「ざまぁ見ろ」
『うわぁ、かわいそー』
空中からログの最期を見届けるさとりは、そう吐き捨てた。
「成程、ルーミアを呼び寄せたのね」
咲夜はさとりの左手を見てそう言う。
よく見ると、さとりの左手には血が滲んでいた。
恐らく、森に入って自身の血でルーミアを誘き寄せたのだろう。
「……苦労したわ──」と、疲れたような表情でさとりが話している時、バリバリと、その言葉を遮るように音が鳴り響く。
二人して目線を向けると、丁度頭蓋骨を食しているルーミアが目に入った。
「見ていて気分の良いものではないわ。あなたの手の治療もしてあげるから、一度館に戻りましょう?」
「……」
さとりは少しの間を空けてから答えた。
「ええ」
もう原型の無いログを背にして、さとりは咲夜の後を追って紅魔館へ向かった。
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大きな刃物を持って突撃してくる妖怪を躱し、別の妖怪が伸ばした腕を上に飛んで避ける。
その後、着地をしたタイミングで二匹の妖怪は細切れにされ、弾けるように散る。
八雲紫が仕向けた妖怪は、この世界の主──ガラにもその牙を向けていた。
「誰かが我の世界に干渉したか……」
ガラはこの世界に起きている異常を、そう考えた。
「一人……いや、二人か……?」
ガラは再び襲い掛かってくる妖怪を相手する。
その周囲には、既に何十体もの死体の山が築かれていた。
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コツ、コツと足音が鳴る。
長い廊下を一人歩くエリシアは、まるで何かに導かれるように先へ進んでいた。
エリシア自身、何処へ向かっているのかは分からない。
ただ、行かなければならないと、そう思った。
エリシアは淡々と歩を進める。
「ア゛ア゛ァァ」
廊下の曲がり角から妖怪が現れても顔色一つ変えず、エリシアが通り過ぎた頃には、穴だらけになって倒れていた。
この事態で、悪魔と天使は大いに混乱している。
訳も分からず殺される者、生きるために抵抗する者。
この状況でもガラに怯え、魔理沙たちを倒しに行こうとする者。
混沌を極めた今が好機と、ガラに反旗を翻す者。
「本当、嫌われているわね……アイツ──」
一応ガラ側の者と反乱者の比率は半々か、反乱者の方が少し多いくらい。
ここに来るまでに色んな者を見たのだが──
八雲紫が送り込んだ妖怪が良い足切りになっている。
あまり力を持たない悪魔や天使は殺られ、力を持つ者は逆に返り討ちにする。
力のある者は周りを扇動し、ガラに反旗を翻す。
そして厳選された者同士で対立が起き、潰し合う。
「……」
暫く歩き続け、やがてエリシアはある扉の前に着く。
その扉には異様なオーラがあった。
中に居る者の圧が、扉越しに伝わってくる。
それはとても静かな圧。
ただ私が緊張しているだけなのかもしれない。
魔力は感じないのに、その圧はある。
ただ、そこに『居る』という確信がある。
エリシアは一度深呼吸をする。
そして、覚悟を決めてその扉を開いた。
重くも軽くもない扉を開いて中に入ると、ギィィという音を立てながら、後ろで扉が閉まった。
中はほんのり明るかった。
空間は全体的に白く、大きな柱が所々に立っている。
『神殿』という言葉が似合いそうな空間だった。
辺りを見渡すと、少し遠くに人影があった。
「……」
エリシアはその人影に向かって進み始める。
不意に、人影の近くで鮮血が飛び散る。
花火のように、爆ぜるように。
爆ぜたそれは力無く倒れる。
あの不気味な見た目からして、倒れたのは妖怪だろう。
その光景を見たエリシアはそこで立ち止まる。
「やはりあなたなのね──」
「カリエル」
エリシアの目線の先にいた男──カリエルはその言葉を聞くと共に、エリシアを見た。
「戻って来たのか、エリシア」
「ここに来なきゃ、アイツをぶっ飛ばせないじゃない」
エリシアは銃を構え、銃口をカリエルに向けてそう言った。
────────
「う、うぅ……」
血が止まらない。
腹部を強く抑えるも、隙間から血が溢れてくる。
すぐにこの場から逃げたいけれど、足はまともに動かない。
ちぎれかけの足をぶら下げて、引きずりながら進むことしかできない。
私には力が無い。
自然治癒があると言っても、時間がかかる。
私が力のある悪魔だったら、この怪我もすぐに治せたのだろうか?
