幻想滅失録   作:メイア・カルテシア

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幻想の黙示録 Ⅳ

激しい戦闘音が聞こえてくる。

きっと、まだ白月彩乃がガラと戦っているのだろう。

 

早々にあの場から離れたのは正解だった。

戦いに巻き込まれれば、魔理沙の回復どころではなかった。

 

 

まだ魔力はある。

ガラのせいで消耗はしたが、問題はない。

まだ私の意識が失くなるまでには時間がある。

恐らく魔理沙を回復してガラとの戦闘に再び加わることはできないだろうが、それでもいい。

 

とにかく、今はこの植物をどうにかする方法を考えなくては……

 

 

今だ手掛かりはゼロ。

何度解析しても、アリスの中の情報をいくら漁ってもこの植物の情報は見つからない。

 

一応この身体に分析を掛けさせてはいるが、それでは間に合わない。

少しずつではあるが、魔理沙の身体が弱ってきている。

 

放っておけば、死ぬ。

 

(一体……どうすれば──)

ただ魔理沙を見守ることしかできない中、近くで足音が鳴った。

 

 

「──ッ」

(敵……⁉こんな時に──)

ピースは即座に魔法陣を展開し、警戒する。

威嚇も兼ねたものなのだが、見えていないのかそれとも自分の実力に自信がある奴なのか、足音は止まることなく段々近づいてくる。

 

今は瓦礫等の影で見えないが、その姿が見えたその瞬間、撃ち抜く。

 

そう決めたピースは、今か今かとそのタイミングを待つ。

 

 

「どういう状況?」

影の中から歩いてくる者がその姿を現す直前に放ったのは、その一言だった。

 

「──!」

その声が聞こえた瞬間、ピースは魔法の軌道を逸らした。

 

放たれた魔法のレーザーは、影から現れたその者のすぐ横を通り過ぎ、また一つ壁を破壊した。

「あ……えぇ……?」

攻撃されかけたことにその者は困惑を示した。

 

「エリシアですか……」

ピースがそう呟くと、エリシアの背後から「私も居るわよ」と言いながらフランが顔を覗かせた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「……成程、じゃあ今は彩乃が戦っているのね」

ピースから状況を聞いたエリシアは、魔理沙の身体に絡む植物を観察しながらそう言った。

「ええ、あの者ならばそう簡単には死なないでしょう」

 

「それより、何か分かりましたか?」

植物を調べるエリシアに、ピースは聞いた。

「……随分珍しい植物ね」

一言エリシアは呟いた。

 

「この身体に情報が無いとなると、この世界には元来存在しない植物と思われますが……知っているのですか?」

 

「……ライラの持っていた図鑑で昔見たことがあるわ」

「この植物を枯らす方法などはありますか……?」

そう聞くと、エリシアは過去の記憶を思い返しているような間を空けてから口を開いた。

 

「この植物をどうにかする方法は一つ」

 

 

エリシアはその植物に生っている実を一つ捥ぎり──

「この実を全部喰らうこと」

口に入れた。

 

 

----------------

 

 

次々に飛んでくる弾幕とそれによって巻き起こる爆発。

それらを彩乃は後ろに下がりながら躱し、反撃としてこちらも弾幕を放つ。

 

「……」

それを掻い潜って接近してくるガラを迎え撃ち、一度後ろへ下がろうと少し距離を取る。

 

その刹那、紫電が迸る。

「『雷獄業轟(エレクトロキューション)』」

ガラを中心に凄まじい雷光が駆け巡り、恐ろしい雷鳴を轟かせる。

 

電撃は周囲を破壊し、焼き尽くす。

そして形成される黒い焦土の上に、あの電撃を喰らってまともに立っていられる生物はいない。

 

 

(……身体が絶縁体でできているのか?)

