・???
それを作り出したのは一人の【
男が生きていたのは何百年も昔。今では名前も残ってない、かつての時代を生きた一人である。
男はとある人物に憧れと嫉妬に似た感情を抱いており、その人物こそ──
──名工フラグマンその人である。
煌玉の名を冠する兵器たちはどれも恐ろしい完成度を誇っており、強く美しい者達だった。
しかしそれらを用いても戦争の相手である化身には勝つことが叶わず、様々な形で後世に意志を遺すことになった。当時の願い通りに進んだものは一体どれぐらいあるだろうか。
男はひっそりと、心の中でフラグマンに勝負を仕掛けた。到底勝つことが出来ないと分かり切ってしまっていた、しかしだからこそやってみたいと思ったのだ。
【戦像王】の座が空いていれば彼は就けたかもしれない。だが現実は無常であり空席では無かった。もし望みの座に就くことが出来ていればいくらか強力な兵器を生み出すことが出来たかも知れない…が、たらればの話で合った。
結果的に彼はその生涯をかけて一機のゴーレムを完成させた。自己進化をコンセプトに作成されたそれは親に愛される子の様にすくすくと育ち、力を付けていった。
『■■に栄光あれ』
生みの親はその言葉をよく聞かせており、子供も覚えるようになった。その言葉こそ彼のマスターキーのようなものであり、そして祈りであった。
間もなく親は死んだ。戦争に巻き込まれて死んでいった。とてもあっけなく、哀れな生きざまだったという。
主を失ったそれは、もはや正真正銘のゴーレム…モンスターである。
祈りの言葉は本質を忘れ、ただ形だけで覚えている。その言葉が何に向けたものかさえ思い出せやしない。
自己進化、そして自らにとっての強者、脅威を排除する為に動くようになった。逸話級から始まったそれも時が経てば伝説級へと昇華することが出来た。
存在意義を履き違えた哀れな存在。それが【蹂躙封鎖 パルメデス】だった。
◆◆◆
・【騎兵】イグニッション
攻撃が止んだと思ったらヴォルフが攻撃を引き付けていた様だ。向こうを見てみれば訳の分からん事をしていた。
飛んでくる弾を自分の撃った弾で逸らすってどういう事だよ。
アイツワシよりつよくねー?
「女の子におんぶにだっこで良いんですか?それでも私のマスターですかあなたは」
「んなダセー事俺がする訳無いだろがい。さっきも言ったがこれは連携プレイなんだよ、コ・ン・ビ・ネ・ー・シ・ョ・ンね?アンダースタン?」
「なんか腹立ちますね。一回轢いても?」
「良い訳ねぇだろ」
踵を返して正面に【パルメデス】を見据え走り出す。背中側の防御は正面程硬くはないようで、装甲の無い部分がチラホラ見られる。攻撃するにはうってつけという訳だ。
弱そうなところを即座に判断する。やはりと言うべきか膝裏は格好の的だった、背負っている棺桶らしきものが邪魔だが、デュラと俺ならよけながら当てる事も可能だ。
今の俺が持っているスキルは《騎乗》くらいしかなく、戦闘に直接寄与するものでは無い。だから自分の実力とセンスでどうにかするしかないのだ。
「折れても斬れるだろ、根性見せてけ!」
「ハイヨーシルバァー!!」
お前が言うんかい。
そんな事はさておき、あの野郎後方は見えない様だ。人間からすれば当然だがあんなトンデモモンスターだ、見えていても何らおかしな話ではない。
ヤツとの距離が刻一刻と縮まる中、ヴォルフは応戦を続けて【パルメデス】の気を引いている。互いに一歩も引いていない状況に持って行っているのは素直に凄いと思う。
負けてられないな。
「正面に見据えて、さぁ──」
目の前にあるのは【パルメデス】の足、つまり膝裏。
「持ってけドロボー!出血DIEサービスだコラァ!」
折れた剣を勢い任せに突き刺す。ものすごい音を立てて剣は突き刺さり、不動を貫いていた【パルメデス】はその姿勢を崩し背後に倒れ込み始める。
ヒットアンドアウェイで動いていたので幸い巻き込まれる事無く走り抜け、ヴォルフと交差する。
「ヴォルフ!!」
「応!!」
呼応するようにヴォルフは駆け出しヤツの懐にまで一気に詰める。
「…排除、排除、排除、排除!!」
【パルメデス】は遂に明確な怒りを声に滲ませた。彼は完全な機械ではなくゴーレム、モンスターだ。
機械であれば特異点だのなんだの言えるのかもしれないがモンスターが感情を持つのは何もおかしな話では無い。
倒れ行く最中左腕をヴォルフではなく俺へと向ける。上手く行っていたこともあり油断していた俺は回避しようとするも、避けきる事は出来なかった。
「イグニス!?」
「マスター!」
身体の右側がスッと軽くなる、鮮血を伴って飛んで行ったのは俺の右腕だった。
HPはごっそりと無くなっており【出血】の表示がある。それも減りが恐ろしく早い。
