スローター・ハイウェイ   作:バカの棺

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今回は詰め込んだので若干文字数多めです。
最後の方ツッコミ覚悟で書いてます。出来れば”そういうもん”って事にしてもらえると私が助かります。


十八話

・【大騎兵】イグニッション

 

 邪魔な木を薙ぎ倒しながら無我夢中で前進を続ける。第三形態での移動はぶっつけ本番だったが思いのほかうまくできていた。

 

『この先ですね、嫌な気配がムンムンです』

 

『そういう時はプンプンじゃないか?』

 

 デュラは機嫌を直してくれたみたいで一安心だ。終わったらギデオンに戻って好きな物でも買ってやろう。

 ……あれ?コイツ何が好きなんだ?よくよく考えたら分からんぞ?

 

 好きな物探しも兼ねて散策してみるか、この前のは装備探しだったしいい機会だ。

 

『行くぞ』

 

『はい』

 

 前進を続けていると、横の方からも移動する音が聞こえた。リアルの方でも聞いた事のあるこの音は、直ぐに正体が分かった。

 無限軌道が擦れ、そして地面を砕く音だ……つまるところ()()だ。

 進行方向は同じらしいが俺達よりは遅かった。

 

「おーいイグニス!そっちは大丈夫か!?」

 

「損傷はありますが戦えます」

 

「なんてー!?」

 

 デュラが返答するがエンジン音が邪魔すぎるし地面からだから余計に聞こえづらい。しょうがないのでサムズアップで答える。

 

「ってお前足無くなってんじゃねぇか乗ってけ!」

 

 ではお言葉に甘えさせてもらおう。

 

 減速して戦車に近づき並走の形を取る。後方に回るよう位置取りを調整してなんとか取りつく事に成功、そのまま砲塔に登らせてもらった。

 するとハッチが開き、着ぐるみ(シュウ)が窮屈そうに出て来た。

 

「そっちは災難な目に遭ったみたいだな」

 

「シュウさんの方は……あまり被害がありませんね」

 

「リベンジマッチだからもう全部見切れたワン」

 

 メイデン形態(人型)に戻ったデュラは不満そうな目でこっちを見る。

 しょーがねーだろシュウみたいに木っ端微塵にはできねーぞ。

 

「んで、【モルド】の対処法は見つかったか?」

 

「今まで戦ってきた変異体と同じかと……粉微塵かHPを直接削り切る位ですね」

 

「初めての手合いだが、タネが割れちまえばそれまでだな」

 

「ですが油断無きように、何をしてくるか分かりませんので」

 

「あたぼうよ」

 

 ……ところで戦車(これ)の操作ってどうなってんだ?

 

「自動操作だ。俺の〈エンブリオ〉にはそういう機能がある」

 

 え?なんで分かったんだ?

 

「最初は全然分からなかったが、観察してたらなんとなく分かるようになった」

 

 表情も無ければ声も無いポーカーフェイス(顔も無い)な俺の気持ちを読んだだと……?

 

「『……こわ」』

 

◆◆◆

・【虚蝕 モルド】

 

 この〈モンスター〉という器に収められてから、【モルド】にはとある変化が現れていた。

 凪であったはずの黒い水面に、自身が奪って来た情報が落ち……()()を起こしていた。

 

 目の前の()()()()()した。自身を害する()()()()()した。

 今もなお流れて来る荒れ狂う()()という奔流も認識した。

 

 波紋は跳ね返り、しかし止まず。反射により次第に輪郭を形成する。

 ()()()という輪郭を、形成し始める。

 

 ……()()()()()()()()()()()()()──。

 

 ──違う。この波紋は、渦は、奔流は、違う誰かによってもたらされたものだ。

 

 ……I……アイ……わ……ワ……。

 

 ……わ、た……し……の……。

 

 ──私の、始まりは誰だ?私を形作るに至ったこの感情は、激流は一体誰のものなんだ?

