空間が崩れ、元の世界の姿が明らかになっていく。
だが、そこには何もなかった。
荒れ果てたとも言えるのかもしれない。
建物がなければ、草木すらもない。
あるのは荒野の大岩のような地面だけ。
「あら、どこに行くのかしら?」
その光景を見て、一人動き出した彼女へとフランは問い掛けた。
「……あの空間が崩れて、そこに居た者はみんな外へ弾き出された。そいつらがどんな行動を取るか分からない」
空間が崩れ、急に宙へと投げ出された者にすら違いはあった。冷静に対処する者、それどころじゃない者、重力に身を任せる者、何処かへと消える者等々、空中に投げ出された者だけを取ってもこれだけ違いがある。
全体を見ればもっとあるだろう。
「あの戦いの邪魔をされないように、私がどうにかするわ。あなたは、そこで倒れているアリスでも守ってなさい」
「終わったら、戻って来なさいよ」
「……了解」
エリシアはそう言って、歩いて行った。
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ガラと魔理沙の攻防は一進一退の熾烈な戦いだった。
断罪の剣の間合い、その内側へと侵入した魔理沙は剣を振らせる間を空けずに攻撃を繰り出す。
断罪の剣の刀身では、超至近距離に居る魔理沙を攻撃するのには向いていない。
ガラは少しでも距離を取る為に魔理沙の攻撃を捌きつつ後退するが、魔理沙はこちらとの距離を離さず且つ追い越さないよう同じスピードで追い掛けてくる。
ガラは大剣を器用に扱い、反撃の隙を与えないように攻めてくる魔理沙に対してコンパクトな動きで対抗する。
地面に魔理沙の拳が突き当たり、砕かれた地面の欠片が舞い上がる。
その次の瞬間、欠片の数々を押し上げるように、地面を突き破って無数のレーザーが姿を現した。
レーザーによって巻き上げられた岩が空中で静止する。
通常であればそのまま何処かへ飛んでいくだけだった岩々は、突如として動きを止めたかと思うと、すぐに重力に従うかのように降ってきた。
魔理沙の周囲に瞬時に魔法陣が展開され、そこから放たれるレーザーが降り注ぐ岩を自動的に迎撃する。
その隙にガラは魔理沙へと接近し、剣を振る。
一瞬の隙を突いた、胴へと入る一撃。
その致命的な一閃に向けて、魔理沙は手を伸ばした。
(愚かな……いくら貴様が硬かろうと、この剣には関係ない!!)
傲りではない。この剣を知る者ならば誰だってそう思うだろう。
刃が途中で止まることはなく、伸ばした魔理沙の左手が横で半分に切られる。
「──ッ⁉」
この剣に対して、どれだけ肉体の強度を上げようとも意味はないことは魔理沙自身も分かっていた。
そんな事は承知の上での行動、それに対して意表を突かれたのはガラの方だった。
剣は受け止めようとした魔理沙の左手を確かに半分に切り裂いた。ただ、
そのまま胴へと突き進み、その身体を二分することはなく、それだけで終わった。
そして同時に、ガラの手から剣の感触が消えた。
ガラは咄嗟に剣の存在を確認しようとするが、自身の手の感触が言うように、そこに剣の姿はなかった。
ガラが瞬時に周囲を確認すると、ここから遠く離れた上空に剣はあった。
勢い余って手からすっぽ抜けたという訳ではない。それでは説明できないような位置にある。
(まさか──)
剣へと伸びる魔理沙の手からは魔力を感じた。
その時は手に魔力を集中させて、その強度を底上げしているものだと思っていた。
だが違った。本当は……本当に使っていたのは──
(転移魔法──!!)
