最近は忙しくて前の投稿から期間が空いてしまって申し訳ないです。
薄暗い道、響く足音、通り抜ける冷たい風。
一定の間隔で明かりのついているトンネルを、六人の男女は歩いていた。
トンネルの真ん中には二本の線路が敷かれており、察するにここは地下鉄のような場所なのだろう。
だが本数が少ないのか、既に廃線となっているのか、三十分はここを歩いているのだが電車は一本も通っていない。
そんなトンネルに、ようやく変化が訪れた。
細長い通路に、少し開けた場所が現れた。
恐らく駅のホームだろう。
それを見て、先頭を歩く彼は少し後ろを歩く五人に振り返る。
「ここで一度休憩を挟もう」
その提案に反対する者はいなかった。
そうして、六人は駅のホームで各々休憩を取り始めた。
線路とホームの段差に腰掛ける者や、それを壁にしてもたれる者もいるが、全員に共通して他の者と少し距離がある。
そんな少し気まずい状況で声を上げたのは、ここで休むことを提案した彼だった。
「……皆がよければだが……軽く自己紹介でもしないか?」
返ってきたのは沈黙、だが彼は諦めなかった。
「……俺はアトフィシア。あー……一応、種族は悪魔だ」
これは趣味やら何やらを聞かれる、ワイワイとした自己紹介ではない。仕事上、必要だからしているだけの形式的な行為に近い。
「……フィティス」
ただこの空気を少しでも和ませたい、そう思って始めた行動に彼女が続いた。
すると、それを皮切りに他の者たちも次々と名乗り始めた。
「フレム」
彼は手を少し上げ、自分の事だということを示しながら言った。
「ミラシュ……」
彼女は少し目を逸らして、端的にそれだけを告げた。
「ダイストだ」
腕を組み、壁にもたれる彼がそう言うと──
「リュシスだよ~」と、あまり緊張感のない声で彼が続いた。
それぞれ違った個性を持つ面々は、名前を告げるだけの簡単な自己紹介を済ますと、すぐに別の話題へと移った。
「ここにいるのは全員悪魔なの?」
リュシスが全員を見渡しながらそう聞くが、それに対して何か言う者はいなかった。つまり皆悪魔だということでいいのだろう。
「返事くらいはしてほしいなぁ~」
だが誰からも返事が返って来なかった事に、リュシスはムスッとした顔をした。
「そんなことよりも、これからどうするのかについて話し合う方がいいのでは?」
「そんなこと──⁉」
「俺もそう思うんだけど、どうする?」
ミラシュの提案に同調するフレムは、その疑問をアトフィシアへと投げ掛ける。
「──ああ、そうだな……ダイストもそれでいいか?」
「構わない」
「俺達の目的については、既にみんな聞かされていると思うから省いていいか?」
「不服ですが、散々聞かされたのでいいですよ」
「私も、嫌になりますが、死にたくはないのでちゃんとやりますよ」
「確か、俺たちはこの先にある施設を破壊すればいいんだったよな?」
「な~んで私たちがこんなのに付き合わされないといけないんですかねぇ?」
「やりたくないならやらなきゃいいだろ。ま、その後どうなるかは知らないがな」
「……カッコつけて言ってるのかどうかは知りませんけど、あなたも負けたからここに居るんですよね?」
「そうだが?」
「……認めるのかよ、その感じだったら少しくらい否定しろよ」
「心配しなくても、ここに居るのはみ~んな敗北者ですよ」
「慰めにはなりませんよ、それ」
フレムの放った言葉の後から段々と話がずれていっているような気がするが、どうやらみんなある程度は打ち解けてくれたようだ。
──と、それはいいとして、これでは話が進まない。
そう思い、アトフィシアは手を叩いて再度注目を集めながら会話を止めさせる。
「それは一旦置いておくとして、話を戻そう」
「俺達のやるべき事はただ一つ、この先にある施設の破壊。そこはこの世界の物流を担っている鉄道施設だな」
「そこを破壊し、物流に大きな打撃を与える。ただそれだけだ」
「あまり気が乗らないかも知れないが、それは今は心の奥に押さえ込んでくれ……」
「いい気分の奴なんていないと思う。だけど、ここで俺達が反旗を翻したところで何も変わらないのも事実だ」
「だから、今は耐えてくれ……」
「少なくとも、俺達が争い合う必要はない。ここに居る奴は全員同じ被害者だ。例えこれがただの寄せ集めの面子だとしても、俺はお前たちを『仲間』だと思うよ」
「あんな腐りきった世界の中でできた、唯一の仲間たちだと、俺は思う。だから、俺達は皆……一人じゃない。少なくとも、俺は皆を信頼する」
アトフィシアが全員の不安を少しでも減らすための言葉を言い終わった時に訪れたのは、一瞬の静寂だった。
心を射たれたとかではない。
皆が顔に浮かぶ程の、困惑。
「……これはまた、随分と唐突ですね……」
「……ま、こうして話してて嫌な気はしないし、私はそれでいいと思うよ」
「私も、嫌だとは思わない。こちらも君の事を信頼するさ」
「同感だ」
その困惑を呑み込んだ彼らは、次々と口を開いた。
「あ、じゃあ……いつか、俺達がまた自由になったら……その時は、一緒に飯でも食いに行かないか?」
「何ですかそれ、フラグですか?」
「やはりこういう奴から死んでいくんだな」
「こんなところで死ぬつもりはないぞ⁉」
少し心配もあるが、ここにいるメンツは皆いい奴そうで良かったと、アトフィシアは心の中で思った。
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軽い休憩を済ますと、彼らは再び歩き始めた。
相変わらずの見慣れた景色、だがそれでもその先から射し込む光が目的地に近づいているということを感じさせる。