それこそ、身体が電気を一切通さない素材でできていない限りは──

 

 

身体どころか服にも焦げ跡一つない彩乃はすぐにガラとの間合いを詰め、引いた腕を思いきり放つ。

ガラは腕で防御してその攻撃を防ぐと、その流れでそのまま後方へと下がりつつ光の杭で攻撃する。

 

彩乃は飛んでくる光の杭を掻い潜り、最短ルートでガラとの距離を詰めていく。

 

 

ガラは地面に足をつけてブレーキを掛けると、次の瞬間には光の杭の中を駆け抜ける彩乃の上空に姿を現した。

 

ガラは手に魔力を溜め、彩乃に向けてレーザーとして放つ。

 

「……」

彩乃は光の杭に当たりながらも、横に逸れてレーザーを避けた。

 

 

----------------

 

 

「これは天使が喰えば堕天、人が喰えばヨモツヘグイと言われる代物……」

エリシアはまた一つ果実を口に運ぶ。

味は分からぬが、エリシアはその実を一口で食べ終わる。

 

「これはまず植え付けられた者の魔力を吸って成長し、それが尽きればその魂を蝕む」

その実を食すと、また一つ実を捥ぎって口に入れる。

 

「そしていずれ、植え付けられた者は生命力を吸い付くされて、枯れるように死ぬ」

柔らかな、弾力のある食感の赤黒い実を、一つ、二つとエリシアは淡々と食べ進める。

 

「この実を食べれば、根も消えるけれど……」

そのおかげで、植物に生っていた実は殆ど無くなった。

 

「これは生物にとって猛毒──」

次の実を食べる合間に、一言ずつエリシアは言葉を紡ぐ。

 

「食べれば遅かれ早かれ死に至る」

そして今、エリシアは最後の実を食べた。

 

 

「死ぬ……それはつまり、あなたは──」

何かを察したピースは、エリシアにその事を問おうとするのだが、言葉を最後まで言う前にエリシアが『待て』の意を持つハンドサインをピースの前に出して止めた。

 

ゴクンッ、とエリシアは最後の実を飲み込んでから口を開いた。

 

「……問題ないわ、悪魔にとってはこれはただの果実でしかない。まあ、あまり美味しくないけど……」

エリシアは一瞬不満げな顔を浮かべた。

「それよりも──」

エリシアが実の無くなった植物を見ると、その植物は次第に白くなっていき、やがて枯れ果て灰のようになって消えた。

 

「さっさと回復した方がいいわよ、魔力はまだ残っているようだから生命力にはあまり手を出されていないと思うけど、速く治療しないと衰弱死するわよ」

エリシアがそう言うと、ピースは回復魔法の出力を上げて再度治療を試みる。

 

「さっさと起きてください、まだ戦いは終わっていませんよ──」

 

 

----------------

 

 

「『獄炎(インフェルノ)』」

 

前方から迫る凄まじい炎は、彩乃が腕を横に振るとまるで息を吹き掛けた蝋燭の炎のように掻き消された。

 

だがその炎を目隠しとしてガラは姿を消し、ガラを探す彩乃の背後から接近する。

 

ガラは手に魔力を溜めつつ、まず複数の光の杭を彩乃に飛ばす。

「──ッ」

不意打ちながらも彩乃はその光の杭を大方躱すのだが、その内の一本を腹に受けてしまう。そして光の杭で動きを止めたところへ、ガラはレーザーを放つ。

 

「『神の裁き(ディヴァイン・コール)』」

 

放たれた極太のレーザーは一瞬にして彩乃を飲み込み、その後も地面を削りながら突き進む。

 

 

「……」

巻き起こった煙が晴れていく中見えてきたのは、レーザーの通り道に立っている一つの人影。

片手を前に突き出し、傷付いた身体で彼女はそこに立っている。

 

 

 

『ありとあらゆるものを消し去る程度の能力』

自身の手で触れる、または魔力を込めたものを消し去ることができる、白月彩乃の能力。

 

単に物体を消すのみの能力ではなく、物体に掛かる重力、圧力、空気抵抗等の外的影響を消すこともでき、能力を解除することで元の状態に戻すこともできる。

ただし、存在ごと完全に消し去ったものや生命体を元に戻すことはできない。

 

そして彩乃は、自身以外のものを消失させた時に生じる影響を受けない。

 

 

 

「貴様のしぶとさは評価してやろう」

嫌みのように、ガラは彩乃へとそう告げる。

「だがそろそろお前の限界も知れてきた」

ガラの魔力が高まるのを肌で感じた彩乃は、咄嗟に構えた。

「もう逃すつもりはない。これで終わりにしてやる」

 

 

我色世界(がしょくせかい)無来虹獄殿(むらいこうごくでん)』」

 

 

その時、世界が一変した。

先程とは全く違う景色が広がり、最早別の世界に来たかのようだった。

 

石のタイルに大きな柱、まるで神殿のような場所なのだが、一つ違いを挙げるとするならば、屋根がない。

加えて柱の上側が崩れていて、もはや神殿というより神殿跡のようだった。

 

そして屋根がないことで見える空には瓦礫やガラスの破片等が漂い、まさに異空間であるということを主張しているかのようだった。

 

(結界……?)

