幻想滅失録   作:メイア・カルテシア

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ついに肆まできたか……


紅魔と星聖─肆─

太陽(ソル)

そこから放たれるは圧倒的な熱量を秘めた一撃。

あらゆる物体を溶かしてしまう程のその熱量は、その名を冠する太陽に匹敵する。

 

「ぐッ……」

フランはそれを腹に受け、それ以上深く入らぬようカリエルの腕を掴んでいる。

 

吸血鬼──不死身とも称される彼らの弱点、その最たるもの、それは『太陽』である。

 

そしてカリエルの放った太陽(ソル)、それはただ熱量を持った打撃では無い。

その一撃は、まさに太陽そのもの。

光も、紫外線も、太陽が太陽たるものがその拳には秘められている。

 

 

今フランが置かれている状況、それは拳大の太陽をその身に受けていると言っても過言ではない。

 

 

「耐えるか……流石だな、フランドール」

「熱いわね……」

吸血鬼、もとい太陽が弱点の者ならばただでは済まないその一撃を、フランは身体で受け止めた。

 

フランの手に力が入る。

それはカリエルの腕をしっかりと掴んで離さない。

 

 

その時、カリエルの背後に強い魔力の気配が現れる。

消去法でその気配の主は一人しかいない。

 

カリエルはもう片方の手で飛んでくる弾丸に備えながら背後を振り返る。

 

カリエルが警戒した通り、背後からは弾丸が飛んできた。

頭に向けて飛んできた弾丸を、カリエルは眼前で受け止める。

 

次にこちらへと向かってくるエリシアに対処しようとするのだが、それはできなかった。

 

(この弾丸……!!)

飛んできた弾丸を受け止めたはいいものの、その手を動かすことができなかった。

 

手の中にある弾丸はそこで止まることなく、まだ進み続けようとしている。

手に力を入れて、無理矢理止めてはいるが、この手を離した瞬間、手の中の弾丸がこちらへと飛んでくるのは明らかだった。

 

「そういうことか、フランドール」

先程の逆、攻撃を受け止め動きを止める役割をフランドールは請け負ったのだ。

 

 

(さて、どうするか……)

カリエルは思考を巡らせる。

 

このままフランの身体を貫くことは現実的じゃない。

それよりも前にエリシアに接近される。

 

エリシアの強みは単純な破壊力。

ログやツドラと比べて頭一つ抜けたその破壊力は目を見張るものがある。

弾丸の方は相変わらず止まる気配はない。

 

(打つ手無し……)

一瞬その言葉が過るが、カリエルはすぐに振り払う。

(いや……違う……まだ手はある)

(そしてフランドール、お前にはもう何をするか分かっているのだろう?)

こちらの次の手は恐らく読まれている。

だが、それでもいい。

(いいだろう、乗ってやる──)

 

 

カリエルはその場で地面を思いきり踏み込む。

 

『凶星・暴荒風(ぼうこうふう)

 

突然巻き起こる強烈な風、その風に乗って瓦礫が宙に舞い上がる。

そんな中、フランはカリエルの身体を強く蹴ってその場から離脱する。

 

一方エリシアは、早々にカリエルから距離を取った為にその風に飲まれることは避けられた。

 

 

カリエルは手に力を入れ、弾丸を握り潰す。

風はカリエルの周りを旋回するように吹き、風の渦を成す。

そして両手が自由となったカリエルは、四方八方に向けてその場で拳を振り始めた。

 

 

「──ッ⁉」

突如、風の渦の外に居るエリシアに衝撃が襲う。

自身の身体に向けて、何かが飛んできた。

 

姿形の見えぬ何かは、身体にめり込むように突き進み、同時に鋭利な刃物で切り裂かれたような切り傷を付けてくる。

 

(まさか……風を……?)