少しずつ、少しずつではあるが光は大きくなっている。
後どれだけ歩けばそこへ辿り着けるのかは分からないが、それでも歩き続けなければならない。
だが、今は先程までと違い良い変化があった。
「ねぇねぇ、ダイストって殺し屋だったりする?」
「まあ、そうだが……何で分かった?」
「ん~、雰囲気?」
「フィティス、でしたか?」
「何だい?」
「あなたは随分長いこと生きているのですね」
「まあ、私はそういう悪魔だからね」
こうしてトンネルを歩く中で、会話が生まれるようになった。物騒な内容のこともあるが、会話が一切ないよりはマシだろう。
──と、そうこうしていると目的地がすぐそこにまで来ていた。
「アトフィシア」
すると、隣を歩いていたフレムが声を掛けてきた。
「ああ──」
その後に内容が続かなくても、言いたいであろうことは分かった。
アトフィシアは歩を止め、他の皆がいる方へ振り返る。
すると、その様子を見たフィティス達も自分が今いるその場所で歩を止めた。
「お仕事開始って事?」
アトフィシアへそう聞くリュシスは、既に臨戦態勢。
それに触発されてか、ミラシュとダイストも構え始めた。
「フィティス、頼む」
先の自己紹介の後、お互いの能力についてある程度共有し、それから目的地が見えた時の行動も予め決めた。
「了解──」
フィティスは未来を見通す悪魔。
まずはその力で罠や奇襲等の有無を確認する。
「ここを抜けたところで、特段罠があったりとかはないね」
そう言って、フィティスが歩き出したため他の者もその後を着いていく。
トンネルを抜けると、そこはかなり大きな駅のホームのようだった。
自分達が通ってきた道以外にも、横に何本も線路が並んでおり、その光景を前に言葉は出なかった。
「……蒸気機関車、でしたっけ?随分多く通っているのですね」と、ミラシュがそう洩らすと、リュシスがそれに反応した。
「蒸気って……今は電気鉄道の時代ですよ……?」
「そうでしたっけ?」
一種のジェネレーションギャップのようなものをミラシュとリュシスが感じていると、フィティスが一言言ってきた。
「そんなに呑気に話している暇はありませんよ」
「……?」
その言葉で全員の視線がフィティスに集まった。
「……誰か来ますよ」
「何処から来る?」
フィティスの言葉に対してアトフィシアが問い掛けると、「あそこ」と言いながらフィティスはある場所を指差した。
しかしそこは──
「ただの、壁だよ……?」
何の変哲もない、コンクリートの壁。
その一面の何処かに扉がある訳でもなく、穴が空いている事もない。寧ろ敵がやって来そうなのはその横にある通路の方だ。
指し間違え、その可能性だって考えた。
だがフィティスはその壁を指差して動かない。
──となるとフィティスが言っているのはその壁で間違いはない。
その結論に全員が行き着いた時だった。
『間もなく~、66番線電車が開通致します』
突然、ホームにアナウンスが鳴り響いた。
機械的ではない。人が喋っているであろう話し方と妙に高いテンションだった。
そしてアナウンスが鳴り止むと、次は地面が揺れ始めた。
「な、なあ……俺の聞き間違いか?今、
そんな状況で、困惑するフレムが全員に問い掛けた。
それに対して返答したのは、この事態に全く動じていないフィティスだった。
「取り敢えず避けた方がいいですよ」
そう言ってフィティスが動き始めると、残りの全員はフィティスが動いた方向へとすぐに駆け出した。
その瞬間、音がした。
大きな大きな音がした。何かが崩れ、そして何かが向かってくる音がした。
それは重く、鈍い音。
巨大な怪物が唸っているかのような、深い音。
「なッ──⁉」
後ろを振り返ると目に入ったのは、黒い塊。
丸い車輪を何個も付けた、長い鉄の大蛇。
「噂をすれば、というやつか……」
それを見てダイストはそう呟いた。
その言葉の通り、そこにあったのは冷たい漆黒の汽車だった。
「列車が突っ込んできた……⁉いや、それよりも……あんな所にレールなんてあったか?」
フレムが注目したのは汽車の下、そこに引かれているレール。
先程まではあんな所にレールなんて無かった。
だが今は、そこにある汽車と共にレールが現れている。
一体何が起こっているのかを完全に理解するような時間は与えられず、次から次へと何かが起こる。
「成程成程、六名様でございますね」
汽車の中から降りてきた乗務員風の彼女は、汽車の直撃を避けたアトフィシア達を見回してそう言った。
「私はトレイベス・アイザック。今宵皆様を素敵な旅へとお連れさせて頂きます」
ペコリとお辞儀をし、定型文的な文言を言い終わると、トレイベスと名乗った彼女は背後にある空いたドアに手を向ける。それはトレイベスが降りてきたものであり、さらに言えばそこは客車へと通じる扉だ。
状況は完全に車掌と乗客、旅のガイドと団体客だった。
「さあ、どうぞお乗りください」
トレイベスはそう言って列車に乗り込む事を促すが、当然の警戒から素直に乗り込むような者はいなかった。
「どうする?このまま放っておくか?」
このままでは何も進展が無さそうだと感じたダイストは、アトフィシアに声を掛ける。
「……」
──が、アトフィシアはすぐに返答はできなかった。
正直、何もしてこないのであればこのまま放っておいても構わないだろう。
だがコイツが何者なのか、一体どんな目的があるのかが分からなければ下手に動くことはできない。
目的は目と鼻の先にある施設にある。
このまま突っ切って目的を遂行するというのも手だが、そう易々と通してくれるものなのか?
