二人の影が、博麗神社の縁側にはあった。
「後ハ私ニ任セナサイ。ソノ場所ハ私ガ探シ出シテアゲル」
「その件はお前に任せるし、お前が適任だろうが……私が言いたいのはそれじゃあねぇ」
「──お前、今までどこにいた?」
鋭い目付きで魔理沙は紫を見る。
「アラ怖イ、ソンナニ睨マナイデ」
「少しはマシになったようだが、その言葉遣いは直らないようだな」
「オ口ガ悪イワヨ、魔理沙」
「一年……いや、二年か?まあどっちでもいい……その間、どこで何をしていた?」
「……」
「彩乃もお前が連れてきたんだろ?」
警戒心を剥き出しにした魔理沙が紫に詰め寄る。
「……魔理沙、アナタハ私ニ何ヲ求メテイルノ?」
紫は魔理沙の顔を見る。
「答エ?私ガ何ヲシテイタカノ答エ?」
「ソレヲ聞イタラ、アナタハ私ニ『力』ヲ貸シテクレルノ?ソノ答エガ『ノー』デアルノナラ、私ハ話スツモリハ無イワ」
「何カガ欲シイノナラ、アナタモ何カヲ差シ出シナサイ」
「ソレガデキナイノナラ、タダ少シ長イオ昼寝ヲシテイタトデモ思ッテイタライイワ」
紫はそう告げて、スキマを開く。
「おい、話は終わって──」
「魔理沙、コノ世界ニハ知ラナイ方ガイイコトダッテアルノヨ」
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スッと、襖が開かれて、魔理沙が部屋へ入る。
「……さっきの妖怪は?」
「どっか行った」
呆れたような返答をした魔理沙は、部屋で待っていたエリシアの側に座る。
「ああいう奴なんだ。突然現れたかと思ったら、すぐにどこかへ行って、姿を見せなくなる」
「……あの妖怪は信じてもいいの?」
「……さぁな、あいつが何を思って行動しているかなんて、分かったもんじゃない」
────────
小さくなった氷も溶けて、水面から氷が姿を消していく。
「……」
「お疲れさま」
「登場の仕方がワンパターンだな」
地べたに座り込んで、湖を見ていた彩乃を見下ろすように、フランが立っていた。
「別にいいでしょ?」
何か問題があるのかとでも言うような言葉だった。
「……傘でも持ってきてくれたらいいのに」
「フフ、今はそういう気分なのよ」
「雨に濡れる趣味でもあるのか?」
「そういうことではないわ」
フランは即答した。
「戻りましょう?風邪を引くわよ」
そう言われた彩乃は立ち上がって、紅魔館へと歩を進めた。
「……」
その姿を見て、フランも館へと歩き出した。
◆◇◆◇
「お帰りなさいませ、お嬢様」
紅魔館に戻ると、タオルを持った咲夜が待っていた。
「こちらを──」と言って、咲夜はフランにタオルを手渡す。
「ありがとう」
次に咲夜は彩乃にもタオルを渡す。
「私が先に着いたのに……」
彩乃は咲夜に聞こえないようにボソッと呟いた。
「何か温かいお飲み物でもご用意いたしましょうか?」
「ええ、二人分お願い」
「かしこまりました」
そう言って、咲夜は姿を消した。
◆◇◆◇
テーブルにはコップが二つ。
彩乃とフランの前にそれぞれ置かれている。
彩乃は自身の前にあるそれを飲む。
ほんのり温かいココアが、冷えた身体を温める。
フランも、用意されたミルクコーヒーを飲んでいる。
「彩乃──」
「今日か明日にでも、博麗神社の方へ戻るかしら?」
「……?」
唐突にされたその質問に、一瞬の間が空く。
「……いきなりどうしたんだ?」
「深い意味は無いわ。このまま
「私としては、どちらでも構わないのだけど──」
「帰ってみたら、意外なことがあったりするものよ」
遠回しに帰った方がいいと言っているようにも聞こえる言葉だった。