(打撃の衝撃波と一緒に、風を飛ばしている……⁉)

 

エリシアを襲ったのは、飛ぶ打撃と風。

カリエルは渦の中心で周囲に打撃を放ちながら、それに風を纏わせて外へと飛ばしている。

 

それを喰らえば打撃の衝撃が身体の奥にまで入り込み、そこへ鋭い刃物のような風を運び込む。

カリエルはそれを周囲に無数に放ち続けている。

その光景はまるで嵐のようで、荒れ狂う風は周囲を破壊し尽くさんとしている。

 

 

「──ッ」

エリシアは風の中心に向けて弾丸を放つ。

だが、弾丸はカリエルの周囲を漂う風に巻き込まれる。

(あそこまでは届かないか……)

エリシアはその後も何発か弾丸を放つが、そのどれもが風に巻き込まれて瓦礫と共に渦の一部となる。

 

(あっちは……)

フランの方に何か案がないかと思い、エリシアはフランを見る。

しかし、目に入ってきたのはいつの間にか直した剣で顔色一つ変えずに淡々と飛んでくる攻撃を防いでいるフランの姿。

その様子から、フラン自身がここからどうにかしようというような気配は一切感じなかった。

寧ろこちらが行動するのを待っているかのようであった。

 

(私が何とかしろってこと……?)

エリシアは一度ため息をついた。

 

 

「最初からそのつもりよ──」

 

エリシアは能力を発動する。

(エネルギーは十分、後は方向だけ……)

 

だがその時、能力の操作に専念し、その場から動かないエリシアに向けてカリエルの攻撃が襲い掛かる。

(──仕方ないか……)

しかし、エリシアは回避をせず、攻撃を受けることを選ぶ。

 

その直後、エリシアの前方に幾つかの紅い大きな弾幕が現れる。

「『クリムゾンパニッシャー』」

次の瞬間、突然現れた弾幕が全て切り裂かれ、爆発が巻き起こる。

それが風の渦を中心に四方で同時に起こった。

爆発は渦を囲み、そこから放たれる攻撃が外へ漏れぬよう防ぐ壁となる。

 

次にエリシアが見たのは、まるで煙のようにその姿を消すフランの姿。

その姿を見届けたエリシアは、自分のすべき事に改めて専念する。

 

 

能力の対象をカリエルの周りを旋回する瓦礫や弾丸に絞り、風によって今加わっているエネルギーも利用して、攻撃に転用する。

 

 

その時、カリエルの周りを飛び交う弾丸の向きが変わる。それどころか、弾丸のみならず瓦礫すらも、風が吹き荒れる中でその動きを止め、カリエルを見据えている。

 

次の瞬間、向きを変えた弾丸や瓦礫が一斉に動き出す。

カリエル目掛けて進み始めたそれらは、凄まじい速度で動いた。

大きな瓦礫すらもまるで銃弾が進むような速度で動き、小さな弾丸はそれ以上の速度で飛び交う。

 

「……」

カリエルは一度攻撃の手を止め、自身に向けて飛んでくるそれらの対処に移る。

 

 

風の外へと飛んでいく攻撃が止んだその隙に、二人は反撃に出る。

拳を握り締め、エリシアは強く地面を殴り付け、瓦礫を浮き上がらせる。

次に浮き上がった瓦礫をエリシアは風の渦に向けて放ち、フランにバトンタッチする。

 

エリシアと代わり、フランは剣を構え、瓦礫に狙いを定めて冷気を放つ。

すると、風の渦に入り込んだ瓦礫は冷気に当てられ、凍りつく。

 

風の吹き荒れる中で凍りついた瓦礫は、その氷の面積を徐々に広げていき、他の凍った瓦礫と繋がり、地面に氷の根を張り巡らす。

やがてそれは一つの大きな氷の柱のようになり、吹き荒れる風を止めた。

 

 

直後、フランは氷の柱を見据えながら剣を大きく振った。

 

ガラスの砕けるような甲高い音、重量のある大きなものが風を切るような鈍く重い音を鳴らしながら、根本付近を一刀両断された氷の柱は、だるま落としのように切断部の上側の氷が垂直に落下し、下側の氷に衝突する。

その衝撃で氷の柱にヒビが入っていき、下側から次第に砕けていく。

 

その様子を見るフランは弾幕を張り、追い討ちのように柱へぶつける。

爆発が起こり、柱は更に速度を上げて崩れていく。

 

 

そんな中、一際大きな衝撃音が鳴り響くと共に柱に大きな穴が空く。

その穴から勢いよく飛び出した人影は、フランとエリシアの前へと降り立つ。

 

人影はこちらを見るや否や勢いよく接近し、蹴りを放ってくる。

「いい反応速度だ」

蹴りを受け止めたフランへと、カリエルは言葉を掛ける。

 

その直後にカリエルはフランから距離を取り、フランはカリエルを追いかけるようにそれに続く。

そこからフランとカリエルの二人は更に激しい攻防を繰り広げた。

 