俺達の目的は最悪その動力源となっているらしいコアとやらを破壊するだけでもいい。
一人か二人居ればそれを壊すくらいはできる筈。
問題はそれに辿り着けるかどうかだ。
戦闘や何かしらの仕掛けがあるかもしれない事を考えると、ダイストとミラシュ辺りが適任か?
そうして答えが出せないまま考え込んでいる時だった。
肩にそっと、手が添えられた。
「落ち着け、アトフィシア」
その声が聞こえると共に振り向くと、手を添えるダイストがそこにいた。
「勝手にリーダーに決められて、分からないことも沢山あるだろう。だが、焦る必要はない。取り敢えず落ち着け、そうすれば見えてくる事だってある」
「……すまない」
(──とは言ったものの、アトフィシアがこうなる理由は分かる。
正直アトフィシアは気の毒だと思う。
いきなり会ったこともない寄せ集めのリーダーにさせられて、そしてこんな奴を相手にする事になるとは……
「お前は何者だ?何が目的だ?」
取り敢えず、こういう奴はまず探りを入れるもんだ。
ダイストの質問に対して、トレイベスは少し考える素振りをした。
「何者……と言われましても、見ての通りとしか言いようがないのですが……」
(見ての通り……運転手って事か……?)
「なら目的は?」
「それは既に申しましたよ?皆様を素敵な旅にお連れすると──」
「生憎俺達はお前の言う素敵な旅に興味はないんだ」
「残念ですが、ツアーのキャンセルは受け付けておりません」
「何がなんでも連れて行くってことか?」
「何がなんでも来たくなりますよ」
トレイベスは微かに笑みを浮かべて言った。
その笑みは、ただでさえ不穏なこの空気を更に後押しする。
「このツアー、最大の目玉は──当施設最重要コアの見学ですから♪」
「「──ッ⁉」」
その言葉に全員が耳を疑った。
最重要コア──それは今回の目的に於いて破壊しなければならない最低ライン。それを失えば、例え施設は無事だとしてもその殆どが機能しなくなる程の物。
そんなものを、こんな簡単に見せるなどと……
「おっ、目付きが変わりましたね。参加意欲が湧きました?」
「……その最重要コアってのは、何処にあるんだ?」
「コアは地下8階、施設中心部。ちなみに現在地は地下2階、施設西側、第三駅ターミナルですね」
「ここから徒歩だと……軽く半日程は掛かるかと──」
「おい、まだそこに行くとは言ってないぞ」
どうせ続くのはこの列車ならばすぐだとかそういった類いのもの──ならばわざわざ聞く必要はない。そう考えたダイストは、そこで話を遮った。
「言われなくても分かりますよ。こんな所に来る人なんて、ここの従業員かコアに用事があるいつかのお尋ね者ぐらいですから──」
「そして従業員ならば線路上を歩いてくる必要なんてない。それに線路の点検も2日前に行われている……少なくともここの関係者ではないと思いますが──?」
その言葉で、ダイストはこれ以上の言い訳は無理だと判断した。
「……料金か何かは?」
「要りません。あなた方の旅にご一緒できるだけで十分です」
「……分かった、乗ってやる」
「ダイスト……?」
いきなり汽車に乗ると言い出したダイストに、アトフィシアは小声で話しかけた。
「分かってる、十中八九何かある。だが、これに乗らない訳にはいかない」
「俺達はここの事を何も知らない。ここから地下8階に行くにはどの道を通ればいい?それまでに何も邪魔が入らないと思うか?」
「それならば、罠だとしてもこれに賭ける方がいいかもしれん」
「今俺達が考えるべき事は、どうやってコイツを避けるかではなく、どうやってコイツを倒すかだ」
「私もその意見に賛成です」
トレイベスに聞こえないようコソコソと話していると、そこへミラシュが加わった。
「最悪、全員でアレと戦えばいい。未だ正体の分からない敵を相手するよりもマシだと思いますよ」
ダイストが一度乗るとは言ったが、最終的にこの列車に乗るかどうかを決めるのはリーダーであるアトフィシア。みんな、アトフィシアの言葉を待っていた。
「……分かった、乗ろう」
正直、不安な部分はある。
というより不安しかないのだが、それでもこの列車に乗らなければ先に進めないような気がした。
そうしてアトフィシアを先頭にダイスト、ミラシュと続き、次々と列車に乗り込んで行った。
「さあ、素敵な旅へと参りましょう」
◆◇◆◇
列車の中は広く、綺麗で快適そうな空間だった。
二人掛けの椅子が規則正しく並び、木製の壁や床がいい味を出している。
「どうぞご自由にお掛けください」と、トレイベスに促され全員が椅子に座ると、ゆっくりと汽車は動き出した。
「ねえ、この列車の車掌ってアイツじゃないの?」
現在トレイベスは同じ客車にいるというのに、列車が動き出した事へ疑問を持ったリュシスが少し小さな声で聞いてきた。
「だがアイツ以外に人の気配はしないな」
リュシスの疑問に隣に座るダイストがそう付け足した。
座席は三、三で分かれ、アトフィシアの隣にダイスト、その二人の前にはリュシス、通路を挟んで向こう側にはフィティスとフレム、そしてミラシュが座っている。
