幻想滅失録   作:メイア・カルテシア

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初詣とかに行ってみたいなと思う今日この頃


Maid in heaven

「状況は?」

「あまり良いとは言えないわね、次から次へと新しい手札が出てくる」

 

さとりと合流した咲夜は、即座に状況を話す。

 

「一応、策は思い付いたわ」

「策?」

 

「時間を稼いでもらう必要があるのだけど、どう?」

「分かったわ、引き続き私が相手をする」

 

「頼んだわよ」

さとりのその言葉の直後に、黒い鳥が飛んでくる。

咲夜は時間を止め、鳥を串刺しにする。

 

 

その隙にさとりは空中から、下にある森の方へと降りていった。

 

 

 

「ちょこまか逃げてんじゃねぇよ!!」

直後にその叫び声が聞こえたかと思うと、電気を纏った黒い鳥が咲夜へ向けて飛来する。

 

咲夜は黒い鳥の突進を避け、ナイフを投げて反撃する。

 

 

空中ならば飛ぶことのできない個体は出せない。

そう考えて、咲夜はこのまま空中で戦うことを選んだ。

 

 

ログは咲夜から少し離れたところで止まり、そこから魚の群れを出して咲夜を狙う。

 

時間を止めて、ナイフで攻撃することで咲夜は魚の群れを対処する。

 

 

その後に飛んでくる鳥の頭をナイフで撃ち抜き、落ちていく鳥を足場にして高く跳躍し、空中で回転しながらログへ向けてナイフを投げる。

 

 

ログは鳥を盾にしてそれを防ぎ、さらに影を生み出す。

 

 

大量の黒い鳥が宙を舞い、その背中を獣たちが伝って咲夜へと向かう。

 

咲夜は飛び掛かってきた獣をナイフで撃ち落とす。

 

「──ッ」

しかし、その時咲夜の頬を矢が掠めた。

頬から血が垂れるが、そんなことは気にせずに攻撃を続ける。

 

まず矢を放った個体を探し、それに向かってナイフを投げる。

 

射手は鳥の上に乗って移動していた。

先程とは服装が違うことから別の個体なのだろうが、鳥の上で逃げ場が無いためあっさり倒すことができた。

 

 

咲夜は上に乗る個体をナイフで撃ち落とし、誰もいなくなった鳥を飛び移ってログへと接近する。

それを妨害するように魚や獣が飛んでくるが、咲夜は時間停止を駆使してそれを突破する。

 

だが、順調に進む咲夜に向けて巨大な黒い鮫のようなものが大きな口を開けて飛んでくる。

 

咲夜は今乗っている鳥の背中を強く蹴って高く跳び上がり、鮫の大きな口を越えて背中に来ると、何本もナイフを投げて攻撃する。

しかし、その巨体から分かるように手で持てるナイフ程度ではびくともせず、方向を変えて再び咲夜を狙う。

 

「ならば、これはどうかしら?」

 

咲夜は自身の周りに弾幕を生成する。

その形はナイフのようになっており、その矛先は鮫を向いている。

 

自身へと迫る鮫へ咲夜は弾幕を放つ。

無数の弾幕は吸い込まれるように、開いたその大きな口の中へと入っていった。

 

体の中で弾幕を炸裂させ、鮫の体を吹き飛ばす。

 

鮫を倒すことができたことを横目で確認すると、すぐさまログとの距離を詰めることへ行動を切り替える。

 

再び鳥の背中を乗り継ぎ、ログを目指す。

 

 

「……何なんだよお前らは──」

ログの口から言葉が洩れる。

「アリスとかいうガキのために戦ってんのか?」

 

「別に、あなたにとってはどうでもいいことでしょう?」

「あれは妖怪でも人間でもねぇ。人形………いや、人形以下かもしれねぇ奴のために何故そこまでする?ほっとけばお前らに危害が加わることも無いだろうに、何故?」

 

 

「見過ごせなかったから、じゃないかしら」

「あのお人好しの巫女が困っているあの子を助けたいと思ったから、私たちが力を貸しているだけよ」

 

「あなたには分からないでしょうね」

咲夜は大きく跳び上がり、ログへナイフを投げる。

 

 

「友情?絆?それとも仲間だからか?」

「だが、それで何が変わる?寧ろそんなくだらねぇモノのせいで犠牲が増えるだけだなんだよ!!」

 

「その犠牲の一つがお前だ、メイド!!」

ログは手に火を纏い、咲夜を迎え撃つ。

 