厄介な剣だけを遠くへ飛ばし、その間に攻めるつもりなのだろう。だが、あの程度の距離ならば問題はない。
すぐに剣を回収して、今度こそその身体を切り捨てる。
ガラは足に力を込め、重力によって自由落下している断罪の剣のもとへとすぐに向かおうとした。
だが、それを成すよりも先に──
剣は爆ぜるように砕け散った。
握り締めた左手から血が流れ出る。
手の甲は赤く染まり、指と指の間は裂けているのが見える。多分、内側はもっと酷い事になっているだろう。
(さすがに……神器ともなればこうなるか……)
寧ろ、この程度で済んでよかったと言うべきだろうか?
(まあ、何はともあれ──)
「頑張りなさい、魔理沙」
ガラと戦う魔理沙に背を向けて、フランは地面に倒れているアリスのもとへと戻って行った。
「魔砲『マスタースパーク』」
剣へと向かうが為にできた一瞬の隙、その隙に魔理沙はレーザーを撃ち込む。
だがガラは剣へと向かう為に溜めたエネルギーを回避に使い、放たれるレーザーの範囲から出る。
(──剣がやられたとて問題はない)
武器は剣だけではない。まだ手札はある。
(だが、奴は何としてでも殺す)
武器の一つを失っただけだとは言え物が物、これ以上失う事は避けたい。
ガラは能力を使用し、それを呼び寄せた。
その時、魔理沙の背後から紅い光が急速に迫る。
「──ッ!!」
まるでレーザーのような残像を残しながら迫ってきたのは、万人の罪を穿つ紅い槍。
瞬間的に張られた防御魔法をその馬力のみで五枚貫く程の威力。そして何より、そのおぞましい気配。
だがそれよりも──
(殺意……)
攻撃の直前に殺意を感じた。
戦いに於いて殺意を向けられるなんて当たり前だ。
だがコイツは違う。
最初コイツに殺意なんて感じなかった。
初めコイツから感じていたのは、まるでいつもの面倒な作業のような気だるさ。
だが初めの頃とは違い、段々殺意が表に出てきだした。
(余裕がなくなってきている──?)
槍は防がれた次の瞬間には動き出していた。
軌道を変え、様々な角度から何度も何度も攻撃を仕掛けてくるが、それらを的確に自動発動の防御魔法は防ぐ。
だが、槍の一撃を防ぐ度にヒビが入っている。
一撃毎に魔法は再展開されるが、一度槍を受けた箇所へ再度攻撃を喰らえば防御魔法は突破される。
(攻撃の一つ一つが半端じゃない……)
ガラの攻撃は一撃一撃が重い。強力な防御でも、そう何発も防ぐ事はできない。下手に動けば殺られる。
(だが、動くしかない──)
魔理沙がそう決意したタイミングで、ガラも動いた。
各方向から光の杭を浴びせ、贖罪の槍への防御に加えて更に魔法を展開させる。何枚張ろうと関係ない、杭の物量で押し潰す。
それに対して魔理沙は、槍の攻撃を先程と同様に身体の周囲で防ぎ、光の杭をそれよりも外側で防ぐという方法で対抗している。
その時、ガラスの砕けるような音と共に槍が防御魔法で構成された球体を突き破って外に出てきた。
球体を脱け出した槍は何かを追うようにすぐに向きを変えてガラの後方へと飛んでいった。
その光景を魔理沙は、ガラの
(あの槍……魔力を追跡している訳じゃないのか──)
転移魔法によりあの場から移動し、その際の囮として魔力を残してきたのだが、槍は囮に反応することなくこちらへと向かってきた。
魔力ではなく、何か別のものを探知しているのだろう。
このままガラへと向かえばあの槍の攻撃を喰らうことは避けられない。恐らくあの槍の攻撃を受けるのはまずい。直感や、今までの経験が当たるなと叫んでいる。
だが、ここまで来た以上やるという他ない。
魔理沙は歯を食い縛り、決意を固める。
ガラへと向かう魔理沙に、槍が正面から迫ってくる。
魔理沙は左手で槍を受けると、掌に刺さった瞬間に手の向きを変えて無理矢理軌道を変える。