「どれくらいで着きそうなんだ?」
窓から外の景色を眺めていたフレムは、隣に座るフィティスへふと気になった事を聞いた。
「……何事もなければ一時間程で着くとは思うよ」
「何事もなければ……?」
未来を見れるにしてははっきりとしない言い方だった。
「悪いが私は、そんなに先の未来をポンポン見れる訳じゃないんだ」
「……悪い。ちなみに……今はどれくらい先の未来までは見ているんだ?」
「……二十分。さっき君達が乗るか乗らないかで迷っている時にね」
「少なくとも、私が見た所まででは何か問題になりそうな事は起こっていなかったよ。後二十分は取り敢えず休んでおいた方がいいだろう」
彼女がそう言うのならそうなのだろう。
そう納得して、フレムは再び窓の外でも見ることにした。
◆◇◆◇
「どうですか?乗り心地は」
特に何事もなく、ボーッとするしかなかったところへ突然トレイベスが問い掛けてきた。
「……」
あまりに突然の事だったのでアトフィシアはすぐには反応できず、言葉を返すのに少しの間が空いた。
「……まあ、悪くはないと思うが──」
「そうですか、それは良かった」
ニコッと笑う彼女は、見方によっては良くない企みが順調に進んでいる事を喜んでいるかのような雰囲気がある。実際に裏があるかどうかは分からないが、どうしても不信感が抜けない人物という感じだった。
紫混じりの黒い髪も、その紫の瞳も、全てが不気味に思えてくる。独特の空気感、きっとこれに慣れることができるような人はいないだろう。
「今、どの辺りにいるんだ?」
「うーん……地下5階の辺りでしょうか?」
「第二セキュリティは突破しましたし……間違いはないかと──」
「第二セキュリティ?」
「地下3階より下へ行く為には、セキュリティを突破しなければならないのです。第一、第二セキュリティは一般従業員クラスで通れる程の緩~いものなんですが、地下6階、7階へ行く為に通る必要があるセキュリティはそれ以前のものとはレベルが変わってくるんです」
「具体的には?」
「第三、第四セキュリティを通過する為には役員クラスのセキュリティカードが必要になります。でも、少し問題があるんですよね……」
トレイベスが語るのは、この施設のセキュリティシステムについて。
「……ダイスト」
「……?」
「セキュリティカードって何だ?」
それに対して何も分かっていないような、純粋な疑問の声──
「……あー……会員証、みたいなものか?」
それに対してダイストは頭を回転させて、自身の知識からそれっぽい答えを絞り出す。
「それをどうするんだ?」
「……門番に見せる?」
するとそれを聞いていたリュシスは呆れたと言うようにため息を吐くと、ダイストに代わって答え始めた。
「簡単に言えば鍵──それを専用の機械に読み込ませると、自動的に扉が開くの。所謂カードキーだね」
「カード、キー……?」
「それを誰かに見せる必要は……」
「そういうのは大体無人で動くから、必要ないよ」
「発展してるんだな……ここ」
「一体いつの時代の人間なんですか?」
そんな掛け合いをしていると、トレイベスが改まって話し始めた。
「話を戻しますと──そのセキュリティカードが問題なんですよ。強行突破もいいのですが、如何せん警報装置が作動してしまいますからね……」
「……今までのセキュリティはどうやって突破したんだ?」
「そんなもの無視しましたよ?」
「いや……警報装置が、って……」
「第一、第二セキュリティの警報装置はとっくの昔に壊しましたので♪」
「お前、この施設の人間じゃないのか……⁉」
「違いますけど、何か?」
「……じゃ、じゃあ……今直面している問題は、そのセキュリティカードを持っていないってことか?」
「いえ、カードは持ってますよ。役員クラスのを──」
そう言って、トレイベスは懐から取り出した一枚のカードを見せびらかしてきた。ちなみに、そのカードには顔写真が貼ってあったが、当然トレイベスのものではなかった。
「それだったら、何も問題はないんじゃ……」
「問題は最終──第五セキュリティ……そこはまた別のカードが必要になるのです」
「別の……?」
そんな新たに現れた疑問を、トレイベスに投げ掛けようとしたその時だった。
「何か来ますよ──!!」
それを遮るように、突然フィティスが叫んだ。
その声に引かれて見えたフィティスは、まるで寝起き。
つまり飛び起きて警告する程の何かがあるということなのだろう。
全員が一瞬で警戒体勢に入った直後、凄まじい音と共に列車全体が大きく揺れた。
「な、何だ──⁉」
「あー、言ってませんでした?私追われてるんですよ」
「──言ってねぇよ!!」
アトフィシア達がこのタイミングでのカミングアウトに衝撃を受けていると、そんなことは無視してトレイベスは臆することなく音と衝撃の発生源であろう後方車両へと向かっていた。
「お客様ー、天井を突き破ってのご乗車はお止めください」
