ですが進めていくうちに派手な事になって行くとは思います。
・【騎兵】イグニッション
…一応聞くけど大丈夫か?
『一応だと思ってるなら答える必要は無いと思いますが』
だよねぇ…。
現在、俺達は【ドラグスコーピオン】との鬼ごっこで疲れた体を木陰で休めていた。
純竜級を初心者の俺とこれまた初心者の域を出ないだろうヴォルフの二人だけで倒した、これはとても大きな事実であり『あれもしかして俺達って強い?』と自惚れる原因にもなった。
しかし忘れるなかれ、これは車やバイクの運転と同じものだ。免許取り立ての時って絶対なるからね、ソースは俺。
そして本題に戻る。全速力でぶつけるなんて無茶やらかしたからデュラは結構酷い事になっていた。タイヤはブレーキごとグニャグニャだしヘッド部分はボコボコ、フロントフォークはひん曲がってそれはもう大惨事である。
今は紋章の中に戻っており回復に専念してもらっている。
俺が言うのもダメだと思うけど痛くないのか…?
『チャリオッツ体のまま戻ったので大丈夫ですね。悲鳴と苦悶の声が聴きたいのであればメイデン体に戻りますが』
…ごめんなさい。
『謝らないでください。もともとマスターの提案を引き受けたのは私ですし、ご褒美もまだですからね。私が万全に戻ったら気が済むまで持ってもらいます、思う存分労ってもらいます』
それで良いならいくらでもやってやるよ。
…とにかくありがとうな、ゆっくり休んでくれ。
『…そうですね。私も少し眠たくなってきたので、寝させてもらいます』
そこからそう時間を置かずに寝息が聞こえ始める。今回は大分無理させちまったからな、しっかり休んでくれよ。
「……」
風が葉を揺らしてざぁざぁと音が鳴る。目の前の荒れに荒れた木々から目を逸らせばとても平和な空気である。
「茶でも飲みたくなる気分だなぁ」
「あんな事の後によぉそんな事言えるなぁ…」
サソリに体当たりかまして頭砕いて、そこを杭でドン。頭ブチ抜いても暫くバタバタしてたから巻き込まれそうで冷や汗ものだった。
「というか、お前あんな事出来たんだな」
「あれでもう財布すっからかんやし、臨時収入でもなけりゃ暫く打てへんやろな」
「教えてもらっといてあれだけどよ、結構燃費悪いな」
「もうちょい優しく言ったらどうやちょっと傷ついたやんけ」
「へっ、お前の失礼な態度もこれでチャラにしてやるよ」
すると、ヴォルフはキョトンとした顔でこちらを見る。
別に変な事言ってねぇだろうがよ。
「……ありがと」
んん?
なんか今『あリがと』って聞こえた気がするんだけど気のせいか?ヴォルフが?嘘だってなわけねーだろ。
「聞き間違いかな?今『ありがと』って聞こえたんだけど?」
「…だからありがとって言ったの」
お…お前…!
「口調どこいったんだよ」
「……」
あー無言で構えるなよ…ってあれ何もしてこない。てか…おいおいまてまてなんでしょぼくれてんだよおかしいなぁ!?
「冗談だ。ちょっとしたジョークだったんだが、少しはリラックスしたか?そんなに緊張してたらお前らしくないって」
「!」
「ま、今のがお前の素ってところか?俺としちゃどっちでも構わんが」
そう言うとヴォルフは黙り込むが、今までとはどこか違う。今までは警戒してますよオーラを常に滲ませていたが今はそれも鳴りを潜めている。
顔を見てみればどこか毒気の抜けた顔になっており見た目相応な乙女らしさが感じられるようになった気がした。
今まではどこか必死というかなんというか、余裕が無さそうと言った方が良いだろうか。平静を装っていたがそれでも二日も一緒に居ればなんとなくわかって来る。
「………」
黙られると困るんだけどなぁ。
とはいえこういうの時は黙ってるのが一番だろう。
何か言いかけてたし向こうが言い始めるまで何もせず待つ、猫ちゃんとかワンちゃんとかと仲良くなるにもこういう手法を取る事があるし間違いでは無い筈。
「…その…あの時はごめんなさい。酷い事しちゃったの、ずっと謝りたくて…」
「あれは確かにビビったよ」
「うぅ…」
…人違い過ぎない?
「ビビったけど、もう気にしちゃいないさ。お前は謝ったし俺は気にしてない、これで終わりだ」
「な?」
「……うん。イグニスがそれで良いなら、私もそうする」
「…ありがと」
よせやい照れるぜ。
というかなんか忘れてるような…?
