幻想滅失録   作:メイア・カルテシア

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少し遅れてのメリークリスマス


大嫌い

深い夜の闇の中、エリシアは森を歩いていた。

フーッと息を吐けば、吐いた息は白い煙として姿を見せる。

 

「寒いわね」

寒い季節ではあるのだが、それにしたって寒すぎる。

 

少しすると、開けた場所に出た。

 

 

「まあ、あなたはそういう奴だったわね」

暗闇の中に立つ者へとエリシアは視線を向ける。

 

 

「一人……しかもあなたが?」

「私も随分と舐められたものね」

木にもたれ掛かるようにして立っているその者は、こちらの姿を見てそんな悪態をついた。

 

「そりゃああなた、負けたんでしょう?妥当としか言えないんじゃない?」

「それよりも、あなたは随分しぶといようね……ツドラ」

 

赤く染み付いた羽に、ボロボロの服のツドラがそこにはいる。

彼女はこちらを睨み、敵意を露にしている。

「少なくとも、私をこんなことにした奴を殺すまでは死ねないわ」

ツドラは自身の周囲に槍のような鋭い氷をいくつも生成する。

 

「本音を言えばあの人間がよかったのだけど……この際あなたでもいいわ」

「八つ当たり?」

そう聞くと、ツドラはフフッと少し笑った。

 

「前から思っていたのよ、あなたのような癪に障る悪魔どもを叩き潰したいって!!」

 

その叫びと共に氷の槍は動き出した。

それらは一直線にエリシアへと向かうが、対してエリシアは全く動じずにいる。

 

やがて氷の槍が、手を伸ばせば届きそうな距離にまで接近した時、一発の銃声が鳴り響く。

それと同時に、エリシアへ向かっていた氷の槍が弾丸の放たれた衝撃によって破壊される。

 

「──ッ!!」

ツドラは即座に氷の防壁を築く。

 

しかし、厚さ50センチに及ぶ分厚い防壁を、弾丸は一撃で貫通した。

ツドラは咄嗟に回避行動に移るが、それは間に合わず、貫通してきた弾丸がツドラの左翼を貫いた。

 

「グッ……」

ツドラは痛みを噛み締める。

痛みがあれども止まることはなく、ツドラはエリシア目掛けて一直線に凍らせて、直後にエリシアの下へと跳ぶ。

 

 

「『氷界(ひょうかい)』」

着地によって生じた衝撃と共に冷気が放たれ、ツドラの周囲が一瞬で氷漬けにされる。

 

エリシアは後ろに飛んでそれをかわしながらツドラに向けて弾丸を放つ。

 

 

ツドラは飛んできた銃弾をかわすと、エリシアとの間合いを詰め、氷を纏った足で蹴りを放つ。

 

銃身でそれを受け流し、即座に取り出したもう一つの銃でツドラの頭を狙う。

しかし引き金を引く前にツドラが銃口を凍らせたため、エリシアはすぐに銃を持ち直してその銃身を振るう。

 

瞬時に行われたその行動にツドラの回避は間に合わず、凍らせた銃口の部分が顎を掠め、一瞬できた隙に横腹へ蹴りを捩じ込まれる。

 

 

「ガッ……」

ツドラは蹴りの衝撃で吹き飛ばされるが、空中で身を翻して地面に叩き付けられることなく着地する。

 

 

「悪魔風情が、裏切った上に私に傷を付けるなんて……」

ツドラは憎しみの籠った目をエリシアへ向ける。

「裏切る?そもそも私はあなたたちの仲間になった覚えは無いのだけど」

 

「違う。あなたが裏切ったのは私の期待よ」

「私の踏み台として無様に散るという期待を、あなたは裏切ったの!!」

「それだったら裏切って大正解じゃない」

 

 

「ずっと、あなたのことが大嫌いだった」

「勿論あのログ(ゴミ)も嫌いだけれど、あなたのことも同じ位嫌い」

 

「ガラに恨みがあるような雰囲気を出しておいて、トラウマか何かで何もできずにいたあなたの姿はお笑いだったのに……」

「それが何?今更ガラに楯突こうって……?ふざけているの?」

 

「少なくとも、ガラにビビっておとなしくしていたあなたには言われたくないわ」

「ビビる?私は機会を伺っていただけよ」

 

「あなたよりログの方がずっと狡猾だと思うのだけど」

「あんな奴と一緒にしないでくれる?」

 

「私は悪魔なんかと一緒の空間になんて一秒たりとも居たくなかったのよ。それでも我慢してあげたのに、あろうことかガラ(あいつ)は悪魔と一緒に私を追い出した!!私を悪魔と同じ扱いをしたのよ!!」