 

 【モルド】は探った。自分の原点を、ヒトであれば親とも言うべき存在を。

 そしてソレは見つけた。

 

 ────()()()()()()()。ワタシの始まり。

 

 知りたい、もっと、もっと知りたい。お前を通して知りたい事が山ほどある。

 お前の全てを食い尽くして、世界の全てを食い尽くして。

 

 一つになろう。

 

◆◆◆

・【猫神】トム・キャット

 

「──」

 

 何かが変わった。決定的な何かが変わった。

 言うなれば、()()()()()()()()へとトロッコの舵を切った様な、そんな感覚だった。

 

 それが正解とでも言うように【モルド】の気配が変わる。

 散逸していた意識のような何かが、明確な指向性を持った。

 

 【モルド】は移動を始めた。今まではただ周囲を漂っていたそれが、明確に()()()へと移動を始めた。

 

「あの方向……イグニッション君か!」

 

 即座に意図を把握したトムは追跡を開始する。追跡中も攻撃を欠かしていないが暖簾に手押しといった様子で一切気にかけられる事は無かった。

 

「クロノ、分かってると思うけど……正念場はここからだよ」

 

 クロノは舌打ちを返答とした。

 

◆◆◆

・【大騎兵】イグニッション

 

 ……来る。

 

「来ます」

 

「上等だ、鼻っ柱へし折ってやるよ」

 

 どろりとした嫌な感覚が急速に迫ってきているのを感知した。

 全員が分かっていたようで、デュラは第三形態になり俺の手に収まる、シュウは拳を握りしめて構える。

 ()()()()見たようなシュウの構えを横目に正面を見据え──。

 

「──《魂を刈り取るモノ(グリム・エグゼキュター)》!!!」

 

 襲い掛かる【モルド】を全霊で斬り裂く。

 

「Oo──!」

 

 苦悶の声を上げながら【モルド】は逸れていく。この攻撃は効いているという証拠だ。

 

 傷は入るが決して深く無い、手ごたえがあるようで無い……泥を切りつけているような不思議な感覚だ。

 

「バルドルに傷付けるなよ!?俺が轢かれる!」

 

 左足が無いものでね、支えるためには必要なんだ。これはそう……あー、コラテラルダメージというものだ!

 

 バルドルと呼ばれた戦車に思い切り刃を突き立てながら声にならない言い訳をする。

 

 これはどうしようもないのでごめんちゃいって事で!

 

「グッ……今回だけだぞ!」

 

 あー助かるわー自然に通じるとマジ助かるー。

 

 気の抜けたやり取りはするが戦況はひっ迫している。

 シュウはご自慢の拳で触腕をぶん殴って応戦し、戦車は足場として攻撃ではなく移動に専念していた。

 

「Oo────!」

 

 俺に対しては本人直々に襲い掛かってくる、体当たりばかりなのでいなすのは簡単だ。 

 【モルド】の速度は決して遅くないが俺程の速さは無い。

 

 ……無いが、今は()()()()()。この一点だけでも速さは半減と言っても差し支えない。

 

「……analyze...decode...amplifier...paste...success...」

 

「【execution(実行)】」

 

 視界から【モルド】が消える。瞬きの後には視界が空に向いていた。

 

 なんだ?何が起きた?

 

「──マスター!!」

 

 デュラの警告の声で理解した……俺は打ち上げられている。否、放り出されたというべきだろう。

 

「受け身です!受け身!」

 

 んな事言ったってこの状況からじゃ無理だぞ!?

 

「どっ、胴体着陸です!」

 

 それはもう手遅れなのよ!

