・【大騎兵】イグニッション
犬の着ぐるみに加勢して戦って、目下の敵は全て倒せたので只今休憩中。
「モンスターもどきが一体何のつもりだ?」
着ぐるみは警戒した様子で俺にガトリングを向けて来る。こちらに戦意はない、繰り返すこちらに戦意は無い。
『いや事故でね?』
「マスター、聞こえてません」
フガフガフガ、この想いどう伝えようか。
「マスターに代わって私が事の顛末をお伝えしましょう。事故です、ハイ」
人型形態に戻ったデュラと首から上が燃え続けている俺、そして着ぐるみ。
……ギャグマンガでもそうそうないだろこんなトンチキ描写。
「マスター……って事はそっちの黒いネーチャンはキャンドルマンの〈エンブリオ〉か?」
キャンドルマンって俺の事か?
「その通りです」
それで通すのかお前たちは。
「そうか……逸れたな、そんで事故ってのは一体どういう事だ?」
「その通りの言葉です。あの時は時間が無く、事情を説明する間も惜しんでの行動ですので。具体的にはマスターの死亡まで残り11秒でしたからね。到着からセーブポイントの設定まで含めれば焦るには十分すぎる程の時間だと思いますが」
「あの一件でギデオンの住民は少なからず不安感を抱くようになったぞ、それも少ない数じゃねぇ」
「俺はハッキリさせときたいんだ、お前が危害を加える奴かどうか──」
「ありませんよ」
着ぐるみの言葉を遮り、デュラが断言する。そうさ、俺は絶対にティアンに危害を加えない。断言してやるさ。
そもそもこんなスキルになったのだって、俺の願望がどうこうってんなら『絶対に
「随分ハッキリ言うんだな。実際問題あの現場に居合わせたマスターはかなりの数轢かれたぜ?ティアンは逃げて離れていたからたまたま被害は無かったらしいが」
「その解釈は間違いです、私はマスターとティアンを見分けることが出来ますので」
「確証は?」
「ですのでマスターだけを轢き殺しました」
「……ん?」
着ぐるみは首を傾げた。いやまぁ確かにそうだよな、見分けられるからってマスター轢き殺すのにブレーキ無しだもん俺達。
「そこは誰も傷つけないとかじゃないのか?」
「逆に聞きますが何故他のマスターに配慮する必要が?」
……不思議な事にデュラへの反論とかは俺の中じゃ全くない。真の意味で俺の代弁をしてくれている様だ。
向こうはどうやら今ので腑に落ちたようで、向けていたガトリングが粒子になって消える。あれがアイツの〈エンブリオ〉だろうか。
「んー、まぁ……なんだ、その……。あー、何となく分かった。ティアンに危害を加えないってのはホントらしいな、んで他のマスターには遠慮ナシって事も分かった」
「分かってもらえて何よりです、ね?マスター」
俺は大げさに頷く。大げさじゃないと動きが無いのよ今の俺、首無いし。
「なんとなくわかった、多分敵対する意味は無いな。俺はシュウ、シュウ・スターリングだ」
……シュウ?なーんか聞き覚えのある名前だな……なんだっけ……あぁそうだアンクラの選手に似た名前のやついたな。確か修一って名前だったか。
「私はマスターの〈エンブリオ〉、【首無御者 デュラハン】です。そしてこっちのキャンドルマンは私のマスターであるイグニッションです。長ければイグニスとお呼びください」
全部言うじゃん。
「だってマスター喋れないじゃないですか。筆談でもします?マスターって字汚いですよね」
ぶっ飛ばすぞこの野郎。
「ほほほ」
「そっちのキャンドルマン……じゃなくてイグニッション、アンタの〈エンブリオ〉って随分愉快なやつなんだな」
愉快……愉快か、コイツ。まぁ頼りになる部分もあるしで良いコンビなんじゃないかと思っている、とはいえ一言余計な事があるから何とも言えないな。
「マスターは私の事えっちな目でみてますもんね」
だまらっしゃい。
いい音を響かせてデュラの頭をひっぱたく。
なんだか一件落着して和気あいあいとした雰囲気が広がる。
だが、違和感は続いていた。気付いたとしてもそうでなくとも、彼らに関係なくソレは始まっていたのだから。
◆◆◆
・???
「補足した」
「準備は出来たか?