一瞬にも満たない間に行われる無数のやり取り。

拳と剣を交え、攻撃を躱し、反撃を行う。

それはまさに限られた強者の領域。

 

 

「感謝しよう、フランドール」

空中でフランが拳を受け止めると、カリエルはそう言った。

「お前のような者は久しぶりだ。ここまで純粋に楽しめる戦いはいつぶりか……」

笑みを浮かべて喋るカリエルの魔力が高まる。

「ならばこれはどうだ?」

カリエルは受け止められた拳を引き、技を繰り出す。

 

「『星嵐(せいらん)恒合星(こうごうせい)』」

 

次の瞬間、この空間が光に包まれる。

まるで花火をこの空間の中心に打ち上げたかのように、弾けるように光は広がる。

同時に、空間中を激しい衝撃が襲う。

 

風が吹き、氷が飛び、火が漂う。

凄まじい質量を持った拳から放たれる衝撃波、目にも留まらぬ連撃。

星空の中にいるような美しい光景とは裏腹に、輝くその星々一つ一つに凄まじいエネルギーが込められている。

着弾した周囲を凍らせる星に、燃え盛る炎を纏う星、様々な種類の星が一斉に何発も放たれている。

空間中に穴が空き、天井が崩れたことにより煙が舞い上がる。

 

 

やがて攻撃が収まったかと思うと、今度は一気に静かになり、柱や壁の崩れる音がよく聞こえるようになった。

「フラン?」

煙で視界の悪い中、エリシアは周囲を見渡しフランの姿を探す。

煙で何も見えない、誰の気配も感じない。

フランも、カリエルも、何処に行ったのか、どうなったのかも分からない。

 

煙は次第に薄くなっていき、視界が晴れていく。

「フラン?いるの?」

エリシアは再度そう言って、フランを探す。

まさかやられたのか、そんな思考が頭を過る。

 

「フラン──?」

「居るわよ」

フランはエリシアの背後からそう返す。

 

「──うわッ⁉いきなり現れないでよ!!」

「あなたが探しているから……」

「だったら速く返事してよ……」

 

それより……と、エリシアは思考を切り替える。

「カリエルは?」

フランがここに居るのならカリエルは……と、エリシアは思ったのだが──

「思っていたよりしぶといわね、彼──」

そんなうまい話はなく、フランは前方に目線を移す。

そこには人影があり、煙が晴れていく程、その姿が鮮明になっていく。

 

 

「何であんなにピンピンしてるのよ……」

その姿を見たエリシアはそう言葉を漏らした。

ここまでやって、まだ終わらない。その状況はとても信じられないものだった。

「もう一踏ん張りよ、エリシア」

フランはエリシアに言葉を掛ける。

だが、エリシアの目は下を見た。

 

「また、そんなこと言って……」

小さな声でエリシアは呟く。

「私には無理よ、あなたの足手まといにしかならない」

「そんなことないわ、あなたにだってやれることはある」

元気付けようとしているのか、フランはそんなことを言う。

 

「あなた一人で十分でしょ……私が何もしなくても、あなた一人で十分戦える」

「さっきのを見て分かった。私にアイツを倒すなんてできないって」

ガラはきっと、もっと強い。

ここで思い知ったのは自身の無力さ。

何もできない、自分の弱さ。

 

この状況が何よりの証拠。

 

「私一人じゃなーんにもできない、だから……」

 

「──あなたが倒して」

でも、フランは違う。

フランは私とは違う。

 

自分は強いと驕ったことはない。

それでも、それなりには戦えると思ってた。

 

でも、実際は弱かった。

あの日ガラに何もできずにやられて、今度は手も足も出ずにその側近にやられる。

 

私の姿はさぞ滑稽だろう。

少なくとも、ログかツドラは大笑いする。

 

私はガラはおろかカリエルにすら勝てない。

でも、フランなら……

私には無理でも、フランならば……

 

それならば、私のすることは一つ。

「そのための手伝いならする。何だってする。足手まといなら見捨ててもいい。だから──」

 

──フランに、この命を懸ける。

この命の灯火が消えてでも、フランを先へ進ませる。

 

私ができることなんて、きっとこの位だ。

 

 

「いいえ、私は倒さないわ」

「──は?」

無表情でそんなことを言うフランに対し、エリシアからはすっとんきょうな声が出た。

「聞こえなかった?私は倒さない」

フランはもう一度そう言った。

聞き間違いではないことが分かったが、肝心なのはそれではない。

 

「いや……聞こえてるけど……何を、言ってるの?」

倒さない?何故?どうして?