「あ、ドロップ見てないね」
「そうそうそれだ、完全に忘れてた」
俺は貰えなかったけどヴォルフは貰ったらしい。純竜級は所謂ボス枠なのでドロップに期待しても良いだろう。コイツの場合は初対面の時にデミドラをボコボコにしていたのでそのドロップもあるだろうし…そう考えると結構いい思いしてないか?
「【純竜蠍の宝櫃】だってさ、開けるね」
そこそこな大きさの櫃、もとい箱を開けると二つの物が出て来る。
一つは見るからに重厚なつくりのガントレット。もう一つは結晶の様な物だった。
「【純竜蠍の籠手・ネイティブ】と【高純度エメンテリウム】だってさ。籠手の方は装備できないしどっちも売った方が良さそう」
「【エメンテリウム】ってのは何だ?」
「換金用アイテムだよ。確か一個あたり大体2万リルだった気がするけど【高純度】ってのは初めて見るよ。名前的に値上がりするのかな?」
「元値で2万って結構高いじゃん!?」
『それでも赤字なんだよね…』とヴォルフは愚痴をこぼしていた。
どうやらあの大技にはかなり出費が強いられるようだ。
そんな技を二発もぶっ放したヴォルフは思い切りが良いのか太っ腹なのか…。
まぁこんな俗っぽい事を考え続けてもしょうがないし切り替えよう。
「ところでイグニスの〈エンブリオ〉ってどうなったの?結構酷い事になってたけど」
「多分修理中なんじゃないか?アイツも『時間をかければ自然に修理できますよ』って言ってたし」
チャリオッツ体であの有様だ。メイデン体だったらどうなってたかは考えたくない。
◆◆◆
さてこの後どうしようか。移動手段は徒歩だけになったし、ヴォルフもまともに戦う事は出来なさそうだし。
「…もしかして詰んだ?」
「だ、大丈夫だよ!何か出てきても私がなんとかするから!」
【ヘルシング】をブンブンと振り回しながらヴォルフはそう言った。
先程から完全にキャラが崩壊して素?に近い状態でいるが…本人が良いならわざわざいう事でも無いし、信頼の証だと考えれば悪い気はしない。
それでも自信満々で『何かあったら
オラオラ系のクソぶっきらぼうめんどくさがりいい加減エセシスターだったころと比べれば、今の弱弱しい雰囲気を感じるコイツの方がよっぽど格好と合っている。
『言い過ぎでは?』
残念ながら妥当な評価である。ていうかもう起きてたのか。
『修理はまだ終わってませんが、起きてはいられます』
『そして、良いニュースと良いニュースがあります。どちらから聞きたいですか?』
変わんねーじゃん…良いニュースで。
『良いニュースですね。では早速…この私デュラハン、第二形態になりました』
マジかよ。
『マジです。そしてもう一つ、《
マジかよ!?正直そっちの方がびっくりだぞ!?
『私の事についてももう少し驚いてもらっても良いですか?』
…スマン。
とにかく確かめようぜ。
「イグニス?急に黙ってどうしたの?」
「あぁいやなに、ウチの〈エンブリオ〉が第二形態になったらしくてな。ちょっと驚いてたんだ。多分確認とかいろいろで自分の世界入っちゃうから周り頼めるか?」
「任せて。傷一つ付けさせないから」
フンス、とでも効果音が付きそうに言う。そんなコイツを見て『可愛いかも』とか思ったのは俺の頭がイカれたのかもしれない。
閑話休題。今はデュラについて集中しよう。
先にスキルについて確認したい、内容が変わったらしいからどの程度変わったのかを確認しよう。
ウィンドウを開いて操作を何回かすればお目当てのスキルは直ぐに出て来た。
《首無し御者》:スキル発動時使用者に【首無し】を付与する。STR、END、AGI+300%
…あれ…?なんか弱くなってね?
『ご安心下さい。弱くはなりましたがその分タイムリミットが伸びましたよ』
んー…なんか『前の方がピーキーで良かった。ですか?』ゔっ…。
『まぁ言ってしまえば第二形態ですし、ヴォルフさんは第三まで行ってますから多少弱くともその後期待してもいいのではないでしょうか?』
てことはこれからの進化ってデュラの采配で色々変えれるって事?