「──!!」

ナイフを弾き、火を飛ばす。

咲夜は火を躱し、下を飛んでいた鳥の上に着地する。

 

左側の三つ編みを結んでいたリボンが燃え、黒くなっていく。

咲夜はリボンを外して投げ捨てると、頭を横に振って三つ編みをほどく。

リボンは空中で燃え尽きて、灰が風で飛んでいく。

 

 

「ハッ、ただ後ろで突っ立てるだけだと思ったか!!」

ログが咲夜へとそう告げた時──

 

 

「能力だけを顕現することも可」

「あ?」

どこからともなく現れたさとりが、ログを見ながらそう言った。

 

「狼、鳥、魚、人、鬼……あなたの能力は式神を生み出すものじゃあない」

「個体差、そして地底にいるはずの鬼──」

「それらから考えるに」と言って、さとりはその言葉を続けた。

 

 

「あなたが殺した、もしくは死んだ者を魔力で形作る能力と言ったところかしら?」

 

 

「……それで?分かったところで何だ?」

ログは開き直ったかのようにさとりへ返す。

余裕と言わんばかりの態度と声を崩さずにログはいる。

「そろそろその強がりもできなくなってきたんじゃない?」

だが、さとりはその態度を見てそう言った。

 

「腰抜け妖怪が言うじゃねぇか、テメェにできることなんて何も無いって言うのによ」

「あら、まだまだ余裕って言うのなら私の考察の答え合わせでもしてほしいわね」

 

 

「『死々流転(ししるてん)』俺が殺した奴を魔力で再現し、再利用する力だ」

さとりに色々言われたからか、ログはあっさりと話した。

「再利用……?」

「使い物にならねぇやつを俺が使ってやってるんだ、再利用以外に何て言うんだ?有効活用ってやつだよ」

さも当たり前かのように、ログは答えた。

 

 

「俺の能力なんざ、知ったところで意味ねぇんだよ。結局お前らが死ぬことに変わりはないんだからな」

「殺した後はお前らもコイツらの仲間入りだから安心しろ!!」

 

ログはさらに影を生み出す。

その多くは空を飛ぶ個体であり、その上には人形の個体が乗っている。

 

 

そのほとんどは咲夜に向かい、攻撃を仕掛ける。

 

人形の影は魔法陣を生成し、そこから雷を放つなどして攻撃する。

さらに魔法のみならず、能力のようなものも攻撃に加わっている。

 

先程よりも攻撃が激化する。

「あら、やっと焦り出したのかしら」

その状況を、さとりはそう捉えた。

 

 

飛んでくる金属の針をナイフで弾き、咲夜は上に乗る人形もろとも鳥をナイフで撃ち落とす。

「最後の悪足掻きと言ったところかしら?攻撃が大雑把になっているわよ」

咲夜の言葉通り、先程よりも激しくなっているものの、乱雑といった雰囲気がある攻撃だった。

躱しやすく、個体同士での連携も取れていない。

見かけだけで中身の無い即席の攻撃。

 

「どんな道具も、使い手次第で逸品にもガラクタにもなり得る。再利用は新たな使い手がその価値を見出だすことで初めてその意味を成す」

「あなたはその道具をぞんざいに扱う、手に入れたばかりの玩具に夢中の子供でしかないわ」

 

咲夜は時間を止めて、空中を飛び交う鳥を一気に撃ち落とす。

 

 

さとりもまた、自身に襲いかかってきた魔物を弾幕で撃ち落とす。

「あなたがしているのは死者を弄ぶ愚行。決して有効活用なんかじゃない」

 

「……?」

「あなたは今まで奪ってきた命を数えたことなんてないでしょ?」

突然切り出されたその言葉に、ログは困惑した。

「何が言いたい?そもそも何故お前がそこまで俺に固執する?」

「そんなに俺との追いかけっこを根に持っているのか?」

帽子の下にあるさとりの目を睨み、ログは聞いた。

しかし、さとりはその質問にため息で答え──

 

次に「ほら、覚えていない」と告げた。

「あ?」

 

「あの日奪ったものを、あなたは何もわかっていない」

「あの日?奪ったもの?」

頭をポリポリと掻く仕草をログはする。

「ああ、お前の家のことか?」

そしてログが絞り出した答えはそれだった。

 

 

「お空を!!お燐を!!二人の命を奪ったことを、私は許さない!!」

珍しく怒りを露にしているさとりを見て、咲夜は少し驚いた。

 

「お空?お燐?そんな奴居たか?」

しかしログは何のことだかと、そんな態度を取っている。

「何だ?空想上のお友達か何かか?」

「……確かにお前は見たはずだ。あの時、お前の下敷きになった二匹を──」

 