扉を開けた直後に放たれた最初の言葉は、面倒くさそうに放たれたその一言だった。
「トレイベス・アイザック──65回に及ぶ無許可での路線建設及び施設破壊、立ち入り禁止区域への無断侵入。今度こそは逃さんぞ」
それに対して、随分派手な登場をした(こちらからしたら)侵入者は罪状のようなものを読み上げ、腰に掛かった刀を引き抜いて構えた。
「だ、誰だ?」
その様子をトレイベスの背後から覗き見ていたフレムが聞いた。
「アルミス・ガルダ──この施設の警備隊総責任者兼社長側近の幹部連中の一人……つまり結構偉い人です」
「そして、あなた達に必要な人物ですよ」
「どういうことだ──?」
「地下8階に行く為に必要なカードは『側近クラス』」
「つまり──」
その口振りからして、これからやろうとしている事がわかった。
「はい、アレから貰っちゃえばいいんですよ♪」
「貰うというより奪うな気が……」
「誤差ですよ、誤差」
「話し合いは……」
「この列車に乗ってる時点でほぼ共犯認定じゃないですかね?」
「……戦いは避けられそうにありませんね」
「でも、私たちは今あちらよりも優位に立っています。場所、人数、勝利条件、その全てで──」
「別に倒す必要はありません。私たちはカードさえ手に入ればそれでいいのです」
「フッ、誰が優位に立っていると?」
耳がいいのか、聞こえないように話したつもりが聞かれていたようだ。
「確かに、列車という限られた空間内では分が悪いかもしれんが、この列車を止めてしまえば問題ではない。そして人数でも、勝利条件でもこちらが勝っている」
その言葉を現実にするかのように、言い終わると同時にこの列車の前からも後ろからも窓が割れる音がした。
そしてそこからなだれ込むように、色々な武器を持った者たちが次々と侵入してくる。
その人数は一車両で2、30人かそれ以上。
それが現在の車両を挟んで前と後ろにあるため、相手との人数差は少なくとも十倍はある。
「こんなに人が居たら、逆に思うように動けなくなりますよ?」
その状況を見て、トレイベスがアルミスへと告げた。
「貴様らをこの車両から出られなくすればそれでいい」
この車両の前も後ろも、人が多くて思うようには動けないだろう。それに比べてこの車両は、アルミスの事を考えてか、新たに侵入してきた者が他よりも明らかに少ない。自然とこの車両で戦うように仕向けられている。
その時、トレイベスがパチンと指を鳴らした。
それを合図に再びの揺れと、先程とは違った音がしたかと思うと、アルミスの後方の車両に見える人影がどんどん小さくなっていく。
(これは──)
「言ったじゃないですか、場所でも優位に立っていると……」
「車両を切り離した……⁉」
それに気付いたアルミスは、すぐにトレイベスを睨み付けると、疑問を口にした。
「制御室にもう一人居るのか……?」
「……この列車は私オリジナルの特別製なのですよ。私の思うがままに動く特別な……ね──」
「──ッ」
その直後、アルミスが空けた穴、見える限り全て割られた窓、その全てが独りでに直っていく。
それに目を取られていると、トレイベスは既にアルミスへと接近していた。
その際トレイベスが勢いよく振りかぶったものを、アルミスは刀で弾く。
「グッ……!!」
だがその威力からアルミスの身体は後ろに押され、刀にはヒビが入った。
(車輪……)
アルミスが自分の体で隠し、一気に距離を詰めたところで振り下ろしたものは、大きな鉄の車輪。
電車に使われるようなその車輪と、一振の刀の衝突は、戦いの始まりを告げる合図となった。
列車に侵入した者たちが一斉に動き出す。
狙いはアトフィシア達と、その先に居るトレイベス。
このまま行けばまずアトフィシア達とぶつかることになるのは明白。
だが敵との距離は列車の接続部と少しだけ、この距離と物量ではすぐに押しきられる。
それでも、アトフィシアは動いた。
ドア付近に居る敵を蹴り飛ばし、一度完全にトレイベスの居る側の車両へと入ると、それに続いてリュシスらも入ってくる。
「とにかくやろう」
「やるって言っても、こんなのキリが無いよ」
「私も、ジリ貧だと思いますが……」
「それでもやるしかない。このまま必死こいて逃げたところで、結局アイツに殺される」
「だから戦うんだ。戦わなければ未来はない。未来は自分達の手で切り開かないといけないんだ」
「列車の揺れにご注意くださ~い」
その状況で告げられたトレイベスの言葉──アトフィシア達はその言葉を聞くと、各々すぐに客車の椅子等に掴まった。
ドンッ、というトレイベスの言葉通りに来た強い揺れ。
そしてその時起こった現象に、アトフィシアは目を疑った。
客車がある。
そこに
先程の揺れは敵が乗っている車両と、今いるこの車両との間に新しく客車ができたことにより発生した揺れなのだろう。取り敢えず今はそう思うことにして、アトフィシア達も動き出した。
(アルミスとか言う奴はトレイベスに相手をしてもらえばいい……こっちは向かってくる敵を片っ端から倒す──!!)
