スローター・ハイウェイ   作:バカの棺

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次、次で終わりますので。多分。
思ったより筆が進むというか無駄な字ばかり付け足すというか…。
感想欄より頂いた知識を使用している場面があります。


十七話

・【大騎兵】イグニッション

 

 木々を薙ぎ倒しながら土煙が上がる。それは連なっており、()()()()()()()()()事を如実に表していた。

 

『マスター、良い調子ですね』

 

 当たり前だ!二度目の戦いなんだからな、そりゃあ向こうの手札なんざ分かってる!

 

「GGGRRRYYYYYYY!!!!」

 

 色だけが違う【ユーロビュート】は、あの時の焼き直しの様に俺に襲い掛かる。

 だが、あの時の俺とは何もかもが違う。(STR)耐久(END)も、そして何より違うのが──。

 

『すっとろいんだよこの野郎!!』

 

 あの時とは比べ物にならない程に上昇した速さ(AGI)

 【モルド・ユーロビュート】は【爆進竜 ユーロビュート】と何もかもが同じと言って差し支えなかった。

 だから分かる。アイツは爪が無ければ踏ん張れないという事も、奥の手は手遅れになってから切るという事も。

 

 第二形態(黒馬)でチェイスをしながら、左手に持ったランスで機会を伺う。

 知った相手とは言え、一瞬の油断で敗北につながる。数多もの経験で身に沁みついた事実だ。

 

 背後から追いかけて来る【モルド・ユーロビュート】が繰り出してくる爪の斬撃を数回避けると、両腕が完全に振り抜かれる。

 

 ──今だ。

 

『反転!』

 

『捉えました。思いの丈を──』

 

「『叩き込め(叩き込んでください)!!!」』

 

 ランスを構え、胸に突き刺す。勢いもあり持って行かれそうになるがSTRを全力発揮で持ちこたえる。突き刺さったとしてもHPは減らない、そうだろうな。

 それがどうした。

 

 ランスは攻撃用ではなく、あくまで()だ。確実に切り刻む用の杭である。

 

『デュラ!』

 

『はい!』

 

 右手を宙に差し出す。デュラは炎となり吸い込まれるように右手へ集まる、そして姿を現すのは第三形態(エンジンカッター)。引き金を全力で握り込み敵を捉える。デュラのエンジンになった【ユーロビュート】からは燃え上がる怒りの様な音が鳴る。

 

 【モルド・ユーロビュート】は攻撃を察したのかランスを引き抜こうと藻掻くがあれだけの勢いで刺さったのだ、そう簡単に抜ける事は無い。

 

『死ぬ準備は出来たか?』

 

『こっちは死んでますがね』

 

「『《魂を刈り取るモノ(グリム・エグゼキュター)》!!」』

 

 首元に刃をあてがう。擦過音とヤツの悲鳴が織り交じり、無い耳を塞ぎたくなる。

 それなりに硬いようだが、《魂を刈り取るモノ(グリム・エグゼキュター)》に硬さは関係無い。極論言ってしまえば当たるだけで良いのだから。

 ヤツの反撃も食らうが肉を切らせて骨を断つ、痛覚オフがここに来て活きる。

 

 背中にいくつもの深い傷を残すが知った事か。俺が死ぬかお前が死ぬかの二択でしかない。

 

『チキンレースと洒落込もうじゃねぇか』

 

◆◆◆

・【猫神】トム・キャット

 

 イグニッション君が吹き飛ばされ、シュウ君も同じように何処かへ場所を変えた。

 二人の目の前に現れた結晶は直ぐに割れたが……。

 

「……どう出るか」

 

 トムの前に現れた結晶は罅こそ入れど、()()()()()()()()()()()()()()()とでもいうかのように割れる気配がない。

 

「さっさと動かないと全部おじゃんになっちゃうよ?何をしてるんだい?」

 

「分かってるけど……下手に動くのは良くない気がするんだよ」

 

「というかそっちの結晶は?」

 

「動きそうにも無いからこっちに来た。それだけだよ」

 

 ジャバウォックが聞かせてくれた話だとイグニッション君は地竜の【UBM】を、シュウ君は狼の【UBM】を倒したことがあるらしい。

 何故そんな事を思い出したのか?