その言葉で、ログはある記憶を思い出した。

 

『何だこれ……?きったね』

その時ログが思い出したのは、地霊殿へと辿り着いた時に自身の下に居たカラスと猫。

そこで漸くログはさとりの言っている言葉の意味が分かった。

「……ハハッ」と渇いた笑いを出したログは再びさとりを見て続けた。

「そういえば居たな……小汚ねぇカラスと猫がよ」

「まさか、たかが畜生二匹殺されてそんなになっているって言うのか?代わりなんて探せばそこら辺にいるだろうに!!」

 

「代わりなんていない。あの子たちは私の家族、大切な家族に代わりなんて存在しない!!」

「ハッ、良いこと言った気になってんじゃねぇよ!!」

 

「それが何だ?だからどうした?お前はそういうことを言うような奴だったのか?そういうことを言える奴だったのか?」

「家族が死んだってのに目も繰れずに逃げ出したテメェがよ!!」

 

『そうそう、本当に思っているのなら、あの時戦うべきだったんじゃない?』

「だから、こうしてここにいるんじゃない。せめてもの、あの子たちへの手向けの為に!!」

 

「腰抜けが調子こいてんじゃねぇよ!!」

ログは思わず叫んだ。

 

 

「そっちこそ調子に乗っているところ悪いけど、敗けが近いのはあなたの方じゃない?」

さとりは微笑を浮かべて、ログへと告げる。

「あなたの能力の強みは手数と物量のはずなのに、能力のみを顕現するなんて節約をした時点でお察しね」

「あなたは言わなかったけれど、私の目は誤魔化せないわよ」

 

「あなたの能力の弱点は魔物にストックがあること。一度破壊されれば同じ魔物を作ることはできない」

「つまり、あなたはストックを全て破壊されたら終わり」

 

「あなたの性格的に、出し惜しみをするようなタイプではないでしょう?」

「どちらかと言えば、相手が手も足も出ずに苦しむ様を見て愉しむタイプ」

「なのにあなたは最初から最高戦力で行かなかった。もう少ないんでしょう?ストック──」

 

「それも、私と初めて出会ったあの時から。じゃないと私を取り逃がすなんてヘマをする訳がないわよね」

 

 

「どうしてそんなにストックが無いのか……思い当たる節はあるんじゃない?」

 

 

「敗けたのでしょう?」

 

 

「既に、誰かに──」

 

 

頭に血が上るような感覚がログを襲う。

半ば強制的に、ある記憶が呼び起こされる。

(忘れるかよ……)

 

(忘れる訳がねぇだろ)

 

(あの日の地面の感触を忘れたことはねぇ!!)

無意識の内にログは強く歯を食い縛っていた。

 

(あの日受けた屈辱を!!)

脳裏に浮かぶはあの日の光景。

 

(あの日折られたプライドを!!)

手に感じるのはあの日の感触。

 

(失ったものを全て取り返すまで……忘れる訳がねぇだろ!!)

記憶と共に戻ってきたのは、あの時の怒り。

 

拳を握り締める力が自然と強くなる。

ログは怒りを必死に抑えるが、それでも表情の節々から漏れ出ている。

 

「あら、怒りが抑えきれていないわよ。その様子じゃあ、あなたの敗因は怒りで冷静さを失ったことね」

ログの姿を見て、咲夜はそう告げる。

 

「……ッ」

その言葉を聞いた時、ログが出した影は既に全て倒されていた。

 

 

『そうやって怒りに任せては、勝てる戦いも勝てなくなるぞ』

 

 

『冷静になれ、それがお前の悪いところだぞ』

咲夜の放ったその言葉は、ログの記憶を刺激する。

 

「黙れ……」

 

 

「黙れぇェェ!!!!」

咲夜の背後にログは瞬時に移動し、腕を勢いよく振り下ろす。

 

しかし、それが当たる前に咲夜の姿が消えた。

「──ッ!!」

 

(時間停止……一体どこに……)

ログはすぐに周囲を見渡して咲夜の姿を探す。

しかし、咲夜の姿を見つける前にログの腹に衝撃が走る。

 

「──グッ……」

すぐに状況を把握しようと頭を上げると、視界に飛び散る鮮血と右腕が映り込む。

 

その光景を視認した瞬間、痛みがログを襲った。

痛みの根源である右腕を咄嗟に押さえると、その肘から先が無かった。

 