やるべきことを定めたアトフィシアは、それぞれの顔を見回しながら指示を出し始めた。
「リュシス、お前はとにかく向こうの車両へと走れ。俺とダイストで援護する」
「オーケー♪」
「分かった」
「フレムとミラシュはここに居る残党の処理を頼む」
「いいぜ」
「了解」
「フィティスは安全な所から全体のサポートを頼む」
「いいだろう」
「それじゃあ、行くぞ──!!」
その掛け声で、アトフィシア達はそれぞれ走り出した。
────────
「さっき随分大層な事を言ってたけど、手震えてたぞ」
「私も分かっちゃったな、強がってるって」
二手に分かれた直後、新しくできた車両へと入った所でダイストとリュシスがからかうようにそう言ってきた。
「……そりゃあ怖いさ、正直まだドキドキしてる。でも今だけは、カッコつけさせてくれよ」
「ふ~ん、まあいいや」
「ま、好きなだけカッコつけてるといいさ」
向こう側の扉からゾロゾロと敵がこの車両へと入って来る。
「それじゃあ、行ってくるね~」
そう言い残してリュシスは車両の中央に延びている通路を走り、一気に前側の車両を目指す。ダイストとアトフィシアは左右の椅子の上を伝って移動し、前から来る敵を迎え撃つ。
一方のフレムとミラシュは、トレイベスとアルミスの周りにいる者を狙っていた。
「ミラシュ!!」
「言われなくても分かってますよ──」
フレムが出した火球をミラシュの力で見えなくし、それらを操作して敵を狙い撃つ。
炎は見事に敵に命中し、例え炎に当たってなくとも敵が気兼ねなく動く事を防いでいる。
ただし、二人を除いて──
周囲が見えない炎に苦しむ中でも、トレイベスとアルミスの二人は攻撃の手を緩めず、常に動き続けていた。
確かに、トレイベスに当たらないよう色々考慮はしている。
だが、絶対に当たらないようにするというのは難しい。
炎が来るかもしれない。
普通ならばそう警戒し、多少意識が割かれる。
こちらの炎など取るに足らないのか、それとも互いが拮抗する実力の持ち主なのか──
この限られた空間の中で器用に振り回される刀を、トレイベスは一本のスパナで防ぎ、更には反撃までしている。そこにこちらが入る隙はない。
刀とスパナがぶつかり合う戦闘の最中、トレイベスがアルミスを蹴り飛ばした事でその距離が少し空いた。
「よッ──」
そこへトレイベスは武器として使っていたスパナを思い切り投げた。
だが投げたスパナはアルミスではなく、後ろの窓の方へと行ってしまった。それをアルミスがチラリと視線を動かして確認した瞬間、トレイベスは再びアルミスへと接近していた。
隙のできたアルミスを蹴り飛ばし、窓を突き破って列車の外へと弾き出す。
だがアルミスは咄嗟に窓のフレームを掴み、列車に振り落とされないよう耐える。
そこへトレイベスは隣の窓から外へ勢いよく飛び出た。
人間程のサイズのものが列車の窓に掴まっているともなれば、風に靡く鯉のぼりのようなその身体は隣の窓へとはみ出す。
放たれた強烈な蹴りは必死に耐えているアルミスの身体に突き刺さり、その体を列車から完全に切り離した。
しかし、運がいいのか悪いのか、突き飛ばされたアルミスはその先にあった柱にぶつかって、再び列車の側にまで飛んできた。
列車が通り過ぎる寸前で、辛うじて握っていた刀を車体に突き刺し、それを使ってアルミスは列車の上部へと飛び乗った。
その光景を見て、思わずトレイベスは言葉を洩らした。
「悪運が強いって、こういう事なんですかね……」
そんなことを言いつつも、トレイベスも割れた窓から列車の上に移動する。
────────
リュシスを一番前の客車へと送り届けると、アトフィシアは客車の扉を閉めて、簡単には開けられないように蹴りで凹みを入れる。
リュシスが入った客車には、まだ二十人以上が居た。
そんなに広い客車という訳ではないので、これでも少し窮屈に感じる。
「
敵が向かってくると、リュシスはすかさず能力を発動した。
「な、何だ──」
リュシスの周りから現れる濃い霧は、すぐに列車の隅々にまで広がり、そこに居る者から視界を奪う。
「ぐっ……うぐぅ……」
やがて霧に包まれた者たちは苦しみだし、その場へと倒れていく。
『
生み出された霧はまず周囲に存在する空気を取り込み、急速に成長。視界が覆われる頃には、そこにあった空気の約八割は霧によって奪われている。
さらに息を吸う度に重い霧が肺へと入り込み、体内に侵入した霧は肺にある空気のみならず、細胞にある空気すらも奪う。
霧を吸い込むと、その毒素により即座に呼吸器官の機能低下の症状が現れ、同時に体内の空気を奪われると共に巡る毒により、細胞が急速に壊死、終いには息を吸うどころか吐く事すらできなくなり、やがて死に至る。
