魔法陣を通り抜けると、目の前に広がる空間が一変する。
先程の柱が何本も立っていた空間から、両脇に均等に柱が配置されている回廊へと、彩乃は飛ばされた。
「……」
彩乃は横に逸れて、前方にある柱の影から飛んできたレーザーをかわし、その流れで背後から来ていた敵をナイフで一刀両断する。
彩乃は辺りの気配を探る。
(少なくとも十……後もう少し居るか……)
彩乃はナイフを構え、次の獲物へと狙いを定める。
────────
一方、別の場所でも血飛沫が上がっていた。
彩乃の居る空間とはまた違い、こちらは分かれ道がいくつもある、先の見えない廊下。
その廊下を迷いなく突き進む影が一つ。
角から突然現れる敵をまるで分かっていたかのように、その手に持つ大剣で切り刻む。
(魔理沙たちからは随分離されたわね……)
彼女──フランドールの通った道には、赤いカーペットが敷かれていく。
────────
(ナルホド……五人ヲ分断サセタノネ……)
八雲紫はその様子をスキマの中から観察していた。
この戦いに自分が出る訳にはいかない。
私が倒れれば、あの子たちはあの世界に置き去りとなる。
故に、私ができることは無事に終わることを祈って待つことだけ。
「デモマア、ソロソロイイカシラ?」
でも、ちょっとしたお手伝いなら──
────────
「……?」
「どうした?」
どこかの通路を、二人の悪魔が歩いていた。
今から侵入者とやらを倒しに行かなくてはいけないのだが、正直やる気は出ない。
そんな中、二人の内の片方がいきなり立ち止まった。
「いや……何か変な感じが……」
「何だよ、変な感じッ……て──」
ポツリ、ポツリと水滴が地面に落ちる。
赤い水溜まりが段々と大きくなっていく。
「えっ……」
変な感じがしたと言った彼は、よろめくように後ろへ下がる。
「グフッ……」
口から血が溢れ、後ろから首を突き刺した鋭い針のようなものが抜かれていく。
栓となっていた針のようなものが抜かれていく度に、溢れてくる血が多くなっていく。
針は触手のようになっており、それは天井の方から伸びていた。
針が抜かれ、全身から力の抜けた彼が地面に膝を付こうとしたその時──
バクリと、天井から勢いよく降ってきたナニかに飲み込まれた。
「あ、ああ……」
ヒラヒラとした洋服を着た、人のような部分を持ち、その両腕の部分には腕の代わりに無数の鋭い触手があり、スカートの内からは彼を飲み込んだ大きな口が顔を覗かせている。
その大きな口は足にもなっているのか、閉じた口からヒトデのような形へと広がり、地に着く。
今まで見たことも無い化物──
その次の獲物が誰なのかは既に分かっている。
足は震えて動かない。
その化物は次に──
こちらを見た。
────────
そこら中から悲鳴が上がる。
天使も悪魔も関係ない。
屍の山が築かれる。
総力戦
まさにその名が相応しい。
相手は数で対抗してくるだろうけど、こちらも数だけなら簡単に用意できる。
だって、血に餓えた奴なんてそこら中にいるのだから。
「フッ……フフッ……」
逆に笑いが込み上げてきた。
一石二鳥、そんな状況が面白くて仕方ない。
「アリガトウ、丁度イイゴミ箱ヲ用意シテクレテ」
────────
「……?」
敵と交戦中の彩乃は、異変を感じ取りその場から高く飛び上がった。
「飛んだところで──」
言い切るよりも先に、その者は背後からやって来たそれに噛みちぎられた。
恐竜のような骸骨の頭に、肋骨が浮き出た猫背の身体、両腕の先は丸いノコギリのようになっている。
(妖怪……?)
姿形こそあれだが、いきなり現れたそれの気配から彩乃はそう考える。
(一体何処から……)
「──!」
彩乃の視線の先、そこにあったのは、ここに来る際に自分達も潜った──
(スキマ──)
裂け目を潜って、新たに妖怪がこの空間へと入り込む。
しかも、それは一つだけではない。
この空間だけでも三つはある。
この世界の全体図は分からないが、確実にもっと数がある。
最初からこれが狙いだったのか?
