「壁を突き破って来たのか……」
カリエルは大きな穴の空いた、壁の上の方を横目で見て呟く。
「最短ルートだったもの。礼儀がなっていなくても、目を瞑ってくれるかしら?」
煙が晴れ、視界が鮮明になっていく。
カリエルの振り下ろした拳を、彼女はその身の丈程ありそうな大剣で防いでいた。
「別に構わん。それよりもお前は誰だ?」
「あら、相手の名を知りたい時は自分から名乗るものよ」
剣を挟んで両者は言葉を交わす。
「カリエルだ」
「フランドールよ」
フランは力を込めて、カリエルを剣で弾き飛ばす。
カリエルは後方へ飛ばされるも、難なく着地する。
「どう?戦える?」
フランは地面に手をついて休んでいるエリシアにそう問う。
「少し休めば……」
エリシアは治している最中の腹を押さえてそう答える。
「なら、巻き込まれないように気を付けなさい」
そう一言告げると、フランは次にカリエルを見る。
「先の瞬間、見ただけで分かった。強者だな」
「褒めているのならありがたく受け取るわ」
「安心しろ、貶すつもりなど無い」
「そう──」
それだけ話すと、二人の姿が消えた。
その直後に、空間のあちこちから衝撃波が生まれる。
「……」
その様子を、エリシアは傷を治しながら見ていた。
(あの吸血鬼、思っていたより速いわね……)
エリシアは自身の動体視力で二人の姿を追うが、それでも二人の動きを完全に捉えることはできていなかった。
(不思議な感覚だ──)
(常にこちらの二、三手先が読まれているかのような、奇妙な相手だ)
一方カリエルは、フランと戦う中でそんな感想を抱いた。
(当たらないか……)
一瞬の内に何発も打撃を繰り出すが、それらは全て避けられ、フェイントを仕掛けてもまるでそう来ると分かっていたかのように躱される。
(速いわね……)
対してフランは、カリエルの動きをそう感じていた。
魔力である程度の身体強化はしているようだが、それは能力を抜きにしての動き。
カリエルはまだ、能力を
少し経って、二人は地面へと降り立つ。
約十メートル程の距離を空けて、二人は互いに見合う。
その時、衝撃音が鳴った。
それと同時に、この空間にある柱が崩れていく。
フラン側にある柱は円形に広がる何個ものヒビから粉々になるように、カリエル側にある柱は一気に微塵切りにされたように崩れる。
「お前は未来が見えるのか?」
周囲の柱が崩れていく中、微動だにしないカリエルはそう問い掛けた。
「当たらずとも遠からず、とでも言おうかしら」
一方のフランも、周りの状況など特に気にすることもなくそう返した。
「あなたの方は、能力を使わなくていいの?」
「もう少し体を温めよう。まだ
再び、二人は動いた。
互いに相手に向かって進み、二者間の距離が最も近くなる点で攻撃を仕掛ける。
相手が繰り出した攻撃を互いに相殺すると、二人はそのまま相手を見ずに直進する。
フランは今まさに崩れている最中の柱から落ちてくる瓦礫を足場に上へと移動し、カリエルは比較的大きい瓦礫をフラン目掛けて飛ばす。
フランは飛んでくる瓦礫を躱しながら上から弾幕を放つ。
カリエルは弾幕を弾き、平行して瓦礫を飛ばす。
空中で弾幕と瓦礫が衝突し、爆発と煙を巻き起こす。
煙で視界が悪くなった直後、カリエルがフランの近くに姿を現した。
自身が飛ばした瓦礫に掴まって、カリエルはここまで移動した。
カリエルはそのために使った瓦礫を蹴って勢いをつける。
放たれた打撃をフランは難なく躱すと、すぐに至近距離で弾幕を放つのだが、カリエルは腕で弾幕を防ぎ、すぐにもう片方の腕で攻撃を仕掛ける。
その拳がフランの顔の横を通り過ぎると、すぐにカリエルは腕を横に振り払うことに切り替える。
フランは身を低くして避け、今足場にしている瓦礫に手をついて、カリエルの顎を目掛けて蹴り上げる。
しかし、フランの足先は顎のスレスレをなぞるように通り、躱されてしまった。
二人の乗っていた瓦礫が大きな音を立てながら、地面に落下する。
「悪魔でも人間でもない。お前は妖怪……というやつなのか?」
カリエルの拳を手で受け止め、カリエルもフランの拳を受け止めている状況で、二人は再び言葉を交わす。
「吸血鬼──まあ、妖怪でも間違ってはいないと思うわ」
そんな会話をする中、カリエルはある違和感に疑問を抱いた。
(……剣は何処へ行った?)