「チィッ……」

痛みを噛み締めながら、ログはすぐに腕を再生する。

 

 

何処かへ消えた咲夜は、さとりの隣に現れる。

「戻ってきたということは、準備は終わったのかしら?」

「ええ、叩き落としてやって」

 

「了解」

 

その言葉を告げると、再び咲夜の姿が消える。

 

 

次の瞬間、ログは頭のすぐ横を何かが通り過ぎるのを感じた。

それと同時に、何かが空を切る音が聞こえる。

 

その音は次第に数を増やしていき、最初に聞こえた音から今現在までの一秒にも満たないその僅かな間に音はログを囲うように四方八方から聞こえるようになる。

 

「──ッ⁉」

 

その時ログが見たのは銀色の光の線──

その光は一本だけではなく、自身の周りに何本もあった。まるでログを閉じ込めるかのように、檻のようなものを光は描いている。

 

 

ログは目を凝らし、その光の線を見る。

 

「ナイフ……⁉」

光の線を成すもの──

 

それは高速で飛び交うナイフの残像(軌跡)

 

 

「まさかッ⁉」

今自身を閉じ込めている光の檻、その正体にログは気づいた。

 

それはまさに鳥籠。

咲夜が投げたナイフによって作り出された銀色の檻。

檻から出ようとする者はその格子に触れた時、高速で飛ぶナイフによってその身を切り裂かれる。

脱出をしようと下手に動くことが許されない檻。

 

消える咲夜の姿、ナイフで作られた檻。

そこからログはそのタネに気がついた。

 

 

「まさか、時間停止じゃなく……」

 

 

「加速──⁉」

 

 

「よくわかったじゃない」

「けれど、あなたの目は私を捉えることが出来ているのかしら?」

 

高速で飛ぶナイフ、そして自身の超高速移動。

これらを成すことのできる咲夜の技──

 

 

「幻天『メイド・イン・ヘブン』」

 

 

『時間を操る』

その能力を持つ彼女──十六夜咲夜の編み出した技である『幻天「メイド・イン・ヘブン」』

 

彼女が普段使用している時間の停止の逆とも言える時間の加速。

対象は自分自身と、自身の魔力を籠めた物体のみ。

対象を制限することにより、咲夜は持続時間と加速度の底上げを可能にした。

 

 

ログの能力の全容が不明かつ何かしらの奥の手を警戒して、咲夜はここまでこの技を使わなかった。

だが、能力の具体的な情報とさとりの発言からこの技を出し惜しみする必要がないと判断した今、使わない理由は無かった。

 

 

(速い……)

ログは集中して咲夜の姿を捉えようとするが、完全にその姿を捉えることはできなかった。

 

そのため、まずはこの檻から脱することを優先することにしたログは、新たに影を生み出すのではなく既に出ている個体へと命令を与える。

 

今この場で新しい個体を出したところで、すぐに破壊されて終わり。

それならば、意識外にあるであろう個体を使って外からこの状況を打開する。

 

今残っている個体はここよりもずっと上を飛んでいる。

一気に影を放った時の残り物。

 

そして今、この場へ急降下するように指示を出した。

 

狙いはこの檻──箱のようになっているこの檻のどこか一面さえ破壊することができれば、そこから出ることができるだろう。

遥か上空から降下してきた勢いを使って、側面を削ぎ落とす。

 

 

そう考えたのだが──

 

「タネの割れたマジックなんて、流行りの過ぎた一発芸と同じよ」

右手を上に挙げ、掌から既に弾幕を放った後のさとりがログへと言い放つ。

「ああ、失礼……あなたはマジシャンではなくただの盗作家だったわね」

その言葉と共に、消えていく鳥の魔物が落ちてきた。

それを見て、ログはこの檻からの脱出プランを潰されたことを認識した。

 

 

(まずい……)

既に出した個体の中に、まだ残っているものはいない。

すぐに新たな策を練らなければならないのだが──

「あら、何がまずいのかしら?言ってみなさいよ」

さとりの言葉がログの思考を邪魔する。

 

 

そんな中でも、頭をフル回転させてログは策を練っていたのだが──

 

「──ッ⁉」

その時、ログはある違和感に気が付いた。

その違和感を探るため、周囲を見渡す。

 

 

だが、そこに十六夜咲夜(メイド)の姿は無かった。

 

 

さとりに気を取られ、咲夜の姿を見失ったログは必死に辺りを見回す。

(──どこに……)

 

「──ッ!!」

気配を感じ、ログは咄嗟にその方向を向こうとするが、それは間に合わず、上から現れた咲夜の攻撃をもろに喰らう。

 

 

「──グウッ……」

ログは下方向へと飛ばされ、その際に檻の床に触れたことで体に何本もナイフが刺さり、血を吹き出しながらログは地面へと叩き落とされる。

 

 

「クソ……が……」

地面に手をつき、体を起こす。

痛む体を起こし終えると、足に力を入れる。

 

まだ戦える。

欠損部を治せ、魔力はまだある。

 

残り少ないが、影も残っている。

 

問題ない。

ただ速いだけなら、殺れる!!

