「──ッ⁉」
打撃音が鳴り、身体がその衝撃で飛ばされる。
攻撃を喰らった、それだけでも十分問題ではあった。
だが、彼が何よりも目を見張ったのは攻撃をしてきた人物。
今まで経験しなかった事態に、思考が乱れる。
それでも衝撃を最小限に抑えて着地はするところに、彼の実力の高さを感じられる。
攻撃をしてきたその者は、宙に浮かびガラの姿を捉えている。
ガラの目に映ったのは、先刻貫いた──
紅白の巫女
────────
それは突然の出来事だった。
急に動き出したかと思ったら、何も言わずにガラへと向かって行った。
「な、何が起こったの……?」
その様子を見たエリシアは困惑の言葉を洩らす。
だがこの状況を完全に理解できている者は居らず、ピースも「分かりません……」としか言うことはできなかった。
そんなエリシアとピースは空中に浮かぶ魔理沙を見た。
「──さっきまで魔力はほぼすっからかんだったのよね……?」
「ええ、その筈です。私も彼女から魔力は殆ど感じられなかった」
──だが今は、先程まで魔力がなかったのが嘘のように、
(一体どこからそんな魔力が……)
溢れんばかりの魔力が立ち込めているそれには、さすがのピースも困惑を示している。
「──ッ!」
そんなピースの視界に、あるものが映り込んだ。
それは空間に入った亀裂。
この建物の壁や柱に付いているものではない。
空中に浮かんでいる、文字通り空間に入った亀裂。
その何もない空間にあるヒビからは、微かに光のようなものが漏れている。
「──ヒビ……?」
ピースに続いてそれを見たエリシアはそう呟いた。
「きっとこの空間に限界がきているんです」
「限界……?」
「……不思議に思わなかったのですか?この建物がやけに頑丈なことを──」
そう言われたエリシアは、一度周囲を見渡した。
崩れた壁、折れた柱、転がっている瓦礫、戦闘の跡はそこら中にあるのだが──
「……言われてみれば、ガラがあれだけ暴れているのに倒壊しないのは不思議ね」
ガラもそうだが、先程戦ったカリエルもかなりのものだったのに、終わってみれば意外とあれだけで済んだのは確かに少し疑問に思う。
体感、この建物は全体的に頑丈な気がする。
「ガラだけではありません。この建物のあちこちで戦闘は起こっています。それでもこの建物が崩れずに残っているのは、この建物自体が作られた空間だからでしょう」
「そして今、空間に限界が来ている」
アリスの身体は情報の塊。
その中には魔法の他に、とある重要な情報がある。
そしてそれこそが、恐らくガラの狙っているもの。
アリスの中にある最重要の情報──
それはこの
私が統べていたこの世界の全てが、アリスの中にはある。あの時、私がガラによって殺される前に、私はアリスの中に全てを詰め込んだ。
魔界の歴史、記憶、魔法、魔界に存在するあらゆるものの情報をアリスの中に封じ込めた。
アリスの存在こそが、魔界の未来を決める。
例え私が消えたとしても、アリスさえ居れば魔界は復興できる。世界を切り開く力が、アリスの中にはある。
そして今、ガラは滅んだこの世界の上に、己が作った空間を被せている。
アリスの中には当然地理情報も含まれている。
ガラがこの世界の中に空間を作ってくれたお陰で、アリスの中にはこの空間の情報が流れ込んできている。
この空間を壊すには、あともう一インパクトが必要──
そしてきっと、
「あの吸血鬼は──」
あの吸血鬼はどこにいるのか、それを聞こうとした時には既に自身の隣に一つの気配が現れていた。
「……一体何者なんですか、あなたは──」
「ただのしがない吸血鬼よ──」
その言葉だけを残してフランは空間のヒビへと向かい、剣を構え、それに向かって振り上げた。
破壊の力が込められたその一撃は、空間のヒビをさらに大きくする。
ヒビが大きくなったのを確認したピースは、魔法陣を展開し、この空間への干渉を始める。
(人様の土地に勝手にこんなものを作るなんて、いい度胸ね)
脆くなったこの空間に干渉し、ヒビを押し広げて一気に壊す。
元の世界のこの座標には足場がある。この空間を壊しても急に宙に投げ出されるようなことはない。
「……」
時間が近いのだろう、自身の存在が消え掛かっているのが分かる。恐らくこれが最後の仕事になる。
だが、やることはやった。
「後は頼みましたよ、皆さん……そしてアリス……」
この戦いの勝利を祈って、後は未来へと託すのみ。
「さあ、ご退去願おうかしら──」
────────
空間が崩れていく。
小さかったヒビはどんどん大きくなり、やがて空間中に広がった時に、ガラスが砕けるように空間が壊れ始めた。
だが、そんなことを気にしている場合ではない。
空間が崩れていっていることに見向きもせず、魔理沙はガラに攻撃を仕掛ける。
魔理沙の打撃を弾き、蹴りを躱す。
その合間には己も打撃や蹴りを繰り出す。
(……こいつ、何が起こった?)