そんな疑問以外出てこなかった。

ここまでやっておいて倒す以外に何があると言うのだろうか?

 

「文字通り、()は倒さない」

「だから……何で……?」

 

あなた(・・・)が倒すから──」

 

「この戦いの決着をつけるのはあなた、手伝いをするのは私の方」

「そんなの……決着をつけるって……それが出来ないから私は……!!」

 

「それでも、あなたがやるべきよ……いいえ、あなたがやりなさい」

「あなたが彼を倒しなさい。あなたがこの戦いを終わらせなさい」

 

「この戦いを始めたのは誰?あなたでしょう?」

「あなたは負ける戦いを仕掛けたの?違うでしょ、勝つために来たのでしょう?」

 

「勝つと決めて、その先にいるガラを倒すために、この戦いを始めたのでしょう?」

「──なら、あなたが終わらせなさい」

 

「これはあなたの戦いよ」

 

「私の……」

「でも、どうやって……」

そう呟いたところで、フランはエリシアの肩にポンッと手を添えた。

「あなたには力がある。自分を信じなさい」

 

 

「……」

エリシアは自身の手を見た。

無意識の内に、視線がそちらを向いていた。

 

何故私にそこまでするのかは分からない。

けど、私にできると言うのならば、その期待に応えてあげるべきだろうか?

 

(私の力……)

まるで根性論とかそんな風に聞こえる言葉だったけど、今だけはそれを信じてみてもいいかもしれない。

 

「そんなこと、あなたは絶対言わないと思ってた」

そうボソッと呟くと、エリシアはフランを見た。

 

「──勝算は?」

そこまで期待するのなら、あるはずよね。

「フフッ、問題ないわ……運命はもう、決まっているのだから」

フランはエリシアの顔を見て、少し笑って答えた。

 

 

「だから、その運命を見届けましょう」

 

 

フランとエリシアが構えると、その様子を見てカリエルも改めて構える。

「話は終わったか?」

「ええ、静かに待っていてくれて助かったわ」

 

最初にフランが動き出し、カリエルへと接近する。

 

 

(先ずは動きを封じる──!!)

対してエリシアは後方からフランのサポートを行う。

 

その時、突如としてカリエルの全身に猛烈な負荷が掛かる。

エリシアの能力により、その体を押し潰さんとする程の圧力がカリエルを襲っているのだ。

 

次第にカリエルの立つ場所を中心として、円形の窪みができる。

カリエルよりも先に、それを支える床が限界を迎えたのだろう。しかし、当のカリエルは微動だにしない。

その場から一歩たりとも動かず、立ち尽くしている。

その顔に焦りなどは見られない。

 

ただこの場で迎え撃つと、カリエルは決めた。

 

 

フランが振る剣を身を屈めつつ、腕で弾く。

その直後に弾丸が飛んでくるが、カリエルはそれを手で受け止め、すぐにフランの次の攻撃に備える。

 

 

飛んでくる弾幕を弾き、斬撃を防ぎ、反撃を行う。

これらをカリエルはその場から一歩たりとも動かずにやってのけた。

 

 

「『流星・流我(りゅうが)』」

何発も拳を打ち込み、カリエルは飛んでくる無数の弾幕を防ぐ。

 

(その状態で何で戦えるのよ……)

エリシアはその状況を見て若干困惑していた。

恐らく潰しきれないだろうとは思っていたが、そのまま何事も無いように戦闘を続行するとは思わなかったのだ。

(でも、明らかに蹴り技は減った)

カリエルの様子を見ていて、こちらの妨害の影響があると思われた変化はそれくらいだった。

でも、少なからず妨害の影響はあることが分かった。

(後は隙だけ、攻撃を叩き込む隙さえあればいいのに……肝心のその隙がない)

寧ろ、完全にあそこから動かずに対処すると決めたことでより隙がなくなっているようにも思える。

 

どうする?

一度能力を解除して……いやダメだ。

アイツが自由に動ける状態で攻撃をまともに当てられる気がしない。

 

攻撃を当てる為には、何か別のものに気を取られている瞬間か、真向勝負を挑むくらいだろうか?