リュシスは霧を生み出しつつ、まだ動ける敵の相手をする。霧によって視界は悪く、さらに吸い込むとその毒で苦しむ事となる。
「よっと──」
ただしリュシスは霧の影響を受けない。
ただしそれは霧の毒に限った事であり、その視界は相手と同様霧に覆われている。
そんな中でリュシスは、慣れた動きで次々と敵を倒していく。
霧によって、この空間の広さ等の大まかな情報は入ってくるが、何処に何があるか等の正確な情報までは入ってこない。それをリュシスは霧の微細な揺れ、音、気配、その全てを使って敵の位置と内部の正確な構造を把握、行動している。
視界を奪い、毒で苦しめ、正確な動きでトドメを刺す。
それが彼──リュシスの、殺しのやり方。
◆◇◆◇
「
一方、扉を跨いで向こう側──アトフィシアとダイストのいる客車では爆発が起こっていた。
その爆炎の中を突っ切って、白い剣を持つアトフィシアが姿を現す。
爆発に巻き込まれなかった残りをアトフィシアは倒して行き、ダイストはアトフィシアから離れた位置にいる敵を相手にする。
ダイストが向かって来た敵を掴み能力を発動、炭となったそれを爆薬として周囲の敵を一掃する。その際、アトフィシアの能力で爆発の威力を強めたりもした。
これによりこの車両にいた敵はあっという間に数を減らしていき、そして今、二人は残った敵を排除し終えたのだった。
「次はどうする?フレムの所へ行くか?」
敵がいなくなった事を確認し、ダイストはアトフィシアに次の行動を質問した。
確かに、手が空いたのならフレムの方を手伝うというのもいいかもしれない。だが、それよりもまずはこちら側の敵を一掃することの方が先決。
「いや、リュシスを待とう──」と、アトフィシアが話している最中、リュシスの居る客車の扉が吹っ飛んで来て、その中から人影が出てきた。
「こっちは終わったよ~」
軽い感じでそう言いながら現れたリュシスは、トコトコとこちらへと歩いて来て、次はどうするのかを聞いてきた。
────────
「間もなく~、地下8階─第五セキュリティゲート前~」
汽車の上部、そこには二つの人影がある。
そこに倒れ込み、振り落とされないよう何とかしがみつく者と、それを見下ろす者の二つ。
「行かせると……思うか……」
刀は失い、思い切り頭を打って目はまともに焦点すら合っていない。ただ信念のみでそこにしがみついている。
「残念ですが、行かせてもらいます。この旅のプランはもう決まっていますので」
「……ならばここで、旅は中止だ……」
アルミスは最後の力を振り絞って身体を起こし、トレイベスをその目に捉える。
「
アルミスがそう唱えた瞬間、列車に異変が起こった。
(……噂には聞いていましたが、本当だったのですね)
列車の外壁がこの天井を床として、表と裏を逆にした箱を作るかのように曲げられていく。
『
噂では物体を小さな箱のようにし、何処にでも持ち運べるというような能力らしい。
一見ただの宅配能力だが、それには一つ大きな特徴がある。
それは箱を作る際に、物体の表と裏が逆になるというもの。
(発動条件は確か掌で直接触れること……)
それを警戒してトレイベスは、ここまでアルミスに触れられないように動いてきた。
そして今のこの状況──自身を巻き込んでの発動。
(最後の抵抗といったところか……)
「こういう事は他のお客様のご迷惑になりますので、止めていただきたいのですが……」
どうせ止めるつもりはないのだろう。
トレイベスは既にそう諦めていた。
「何号車ですか?」
トレイベスはそう問いかけた。
だがその問いの意味をアルミスは理解することができず、その問いには──
「四号車、二番目の客車です」
──と、下の客車からフィティスが答えた。
「オーケー♪しっかりとお掴まりくださ~い」
トレイベスがそう言うと、フィティスに加え、フレムとミラシュも四号車──アトフィシア達がいる客車へと走って来た。
「何をするつもりですか……」
「……何をって、そんなもの決まっているじゃないですか……」
トレイベスが腕を上げて、今にも閉じそうなこの箱の天井を指差した。
すると、壁から突然鉄のパイプのようなものが伸び、箱が閉まらないようにするつっかえ棒となった。
更にそのつっかえ棒は蓋を押し返し、この場に再び光が戻ってくる。
その光に導かれるように、トレイベスは高く跳び上がった。
その瞬間、空間が大きく揺れた。
まるで何かが勢いよくこの箱を押し飛ばしたかのような衝撃。それによりアルミスが折角起こした身体は、再び強く壁に打ち付けられてしまう。
この時、この列車に起こったことは二つ。
まず前側の車両と、アトフィシア達のいる四号車と五号車の分離。
次に四号車と自分達のいる五号車の間に新たに車両を生成。この時、生成される車両と五号車との連結はしない。