フランが先程まで持っていた大剣が、今この場に無い。
カリエルは先程の瞬間を思い返し、何か手掛かりを探す。
(あの時──)
ついさっき、フランが最後に放った蹴りの瞬間、既に剣はそこに無かった。
「グングニル──」
一言、フランはそう呟いた。
「──!!」
カリエルは咄嗟にフランの側から離れようとするが、フランは受け止めた拳を掴んで離さない。
直後、カリエルの横腹が切り裂かれる。
それと同時に、フランの手にはあの大剣が再び握られていた。
フランはもう片方の手で掴んでいるカリエルを斬ろうと、大剣を振りかぶる。
数多の運命が交錯する魔剣──『グングニル』
その剣より繰り出される一振りは、運命をも断ち切るという。
剣はフランの意思により姿を現し、ある時はその手の中へと向かう。
それが剣に懸けられた
フランの意思は運命として、剣は履行する。
先程、剣は主のもとへと戻るという運命を遂行した。
この
次の瞬間、振った剣はカリエルではなく空を切った。
カリエルの姿は、既にフランから離れた位置にあった。
フランがカリエルを掴んでいた腕を見ると、あらぬ方向へと何度も折れ曲がり、指が手の甲を内側にしてグーの形を作ろうとしていた。
次にカリエルを見ると、その頬からは微かに血が垂れていた。
ボキボキと音を立てながら、フランの腕は何事も無かったかのように治っていく。
カリエルも、頬から垂れる血を拭き取ると、腹の傷もろともダメージを回復する。
(あの体躯であの身体能力。そこに剣技と能力が加わることでここまで……)
「やるな」
一言、カリエルは称賛を送る。
「やはりお前は強い。フランドール」
「あなたこそ」
そんな言葉を掛け合うが、その腹の中は相手の能力を探ることしかない。
──はずだった。
普通であれば先述の通りであったのだが、フランにその必要は無かった。
『運命』
フランの瞳は数多の運命を映し出す。
元はただ漠然とした運命を示す程度だったが、フランの中にある幾つもの運命を操る力は、より強力な一つの個となり、映し出される運命を細分化した。
それは最早、未来を見ていると言っていい程に。
選択によって分岐する未来、起こり得る可能性、無数に存在する運命、その全てを瞳は映す。
故に、フランには本来会話を行う必要が無い。
言葉を交わした結果の未来が存在すれば、相手が行う会話の内容など簡単に分かる。
攻撃がくるという運命を認識し、回避する。
仕組みとしては簡単なものだが、フランは攻撃を躱すことで生まれる次の運命まで考慮して動いている。
右に避けることで生まれる運命、左に避けることで生まれる運命、そんな僅かな行動の変化でしかないように思えども、自身の選択によって生まれる運命の数は数え切れない。
能力である程度自動処理するものの、それでも数千、数万もの選択と分岐の先をフラン自身が処理している。
最悪の未来へと到達しないための選択、それを選択するために視る無数の運命、そしてそれらを処理した上で取る行動の選択。
その全てをフランは戦う中で、一瞬の内に行っている。
無論、その過程で得る情報量は、人間はおろか吸血鬼でもただでは済まない。
それをフランは自身の吸血鬼としての再生能力、生物としての適応能力で補っている。
与えられる莫大な情報量──それに耐えきれずに脳がはち切れ無いよう、常に脳を新鮮な状態で維持し、意識のリソースを情報の処理に持っていかれないように、半数以上の運命を無意識下で処理する。
それは
既に、フランは次に起こる出来事が分かっている。
フランは突然頭を傾けた。
それとほぼ同時に、フランの顔の真横を
「──!!」
カリエルは体を傾け、飛んできた弾丸を避ける。
フランは背後に居る者へと視線を向ける。
そこには一丁の銃を杖代わりにして立っているエリシアの姿があった。
そして、エリシアの持つもう片方の銃からは煙が上がっている。
「もう大丈夫?」
エリシアに一言、そう聞いた。
「
エリシアはフランの横に並び、カリエルを見据える。
「二対一ね」
「構わん、そんなことをとやかく言うつもりはない」
フランの放った言葉にカリエルは即座に返した。
「それじゃあ、遠慮なく」
フランの言葉を皮切りに、三人は動いた。
おまけ
四天にインタビュー!!あの人のことどう思ってる?
ログ編
エリシア「嫌い、あまり関わらないでほしい」
ツドラ「クソ悪魔。死ね」
カリエル「すぐに相手に突っかからずに、もっと皆と仲良くしてほしい」
感想、コメント等お待ちしてます。