 

 そう思った時には文字通り手遅れであり、イグニッションは背中から地面に強く打ち付ける。本来であれば首が折れてしまう程の衝撃であったが彼には折れる首が無い。

 

 追撃を恐れて体勢を立て直そうとするが上手く行かない、立つという動作の中で左足の部分だけがぽっかりと空白になっているからだ。

 長年そうであれば話は違うだろうが彼はついさっき失ったばかり。アドリブでどうにかできる程認識を改めることが出来ていない。

 

「来ます!」

 

 そんな彼を嘲笑うように【モルド】は追撃を仕掛ける。触腕を体に絡め、そして縛り上げる。

 身体全体を持ち上げられ磔の様な姿にさせられる。

 

 デュラを手放してしまったが、拾い直すことはできない。

 地面から見上げる自分の姿はあまりにもボロ布のようで滑稽に映った。

 

◆◆◆

・【首無御者 デュラハン】

 

「っ……マスターを離しなさい!」

 

 メイデン形態に戻り駆け寄る。それが無意味な事など知っているが、理性で抑えつけられるほど冷静では無かった。

 

「……」

 

 【モルド】は触腕を振るい、当然の様にデュラハンを吹き飛ばす。メイデン形態(人型)で戦ったことなどないデュラハンは受け身を取ることも出来ずに打ち付けられた。

 

 息が残らず体から出て行ったにもかかわらず体は息を吐き出そうとしてえずきに変わる。

 

 今まで戦えて来れたのは、あくまでマスターが扱っていてくれたから。一人だけの戦いになればここまで無力になのだ……私は。

 

 …………。

 

「嬢ちゃん、まだやれるな」

 

 自己嫌悪に陥りかけた頭が、シュウの言葉でハッとさせられる。

 

 そうだ、私にもやれることはまだある。

 一人での戦い方を知る必要は確かにあるだろう、今ではないというだけの話だ。

 幸い私の隣には人が居る……それも頼れる。まぁマスター程ではありませんが。

 

 よろよろと立ち上がり息を整える。その目を見れば、戦意は未だ衰えていない事は一目瞭然だった。

 

「……シュウさん」

 

「やる気はあるな。さっきの二人も来た事だ、お前のマスター救出作戦といこうじゃねぇか」

 

「……なら、私を使ってください」

 

「……そうきたか、面白れぇやってやろうじゃねぇか!」

 

◆◆◆

・【大騎兵】イグニッション

 

『────』

 

 頭の中に声が響く。何語かもわからないが、とにかく声だ。声としか言いようの無い。

 

『────』

 

 何かに必死に声を掛けている。それは俺に対してだろうか?

 

『────』

 

 答えてはいけない。朧気とした意識にハッキリと浮かんだ思考がそれだった。

 何故?分からない。だが答えてしまえば決定的に壊れてしまう。何が?それも分からない。

 

 分からないことだらけないまの状況だ、身動きを取ろうにも取れない。何かに縛り付けられている様だ。

 

 ……さっきから分からない事ばっかだな。なぜなぜ人間は嫌われるぞ?

 

 ってかそもそもなんで俺はこんな状況になってんだって話だよ。

 

 えーと確か【モルド】に襲われて吹っ飛ばされて、そんで────。

 

 ──そうだ、俺はヤツに捕まってるんだ。おまけに相棒(デュラ)も落としちまった。

 

 理解すればするほど、体にかかる束縛に拒否感を感じる。

 

『────』

 

 答えてたまるかよ、なんて言ってるかも分かんねーし。せめて日本語覚えてから来いボケ。

 

 離せー!俺の事離しやがれー!ぬぉー!!

 

 ……びくともしねぇや。あれ?ていうかデュラの声全く聞こえないんだけど?

 

 え?マジ?なんか怖くなってきたんだけど?

 

 ──ヤダヤダヤダヤダ!!!!

 

 デュラー!!助けてー!!