先程の妖怪はというと、ノコギリを回転させ、次に狙いを定めた天使の羽を切り刻み、そのまま体を食いちぎっている。
それを確認している最中にも、そこら中で断末魔が響いていた。
────────
「ふざけやがって……」
一方別の場所でも、その事態は起こっていた。
『巻キ込マレナイヨウニネ』
その言葉が頭に浮かぶ。
「こういうことかよ──」
彼女は上に飛んで迫り来る妖怪の攻撃をかわし、レーザーを放って妖怪の体に風穴を空ける。
「魔理沙さん!!」
(早々にアリスと合流できたのは良かったが……)
「こういうのは先に言っとけよ!!」
八卦炉から放たれたレーザーが、アリスの背後にいた妖怪を撃ち抜いた。
----------------
一方、もう一つの戦いはその苛烈さを増していた。
「ほらほらどうしたぁ⁉」
木々を跳び移り、咲夜は飛び掛かってくる獣を避け、ナイフを投げる。
ナイフは獣の首元に刺さり、獣の体は溶けるように消えていく。
「右!!」
その声が聞こえ、咲夜はすぐにその場から離れる。
直後に、言葉通り右側から黒く大きい鳥のようなものが木々をへし折りながら突っ込んできた。
次の瞬間、鳥はいきなり現れたナイフで串刺しにされる。
(数も種類も多い……)
咲夜は背後から迫ってくるワニのようなものを上に飛んでかわしてから、何本もナイフを降らせる。
(ただ式神を操るような能力じゃない……もう五十体以上は倒している)
(何度時間を止めてもキリが無い。恐らく本体を倒さない限り終わらない)
咲夜は再び時間を止める。
周りを見ると、空を飛ぶ魚のようなものもいる。
元となっている動物の生態というものはある程度無視できるのだろう。
咲夜はその場から歩き出し、ログの方へと向かう。
後のことも考えると、魔力の温存は必須。
長時間の時間停止はできない。
(約10メートル……)
目測で後10メートルの辺りまで来て、時間は動き出した。
咲夜はナイフを構えてすぐにログへと接近する。
間合いに入り、咲夜はナイフを投げる。
ログは頭へ向けて飛んできたナイフを寸前で指で挟んで受け止めるが、ナイフに気を取られている隙に咲夜は背後へ回って、背中へと蹴りを放つ。
ログは前方へと飛んでいくが、体を回転させて体勢を整え、その先にあった木を使って勢いを殺す。
木の表面は削れ、勢いを殺した直線の跡が付く。
(この感触……)
咲夜はログを蹴り飛ばした足に感じた感触に違和感を覚える。
何か柔らかいものを踏み潰したような、どことなく気持ちの悪い感触。
「瞬間移動……?いや違うな……もっと違う何かだ……」
ボソボソと呟くログの背中で、黒い何かが溶けて消える。
(咄嗟に背中の方に出して防いだのね……)
咲夜は時間を止めてナイフを数本投げる。
しかしナイフはログに到達する前に飛ぶ魚の群れによって防がれてしまう。
「囲まれるわよ!!」
さとりの言葉を聞いて咲夜は再び時間を止める。
止まった時間の中で辺りを見渡し、咲夜は敵の位置を確認する。
咲夜の周りには無数の魚や狼、兎などが集まって来ていた。
咲夜が周囲にナイフを投げたところで、時間が動き出す。
小さな個体はそれで破壊できるのだが、中型や大型にはナイフ一本投げたところで破壊はできない。
咲夜は破壊しきれなかった個体の攻撃を、軽快な身のこなしでかわす。
ログは離れた位置からその様子を見ている。
(同時……)
先程の瞬間、複数の個体が同時に破壊された。
そしてその時に現れた複数のナイフも同時だった。
(だとしたら──)
「キャスパリーグ」
ログは新たに影を生み出す。
大型の黒い猫の姿をしたそれは、一直線に咲夜の下へと向かう。
「──ッ」
それに気付いた咲夜は時間を止め、上に飛んでナイフを投げる。
時が動き出しナイフが降り注ぐが、その猫はナイフに見向きもせず、すぐに上に飛んだ咲夜の方へと向かう。
「クッ……」
(明らかに他の個体と挙動が違う)
時間を止めてそれから離れても、すぐにこちらへと向かってくる。
「伏せなさい!!」
再び、さとりからの指示が飛んでくる。
────────
ログとの戦闘の直前──
「先に言っておくけれど、戦闘はあなたに丸投げするわよ」
「別に構いませんが、理由をお聞きしても?」
「私に出来ることなんて心を読むことくらいなのだけど……ログの使役している魔物?だったかしら、それの心を読むことはできないわ」
「それに、アイツの心が読める距離に居たら、私もあなたたちの戦闘に巻き込まれかねない」
「最低限のサポートはしてあげるけれど、あまり期待しないでよね」
────────
(やっぱり……あなたもそっち側よ……)
自分が戦闘向きではないということは分かっている。
それでも、そこらの一般人や妖怪よりかは強いはずだ。
正直、この世界の奴らはみんな感覚がおかしいと思っている。
あいつらにとっては普通でも、私にとっては普通ではない。ふざけた世界だ。あれが普通だと言うのなら、感覚が麻痺しているに違いない。
十六夜咲夜、あなたは私と同じだと思ったのだけど……
彼女の動きであれならば、他はもっとだろう。
私が弱いのだろうか?
