『……おかしいな、お前のような奴を俺は知らん』
『我も同意見だ、貴様のようなちんけな存在を我は知らん。それに覚えられるような筋合いもない』
『まあそう言うなよ、初対面ならお互いに自己紹介でもしようじゃないか』
『俺は鏡影、
『お前は?』
『……我は……王となる者だ』
◆◇◆◇
『邪精霊如きが何の用だ?』
『平和の為に、倒しに来た』
『身の程を弁えろ。脆弱な邪精霊の分際でそのような戯言をほざくとは笑わせる』
『正義の下に、燃え尽きろ』
◆◇◆◇
『うッ……ぐぅ……』
『大層な事をほざく割にその程度か?』
『──暁……』
『下らん、いっそ一思いに屠ってやろう』
大きな炎の球と、強大な魔力のレーザーのぶつかり合い。
その時はそうなると思っていた。
だが──
『──ッ⁉』
突如背後から放たれた一本の矢。
その矢が身体に刺さった瞬間に、それまでに溜めていた魔力が霧散した。
『誰だ──!!』
その声に反応する者は無く、代わりに炎の球がこちらへ向けて落とされた。
────────
そうだ、あの時だ。
数年前のあの時と似た感覚だ。
こうして何故か攻撃が当たるのは……
ガラは蹴りを受け止めた腕を勢いよく振り上げ、その者を吹き飛ばす。
だがその者は吹き飛ばされながらも空中で身を翻し、綺麗に着地する。
「あなたは……」
その者の姿を見て、ピースは声を洩らした。
白に近い灰の髪、光の無い黒い目──
アリスの中でその姿を見たことがある。
確か名前は……
「白月彩乃──」
それに反応して彩乃はピースを一度見るが、チラリと見ただけですぐにガラに向き直った。
その時には既に放たれているガラの弾幕。
眼前にまで迫っているそれを彩乃は手を間に挟んで防ぐと、その直後にガラが背後から頭部目掛けて腕を振り上げる。
彩乃は身を低くして躱し、即座に周囲に張った弾幕で反撃する。
しかし、ガラはそれで動揺することもなく瞬時に弾幕を破壊しながら後方へと下がる。
「何者だ、貴様──」
ガラは彩乃を睨みながらそう問う。
見たところ突然現れたアイツは人間だ。
言葉が通じるのならば多少は受け答えするだろう。
そう考えていた。
だがその問いに彩乃が応じることはなく、言葉を交わすことなく続けて攻撃を仕掛けてくる。
アリスかピースが相手であれば、ガラはもしものことを考慮してある程度手加減をしなければならなかったが、ピースが回復に専念して戦闘に参加できない今なら、容赦なく殺れる。
ガラが彩乃の攻撃を迎え撃ち、幾度かの攻防を交わした後、両者は一度距離を取る。
彩乃は理解した、この者に手加減など無用だということを。
ガラは決めた、この者を完膚なきまでに叩き潰すことを。
数回の攻防でそう結論付けた両者は、一度体勢を整え相手と向き直る。
一瞬、時が止まったかのような静寂がこの場を支配した。
両者が同時に動き出し、次に訪れたのは激しい衝撃。
彩乃とガラの拳同士がぶつかったことで生まれたその衝撃は、周囲に無数の瓦礫を生み出した。
(こいつ……見た目の割にパワーがあるな……)
華奢とも言えるその体躯から放たれた強烈な一撃に、ガラはそんな感想を抱いた。
その時、二人の近くに光の粒のような魔力の塊が一つ生成される。エネルギーを蓄えるかのように魔力が集まっていくそれは砲口を彩乃へ向け、放たれた。
彩乃はガラから距離を取りながら弾幕を放ち攻撃する。
しかしそれらはガラの放った光線によって全て薙ぎ払われ、爆散する。
「──ッ⁉」
その直後、突如爆発が収まったかと思うと、まるで爆発によって生じる衝撃波を表すかのように、四方八方へと急速に広がる氷が現れた。
まるで爆発そのものが凍ったかのように広がる氷に戸惑っていると、すぐに自身の周囲は氷で埋まった。
氷は逃げ道を塞いだ後も大きくなっていき、中を氷で埋め尽くして押し潰そうとしているようだった。
(出し惜しみをしている場合じゃないか……)
周囲を覆う氷を見て、彩乃は一度自身の手の感触を確かめる。
(傷はもう完治した。身体に問題はない……)
選択肢は限られている。
(やるしかないか──)
一度深呼吸をして身体を落ち着かせてから、彩乃は能力を発動した。
その時、眼前に広がる巨大な氷が粉々に砕け散り、砕けた氷の中から無傷の奴の姿が現れる。
砕けた氷を足場に、彩乃は強く踏み込みガラへと一気に距離を詰める。
勢いを利用して放たれた蹴りを、ガラは腕で受け止めると、その腕を振り払い体勢を崩し、そこへ握り締めた拳を打ち込む。
その拳を彩乃は頭を傾けて間一髪躱し、即座に弾幕で反撃するが、至近距離で放たれたその弾幕をガラは腕で薙ぎ払い、破壊する。
(しかしこいつ、どうやって我に攻撃を当てている……?)