「無論だ。そちらが引き摺りだせさえすればな」
無機質な人型と、悪魔と人間を混ぜたような見た目の者が言葉を交わす。
普段であれば見える様な余裕は鳴りを潜め、冷や汗すら流れそうな様相だった。
それもその筈、もしこのタイミングで逃せば……この《Infinit Dendrogram》が再起不能になるかもしれないのだ。故にこそ彼らはこの上なく真剣だった。
「ダッチェスには無理をさせてしまっているからな、我々も失敗は出来ない」
「特定のマスターの視覚情報に
「……現地のチェシャから連絡、つまり時間だ。
「…………周辺区域との隔離を開始。〈空間希釈〉、〈空間固定〉、成功」
「……捉えたぞ、〈空間反転〉」
視界の先……ダッチェスにより映し出された空間に、黒点が浮かび上がる。
ソレは段々と広がり徐々に形を成していく。
不定形のソレはユラユラと漂い、自由に動いていたがその輪郭は不明瞭でハッキリとしない。
「ジャバウォック!」
「あぁ」
◆◆◆
【(〈UBM〉管理担当AIからの操作を確認、認証)】
【(〈UBM〉)認定条件をクリアしたモンスターが発生)】
【……既定の〈UBM〉認定プロセスを省略……完了】
【(対象を逸話級
伝説級
古代伝説級
神話級──【虚蝕 モルド】と命名します)】
この瞬間、繋がりは切れた。【モルド】と名付けられたソレは〈UBM〉という
それにより〈簒奪者〉の末端としてのソレは消え、繋がりが消える。
この瞬間、〈簒奪者〉は興味を失いココを見る事は無くなった。
最大の脅威は去った……が、ココに残ったモノは違う。
この世界、ひいては今の管理者でさえも想定しえなかった文字通りの
これが最善の結果になるか、最悪の結果になるか。
◆◆◆
・【爆燃機関 ユーロビュート】
条件達成を確認。第二スキル、《
呼応するかのように、それとも主の危機に参じるように、【ユーロビュート】は応える。
◆◆◆
・【大騎兵】イグニッション
なんかアナウンスが聞こえた。条件だとか言っていたが要するにスキルが解放されたらしいのはいい事だ。これで戦略の幅が広がるというものだな。
すいすいと操作して辿り着くのは特典武具の欄、そこにある唯一の特典武具……【爆燃機関 ユーロビュート】の名が記載されている。今まで《???》になっていたところの名が明かされていたのをしっかりと確認した。
思えば最初はコイツに苦労させられたな。デスペナルティから最初の《首無し御者》、そしてコイツによって生み出された犠牲者……。
急ごしらえで作った墓は今でも残っているだろうか?まだ一年もたってないから流石に残っているとは思うが……。過ぎた事だ、気にし過ぎるのも毒というべきか。
肝心のスキルの方は《
《爆燃騰血》はMP一定消費をトリガーにした爆発的な回復、これにはちょいちょい助けられている。んでこの新スキルは簡単に言えば
デュラを動かすためにMPを消費してきたが、ここで遂にHP消費も入って来たか。HPの方は任意だが内容が内容だ、使わない手は無いだろうさ。
「イグニス、そろそろ動き始めるぞ。どうやらここら一帯にあの変異体がいるみてぇだ」
無言のサムズアップで応える。デュラを
シュウは俺達の姿を見て納得がいったような声を出す。
「あの時の姿か……確かに【デュラハン】って言われれば納得の姿だ。よく見れば機械だがな」
「褒めても何も出ませんよ」
「ほめ……?」
なぁデュラ、後ろ乗せても良いか?俺だけってのもなんだか忍びないしな。
『え、嫌ですけど』
えぇ……?
『マスター以外乗せたくないです。嫌ですよ着ぐるみにケツ押し付けられるの、押し付けられる側の気持ち想像したことあります?』
そりゃぁ……ごめん無いわ。
謎の文句を貰ったので仕方ない、シュウには歩いてもらおう。
「ところでお前、ジョブはどうなってる?」
「マスターのジョブは【大騎兵】となっています。レベルの方はそろそろカンストと言ったところですね」
「俺と同じくらいか。俺は【破壊者】のカンスト手前だ」
「【破壊者】?」
「STR特化のジョブだ。俺のやり方にはこれが一番合ってた」
STR特化か……俺とは真逆だ。上手くできれば楽しそうだけど。
まぁいい、出発だ。
◆◆◆
俺は《
そう思ったが、疑問はすぐに解消されることになった。
「YEEEEGAAAA!!」
ガトリングで粉微塵にすればそりゃあ倒せるわなって感じ。
『では我々も行きましょうか』
そうするとしようか。
第三形態に変形させてトリガーを握る。轟音を立てながら刃を回転させる様は俺の見た目も相まってB級ホラー映画みたいになっていた。
返り血が残るなら今頃とんでもなくスプラッターな絵面になってるだろう。頭に飛んできた返り血は音立てながら蒸発するしホントに人外じみてきた気がする。
「思い切りふかすと気分が良いですね」