だが、その言葉を聞いて彩乃は少し考える。
当初、ここに来た理由はアリスの件だった。
アリスを預かってくれる場所を探して来たのだが、何やかんやあって、一日だけだったはずが一週間はここに居る。
正直慣れた。
ちょくちょくフランに先回りされていることも、気付いたら館の家事を終わらせているメイドがいることにも慣れた。
アリスは……正直関わりがあまりない。
フランがたまに様子を見ていたりするが、この中の誰よりもアリスと一緒にいるのは咲夜だろう。
自分がここにいる理由も無い。
魔理沙の怪我も治っただろう。
もう戻っても問題は無い。
「……なら、一度戻ってみる」
「そう……分かったわ」
空のコップを置いて、彩乃は立ち上がる。
「アリスは私の方で預かってあげると、魔理沙に言っておいて」
「わかった」
一言そう言って、彩乃は部屋を出た。
「……少し、寂しくなるわね──」
────────
「そうだな……今日はここで寝てくれ──」
魔理沙はある一部屋にエリシアを案内する。
そこは一応彩乃が使っている部屋なのだが、今は本人が居ないので問題は無いだろう。
彩乃の私物もたいして置かれていないので丁度いい。
「分かった」
エリシアもその部屋で寝ることに納得したようだ。
「さて……」
とりあえず晩飯でも作って、明日にでもフラン達にエリシアのことを紹介すればいいだろう。
──と、思っていたのだが……
事件は夕暮れ時に起こった。
「「誰?」」
想定外の彩乃の帰宅──
それにより起こった、彩乃とエリシアの邂逅。
両者共に相手の動きを伺い、警戒している。
あちら側に立っているメイド服の彼女は、何も言わずに突っ立っている。
この時の魔理沙の脳は平時の約三倍以上のスピードで回転し、状況を把握させた。
面識の無い二人、ただ突っ立っているだけのメイド──
この場をどうにかできるのは自分だけだった。
「い、一旦落ち着けよ……な?」
魔理沙は急いで二人の間に割り込み、一度落ち着くように促す。
彩乃の方はすんなりと受け入れてくれたようだが、エリシアの方はまだ警戒の色が抜けていないようだ。
「咲夜、何で彩乃がここに居るんだ?」
次に、魔理沙は何か知っているであろう人物に説明を求めた。
「あら、一時的に預かって欲しいと言ったのはあなたでしょう?でも、あなたがいつまで経っても迎えに来ないから、こうして連れてきたのよ?」
「だとしても、何で今なんだ⁉」
「そっちの状況なんて知らないわよ」
「
いや、あいつのことだ……分かっててやったな……
「……はぁ、じゃあアリスは何処なんだ?」
辺りを見渡しても、アリスの姿は見えない。
まさか彩乃だけを連れて来たのかと、魔理沙は思った。
「アリスの方はこちらで預かってあげるわ」
「何でだよ⁉」
何故アリスだけを預かるのかという疑問に、思わず声が出た。
「じゃあ、そういうことだから──」
「いや、待っ──」
待てよと、そう言い切る前に咲夜は姿を消した。
「……」
(一人で何とかするしかないのかよ……)
この後、魔理沙は急ピッチで三人分の食事を作り上げた。
◆◇◆◇
食後、彩乃が席を外したタイミングで、魔理沙はエリシアと話していた。
あの後も、エリシアと彩乃の間には若干の距離があった。
その事での話だ。
「別に悪い奴じゃ無いからさ、まあ……仲良くしてやってくれないか?」
「……まあ、あなたがそう言うなら」
エリシアはそう言うが、どこか腑に落ちないというような感じがあった。
それに、ここまでのエリシアを見ていると、どこか落ち着かないといったような雰囲気があった。
エリシアにとって受け入れ難い何かがあるのだろうか?