大抵の奴は我に攻撃を当てることなく終わる。
ずっとそうだった。
天使も、悪魔も、誰であろうとそうだった。
それなのに、この人間は攻撃を当てている。
一番に感じたのは不満だった。
自分の中にも僅かにあったらしいプライドとやらが傷つけられたことへの不満だった。
だがしかし、もう一つ別の感情があった。
天使か悪魔か、それとも何か別の存在か、誰が我の首を落とすのかを昔考えたこともあった。
そして今、この首に刃を突き立てる人間が目の前にいる。
今までの有象無象とは違う何かを感じる。
埃を払うような戦いとは違う、何かがある。
そこから来る、不思議な感情。
「人間の割にはやるじゃないか」
この感情の正体を、ガラは知らない。
ガラは瞬時に背後へと回り、攻撃を繰り出す。
降り下ろされた打撃を彩乃が躱すと、代わりに直撃した地面が砕け散る。
「『
先程の打撃によってできた地面の亀裂が広範囲へと一気に広がったかと思うと、その亀裂から黒い水のようなものが噴き出した。
地面はすぐに黒い水に覆われ、光のない水面が広がる。
彩乃は空を飛んで黒い水を躱し、弾幕でガラを狙う。
ガラはそれを光の杭のようなもので撃ち抜き、破壊する。
そして彩乃が残った杭を躱している頃には黒い水は止まり、静かな水面だけを残した。
彩乃は空から弾幕を雨のように降らし、広範囲に攻撃を行う。
「──?」
ガラは弾幕を躱し、その間に反撃をしてきている。
そこまではいいのだが、一つ気になることがあった。
それは地面に着弾した弾幕が炸裂していないこと。
爆発することなく、弾幕は黒い水の中へと入っていく。
(……あの中に空間のようなものでもあるのか?)
その黒い水面からは底を確認することはできず、ただ深海のような深い青と黒が広がっているだけだった。
(見た目通りの底無しってことか……)
ガラは水面の上に立っているが、恐らくそれ以外のものはそのまま水底へと沈んでしまうだろう。
あの下に何があるか分からない以上、下手に近づかないのが得策。
彩乃はそう考え、空中からの攻撃を続けることにした。
だがその時──
「『
水面から黒い手が彩乃目掛けて何本も伸びる。
(そっちから来るのかよ……)
近づかなければ近づかないで、向こうから引きずり込もうとしてくるその腕から彩乃は飛んで逃げ、弾幕で腕を攻撃する。
だがダメージが通っているような感覚はなく、腕は勢いを落とすことなく彩乃を追いかけ続ける。
彩乃が仕方なくこのまま攻撃をしようと一瞬視線をガラへと移した時、現在の進行方向──視界の端から黒いものが迫ってきた。
(挟み撃ち──⁉)
意思でもあるのか、挟み撃ちをしてきた黒い手に彩乃は腕を掴まれる。
『許さない』
腕に掴まれた瞬間、耳元でそんな声が聞こえてきた。
『殺す』
『死ね』
『よくも家族を』
『返せ』
『償え』
『お前のせいだ』
『みんなを返して』
声は次第に増えていく、恨みと憎しみの籠った言葉が耳に入ってくる。
その声は、どこか聞き覚えのある声ばかりだった。
いつか、どこかで聞いた、死人の声。
他の黒い腕が今掴んできている腕に追随するように何本も伸びてくる。
力強く、簡単には離してくれない冷たい手。
一度掴んだその手が離れぬ内に、地獄へと一気に引きずり込もうとする腕が迫ってくる。
「……死人は死人らしく、消えろ──」
まだ掴まれていないもう片方の腕を、彩乃は黒い腕に向けた。
その時、彩乃を追っていた黒い腕が消え、同時に地面に広がっていた黒い水も跡形もなく消えた。
そのことを視認している瞬間には、彩乃の拳がガラの頭部へと向かっていた。
「……」
その奇襲をガラは多少掠りながらも直撃を避け、逆にカウンターを仕掛ける。
しかし、その攻撃は空を切り、同時にガラの背後に彩乃が現れる。
(瞬間移動……いや、それとは少し違うな……)
背後からの攻撃を受け止め、ガラは空いた身体に蹴りでも入れてやろうと思ったが、既に周囲には無数の弾幕が張られていた。
(どういう原理なのかは分からんが、こいつの攻撃に我の力は通用しない)
何度も試してそれは確定した。
(ならば、攻撃に作用する事象でなければいい)
『攻撃の範囲外へ瞬間的に移動した』
弾幕がガラへと到達する寸前、突如ガラの姿は消え、弾幕は地面へと降り注ぎ、床を更に破壊するだけに終わった。
粉々になった地面の上に降り立った彩乃は、遠く離れたガラへと視線を向ける。
傷一つ無くその場に佇むガラは、見る人によっては絶望感のある光景だった。
(これは……かなり厄介だな……)
彩乃の頬を、久方ぶりに汗が伝った。
ちなみに彩乃はピースを見て、一目でアリスと別人だと分かった為、普通に無視しました。
魔理沙に関しては植物が邪魔でよく見えず、知らん奴が虫の息の植物人間と一緒に居るという謎すぎる状況のため、深く考えるのを止めました。
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