自身の無力さを呪うことしかできない。
ペチ、ペチと地面に肌が直接触れるような足音が聞こえてくる。
もう、すぐそこまでアレが来ている。
「はぁ……」
大きく息を吐いた。
壁に体を預け、目を閉じて周りを見ないようにした。
眠りにつくのを待つように、死をただ待つことにした。
だが、寝ようと思う時ほど眠れないように、死もすぐには来てくれない。
ペチペチという足音が、目を閉じた私に唯一入ってくる外の情報だった。
一定の間隔、しかしゆっくりとした、そんな足音。
慎重に進んでいるとも、歩くのが遅いとも言えそうな、そんな間隔。
コツ
足音が鳴った。
先程とは違う、硬いものが当たるような音。
それと共に、その足音よりも遠くから何か騒がしい音が聞こえる。
新しく鳴った足音は、アレの発する足音よりも短い間隔で響き、私の側で鳴り止んだ。
目は開けなかった。
もうどうでもよかった。
「大丈夫、すぐに助けるから──」
足音じゃない、そんな音がした。
こんな所で聞くことは無いと思っていた、優しい音だった。
────────
「ツケってやつが回って来たんじゃない?」
「まあ、今まで散々好き勝手やってきたのだから当然ね」
エリシアは表情を変えることなく、淡々と話す。
「──かもしれないな」
対するカリエルは意外にもあっさりと肯定した。
「あの方も否定はしないだろう」
「……好き勝手やっている自覚はあるということね」
「ここにいる事に不満があることも、最初から分かっていた」
いずれこうして反乱のようなことが起こると分かっていて続けていたと言うのだ。
エリシアは驚きよりも呆れが出てきた。
「お前もそうだ。最初から裏切るだろうと分かった上で置いていた。ツドラも、ログも、奴らが内心どう思っているのかなんて分かっていた」
カリエルも、表情を変えずにそう言う。
「寧ろ、あの方はお前たちがいつ裏切るのかと思っていただろうな」
「……どこまで私たちを馬鹿にすれば気が済むの?」
エリシアの声のトーンが下がる。
「……お前に少しでも迷いがあれば、戻ってこいとでも言おうかと思ったが……」
カリエルはエリシアの目を見る。
「答えは決まっているか……」
次の瞬間、エリシアはカリエルのすぐ側にまで接近し、銃口をカリエルの頭に向けていた。
「悪くはない」
その言葉を放ちながら、カリエルはその不意打ちを軽く避ける。
(見切られた……?)
先程の一瞬、エリシアがカリエルへ完全に接近しきるよりも前に、カリエルの体は僅かに動いていた。
偶々などではない。
攻撃の軌道を予測して、最小限の動きで避けるための動作だった。
「グッ──!!」
腹部への強い衝撃。
エリシアの体は軽く蹴り飛ばされ、柱を一本貫通した先にある柱にまで飛ばされた。
エリシアは咄嗟に腹部を押さえて、そこにまだ腹があることを確認する。
「──ッ」
危険を感じ取ったエリシアがすぐに半分程体がめり込んだ柱から離れると、その直後にカリエルが柱を拳の一撃で粉々に破壊する。
エリシアはすぐに銃を撃とうとするのだが、その時には既にカリエルの拳が眼前にまで迫っていた。
「──!」
エリシアは体勢を低くして間一髪それの直撃を避けると、額に拳が掠りながらも引き金を引いた。
エリシアは一度カリエルから距離を取る。
その時、カランカランという金属音が鳴った。
「……」
それは、カリエルの手に握られていた弾丸の落ちる音だった。
エリシアの額から血が垂れ、汗が滲む。
「これでも、答えは変わらぬのか?」
エリシアは今持っている銃から、魔法陣から出した別の銃へと切り替える。
「当たり前でしょ、分かっていることを態々聞く必要ある?」
「一応だ」
そう一言で返したカリエルの纏う雰囲気が変わる。
「──では、質問を変えよう」
「最後に言い残す言葉はあるか?」
「……?何、もう勝った気でいるの?」
「私なりのお前への敬意だ」
「最期は言葉無く終わる事も多い。だが、残る者へと伝えたい言葉がある者がいるのもまた事実。だから、言葉を交わせる内に聞く──」
「最後に言い残す言葉はあるか?」
カリエルは再度その質問をするが、エリシアは少し考えるとすぐに返答した。
「無い──」
「ほう」
「私が勝つから──無い」
その言葉を告げると、エリシアは再びカリエルとの距離を詰める。
ここまでは最初と同じ。
だが、エリシアは次の行動に変化を加えた。
「成程──」
カリエルに接近すると、エリシアはその場で回転し、球を描くように銃を撃つ。
球体のような状態から放たれた弾丸は四方八方へと飛んでいく。
銃の方も散弾銃に変え、更に弾丸の密度を上げた。
──のだが、カリエルは自身に飛んでくる弾丸を全て掴み取った後、エリシアの間合いへと入る。
「──ッ!!」
そこから放たれた連撃。
それをエリシアは躱せなかった。
(速いだけじゃない。一撃一撃が重い……!)
(魔力で肉体強度も上がっている筈なのに、攻撃が体の芯にまで響く──!!)
何十発も打撃を浴びせられた後に、エリシアは再び蹴り飛ばされる。
何度かバウンドした後に、エリシアは倒れ込むような姿勢で止まった。
「はぁ……はぁ……」
両手を地面につけ、急いで息を整える。
「うっ──」
そんな中、胃から何かが競り上がってくる感覚が襲ってきた。
吐き出されたのは、血の混じった液体。
口の中が鉄の味に染められた。
(内臓が潰れた……?)
吐血量と自身の感覚から、そう推測する。
(肋が折れたことは分かっていたけど……内臓までやられていたか……)
エリシアはすぐに回復しようとするのだが──
「そろそろ終わらせるとしよう」
その言葉を告げ、カリエルが動き出した。
(間に合わな──)
その時、轟音が鳴った。
だが、エリシアに攻撃はきていなかった。
思わず瞑った目を開けると、立ち上る煙の中に一つの人影があった。
特徴的な羽を持つ彼女は、エリシアの無事を確認する。
「少し遅れたわね。大丈夫かしら?」
そこに、紅は舞い降りた。
おまけ
四天にインタビュー!!あの人のことどう思ってる?
ツドラ編
エリシア「嫌い。変にプライドだけ高いところとか」
ログ「ヘタレ腰抜け雑魚チキンのクソ天使」
カリエル「もう少しみんなのことを知って、悪魔とか関係無く仲良くしてほしい」
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