『いや無理ですが』
無理なんかい。
「……はぁ…」
思わずため息が出て来る、何ともまぁ…あの後だと疲れてしまう会話だ。自分の切り札が実質弱体化なのだし、溜息ぐらい出ても許される筈。
「大丈夫?」
普通に心配してくれた。ってか人が以下略。
今の今まででモンスターは来ていない様子、ヴォルフも若干緊張の糸が切れてリラックスをし始めている。
まぁそれもそうだろう、周りの景色が和やかそのものだから……折れまくってる樹木から目を逸らせばね。
「…ってか俺達PKしたよな?」
「あっ」
いつか復讐とかされそうだなぁ。いやまて俺達別にレジェンダリアに長居するわけでも無いし雲隠れすればワンチャン…?
「まぁそれはおいおい考えるとして、取り敢えずは現状打開だな。今の所解決法が驚くほど思いつかない」
「私も殆ど戦えないし、デュラハン?さんは動けないみたいだし──」
『どうしよう』そう言いかけたのだろうが、それは枝の折れる音によって遮られた。
パキリと小気味の良い音が立った方向へ一斉に目を向けると、明らかに何かが隠れている茂みがあった。
恐らくいるであろう何者かは居心地が悪そうで、もぞもぞとしている。その時点で『ここにいますよ』と言っているようなものであったがどうやら気付いていないらしい。
「出てこいやボケ」
ヴォルフはスイッチを切り替えたようにに声色を変える。恐らく第二形態であろう拳銃を茂みに向け、引き金に指をかけている。震えはなく、撃てと言えば躊躇いなく放てるだろうと察することが出来た。
「今から三秒数える。それまでに出ぇへんかったら構わず撃つで……さーん」
「はいっ出ます!出ますからぁ!」
早。
「私なんも出来ない人畜無害な一人娘ですからどうかどうかやめてくださいあと出来たら霊都の方にも報告しないでください~!」
茂みからでてきてそのままヘッドスライディングを決め込んだのは一人の少女?だった。
手足には羊みたいな毛があるし頭には正に羊の巻き角が生えていた。羊人間といっても過言ではない特徴を持ったその少女は、今にも泣きだしそうな目で懇願する。
はて、霊都とはなんぞや。
『確かレジェンダリアの首都…と言いますか初期セーブポイントだった気がしますね』
てことはあんまり公には知られたくないって事か。お尋ね者?
「いきなりんなこと言われたって誰が信じるっちゅーねん。そもそもワイらの事コソコソ見とる時点でじゅーぶん怪しいで」
「それは…そのぉ…なんかすごい音したからなんだろうなーって身に来たらこうなったと言いますか…もしかしたらここのサソリさんが倒されたのかな?って思ったといいますか…」
「はっきり言えや」
「【ドラグスコーピオン】倒せるヤバイヤツがこっち来ないかどうか確認に来たんです」
成程、つまりは偵察という事か。〈純竜級〉を倒せるのは普通で考えればそれよりも強力なモンスターまたは別の何かという訳だし、おかしな話ではない。そしてその言い分からして彼女達の住む所は近いようだ。
「悪気があるようには見えないし良いんじゃないか?それに人が居るって分かったんだ、少しは希望が見えてきたとも言える」
「…そうやな、あんまりな事してスマンかった」
見る限りこの少女はティアンだろうか?確かキャラメイクのカスタム数結構あったし角生やしたり肌の色変えられたり身長変えれるし、マスターでも何らおかしくはない。
そう思って左手を見てみると紋章は無く、根っからのティアンだという事が分かった。
こういう時に役立つんだなこの見分け方…教えてくれてありがとうございますチェシャさん。
「いえいえ、気にしないでください。むしろ話の通じる方で助かりました、モンスターだったら本格的に危なかったので良かったです…私達まともに戦えませんから」
「戦えない…?ジョブには就かないのか?」
「私達、戦闘系なんてまともに就けないですよ。精々【生贄】か服飾系くらいにしか適正ありませんから」
…【生贄】、なんだか物騒な名前が出て来たな。
何はともあれ人がいたし、向こうが良ければだが色々補給したいところだ。
「そうだ、もしお二人がよろしければですが私達の集落に来ませんか?見た所お疲れの様ですし」
「いいのか!?」
「はい!では案内しますね!くれぐれも他言無用でお願いします!」
そうして俺達はその少女の後ろについて行く。
目的地は彼女達、羊毛種族の集落。後の【怠惰魔王】の縄張りになる場所であった。
ヴォルフには少しだけ重い過去を生やしたいです。