一瞬だが、この空間に入る直前にガラが結界のようなものを展開しているのが見えた。

何が起きているのかは分からないが、何かされる前に叩く。

 

そうして、彩乃がガラに向かって動き出した時だった。

 

「──ッ⁉」

突如身体に走る痛み、それと同時に起こる出血。

右手と左足、ここから動こうと先程動かした部位から血が出ている。

(攻撃された……?)

攻撃の瞬間は見えていない。

それなのに、ダメージだけを受けた。

 

 

「たった今、この結界内の空間は全て固定された」

ダメージを受けた彩乃を見て、ガラが説明をするように話し出した。

「この結界に力の運用を肩代わりさせ、対象とそれに課す事象を自動的に選別、実行させる。空間の固定は結界が弾き出したお前に対して有効な事象だという訳だ」

 

「動けば固定された空間に反発され、それでも無理矢理動こうものなら……後は分かるな?」

 

その言葉を聞きながら、彩乃は次の手を考える。

(いや……完全に空間を固定すれば、恐らく動く事はできない……)

(だけどついさっき、僅か一歩だけだけれども動けた。完全な空間の固定じゃない……正確には、空間が決められたある状態へと戻るようになっている)

 

彩乃は目だけを動かして手と足の傷を見る。

右手は親指がなく、親指の近くの手首の肉も少し抉れている。

左足の方は膝から足首までの肉と骨の一部、そして足の指が全てなくなっている。

(先程のダメージは、身体を動かしたことで動いてしまった空間……多分空気か何かが元の位置へと戻ろうと、そこにあった部位を押し退けるように抉ってきたからだろう……)

 

だが動かしても一瞬で抉られる訳じゃない。

ある程度は耐えられる。

(動かせるならば、やりようはある──!!)

 

 

「これを使うのは実に久しぶりだ。たしか……」と、言いながら彩乃へと近づくガラは、次に発する言葉を喉で止めた。

 

「何をしている……?」

ガラが見たのは、身体中から血を噴き出す彩乃の姿。

その場でじっとしていればダメージを喰らうことはない筈なのに、無理矢理身体を動かしている。

 

頭から血を流し、潰れてしまったのか右目から血が溢れていても彩乃は動いている。

下手をすれば脳も潰れてしまうというのに動いているその意図が、ガラには分からなかった。

唯一分かるのは何かを仕掛けてくるということだけ。

ガラは警戒し、構えた。

 

「いや……少し、体勢が気に入らなくて……」

彩乃は真っ直ぐ立ち、残る左目でガラを見据える。

「それと……私もこれは久しぶりに使うよ──」

彩乃は今できる精一杯の笑顔を作って、ガラを見た。

 

 

「『夢幻泡影(むげんほうよう)"夢現(ゆめうつつ)"』」

 

 

突如現れた無数の弾幕、それらは反応する間もなく既に四方八方へと放たれていた。

「──⁉」

気付けば空間は元の景色へと戻り、自分の体は空へと吹き飛ばされていた。

 

結界の欠片が舞っているのが目に入る。

(結界が破られたのか……)

 

 

「何でさっき体勢を変えたか知りたい──?」

その時、前方から声が聞こえてきた。

声に釣られてその方向を見ると、そこには彩乃の姿があった。

「あの体勢じゃあ、動き出し難かったからさ……」

彩乃は腕をガラへと伸ばし、その体に触れようとしている。

 

「吹っ飛ぶお前に追い付くための、動き出しが──」

そして今、ガラの胸に彩乃の手が届いた。

 

その直後に、彩乃は能力を発動する。

 

 

 

 

 

 

全て上手く行った。

作戦通り、頭で考えた通り隙を突けた。

 

 

だが、どうしようもできないものはある。

 

 

「ガッ──!!」

腹部の左側──肋骨と腹のくびれの境目に来る重い衝撃。

 

(やっぱり……一回じゃ無理か……)

 

彩乃の体は、その衝撃に乗ってそのまま蹴り飛ばされた。




どこかで見たことがあるような技が……

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