その咲夜が指示通りに伏せると、頭上を何かが通り過ぎる感覚と音がした。
「──⁉」
何かが飛んでいった方向を見ると、そこには木に刺さる矢の姿があった。
咲夜はすぐに反対側を見て、矢を飛ばした犯人の姿を探す。
「──ッ⁉」
(人型……⁉)
矢を飛ばした犯人は木の上に立つ、弓を構えた人の形をした黒いナニか。
咲夜は黒い猫の突進を避け、空中へ飛ぶ。
だが、その直後に背後から気配を感じる。
咲夜は咄嗟に後ろを振り返って防御をする。
防御は間に合ったが、突然現れた何者かの攻撃で地面へと叩き落とされる。
着地して、すぐに頭を上げる。
突然現れたそれも地面へと降り立ち、咲夜はその姿を確認する。
他の魔物と共通する黒い体に、額に生えた鋭い角──
「鬼……」
その外見は地底に住まう鬼の特徴と一致する。
しかし、咲夜はそれに疑問を抱く。
(確か
「あの妖怪のせいで、あの日は結構な数を潰されちまった……だがまあ、最終的にはほぼプラマイゼロだったことは良しとしよう」
(囲まれた……)
咲夜が周りを見渡すと、どこもかしこも黒い影がいる。
「
ログはキャスパリーグと呼んだ黒い猫の上に胡座をかくようにして座り、咲夜を見下ろす。
「見逃さなかったぜ?ナイフがいきなり現れた瞬間、お前の体が微妙に動いていたことを」
「人のことをよく見ているのね……そっちではモテていたんじゃないかしら?」
「知らねぇ奴に好意を向けられても気持ち悪いだけだ」
「それよりも、どうするんだ?これ」
空には黒い鳥や魚が飛び交い、木の上から弓で狙われ、目の前には沢山の黒い獣がこちらを囲んでいる。
「まあ、それは置いておいて……あの妖怪はどこ行った?」
「……言うとでも?」
「言わねぇならお前を殺した後で探すだけだ」
(やはり、私では相性が悪い)
『物量』
それと私の時間停止はあまり相性が良くない。
停止した時間の中で活路を見出だし、この物量を処理する。
その二つの行程が強制される。
確実に体力が消耗し、動きが鈍くなったところを物量で押し潰される。
この物量をどうにかしない限り、勝機は薄い。
(正直不味いわね……時間を止めてもそう簡単には乗り切れない……斯くなる上は……)
「何だ、その目は……何か策でもあるのか?」
煽るような声色で、ログは言った。
そうして、咲夜が立ち上がった時だった。
「「──ッ⁉」」
上空から何かが降り注ぎ、黒い獣たちの体を貫いていく。
上空から降ってきたのは何本もの鎖。
やがてそれらは、バチバチという音を立てて、青い光を帯び始める。
直後、この場に轟音が鳴り響く。
まるで雷鳴のようなそれが収まった後に残ったのは、黒く焼け焦げた地面と、直撃を避けた一部の者のみ。
(誰だ……?)
ログは上空を見上げる。
そこにいたのは、左側にのみ翼の生えた何者か。
(天使……?)
(いや、それにしては……)
「──フェンリル」
「──ッ!!」
ログはすぐにキャスパリーグの上から飛び降りる。
次の瞬間、キャスパリーグの胴体が突如現れた巨大な狼のような獣に噛み付かれる。
「チッ……誰だ!!」
ログは狼の現れた方向へ向けて黒い竜を放つ。
木々を薙ぎ倒しながら竜は進んでいき、この場に現れた新たな敵を狙う。
暫く進み、木の倒れる音が聞こえなくなったと思ったら、ログの背後から何かが落ちる音が鳴った。
それも軽い物ではなく、重量のある大きな物。
砂埃が巻き上げられ、視界が悪くなる。
「──?」
その視界の中、目を凝らしてログは背後を確認する。
そこに落ちていたのは、先程放った竜の頭。
(何……一体誰が……?)
咲夜は木の影に隠れて、その様子を見ていた。
(でも、今が好機──)
その光景にログが困惑する間に、咲夜は動いた。
「──ッ、クソッ……」
上空にいた何者かもいつの間にかいなくなっている。
ログはこの状況を気掛かりに思いながらも、咲夜を追うことを選んだ。
50話記念として彩乃を描いてみました。
小説のあらすじの部分にあります。
感想、コメント等お待ちしてます。