(ならば──)

 

「フラン!!」

エリシアがフランの名を呼ぶと、「了解」と一言だけ返して、フランはカリエルへと向かって行った。

「ちょッ……まだ何も言ってないわよ⁉」

 

 

フランは剣を構えてカリエルへと接近し、カリエルの周りを移動しながら何度も剣を振る。

その合間合間にエリシアは弾丸を挟み込み、カリエルのペースを乱す。

 

「隙を作りたいのだろう?フランドール」

その様子からカリエルは察した。

フランはそのカリエルに何か返そうとするが、声を発する前にカリエルはそれを止めた。

「何も言わなくていい、フランドール」

「お前が何をしたいのかはよくわかる。エリシアか……」

 

「この戦いももう佳境だろう。心配せずとも、興を削ぐような真似はせん」

 

「終わらせよう、互いの──全力を以て」

 

その言葉を聞いたフランは、何も言わずカリエルから離れ、エリシアの側へと向かう。

 

「構えろ、エリシア!!」

 

その叫びを聞いたエリシアは手に持つ銃を投げ捨て、腕を前に突き出す。

「受け止めてやるわよ!!」

 

 

カリエルの拳にこれまでにない程の魔力が集まる。

そして溜まった膨大な魔力と、己の拳をカリエルは同時に放つ。

「『終源・超新星』」

 

直後、凄まじい衝撃が生まれる。

空間中にその衝撃が行き渡り、まるで空間そのものが激しく揺れるかのような感覚が二人を襲う。

 

直撃すればただでは済まないことは明らかな攻撃、だが直撃はせずともその威力は凄まじいものであった。

打ち出された莫大な魔力と、拳の衝撃波が二人を襲う。

 

その攻撃の大部分はエリシアが受け止めようとしているが、その攻撃から伝わってくる衝撃波だけでも、足に力を入れないと身体が吹き飛ばされてしまいそうだった。

 

そんな攻撃を受け止めようとしているエリシアは、無論無傷では済まない。

「ぐッ……うぅ……」

手がひしゃげてしまいそうだ。

ボキリと音を立てて折れた指が、また何処かへ飛んでいった。

身体を支える足も限界が近い。

(関係ない、やれ──)

手の皮膚が焼ける。

肉が抉れる。

また骨が見えた。

(受け止めろ、私が……やれ!!)

 

 

『自分を信じなさい』

「グゥゥ……!!」

(能力だ、能力を使え……!!)

 

 

『あなたは、生きて……』

「はあぁぁぁッ!!」

(絶対に、受け止めるッ!!)

 

 

「もう大丈夫そうね……」

エリシアの隣で衝撃波を防ぐフランは小さくそう呟いた。

 

次にフランは腕に力を入れて、勢いよく剣を前方へと投げた。

衝撃波を掻き分けながら剣が直進していくと、その先にカリエルの姿が見えた。

 

(剣……!!)

だが剣は、カリエルの体とあと数ミリというところを通過する。

決死の投擲は思い虚しく当たらなかった。

それを視界に納めた時、もう一つ、カリエルの視界に映るものがあった。

(まさかッ……⁉)

そこにあったのは剣に手を伸ばすフランの姿。

 

フランは剣を投げた直後に、自身も衝撃波の中へと突っ込み、そして今、投げた剣へと追い付いた。

衝撃波の中、無防備の状態で走り抜けたフランの身体からは血が溢れていたが、そんな状態でもフランは自身で投げた剣を掴み取り、カリエル目掛けて片手で剣を振り上げる。

 

 

完全に相手の意表を突いた一撃。

カリエルもそれには対応しきれず、右腕を肩ごと切り裂かれる。

 

(だが、その体勢ですぐにもう一度剣を振るうことは出来まい)

フランは今、剣を大きく振り上げた状態である。

それも、ただ振り上げただけではなく、剣を片手で持ち外側へと大きくそれた状態。

加えて身を低くするため、左手は地面に付いている。

ここから再度その剣を振るためには、一度体勢を整える必要がある。

 

強引に振り上げた剣を振り下ろそうとしても、僅かに時間が空く。

 

(その間に拳を叩き込む──!!)

カリエルは残る左手を即座に握り締め、フラン目掛けて放つ。

 

それに対しフランは地面に付いていた左手を、その拳に向ける。

(受け止めるつもりか?ならばその腕ごと粉砕するのみ!!)