 

「それもこれもあなたたちのせいよ」

「あなたたちが何もできないせいで私まで巻き込まれているの。お陰で何もかも滅茶苦茶よ!!」

 

「滅茶苦茶って……それは私たちのせいじゃなくて、あなた自身のせいじゃない?」

「──は?」

 

 

「言っていたわよ、『まるで使い物にならない』って」

「あの感じだと、ガラが一番要らないって思っていたのは、私やログなんかよりもあなたの方じゃないかしら?」

 

 

「……」

 

 

ほんの一瞬、言葉というものを忘れたかのような無言の時間が訪れる。

そして、その静寂を越えたその時、ツドラの堪忍袋の緒が切れた。

 

 

氷天極玉棘(ひょうてんきょくぎょくきょく)

 

突如動き出したかと思うと、ツドラは無言で攻撃を再開する。

無数の氷の玉が四方八方に飛び散っていく。

 

 

エリシアはすぐに構えた。

自身の方へ飛んでくる氷の玉を撃ち抜き、その数を減らしていく。

 

直後に氷の玉から棘が伸び始めるが、伸びている最中にもエリシアは銃弾を放ち、棘の進行を妨げる。

 

 

氷の棘と棘の間にある程度の隙間ができた瞬間に、エリシアは一瞬でツドラとの距離を詰めにいく。

移動しながらも銃を撃ち続け、周囲の氷の棘を一掃するが、ツドラは完全に間合いに入られる前に背後にある森の中へと逃げ込んだ。

 

 

エリシアもツドラが逃げ込んだ森の中へと続く。

 

 

暗い闇に覆われた森は、少し離れただけでも草木はその姿を見せなくなる。

 

そんな暗闇の中から、無数の氷が飛んでくる。

 

エリシアは即座に氷を撃ち落とし、流れるように暗闇に向けて反撃を行う。

 

 

銃弾は木々を穿ち、へし折る。

氷は木の幹に刺さり、まるで木をサボテンのような姿へと変えていく。

 

 

森の中を冷気が漂う。

冷気に当てられた木々が次第に凍りついていく。

 

(氷が……)

地面を見ると、徐々に氷が広がっている。

これではツドラ自身が撒き散らしている冷気から場所を特定するのは難しい。

 

 

ツドラの氷はただの氷ではない。

ツドラが作り出す氷にはツドラ自身の魔力が混じっている。

 

それにより硬度を上げ、簡単には砕かれないようにしているのだ。

それに加えて、魔力の混じった氷は魔力探知の妨害の役割も担っている。

 

周囲に氷が増えれば増えるだけ、ツドラの正確な位置を把握することが困難になっていくのだ。

 

 

(ならば出力を上げるのみ……)

 

 

エリシアの能力は『圧力の操作』

物体に加わる圧力の大きさ、方向を自在に操る。

 

エリシアは弾丸を放つ際に生じる圧力を極限にまで引き上げることにより、通常時とは比較にならない程の威力の弾丸を放つことを可能にしている。

しかし、普通の銃ではその威力に耐えることは到底できない。

自身が放つ弾丸の威力に耐えきれず、弾丸を放つ前に銃身が先に崩壊してしまう。

 

 

そこでエリシアが取った手段は、魔術によって銃を造り出すというもの。

魔力によって作られたその銃は、通常の銃の何十倍もの耐久力を持ち、魔力で強化された銃弾に耐えることも可能であった。

 

しかし、エリシアが最大にまで強化した弾丸を放つとなると、魔力で作った銃でも只では済まない。

最大火力の前では、魔力で作った銃でさえも一撃放てば壊れてしまう。

 

それ程までの威力──

 

 

エリシアの放った弾丸は、周囲の木々を吹き飛ばしながら突き進む。

轟音と爆風、到底銃から放たれているとは思えないものが、地を抉りながら通り過ぎていく。

 

木々が吹き飛び、辺りの見通しが良くなる。

それにより、隠れていたツドラの姿が露となった。

 

 

「何なの……こんな、バカみたいなことして……」

「これが一番手っ取り早いからよ」

エリシアはツドラの背後を取る。

 

銃口を向け、頭を狙う。

ツドラからは少し距離がある。

今度は銃口を凍らせるなんてことはさせない。

 

エリシアはすぐに引き金を引いた。

弾丸は勢いよく銃口から放たれ、一直線にツドラへと向かう。

 

 

その時、甲高い音が鳴り響いた。

 

 