「なあ、エリシア」
「……?」
「……何か気になることでもあるのか?」
一応、魔理沙は聞いてみることにした。
「……」
エリシアは言いづらそうにしていた。
「正直に言っていいんだぜ?後で何か言われたら、私が謝っておいてやるからよ」
魔理沙は軽く笑ってみせた。
それを見てなのか、エリシアは言葉を絞り出した。
「……その……あいつの、雰囲気というか……気配というのか……何だか気味が悪くて……」
「居るようで居ないような……そんな、変な感じがして……」
「──まあ、確かに」
何だそんなことかと、魔理沙は思った。
「……?」
「大丈夫、慣れれば気にならないからさ」
正直、彩乃の気配については最初の頃は私も少し気になっていた。
でもまあ、慣れればあまり気にならなくなった。
「そ、そう……」
エリシアは若干困惑しているようだった。
自分が気になっていたことが、別の人にとっては大したことでもないという状況が、エリシアを何とも言えない気持ちにさせていた。
「……そういえば、あいつはどこで寝るの?ここ、そんなに部屋は無さそうだけど……」
唐突に、エリシアはそんなことを聞いてきた。
「あっ──」
◆◇◆◇
夜が深くなり、寝る時間としては丁度よくなった頃──
「何でいるんだ?」
例の部屋には二つの影があった。
「いや……魔理沙がここで寝ろって……」
「俺がここで寝る。違う部屋に行きなよ」
どちらがこの部屋を使うかで、二人は揉めているようだった。
「その部屋が無いのよ」
「探せばあるんじゃない?」
「ここしか無いから、布団が二つあるのでしょう?」
エリシアの言うように、部屋には布団が二つある。
つまり、二人で使えと魔理沙は言っているのだ。
「無駄な言い争いで疲れさせないでよ……」
「どの口が言っているんだ?」
どちらが部屋を使うか論争は、あっさりと終わった。
────────
「狭い」
仕方なく布団を敷いて、二人は寝ることにしたのだが、如何せん部屋が狭かった。
アリスの時は、アリスが小さかったので何とかなったのだが、あまり体格の変わらぬ二人の場合だと、そうはいかない。
布団を二つ敷いたら床がほぼ布団で埋め尽くされ、相手の存在を間近に感じる。
「ここ、何の部屋だったの?」
思わずエリシアがそう聞いた。
「……魔理沙の物置だった場所」
「どおりで……」
狭さの理由を、エリシアは納得した。
「……もうちょっと向こうに行って」
彩乃がそう言うと、「あなたが離れなさいよ」とエリシアが言い返す。
「はぁ……」と、彩乃は溜め息をついた。
「……」
エリシアはその溜め息を聞き逃さなかった。
「えいっ──」
そんな声が聞こえたと思ったら、突然彩乃の視界が覆われる。
「……何これ」
彩乃の視界を覆うもの──それはエリシアの羽だった。
「これなら私が居ても気にならないでしょ?」
「余計気になる」
「ほらほら~、ちゃんと寝なさい?」
羽をゆっくりと動かして、赤子を寝付かせる時の母親のように、彩乃の体をトントンと叩く。
「寝れない」
「はいはい──」
そう言われ、エリシアは羽をしまう。
少しの間、沈黙が流れた。
「……」
「……ねえ」
その沈黙の中、エリシアが口を開いた。
「……ん?」
「あなたはここに来て長いの?」
突然投げ掛けられた何の変哲も無い質問に、彩乃の返答に少し間が空く。
「……そんなに」
「そう……」
エリシアは体を回転させて、彩乃の方を向く。
「……あなた、名前は?」
「魔理沙から聞いただろ?」
「あなたの口からは聞いていない」
「……白月彩乃」
「エリシア・アールヴェル」
互いに簡潔な自己紹介を交わした。
「……ねえ、彩乃」
「少し話さない?」
「まだ……眠れないから──」
────────
少しの間、二人は話した。
自身のことや幻想郷のことを話す内に、お互いに少しずつ打ち解けていったように感じる。
「──あなたとは気が合いそうね……」
「少し、近いものを感じるというか……ま、気にしないで」
エリシアはそう言うと、ゴロンと半回転して、上を向く。
他愛もない会話をしていたら、眠気も強くなってきた。
「……ねえ」
エリシアがポツリと呟いた。
「……?」
「なんで『俺』って言ってるの?」
「……」
「■■■■■■■■■■■■」
「……何それ?」
エリシアは訳がわからないと言うようにそう呟いた。
「……なんでもない」
エリシアは結構頑張って彩乃に話しかけていました。
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