 

だがフランのその手は、向かってくるカリエルの拳を受け止めようとはしなかった。

拳がその手に到達する前に、フランはその手を握り締めた(・・・・・)

 

「──ッ⁉」

突然、カリエルの左腕があらぬ方向へと幾度も折れ曲がる。

まるで何かに押し潰され、無理矢理捩じ曲げられたかのように──

 

「きゅっとして……ってね」

 

その時だった。

何か大きな気配を、カリエルは感じ取った。

 

 

 

(圧縮しろ、押し潰せ──!!)

エリシアは能力を全開にして、攻撃を受け止めていた。

だが先程とは違い、カリエルの放った攻撃が段々小さくなっていく。

 

エリシアは攻撃全体に圧力を掛け、一点に圧縮しようとしていた。

次第に攻撃は小さくなっていき、やがてエリシアの手のひらサイズに収まる。

 

 

「『黒星(こくせい)』!!」

星々の煌めきが混ざり合ったような黒い小さな球。

それは先程の攻撃の強大なエネルギーが内包されたもの。

それの方向性を定め、一気に放つ。

 

封じ込められた膨大な魔力が解き放たれ、それは全てを飲み込む一筋の黒い巨大なレーザーのようになる。

 

 

 

波のように押し寄せるそれを見て、カリエルは笑った。

両腕は使い物にならない、その攻撃を防ぐことはできない。

その状況で笑い、一言放った。

 

「見事だ──」

 

カリエルは何の抵抗もせず、それに飲まれた。

 

 

 

----------------

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

肩で息をするエリシアに、コツコツと近づく足音があった。

 

「お疲れさま」

その言葉と共に、フランはエリシアに手を差し出した。

「……」

その手を取り、エリシアは立ち上がる。

「あんなにボロボロになっていたのに、あなたも随分しぶといのね」

「褒めてる?それ」

 

 

辺りを見渡していると、やがて先程巻き起こった煙が晴れ、空間が鮮明になっていく。

 

「酷い有り様ね」

見えた景色は、もう原型など残さぬ程ボロボロになった空間。

柱はあらかた砕け散り、壁は穴だらけ、完全に破壊されて別の空間と繋がってしまっている部分もある。

 

 

「……」

そんな中で、一つ目を引かれるものがあった。

エリシアはそれに向かって歩き出す。

 

 

「エリシアか……」

エリシアが向かった先にあったのは、傷だらけのカリエルの姿だった。

 

「まさかここまで成長するとはな……」

瓦礫にもたれかかり、ボソボソとした声でカリエルは喋った。

(身体に穴が空いて、声も小さい……)

もう抵抗する力も残っていないだろう。

そう判断したエリシアはカリエルの側に行く。

 

 

「お前を初めて見た時と比べても、ずっと強くなった……」

「……あなたはずっとそうね。何だか私たちの面倒を見ているみたいだった」

 

「……面倒か……私はお前たちを、まるで弟子のようにでも思っていたのかもな……」

カリエルは記憶を思い返すように、ゆっくりと話す。

「だからか、今私は嬉しいと思っている。あの時のお前が……ここまで強くなったということが、嬉しいと思っている」

 

「……あなたに恨みはない。あの環境でも、あなたを嫌う者は少なかったでしょうね」

恨みや憎しみが渦巻いていたあの場所で、カリエルはそうだった。

特に憎まれることもなく、寧ろカリエルのことは信頼している者だっていた。

「そんなあなたを見ていると、あなたが本当にガラの事を慕っていることもよく分かった」

 

だが、いくら聖人だとしても、どんな事情があったとしても、それでも、やらなくてはいけないことがある。

「──でもごめんなさい、ガラは私たちが殺す」

「……そうか、フフッ……頑張れよ……」

そう呟くと、カリエルは遠くにいるフランをボヤけるその目で見た。

「いい仲間ができたじゃないか……」

 

 

「──強くなったな、エリシア……」

最後にそう告げて、カリエルは目を閉じた。

 

 

「……」

その様子を見守るエリシアに、フランが近寄り一言告げた。

「先を急ぎましょう」

 

 

「……ええ」

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

何もない暗闇の中に、彼の姿があった。

『シトリウス……』

その姿を見て、思わず声が出た。

 

『私はこれで、良かったのだろうか……?』

心のどこかで疑問に思っていたことが、自然と口から洩れ出た。

その問いに、彼は笑みを浮かべて答えてくれた。

 

 

『フッ……そうか……』

 

 

『それなら……よかった……』




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