 

 当然、目の前で起きた光景からだろう。イグニッション君は真っ黒な()()に掴まれて吹っ飛んで行った。シュウ君はこれまた真っ黒な()……あまりにも似すぎている。

 仮定で考えるのならこの結晶は対象が戦ったことのある存在を複製することが出来る。

 それは【UBM】限定なのか?彼らはまだこちらに来てそう長くないにもかかわらず【UBM】と戦い勝利した。

 だからこそ?いや違う。もっと()()的に考えてみよう。

 元々あの【モルド】はイレギュラー(システム外)な存在。それを【UBM】という枠に無理やり押し込めてアンカーにした。

 

 ──システム、モンスター、戦闘経験、【UBM】……。

 

 ……戦闘経験のある中で、最も強力な【UBM】……?

 

「やば──」

 

 全身の毛が逆立つのを一瞬で理解する。仮に大災害が起きるのなら、間違いなく自分が発端であるという事も理解した。

 結晶の罅が強まる。

 そして……それは割れた。

 

 ソレは現れる。かつての記憶とは()()黒に満たした脚を見せる。

 一本、二本、三本──。

 

 顔を見せる、無機質な顔を。

 頭上に見せた名……複製体である【モルド】の名に続くのは──。

 

【モルド・()()()()()()()()────。

 

「クロノ!!!!」

 

「いちいちうるさいんだよ!!!!」

 

 名前の上にはブレードブーツがあった。ブレードは抵抗なく、スライスするように沈み込むと頭部を左右に両断する。

 こちらに出てきている途中だった体が力なく項垂れた。 

 やったか?トムはそう思ったが、直ぐに思考を訂正する。

 

 この程度で終わる筈がない!

 

 すべての分身が持てる限り最大の火力を装備する。周りの被害など気にせず最大火力を集中させて攻撃を開始する。

 射線上にはクロノがいたが彼の速度を信頼して躊躇う事無く攻撃する。

 

 一体だけの状態ならまだ何とか出来る。()()始めたら手が付けられなくなることは痛い程理解していた。故に手を抜く事は無い、余波で視界が埋め尽くされたとしても緩めずに続ける。

 

 どれだけ続けただろうか?永遠の様にも一瞬の様にも感じられた攻撃は、出し尽くした所で停止する。

 煙が晴れた後には、塵一つ残っていなかった。

 結晶も、出掛かった複製体(イレギュラー)も、先程まであった緑の景色もろとも消え失せていた。

 

 何度も確認したが、最も恐れていた事態は未遂に終わった様だ。気を抜きそうになるが直ぐに言引き締める、やる事は元から変わっていないのだから。

 

 【モルド】は健在で、何にも興味を示す様子が無く宙を漂っていた。今の複製体はスキルによる産物だろう。

 【UBM】がモンスターを召喚すること自体そこまで無いが、当てはまるものはすべからく強大な【UBM】ばかりだ。そしてコイツに関しては確実にイレギュラー(規格外)だろうと予測する。

 

 最初から〈神話級〉なんて普通は出さない。だけど今のを見ればこの等級付けも納得できるというものだ。

 

 ……これボクが対応する奴じゃなくないー?

 

「大丈夫?」

 

「誰に言ってると思ってんのさ。無傷に決まってる」

 

 服に付いた埃を払いながら、うんざりしたようにクロノは言う。てっきりもう少し苦戦するかと思っていたが存外そうもいかなかった。

 喜ばしい事には変わりないが不安要素は今も多い。

 

 第一に、【モルド】が行った推定召喚スキルと思わしきものの()()()()()()はどれほどだろうか?消費するMPは?それともSP?

 第二に、召喚以外のスキルの有無。イレギュラーなんだから持ち合わせてるだろうけど予想がつかない。見た目だけならグランバロアにいてもおかしくは無いから海属性系統で何かあるだろうか?

 

「早い所決着付けた方がいいよねー」

 

「さっきからそう言ってるだろ」

 

 吐き捨てるように言うとためらうことなく【モルド】に飛び掛かる。ブレードは容易にその身体を斬り裂くが、向こうにとってはどこ吹く風と言った様子だ。

 斬り裂いた直後にくっつき始めている。再生能力はずば抜けて高い様だ。

 

 半透明なその身体は霞の様に掴みどころがない、見てくれだけなら無害そのものだ。

 過去から現在にかけて存在するイレギュラーは己が持つリソース、そして強大さを遺憾なくその身体から発していた。だが【モルド】にそれは無く、故に異質である。

 

 ()()()()()()()()()()()()、まるで【■■】だ。

 

『チェシャ、レドキングだ。こちらから報告がある』

 

『どうしたのー?』

 

『【モルド】だが、私の空間操作に勘付いた節がある。ヤツが付近の空間に干渉し始めた』

 

『対処は迅速に、かつ正確に行う必要がある』

 

『……わかってるよ』

 