これにより、五号車は新しく生成された車両と激突。
車体は浮かび、急速に減速する。
その隙にトレイベスは先に作っておいた隙間から外へと抜け出す。
やがて車両は一つの小さな箱となるのと共に脱線、四号車側もタダでは済まず同じく脱線、共にまだ遠くにある地面へと落ちて行った。
◆◇◆◇
「ご無事ですかー?」
瓦礫を押し退けて、落ちた車両の中を確認するトレイベスはそう声を掛けた。
「あ、ああ……何とか……」
そう返すのは、目立った傷もないアトフィシアだった。
それだけではない。
アトフィシア以外の他の面々も、大きな怪我をすることなく、全員無事にこの車両の中にいた。
「一体、何が……」
「脱線して、落ちてきました」
変わらずのテンションでトレイベスは質問に答える。
「脱線……今俺達は何処にいるんだ?」
「第五セキュリティ前です」
視線を何かに向けて話すトレイベスに釣られて、アトフィシア達もその方向を見た。
「うわぁ……」
その光景を見て、声が詰まった。
そこにあったのは、一つの大きなゲート。
それも何十メートルどころではなく、何百メートルは行きそうな程のもの。
それに目を取られていると、背後から甲高いブレーキ音が聞こえてきたので見ると、そこには切り離した前側の車両が止まっていた。
「大した傷もなし、走行には問題無さそうですね……」
一周ぐるりと車体を見ていき、トレイベスは列車の状態を確認する。
操縦室や燃料を積んでいる箇所には問題は見当たらなかった。ただ──
「この車両はダメそうですね」
一つだけ付いていた客車は、見るも無惨な状態だった。
窓は全部割れ、車両の後側は何かに当たったのか大きく凹み、その中にあった死体はそこら中に散らばり、ギリギリ列車の窓に引っ掛かっているものもあった。
その光景から、もしこの車両に逃げていたらどうなっていたのかなど容易に想像できた。
「逆によく無事でしたね……この車両……」
その様子を見て、再度自分達のいた車両を見たリュシスが思わず声を洩らした。
「私に感謝してくださいね」
それに対し自慢げにフィティスが返した。
『まあ、彼女は何処の車両に逃げるのかを決めはしたものの、実際に被害が少なくなるよう頑張ったのは私なんだよね』という事は心の奥に封じて、トレイベスがそれを口にする事はなかった。
「それにしても、このゲートはどうしたらいいんだ?」
目の前にあるゲートには何か結界のようなものが張られており、簡単に通れるような雰囲気ではない。
その時、懐から何かを取り出したフィティスがそれを手渡してきた。
「これを──」
渡されたもの──それは一枚のカードだった。
「あなた達が戦いに夢中になっている内に拾っておきました」
そのカードは一枚の顔写真の付いたものであり、氏名の欄に書かれた名前と、その顔写真は間違いなくアルミスのものだった。
「セキュリティカード……」
「おや、いつの間に……まあいいでしょう。そのカードをあちらの機械にかざせばこのゲートは開きますよ」
トレイベスが指を差して説明した通りに行うと、大きな音を立てながらゲートが開き始めた。
その光景を見て、アトフィシア達は二つの感情を抱いた。一つがやっとここまで来れた事への安堵、二つ目がこんな音が鳴ったらまた敵が来そうな事への不安。
だがそんな不安を掻き消すように、この場に汽笛が鳴り響いた。
「ここまでのご乗車、誠にありがとうございます。本ツアーは最終目的地、地下8階へと到着致しました」
汽車を見ると、そこには操縦室に乗っているトレイベスがいた。どうやら発車準備を終えた様子で、汽車は今にも動き出しそうだった。
「……ここまで連れてきてくれてありがとう。助かったよ」その様子を見たアトフィシアが代表して、トレイベスに感謝を述べた。
「いえいえ、これが私の役目ですから♪皆様が満足していらっしゃるならそれで十分です」
謙遜しているのかは分からないが、トレイベスはそう言うと、列車をゆっくりと動かし始めた。
「皆様が安全に見学ができるようにするのも私の勤め。追手の方は私が引き受けましょう。皆様はどうぞごゆっくり当施設をご観覧ください。それでは皆さん御達者で──」
笑顔で、そして一度頭を下げ、最後には手を振ってトレイベスは列車と共に去っていった。
────────
これはある悪魔達が経験した、長いようで短い旅の話。
「結局何だったんだ……アイツ……」
思わずそう洩らしてしまうような、そんな不思議な旅のお話。
この後彼らが無事にコアを破壊できたのか、その後どうなったのかは、また別のお話。
お望みならば何処までもお連れいたします。
旅するあなたのすぐ側に──トレイベス・アイザック
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