だが槍が手を突き抜けるまでに完全に軌道を逸らすことはできず、僅かに頬を掠めた。
槍はそのまま後ろへと飛んで行ったが、少しすれば再び戻ってくる。そうなる前に少しでも距離を詰める。
だが折角取った背後も意味を成す事はなく、ガラがそれを妨げるように光の杭をこちらへと飛ばしてきた。
魔理沙は飛んでくる杭を掻い潜りながら進むのだが、半分程進んだところで左の横腹を激痛が走る。
魔理沙の目が自然と痛みのする方を見ると、槍がその部分を抉り取っていた。光の杭で邪魔されて、ガラのもとへ辿り着くよりも先に槍が戻ってきたようだ。
仕方ない、魔理沙はそう割り切ることにして槍の攻撃を受けながらガラへと近づくことにした。
何度も何度も貫かれるが、魔理沙は止まらなかった。
腕を、足を貫かれたが、これしきの傷などすぐに治せる。
そう思っていたのだが──
(治らねぇ……⁉)
幾ら回復魔法を使おうとも、槍に開けられた傷は一向に塞がらない。最初に当たった左手も、その後に貫かれた腕や足も、治る気配はなくそこにぽっかりと穴を開けたままだった。
そんな事はお構い無しに、槍は息つく間もなく次の攻撃へと移る。再度向きを変え、その身体にまた一つ穴を作り出す為に魔理沙へと向かう。
「──ッ」
続く槍の猛攻をこれ以上喰らうのは不味い。魔理沙は魔法で槍の攻撃を防ごうとするのだが──
その寸前、何者かが槍と魔理沙の間に割り込んで来た。
『
それは遥か昔、世界に生命をもたらしたとされる神々の内の一人が生み出したとされる神器。
その神は、世界に希望ある生命と共に醜い争いを生み出してしまった償いとして、一本の槍をその身に突き刺したという。
その槍こそが、後に贖罪の名を授かる事になる槍。
槍に課せられた呪いは『永傷』
この槍により付けられた傷は癒えることはなく、永遠にその身体を蝕み続ける。
傷は魂にまで刻まれ、この槍を生み出した神の死後、槍を求めた者共の争いでは、数多くの神が死んだとも言われている。
槍は魂を探知し、何処までも追いかける。
罪人に残された道はその罪を受け入れ、死を持って償う事のみ。
その呪われし槍を、彼女は掴んだ。
それには部屋の中を飛び回るすばしっこい羽虫をやっとの思いで捕まえたような、妙な達成感があった。
「やっと……捕まえた……」
額から汗を垂らし、赤い液体が滴る口で彼女はそう洩らした。
その身体で槍を受け止めた彼女──彩乃は槍が完全に突き抜ける前に、そこから動かないように掴んで固定している。
(この槍さえなければ、後はもう……)
腹に突き刺さっている槍へと、彩乃は能力を使用した。
その効果は目に見えて現れた。
ガタガタと槍は必死に抵抗するように震えだし、兎に角その手から逃れようと暴れている。
その影響で傷が少しずつ押し広げられるが、彩乃はそれでもその手を離さない。
槍は次第に端の方から透けていき、やがてその姿を完全に消した。
それと同時に、魔理沙の傷が一気に治る。
「──ッ!!」
(また……)
傷の治った魔理沙は、すぐに攻撃を仕掛けた。
一撃目の打撃をガラは防ぎ、続く二発目と三発目も防いだ後に反撃に出ると、その腕を魔理沙は受け止め逆にガラの体を投げ飛ばす。
ガラが投げ飛ばされたその先には、彩乃の姿があった。
彩乃の手がガラへと伸び、その体に再び触れた。
「……」
再度襲ってくる不快な感覚、この身が遠くなるような、嫌な感覚。
それは死と似ているようで何か違う。
それに対して感じるものは一つ──
『不快』
己の存在を否定されているような、とてつもない不快感。
身体に触れている彩乃をガラは勢いよく殴り飛ばす。
感情の籠った、重い一撃。頭が揺れ、内蔵が掻き回される。
直後、ガラの魔力が湧き上がる。
「『
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