 本格的にタイムリミットが設定されたのを理解する。

 何を咥えても暖簾に手押しなコイツを迅速に?一体どうしろと?なんて泣き言も出そうだが、観察してれば仮説が浮かび上がる。

 

 本体とHPは結びついていない。HPは自身に影響するが自身はHPに影響を与えない、一方行の因果関係になっている。

 

 イグニッションと同じ仮説が浮かび上がる。観察を通して仮説は確信となり種明かしは終わる。

 

 ならば()()叩けばいい。導き出される結論もまた、イグニッションと同じであった。

 もはやなりふり構っていられる状況じゃない。保身が滅亡に直結するからだ。

 

 分身の一体が【ノーバティ・ウィスパー】を取り出し、その他様々なアクセサリーを装着しながら被る。残りの分身は同時にアイテムボックスから首輪を取り出し装着する。

 

 【石と金は等価(ストーン・イコール・ゴールド)】、首輪にはそう銘打たれていた。

 トムは仮説が確信に変わると、戦法を即座に変える。物理的な攻撃から状態異常付与のデバフへと。

 

 七体が【モルド】に飛び掛かるが、当の【モルド】に反応は無い。悠々と漂い続けているだけだった。

 【石と金は等価(ストーン・イコール・ゴールド)】は死ぬことで初めて発動するアクセサリーだ。それ故に攻撃を受けない状況ではただの置物と化す、勿論トムはこの状況も織り込み済みであった。

 

 飛び掛かった状況で新たに取り出したのは【安楽死(ピースフル)】という名前のナイフ。

 その名の通り安楽死、もしくは自決用の呪具である。

 内乱が数多くあった当時、捕虜になり情報を吐く事を恐れた者が【呪具職人(カースド・マイスター)】に作らせたというアイテムの一種、効果はいたって単純だった。

 

 使()()()へ【即死】を付与する、その一点のみ。所持者が他者へ使用しても効果は変わらず、刺した本人が死ぬという奇怪な現象を起こすナイフである。

 

 トムは迷いなくそれを自身へと突き立て、心臓に刺した。

 

【《無理心中(マーダー・スーサイド)》──起動】

 

 首輪が歪んだ音を立て、七つの呪いが【モルド】に襲い掛かる。

 関心が無いので避けもしない、【モルド】に呪いへの耐性は無かった。

 

 【呪詛】、【呪縛】、【吸魂】、【吸魔】、【呪毒】、【死呪宣告】、【装備変更不可】。

 いらないものまで付与されたが、呪いの付与により【モルド】は初めて明確な反応をする。

 

「Oo──」

 

 身を捩り苦悶の声を上げた。特性を考えれば【呪毒】と【呪詛】が効いたと考えるのが妥当だ。

 動いている事から【呪縛】は効いていない。

 HPへの直接攻撃が正攻法と捉えるのが良さそうだ。

 

「クロノ、闇属性の【ジェム】とか持ってない?」

 

「残念だけど持ち合わせがない、僕が注意を引いておくからそのうちにやっておいて」

 

 【ノーバティ・ウィスパー】越しの会話で連携を成立させた。クロノは消失し、再び【モルド】に傷が付き始める。

 

 持ち合わせの闇属性【ジェム】は数が少ないが、やるしかない。

 分身を再び生み出し、今度は距離を取りながら行動を開始する。全員の手には【ジェム】が握られていた。

 

「……結構地味な戦いになりそうだね」

 

◆◆◆

・【大騎兵】イグニッション

 

 地竜が地面に倒れ伏し粒子になって消えていく。チキンレースの勝者は彼だった。

 

『これ以上の戦闘は出来ないですね』

 

 相棒越しの俺は立っていた。立っているのがやっとだった。

 

『こちらの損傷は()()()()、その他外傷多数です。HPがどれだけ減っても死なないとはいえこうも体が傷つけば……』

 

 デュラを杖代わりにして立つ俺はひどく滑稽な姿をしていた。【ユーロビュート】の抵抗で左足をちぎられてしまったのだ。【首無し】のお陰で生きてはいるが、普通だったら失血死とかしてるのは明らかだった。

 

 とはいえ止まる訳にはいかない、速く向こうに合流して親玉を叩かなければ。

 

『……』

 

 歩き出そうとした所、デュラが急に重くなり動かなくなった。

 

『……どうした?』

 

『嫌です』

 

『ぅえっ』 

 

 明確な拒絶の言葉を、俺は初めて聞いただろう。思わず素っ頓狂な声が出てしまった、厳密には出ていないが。

 

『もう、嫌です』

 

『……何が嫌なんだ?』

 

 クッソデカイため息が聞こえた。なんでだよ。

 

