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【ジョブ無し】イグニッション
この世界に…〈Infinite Dendrogram〉に初めてログインした俺はまず驚いた。
「わー…砂漠だぁ……!」
照りつける太陽の下、見るからに砂漠の民と言うべき恰好をした人たちが街を行きかっている。子供たちが追いかけっこをしながら俺の横を駆け抜けていく。なんてほほえましい光景なんだ。
「さて、取り敢えず動くとしますかね」
メインメニュー。そう心で唱えると眼前にウィンドウが表示される。俺の名前とジョブがまず目に付いた。
名前はイグニッション、それはそうだ。そしてジョブは無し、レベルもゼロ…まぁそうか。何にも就いてない訳だし。
…ジョブってどうやって就くんだ…?履歴書出して面接とか…?わっかんねぇ…
因みに今の俺の恰好は周りの人達みたいに砂漠用の恰好になっている為特に浮くという事は無かった。浮いてたら周りの目が怖すぎて泣いちゃうよぉ…
そう考えていると、腰のあたりに衝撃が来た。何かと思って振り返ればそこには子供がいた。
「あっ……あの…ごめ…」
凄い怖がってる、そりゃそうだよねいきなり知らない人にぶつかっちゃったんだし緊張とかで言葉でないよねうんうん俺もそうだったし。
だからこそ、俺なりのやり方で何とかする。
「大丈夫?痛い所とか無いかい?こんな所に突っ立ってたらぶつかっちゃうもんね、ごめんよ?」
身を屈めて視線を合わせながら宥める。俺だって別にすぐにキレるような人間じゃない、それが子供と来れば尚更だ。
「う…うん…」
「大丈夫なら良かった……強いね。俺だったらきっと泣いてたよ。」
「────!」
どこからともなく女性の声が聞こえた。声の主はこちらに近づいて来ており、目の前の子供を見つけるなりすっ飛んできた。
恐らくこの子供の母親だろう、という事はこの子は迷子だったのか。
「本当に申し訳ありません旅のお方!!この度は息子がとんだ無礼を!」
「気になさらないで大丈夫ですよ、こんな大通りで突っ立ってた俺も悪いので」
俺にペコペコと頭を下げる推定母親、いや子供が『ママ』と言っていたので確定だろう。
いやしかし美人だなー…いやこんな事考えてる場合じゃない、当初の事を考えるならば、むしろ丁度いいというべきだ。
「そうだ、ところでなんですけど…ジョブってどうやって就けばいいんですかね?」
「ジョブ…ですか?それなら向こうの休憩場所にクリスタルがあるのでそこで就けますよ」
……くりすたる?
「えぇと…そのクリスタルっていうのは────」
閑話休題
初めての事だらけで何何botになっていた俺はご婦人の熱心な授業のお陰でなんとかジョブの基本的な事は分かった。
下級から始まって上級、そして極めつけの
他にはどこの国に居ても就ける共通のジョブとかその国でしか就けない固有のジョブがあるらしい。天地なら【忍者】とかアルターなら【聖騎士】とかが例に挙げられるようだ。
そして俺が早速選んだのは
スタート地点のコルタナから出発して暫くすると、色んな所で戦闘が起きているのに気が付く。
魔法が飛んでいたり大剣でモンスターを切っていたりと思い思いの戦い方をしている。良いね。
「さぁ、俺も行くぜ!」
【軽装戦士】のレベルは当然だが〇、その為今は一対一が精いっぱいだ。その辺を一人でほっつき歩いていると、遂にモンスターを発見した。
あの特徴は確か【サンドゴブリン】だったか、あれ一体だけなら行けそうだ。
「GI?」
「ふんっ!」
【サンドゴブリン】が後ろを向いている内に駆け出して初期装備であるナイフを急所(だと思う)首に突き刺し、そのまま掻っ切る。【軽装戦士】なだけあって中々に軽快に動けた。もうこの時点で現実の俺の身体能力を超えているだろう。
「GI……」
俺を確認した時にはHPが全損しており、光の粒になって消滅した。こういう所は他のゲームとかと一緒なんだなぁ。
そして次に確認するのはやはりレベル。メインメニューを出して確認すれば俺のレベルは一に上がっていた、着実に前に進んでいるのがよく分かった。
「……」
また一人ぼっちになったので空を見て色々整理してみる。
まずはあの都市…コルタナでの光景だ。色んな人が笑ったり喧嘩したりしていた、それはゲームと言うにはあまりにもリアルすぎる。もう一つの世界と言ってもおかしくないと、むしろその表現の方が適切だと感じてしまう程にはリアルだった。
あの子供の顔を思い出す。決して『ここで装備していくかい?』だとか『ここは○○村だよ』を繰り返すようには見えなかった。怖がっていたし、親が来て安堵もしていた。
何か胸がざわつく。俺が倒したこの【サンドゴブリン】、俺は一撃で倒せたがそれは不意打ちだったからで言ってみれば運が良かった。
周りの戦闘を見ればちゃんと応戦してるし人に──マスターにダメージを負わせている者もいた。自分のステータスを見れば勿論の事無職に比べれば高い。
……つまり何を言いたいかと言うと、子供や只の市民は普通に死ぬという事だ。コルタナを歩いていた時に耳に入って来たマスターの会話を思い出す。
『ティアンは死んだらそのままだ。俺達みたいにデスペナが着く訳でも無い、本当に死ぬんだ』
死ぬ。その言葉の重みを知らない俺じゃなかった。だからこそ、このざわつきが本物だと分かる。
──俺は耐えられるだろうか?
こんなにも簡単に人が死ぬ世界で、命の重みがある世界で、俺は耐えられるだろうか。
辞める。そんな単語が頭に浮かび上がる。買ったばっかり、始めたばっかりなんて事がどうでもよくなる。人を喪う悲しみは、出来る事なら味わいたくない。もし皆が皆死んでもコンティニュー出来る様なゲームなら二つ返事で続けただろう。だが現実はそうではなく、あそこで笑っていた人たちがモンスターに襲われれば、殺されればもう二度といなくなる。
────
逡巡、されどそれは短かった。
俺には何が出来る?ナイフがある。武器がある。
つまるところ、人を守れる、敵を倒せるんだ。今よりも格段に強くなれば、比べ物にならない程に強くなれば守れる人は多くなる。
速攻で駆けつけて速攻で片づけて速攻で別の場所に駆けつける。それが出来るようになりたい。それは俺が望んだ願いを間接的にも叶える形になる。
速さだ。俺には何物にも追い付かれない速さが欲しい。何物もとらえきれない速さが欲しい。何物も守れるだけの速さが欲しい。
その為には力を付けなくてはならない。戦って、レベルを上げる必要がある。
俺は残る事を選び、望んだ結末を掴み取る為に歩を進める。何物も守れる速さをも得るために。
「フッ……そうなれば話は早い!今からレベリングだぜ!」
そうして決意を新たに踏み出した俺は、一瞬でHPがゼロになった。
何故死んだ?何が起きた?分からないことだらけだったが、一つだけ分かった事があった。
俺を吹き飛ばしたヤツの頭上に一瞬だけ見えた名前。
【爆進竜 ユーロビュート】、それが俺のファーストデスペナルティを奪った奴の名前であり、俺の当分の目標となる名前だった。
連続で投稿できるのはこれで最後になると思います…もしも感想等あったら欲しいです…