砕けた氷の破片が飛び散り、放った弾丸がその方向を変えている。

 

 

(氷で ……)

ツドラは咄嗟に小さな氷の塊を生成し、それで弾丸を防いだのだ。

 

エリシアはそれに対し少し感心した。

こんなことができたのかと、少しの驚きが顔に出ていた。

しかし、すぐにそれは微笑に塗り替えられる。

 

 

「じゃあね、クソ天使」

「私もあなたのことが大嫌いだった」

その言葉と共に、ツドラの胸が背後から貫かれた。

 

 

「──ッ⁉」

視界に赤い鮮血が映り込む。

背中から胸に掛けて急激に体温が上がり、火傷するかのような感覚が徐々に広がっている。

 

(弾……丸……⁉一体どこから……新しく放った素振りなんて無かった……)

(ならば、これは──)

 

 

ツドラを貫いた弾丸──

それは先程放たれ、ツドラが防いだ弾丸。

弾かれ、方向を変えた弾丸の軌道をエリシアは再度変えたのだ。

 

弾丸に加えられている圧力を一定の方向に絞り、その大きさを変えることで、無理矢理弾丸の軌道を変える。

 

ツドラの不意を見事に突いた一撃。

 

 

しかしツドラにも意地があった。

倒れそうになる体を足で踏ん張り、すぐさま傷口を凍らせて止血を試みる。

 

 

天使には再生能力がある。

そのため、最初に受けた翼の傷は既に完治している。

しかし、天使と言えども再生は一瞬で終わるものではない。

 

それに加えて心臓という重要気管を撃ち抜かれた、致命的なこのダメージを回復するとなると、少なくとも数秒は掛かる。

 

だが、そのたった数秒を見過ごしてくれる相手ではない。

回復しきる前に、確実に息の根を止めにくる。

 

 

ここが踏ん張りどころ──

この数秒を、全力で乗り切らなければならない。

 

 

「──グッッ」

だがその矢先、ツドラはエリシアによって上空へと蹴り上げられる。

加えてエリシアは、打ち上がっている最中のツドラに向けて二発の弾丸を放つ。

 

二発の弾丸はそれぞれ、ツドラの右翼と左翼に命中。

ツドラの上空での機動力を奪った。

 

 

続けてエリシアはツドラの胴体に照準を合わせ、即座に引き金を引いてさらに二発の弾丸を放つ。

 

 

ツドラは自身の左翼を凍らせ、重さで翼が下を向くことを利用して弾丸を防ぐ。

 

エリシアは即座に一発の弾幕を放った。

弾幕はツドラへと向かい、その凍った翼へと当たる。

 

だが、凍った翼にはヒビが入ることもなく、その形を保っていた。

その事実にツドラは安堵した。

このままこの翼で攻撃を防げば、数秒は容易く稼げる。

 

 

しかし、エリシアの狙いは凍った翼の破壊ではない。

 

 

弾幕が命中したのは、凍った翼の先端に近い部分──

それ故に、弾幕が命中した勢いでツドラの身体は大きく動く。

 

 

「──ッ⁉」

気付けばツドラは、空中で裏返しの状態になっていた。

 

 

「まさか……」

地面に背中を向け、自身の視界には飛んでくる攻撃は映らない。

凍った翼で背後の攻撃を防ぐのにも限界がある。

心臓はまだ完全には治っていない。

例え治っていたとしても、この状態ではまた破壊されてしまう。

 

 

「ッ……ああァァッ!!」

ツドラはいくつも氷を生成し、乱雑に地面へと降らす。

 

 

エリシアは銃を構え、狙いを定める。

引き金を引き、銃弾を放つと、続けて二発、三発と増やしていく。

 

 

(来るな……来るな……)

ツドラはひたすらに氷を生成して、弾丸が逸れることを祈る。

 

 

氷の砕ける音が響く。

(来るな来るな来るな)

 

 

背中を指で押されるような感覚が伝わってくる。

押す力はどんどん強くなり、押されることによってできている窪みがどんどん深くなっていく。

 

 

天使(彼女)の祈りに、天は微笑まなかった。

 

 

最初の一撃はツドラの背中から入り込み、治している最中の心臓を貫き、それ以降に放たれた弾丸はツドラの腕や足、腹に穴を空けていく。

 

 

「──ガッ……!!」

 

 

 

そして、最後の弾丸が今──ツドラの頭に到達した。

 

 

 

エリシアは背を向けて歩き出す。

 

 

 

赤い雨が降る中で、重く、鈍い音が背後から鳴った。




皆さん、良い年末を──
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