先程はこちらに一撃も当てることができずにいた巫女が、今は攻撃を当てて、こうして肉弾戦を仕掛けてきている。
それに加え──
「魔砲『マスタースパーク』」
「──ッ」
魔法の発生速度が飛躍的に上がっている。
先程は溜めのあった魔法の発生が、元々通常攻撃として放っていたレーザーと同等かそれ以上の速度で行われており、もはや魔法の詠唱スピードよりも、発生速度の方が上回っている。
魔力は爆発的に上昇しており、先程付けた傷は見当たらない。到底死にかけてた奴とは思えない。
ガラは光を三点に集約し、三本のレーザーとして放つ。
一瞬で行われたそれは、魔理沙の周囲に即座に展開された防御魔法に防がれ、カウンターとしてあちらもレーザーを放ってくる。
ガラは能力を使いつつそれを躱すが、躱す方向や位置が分かっているかのように追撃がくる。
炎に氷、電撃等々行く手を阻む攻撃は多彩でそれぞれに対応を求められる。
加えてその連射速度、息を着く間もなく常に魔法が放たれ続けている。
それも単純なものではなく、一つ一つが強力な魔法。
ガラは飛んでくる魔法を掻い潜り、至近距離で魔理沙へレーザーを放つ。
レーザーは直撃、飲み込まれたその上半身を消し飛ばす。
──筈なのだが、止んだレーザーの中から出てきた魔理沙はその原型を留め、付いた傷は忽ち回復していく。
強力な身体強化に、回復魔法も積んでいるのだろう。
(複数の魔法の同時併用、それでいてその程度の消耗、魔力効率も底上げされているのか……)
(だが、それよりも……そんなことよりも──)
ガラは頭部に向けて放たれた拳をギリギリで躱すと、即座に反撃を行う。
だが、それを魔理沙は寸前で止めた。
「何故当てられる……?」
カウンターを防いだ魔理沙へと、ガラは問い掛けた。
「不可能を可能にするのが、魔法ってもんだろ」
空をも掴み、無にすら触れる。
たとえ触れることが叶わぬ者さえも、その手を掴む。
その姿はまさに魔法──
『
それはまるで魔法のように、不可能を実現する技。
一時的に魔理沙の魔力は爆発的に増加し、魔法の展開、及び発動までのスピードは倍以上に上昇する。
それに加え、魔理沙の脳内にある魔法の知識から選別された魔法が状況に合わせて自動的に発動される。
溢れ出る魔力による身体能力の向上、魔法の威力上昇。
底上げされた魔理沙の火力はガラですら目を見張るものであった。
そして、この技が成す最大の特徴──
それはあらゆるものへの干渉。
博麗霊夢の夢想天生とは違い、彼女はあらゆるものに触れられる。
それは本来不可能であった筈のガラへの攻撃を可能にした。
幻想輪音は
この状態は魔理沙の持つ魔力が尽きるまで終わらない。
飛んでくる魔法の鎖を躱し、弾幕を弾きながら光の杭を飛ばす。そこへ放たれるレーザーを身を反らして避けると、こちらもレーザーで返す。
(攻撃の速度も何もかもが飛躍的に上昇しているが問題はない。対応が不可能な訳ではない)
迫り来る魔理沙が仕掛けてきた肉弾戦をいなしつつ、防御を崩した所へ連続で蹴りを放つ。
それを魔理沙は何発かは躱すものの、ガラによる更なる追撃はこなかった。
「……ッ⁉」
だがその代わりに、攻撃を喰らっていないにも関わらず突如体に衝撃とダメージが来た。
魔理沙の動きが止まったその瞬間、ガラは断罪の剣を取り出し魔理沙を狙う。
断罪の剣は万物を断つ剣、その剣の前では如何なる防御も意味を成さない。
瞬間的に魔理沙の周囲に防御魔法が何重にも展開されるが、断罪の剣から放たれる一撃によって防御魔法はあっさりと破られる。
肩から血が噴き出す。
直感のようなもので咄嗟に横へ逸れたが、直線上に残っていた右腕はそのまま防御魔法と共に切断されてしまった。
だが次の瞬間には回復は始まっており、あっという間に切り飛ばされた右腕は再生する。
魔理沙はすぐに駆け出し、剣の間合いの内側へと入ろうとする。
(回復が早い……それに──)
向かってくる魔理沙を何度も剣で攻撃するのだが、いずれも直撃は避け、斬撃に触れ腕や足を失おうともその歩みを止める事はなかった。
(止まらないのか)
(痛覚が無いのか……?それとも──)
ガラが考えた可能性、それは現在魔理沙が使用している技に痛覚を消す効果があるというもの。
だがしかし、幻想輪音にその効果はない。
現在、博麗魔理沙の身体には致命傷を受けた際に分泌されたアドレナリンが駆け巡っている。
それによる痛覚の麻痺、そこへ強力な治癒能力が付与されることで現在の状態へと至った。
だがしかし、例えアドレナリンによる痛覚の麻痺が無くとも、博麗魔理沙は止まらない。
先日初めてドラゴンフルーツを食べました。
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