…となればもう後には引けない。
「グッ……デュラ、頼むわ」
「…お任せを」
何をするのか察したのだろう。流石俺の相棒だ。
生き残って勝つのはヤメだ…こっから先はチキンレース、どっちが先に死ぬか競争だ。
「「《
二度目の発動。
首元から炎が生まれやがて頭全体を覆い燃やし尽くす、《感覚共有》によって視界は自動的にデュラのものとなった。
随分久しぶりな感じだが意外にも体は覚えていた。前回ほどのぎこちなさは無い。
ステータスの上昇を体で感じながら体制を立て直す、剣は突き刺したままだから手元にないしなんなら右手も無い。
『移動は私にお任せを』
『うし、じゃあ任せるぜ』
首無しの馬から嘶きが発せられる。悲痛な嘶きには主を害された憤怒が混じりその一切を隠すことなく倒すべき敵へと向けた。
『前進しろ、ヴォルフを拾ってヤツの元まで突っ込むぞ!!』
『了解』
蒼炎を伴って骸の如き騎兵は駆け始める。【パルメデス】はその異様な光景に驚き動揺を隠せないでいる。
「ッ排除!」
「ハッハッハ、遅すぎてあくびが出そうですね」
放たれた弾は余裕癪癪で回避される。倍率が下がったとはいえ今の数値は破格のものであった。当時のイグニッションはレベルが低くそれゆえにあれだけの倍率が必要であったが今の彼にはある程度レベルがある。
揉まれるような戦いの中で彼のレベルはカンスト手前まで行っていた為に、下がった倍率でも上級職と遜色ない程までに昇華していた。
「今どういう状況なの!?」
「説明は後です。あのガラクタをあるべき姿にするのが先でしょう?」
「…分かった!」
左手でヴォルフの肩を掴み後ろに乗せる。そしてここからするのはとっても簡単な追いかけっこである。相手は動けなくなっているが。
「武装制限解除、《弾頭機動》《
なんて思っていたら奴さん動き出しちまったよ畜生。しかもなんだ?ツヴァイだぁ?
奥の手を隠してやがったなあの野郎。今まで見せたよりも格段に速くなってやがる。
◆◆◆
・【蹂躙封鎖 パルメデス】
戦闘負荷上昇、武装制限解除及び絶対討滅ターゲットに指定。
廃熱経路接続…完了。エネルギー充填開始、充填限界撤廃《警告 過剰充填により自壊の可能性増大》続行。
本機が執行するのは敵の撃滅のみ、機体の無事は入れないものとする。
任務再確認。外敵の排除、■■の排除。■■について推考…失敗、不明。
背部オプション、射撃シークエンスに移行。機体、砲撃形態へ移行。
《
────【
殲滅。
◆◆◆
・【騎兵】イグニッション
「イグニスもっとスピード上げて!絶対ヤバいでしょあれ!?」
飛んで行った【パルメデス】はかなり離れた所で着陸をした。その後追いかけながら様子を見ていると明らかにまずい変形を始めた。
背負っていた棺が後ろに倒れて砲身の様に展開され、二本足だった下半身は四本足に変化していた。
上半身はぐるりと大きく回転し背中の砲身がこちらに向けられる。腕は収納され、変形後の姿はSFに出て来る砲台の様だった。
そしてああいった砲台はお決まりの様にあれがある。
ボシュボシュと連鎖的な音が聞こえた。やっぱりあるみたいだ。
「うわぁーっ!?」
空に向かって飛び上がった12…いや24個の光、あれ十中八九ミサイルだろ。俺は詳しいんだ。
きらりと光ったそれは雨の様に降り注ぐ。雨と違う点を上げるなら、こっちは派手な爆発を伴うところか。巻き上げられた砂が視界を埋める、爆音で耳が使い物にならなくなる、焼ける匂いで鼻が潰される。
だから何だ、俺達が倒すべき敵は目の前に居る。正面だと分かっていればどれだけ見えなくとも捉えているのだ。
「全速前進、撃滅あるのみです」
「死なない!?これ死なないの!?」
「死んだら終わりですが止まったらもっと早く死にます。さぁ迎撃マシンヴォルフ、やっておしまいなさい」
「うぅ……クソァーッ!!」
目に映る空からの贈り物全てに銃口を向ける。ヴォルフの服は爆風や飛んでくる小石によってボロボロになっていた。元々属性耐性が目当てで着けていた物だがここまで壊れてしまえばその効果も期待できないだろう。実は自分のエンブリオと装備が合っていてお気に入りだったのは秘密だ。
「その調子です。こちらも目視で確認できました、そしてMP残量20%…ヴォルフさん舌嚙まないでくださいね。ここからがトップスピードです」
《爆燃騰血》点火。これによりイグニッション達の速度は、AGI特化上級職と並ぶ。
言動こそ余裕そうに見えるが、実際の所デュラハンはかなり焦っていた。
主とその友人を落とさないための制御。そして障害を避けて通りかつ無茶な行路にしない為の状況判断。そして何よりも焦らせているのは《首無し御者》のタイムリミット。
制限時間は確かに伸びた。だがそれでも足りない。いくらあっても足りないのだ、主を殺す従者なぞあってはならない。