「思いっ切り殴り飛ばすと気分がいい」
「「
うーむ物騒。どうやら方向性は同じなようで。
最初に比べれば余裕で戦えるようになっており、傷口についていた黒煙の消し方もわかってきた。簡単な話で
今見たらHPはマイナス数値で元の最大HPを越えていた。見た時は笑いそうになった。
経過だけ見れば順調。他の〈マスター〉やティアンの人達を援護しながらなので感謝の声がチラホラ聞こえるが、それと同時に困惑の声も聞こえて来る。
「たっ、助かった!」
「着ぐるみが…モンスターを殴り飛ばして……」
「首無しっ!?まさかアイツこの前のっ……!?」
着ぐるみには困惑が、俺達には困惑と若干の怒りが混じってた。
悲しい。
とはいえそんな事で救助を止めるつもりも無い。応戦できている人たちもいるようだが変異体の特性のせいで苦労している様だ。
そしてここまでやって、俺の仮説が現実味を帯びてきた。コイツらは恐らく
とは言っても動けないレベルに身体を損壊させれば実質死んだようなものなので、シュウはそっちを選んでいるみたいだ。
段々と敵の数が増えて来る、同時に嫌な気配も濃くなってきた。シュウもそれを感じ取っている様で、先程まで見せていた余裕そうな雰囲気も鳴りを潜めていた。
突き進んでいくと開けた場所に出る。敵も人も居ない、不自然な程に静まり返った場所だった。
「……」
「……マスター、気を付けてください」
分かってる。確信は持てないが俺達は何かに
ここにいる全員が気味の悪さを感じていた。内側から這うような、心臓を握られるような、ゾワリとする悪寒を感じ、引き返したくなる気持ちを抑える。
そんな空気を吹き飛ばすように、二つの音がこちらに向かってくる。
「あれー?先越されたかんじー?」
「どうでも良いよ、速く終わらせたい」
緊張感のない間延びした声と、神経質で苛立ちを含ませた声。対照的な二人が飛び込んで来た。
神経質な方は頭から二本の耳のようなものが伸びており、兎を想起させる。
一方で間延びした方は頭に猫を乗せており、俺を見るなり『ぶにゃあ』と鳴いた。猫を乗せた方の人に対しては、なんとなく何処かであったような気がしたが勘違いだろう。
初対面の人にそんな事を感じること自体おかしな話だろう。
「でもどうしてここに来たのー?何もないでしょー?」
「嫌な予感がした、それだけだ」
シュウが俺の代わりに答えてくれた、向こうも同じ感じだろうか?
「うーん、でもあんまりお喋りは出来ないかなー」
その言葉を皮切りに、異常な現象が発生する。
空間に、黒い点がにじみ出る。黒点は広がり、やがてそれが異質な形になるのを全員が見た。
深海に住むクラゲのような姿に帯のような触手が何本も生えている。
幻想的ともとれる黒いクラゲが、滲み出るように現れたのだ。
「これは……」
デュラが思わず口から漏らす。
「たまにいるんだよねー、こういう【UBM】」
「本当にモンスターなのか?コイツ」
全員が思い思いの言葉を口にする。クラゲの頭部と思わしき部分を見れば──。
──名前が、無い……?
モンスターは基本的に頭上に名前が浮かぶ。それは【UBM】でも例外では無く、先程の変異体でさえ名前が浮かんでいた。
ならばコイツはなんだ?頭上には何も浮かんではいない、という事はモンスターではないのか?
モンスターでは無いのなら──。
思考が深みに落ちかけた瞬間、ノイズ混じりに名前が浮かび始めた。
【虚蝕 モルド】、それがヤツの名前だった。そしてその名前の付き方が意味するものは……【UBM】。【ユーロビュート】、【パルメデス】に続いて三体目の【UBM】だ。
だがコイツは今までの二体と比べて何から何まで異質だった。現れ方から見た目まで常軌を逸している。
「Oo──」
目に当たる部分が何処かは分からないが、俺達を認識すると掠れ声を上げ身を捩じらせる。
雑巾の様に体を絞り勢いよく戻す。すると周囲に黒い霧と、同様の結晶が現れた。
「──ッ!」
結晶は四つ、丁度俺達四人分だった。
反応するよりも前に、結晶に罅が入る。そしてバリンと割れた瞬間、俺は強い衝撃と共に後方へ吹き飛ばされる。
──見覚えのある名前と共に。
「マスター!」
致命傷じゃない、大丈夫だ。
それに……懐かしい名前だ。
樹をクッション代わりにして姿勢を立て直す。
デュラもヤツの名前を認識した様だ。あの時の激情を思い出すかのように唸り声を強めている。
クラゲが何をしたかなんとなく想像がついた。そして
『……良いぜ』
『
眼前の敵に、頭の炎を燃え上がらせながら決して聞こえない言葉を吐く。
再戦、リベンジマッチ……今から始まるのはその言葉が似合うものである。
『────【ユーロビュート】ォ!!!!』
【モルド・ユーロビュート】と銘打たれた漆黒の地竜に走り出す。
誤字脱字等あれば、引き続き教えていただけると幸いです。