 

 

地面を強く踏み込んでから思いきり跳び上がり、咲夜たちのもとへと向かおうとしたのだが──

 

 

「──ッ⁉」

突如、下へ強く引っ張られるような感覚が襲ってくる。

 

ログの体はその感覚のままに動かされる。

「ガッ──」

そしてそのまま、ログは再び地面へと叩きつけられる。

 

 

「あ゛あ゛あァァッ!!」

状況を呑み込めないログに追い討ちをかけるように、引っ張られたような感覚がした足に激痛が走る。

 

ログが咄嗟に足元を見ると、そこには金色の髪をした人形の妖怪がいた。

 

妖怪は足に喰らいつき、今にも喰いちぎろうとしている。

「ぐ、うぅ……」

皮が、肉が無理矢理引き伸ばされ、引きちぎられようとしている。

 

「何だ……こいつ……」

ログが戸惑う中、その様子を空中で見ているさとりが言葉を掛ける。

「ここがどこだか知らないの?」

「ちゃんと下調べができていないんじゃない?」

 

 

「あ……」

その言葉を聞いて顔を上げたログに、その光景が目に入る。

痛みに悶える中見えたのは、木の影や、木の上からこちらを見ている大量の妖怪の姿。

今、足に噛みついている妖怪と似た姿をした妖怪たちは、動けないログの姿を見て、『獲物』と認識した。

 

「──ッ、まっ……」

 

ログが落とされたこの森の至るところに隠れていた妖怪たちが、一斉にログへと飛び掛かる。

口を開け、鋭い牙とその食欲を剥き出しにした妖怪たちは、ログの体に狙いを定める。

 

ログは咄嗟に逃げようとしたが、先に足に噛みついていた妖怪に引っ張られ、体勢を崩す。

 

「──ッ……あ゛あ゛あぁぁああァ」

 

ログは必死に踠いた。

足だけではない。

腕に、腹に、体の食えるところ全てに妖怪は噛みついてくる。

その度に激痛が走り、冷静な思考を掻き消していく。

 

「うっ、あああぁぁァ」

 

身体中が熱く、突き刺すような痛みが止まない。

引っ掛かれ、噛みつかれ、貪られ、引きちぎられる。

 

凄まじい力で足を引っ張られ、既にボロボロの足が軽く引きちぎられた。

ブチブチと音がする度に激痛が走り、今度は焼けるような痛みが襲ってくる。

引きちぎった足は骨ごとボリボリと貪られる。

自身の骨が砕かれる音が、自分の肉が咀嚼される音が四方八方から聞こえてくる。

 

ゴリゴリと、背中を歯で削り取られ、露になった背骨をまるで骨をしゃぶる犬のように喰らいつく。

身体は赤くなっていき、そこら中から血が流れ出る。

 

指は棒状の菓子かのように喰われ、内臓は引きずり出された後にゼリーのように飲み込まれる。

 

「ゴッ……ガッ、ゴボッ……」

口から際限なく溢れてくる血で、叫ぶことすら許されない。

残った魔力が体を再生しようとするが、それも間に合わないどころか、自身が痛みを味わう時間を引き延ばしている原因となっている。

 

「だ、ずげ……」

ようやく言葉が絞り出そうとなった時──

 

急に左目の視界が無くなったかと思うと、同時に左目の裏側にあたる部分が強く押さえられる感覚がする。

 

頭を動かそうにも、何かに押さえつけられているのかびくともしない。

 

首に生暖かい吐息のようなものを感じたかと思うと、首に何かが深く突き刺さる。

次第に首に加わる力が強くなっていき──

 

 

 

それを最後に、全ての感覚が消えた。




「幻天」の天は天国から取ってみました。


ログの能力から生み出されるものの正式名称は魔物ではなく影が正しいです。
なので魔物ではなく影と表記していた部分があったのはこういう理由です。
本編で触れる機会がなくこんなおまけみたいな形で明かすことになって申し訳ないです。

感想、コメント等お待ちしてます。
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