私がこの形で生まれ落ちることが出来たのは違う事無く我が主がいたからこそである。
それだけ、たったそれだけが私と我が主を繋ぐ最初の一。私が我が主に永遠の忠誠を誓うにはあまりにも十分すぎる。
願わくばこの制限時間というものも無くしたい。それが我が主の希望に沿わなかったとしても、だ。私は我が主を殺したい訳では無い、願いに応えようとしたばかりにこうなってしまったのだ。
『死んでも誰かを守る』。それが主の願いだ、しかし私はそれを『誰かを守るために死ぬ』という湾曲表現もいいところな形で叶えた。
後悔が無いと言えば嘘になる。だがこの力を手放したいと思ったことは一度も無い。これは我が主の願いであり力の象徴なのだから。
なればこそ、私も全力でこの力を行使するまで。
『行きましょう、マスター』
『やる事は一つ。アイツをぶっ潰すだけだ』
黒馬は駆け出す。
首無しの御者、そして首無しの黒馬。後ろに乗っているのはボロボロのシスター、不吉以外に言い表せないその様相だが原動力は善性のみで出来ている。
【パルメデス】は全身を粟立たせるような輝きを湛え始める。真夏の太陽の様に眩く光るそれはしかし一切の温もりを感じさせない冷徹無比な光である。
黒馬は全身の血を沸騰させるような熱を孕む。底冷えするような、地獄からもたらされた様な炎は激情の熱、魂の蒼炎である。
残り200m。ヴォルフは自分が緊張している事を、手の震えを視認したことで自覚した。こんなにも緊張したことは無く、今している事は一世一代の賭けにも等しい事は理解していた。
絶えず放つ銃弾により降りかかる破壊の雨は地面に落ちることなく空で爆ぜる。
さながらパレードを思わせる光景だった。
ここでヴォルフはイグニッションのとある変化に気付く。
今の今まで感じていた熱が、無くなった。ふと視線を上から前に戻すとそこには右腕と首のないイグニッションがいた。それは現時点においてはおかしくない事だとして、今の彼にはある物が無かった。
血だ。先程まで生温かさを、命の熱を伝え続けていた彼の血が流れなくなった。
【出血】の終着点とは即ち出る血が無くなる事、言ってしまえば失血死である。
それでも彼は動き続けている。あまり気が動転しないのは何故だろうか?そう考えた所ですぐに答えが出た。彼の炎だ、あれが彼の温かさを私に伝えてくれていたんだ。
残り100m、ここまで来ればもう一瞬だった。
◆◆◆
《
【パルメデス】に登録された武装の模倣、たったそれだけ。
たったそれだけが男の狂気の象徴となる。
【パルメデス】に登録された武装の数は本来であれば数多くあるはずだったのだが、心半ばで男がこの世を去ってしまった事が起因したったの二つであった。
一つは《深淵砲》、 【
二つは《マテリアル・スライダー》、【
どれもが最高の英知によって造られたもの達であり、男は当時の人類にしてはかなり頑張った方ではある。比較対象があまりにも桁外れな存在のせいで名を遺すことなく消えたが、男がフラグマンに執着しなければそれなりに名を遺すことは出来ただろう。
【パルメデス】は自身がモンスターであることを最大限生かして自身の心臓部を最大稼働させる。エネルギーの充填率は既に100を突破しており、以前までの彼であれば迷いなく放っていただろう。
だが今は話が違う、彼の眼前に迫りくる首無しの騎手ともう一人の銃手は潜在的な危険が高い。このまま野放しにすれば■■への被害は計り知れないと考え彼は限界を超えた一撃を求めた。
廃熱に残留する魔力さえも一転集中させる。砲身は熱を帯び赤化するにまで至るが止まる事は無い、ヒートシンクを展開させて空気での冷却を試みるもむしろ大気中の水分を蒸発させた。
片足に刺された剣のせいで姿勢安定は不安になっていたが彼は破損した足と、対になる足を自ら
重力魔法内包完了、魔力チャージ178%…189%……200%。撃滅対象設定完了、相対速度、照準補正演算完了、照準追従性能低下…腕部パージにより修正、
魔力総稼働率500%突破、自壊率60%、全演算回路を《深淵砲》に集中。
…修正。
雷魔法、及び火魔法操作…………完了。荷電粒子生成、圧縮装填。光魔法並列起動。
圧縮荷電粒子、光魔法、重力魔法起動完了。射撃準備……完了。
《
…ZIZI、ZI
「……我が生涯をここに捧ぐ。我が全身、我が全霊を以て煌玉に踏み入れん」
「我が名は【蹂躙封鎖 パルメデス】!この一撃を以て全てを薙ぎ払わん!」
「撃滅、蹂躙、焦土、即ち我が至上至極の一撃也!」
「──《焼天》……発ッ射ァ───!!!!」
◆◆◆
・【乱銃士】ヴォルフ・ザ・トライバレル
「さッ………せるかぁあ──!!!!!」
《穿つ銀杭》装填完了、接射用意!!
