、行き場のない感情を私は誰かにぶつけていた。

 

自分でも分からないこの感情を、私の内から消したかった。

それが、その時の私の生きる意味だった。

 

だけど、もうまともに生きることなんてできない私には、生きる意味なんてどうでもよかった。

訳も無いのに死にたくはなくて、何でもいいから生きる理由が欲しかった。

 

両親と同じように殺されるくらいなら、殺られる前に殺る。

誰かを殺す理由も、そんなことでよかった。

 

 

逃げている途中で手に入れた銃を片手に、私は彷徨い続けた。

 

 

逃げ続けた私は、気が付けば街から遠く離れた田舎に来ていた。

 

 

戦い続けて服はボロボロ、まともに休むこともできず、ふらつく足取りで道なき道を進んでいた私の前に、淡い金髪をした、小さな角の生えた少女が現れた。

 

「あの……大丈夫?」

それが、私と彼女の出会いだった。




おまけ

人物紹介コーナー(ミニ)──
襲撃組『アトフィシア』
五人の悪魔たちを束ねるリーダーのような役割を背負ってしまった悪魔。
悪魔の中でもそこそこの一族の悪魔らしく、大気中に存在する物質の状態を変化させることができる。
水分を一瞬で氷にしたり、二酸化炭素をドライアイスへ変えたりなどができる。
フィティスが補佐する担当らしいが、もうフィティスがリーダーでいいのではと思っている。
悪魔らしく羽があるらしいが、普段は隠しているとのこと。

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