『マスターは、どうしてそこまでして戦うんですか?』

 

ティアン()を守る為、前にも言っただろ?』

 

『そこにマスターは含まれていないんですね』

 

 ……まぁ、言ってしまえばそうなる。俺はあくまで人でなし(マスター)で、死んでもデスペナルティという形で時間さえあれば復活できるのだから。勘定に入れないのは俺からすれば至極当然の事だ。

 

『私の気持ちは、考えた事ありますか』

 

 普段と変わらない様子、俺に対して話しかけて来る声色は全く変わっていない。だがその言葉からは悲哀のようなものが感じられた。

 

『マスターは確かにティアンからすればヒーローのように映るかもしれません、ですがマスターの一番身近な存在であり最高の相棒であるこの私からすれば、ただの自己犠牲精神豊富なバカとしか映りません』

 

 ……。

 

『一度は踏ん切りを付けました。自滅(コレ)が私の在り方で、マスターに応えられる唯一の手段なのだと……そう思いました。思っていました』

 

『ヴォルフ、シュウ、そしてギデオンで見た様々な〈マスター〉とその〈エンブリオ〉。自滅する(私の様な)〈エンブリオ〉は居ましたか?』

 

『……【首無し】の時間制限はなんとか無くすことに成功しました。HPをプラスに戻せば解除しても死ぬことはありません』

 

『ですが、失われた身体は……元に戻すことはできません。心臓が潰れれば、四肢を捥がれれば、()()()()()、もう……駄目なんです』

 

 ……お前の気持ちは、よく分かる。

 そうしなければ人を助けることが出来ないという俺の弱さも実感する。

 だが──。

 

『止まる訳にはいかない。アレを放っておけば間違いなく人は死ぬ……なら、俺は立ち向かう』

 

『たとえそれが死に向かう行為だとしても、自滅する滑稽な様になったとしても変わらない。俺一人の命で何人もの命を助けられるなら、止まってられないだろ』

 

『俺はお前の最高の相棒で、俺の無理難題も聞いて来てくれた。【ユーロビュート】の時だって【パルメデス】の時だってな』

 

『……だから、もう一つ無理難題を聞いてくれないか?』

 

『……』

 

『……』

 

『……』

 

 すん、すん、と弱弱しくすすり泣く声が聞こえた。

 俺は相棒の気持ちを考えたことが無かったんだ、だからここまで我慢させてしまったんだろう。

 ……ありがとよ。

 

『……なんで、しょうか』

 

『俺と()()に、()を越えよう』

 

『死すらも俺達に追い付けない程の速さを俺達で手に入れるんだ』

 

『なるんだよ、()()に』

 

 荒唐無稽な願いだろう。こんなにもボロボロな体になる強さで、夢見心地も良い所だ。

 

 ふっ、と呆れたような笑いが聞こえる。 

 

『……それは、さぞや良い景色でしょうね』

 

『はは、手のかかるマスターを持つと苦労します』

 

 手にかかる重さが嘘のように無くなる。許してくれた様だ。

 この願いは直ぐには叶えられないだろう、だが俺達ならきっと……いや、絶対にできると信じている。

 

『行くぞ』

 

『はい』

 

 引き金を握りしめれば刃が勢いよく回転する。地面に刺さった刃は摩擦を起こしタイヤの要領で移動を始める、勿論それは俺も例外では無く引き摺られそうになるのを耐えて地面を滑るように移動を開始した。

 

 黒い煙は依然として俺の体に残っていたが、蝕み切ってはいなかった。

 

◆◆◆

・???

 

 そこには何もなかった。永遠の凪とも言うべきそれは水面と呼ぶのが相応しかった。

 黒い水面からは底の方が透けて見える。

 

 世界。そう表すのが最も相応しい有様だった。

 億という単位ですら表せない、馬鹿らしくなる程の情報が沈殿した場所。

 いくつもの世界が沈んでいる黒い海。

 

 ツゥ──。

 

 水面に変化が起きる。

 突拍子もなく起きたその現象は次第に増え、大きな()()となった。

 

 波紋は情報でありエネルギーであり、自分が()まさに収集している情報(感情)だった。

 

 無秩序に広がる波紋は、次第に輪郭を作り出す。

 輪郭は非常にぼやけた物である。

 

 ぼやけた不明瞭なものではあるが、ソレは()()であれば誰もが見たことのあるモノだった。

 

 臨界点は今も尚、近づきつつある




使い古された様な陳腐とも言える展開でも好きだから書きます。
もう少し話数進めてからの話なのですが作品説明の部分を修正する予定です。ご了承ください。
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