銃口を向け、狙いを定める。ここに来るまで攻撃を捌ききれずに片目がダメになった。
それでも消して折れる事は無い。
《トリガーハッピー》、【乱銃士】のスキルであるそれは秒間発射数に応じて弾丸による攻撃力を増加させるというものである。そして今現在ヴォルフは最大倍率である+150%を維持している。維持に必要な弾丸は秒間20発。ヴォルフはこの条件を絶えず達成し続けた。
未だ下級職である事からステータス倍率は目を見張るものが無く、【ヘルシング】の補正も乗ってはいるがそれでも〈マスター〉としては下級職の域を出ない。
《穿つ銀杭》を除けば、の話ではあるが。
《穿つ銀杭》自体にステータス補正は無い、あくまで【ヘルシング】により製造された弾丸の一つでしかないからだ。だが《穿つ銀杭》にはとある性質がある。
更に特筆すべきは【ヘルシング】に第一形態の時から備わっている《
《トリガーハッピー》、そして《
今ここに、彼女の全身全霊を注ぎ込む。
デュラハンの背から飛び跳ね、空中で狙いを定める。身動きが取れなくなり格好の的になる愚策だが、彼女は信頼している。
彼らを。
「見えました!」
黒馬が駆け抜ける。首無しの騎手は足に刺した剣を探し当て引き抜き、再び突き刺す。
今度はその砲身へと、赤熱化する程までに熱された砲身は軟化しており通常の金属で作られた剣ですら、彼の膂力を以て突き刺せた。彼の左手は白煙を上げながら離れて行き、離脱する直前にはサムズアップをして見せる。
『後は任せた』
そう言われた様な気がする。
任せて。決めるよ、ちゃんと。
砲身は逸れた。臨界点にまで達していた輝きは逸れ、ひと際強い輝きが生まれる。夜に灯される一点の明かりの如く光ったそれと同時に私は吠え、撃ち放つ。
「我が名は【蹂躙封鎖 パルメデス】!この一撃を以て全てを薙ぎ払わん!」
「この一撃で決める!」
「撃滅、蹂躙、焦土、即ち我が至上至極の一撃!」
「私は私を証明する!!」
「──《焼天》……発ッ射ァ───!!!!」
「《
撃滅必至の一撃が、二つ放たれる。
天すら焦がす輝きを堪えた光は、彼女を捉えきれず軌道は左へずれる。拡散する熱すらも収束させたために彼女へ与えたダメージはゼロであった。
悪虐必滅の銀光は、【パルメデス】の中心へ寸分の互いも無く放たれる。魔の心臓に突き立てる銀の杭は【パルメデス】という
遥か後方で爆発音がする。ピリピリしたものと若干の熱風を肌で感じながら重力に身を任せ、黒馬に受け止められた。
【〈UBM〉【蹂躙封鎖 パルメデス】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ヴォルフ・ザ・トライバレル】がMVPに選出されました】
【【ヴォルフ・ザ・トライバレル】にMVP特典【焼天葬 パルメデス】を贈与します】
かくしてレジェンダリア北部、国境付近での死闘は幕を閉じた。
この死闘によりとある部族の祭祀場は完膚なきまでに破壊され、モンスターの生息域は変化する。《焼天》の着弾地点にいた絶滅一歩手前のモンスターは種を絶やすことになった。
絶滅したモンスターは人間をもてあそんで殺すタイプのクソなので絶滅して当然でした。