 

『──VVVAAAARGGGGAAAAAA!!!!!!!」

 

うわぁぁぁぁぁ!?!?』

 

『マスター!!』

 

 ()()()()()()()()()がしたかと思えば今度はふわふわと浮遊感を感じる。その次は待ち望んでいた相棒(デュラ)の聞きなじみのある声が思考の中に響く。

 

『別に泣いてないんだからね!』

 

『何を言ってるんですか?とにかく今は体勢を立て直しましょう』

 

 涙がホロリと出そうになるが押し留められる。そう言えば泣く頭がねーじゃん。

 

「眠り姫がお目覚めだな、今度はもう手放すなよ」

 

 妙にフカフカだと思ったら着ぐるみに抱えられていた。状況から察するに俺は今の今まで気絶でもしてたんだろう。気絶する時はちゃんと気絶するんだなデンドロって。

 

 グイ、と第三形態のデュラを押し付けられる。

 

「嬢ちゃんに感謝しろよ?嬢ちゃんいなかったら……いや、お前の〈エンブリオ〉だもんな忘れろ」

 

 後ろから爆発音と破裂音その他etc…状況から察するにシュウは俺を抱えて【モルド】から離れている、そして追いかける【モルド】をあの名も知らぬ二人が抑えていると言った所か?

 

 【モルド】がどうして俺を追いかけるのかは知らないが戦うしかないだろう。

 ヤツは放っておけない、必ずティアン()に危害を及ぼす危険な【UBM】だ。

 

 誰かが目の前で傷つくのを止める。戦う理由なんてその程度で十分だ。

 

 優しく降ろされ、デュラを支えにしてもう一度立つ。

 

『マスター、【モルド】は我々よりも()()なっています。おそらくそういった類のスキルかと』

 

『そうか、()()()()()()か』

 

『──なら、()()()()()()だ』

 

 ここまで使う事は無いと思っていた新たな力。

 お前は生きるために人を殺した、そしてそんなお前を俺は殺した。

 納得してなくてもいい。だが……。

 

 使わせてもらうぞ、お前の力。

 

『デュラ』

 

『はい』

 

「『《騰騰せよ、我が魂(ソウル・フューエル)》」』

 

 スキル発動の宣誓を行うと、それは起きた。

 

「──VVVAAAAAARGGGGAAAAAAAA!!!!」

 

 機関部……【爆燃機関 ユーロビュート】は生前よりも強大な轟音を響かせる。

 マフラーから溢れる炎は蒼白の業火となり、デュラのボディ部分にも蒼白色が焼き付く。

 

 【ユーロビュート】は震え、発進の時を今か今かと待ち望んでいる様だ。

 

 もう少し待て。

 

────《爆燃騰血》、発動。

 

 準備完了。

 

 覚悟を決めろ。

 

『行くぜ』

 

 【モルド】、ソレにとっての()は駆け出した。

 

◆◆◆

 

「────VVVVVAAAAARRGGGGGGAAAAAAA!!!!」

 

 戦闘によって生まれた喧騒を貫いて黒と蒼白が躍り出る。

 右手には馬上槍(ランス)、左手には蒼白の激怒を湛えた円刃、それを持つのは片足と頭の欠けた異形。

 アンデッドというべき様相だが、その心は怒りに燃える人間だ。

 

 トムとクロノの連携に割り込むが、二人は即座に修正し連携を再開する。

 それは遅れてやって来た着ぐるみに対しても同様である

 

 イグニッションは早さに物を言わせて刻み付ける。

 もはや無茶苦茶の破れかぶれと言うべき勢いだが、()()()()()()()速度で行えばそれも十分脅威となりうる。

 

 次々と迫りくる触腕を切り飛ばし【モルド】の体に執拗に傷を与え続ける。

 瞬時に傷は塞がるが重要なのは傷ではない。

 

「Oo──」

 

 【モルド】は次第に焦りを覚え始める。HP、これがゼロになれば自分という存在は雲散霧消となる事だけは理解していた。

 自身の始まりであるイグニッション()のステータス、それもAGIを参照してそれよりも高い数値を自身に付与した。

 彼よりも必ず速くなるようにした。

 

 だというのに今はどうだ?現に置いて行かれているのは()()だ。

 

「【amplifirer(増幅)】!」

 

 更に自身のステータスを増幅させる。今度こそ、今度こそ彼を捉える。

 捉えた次はこの邪魔者を排除して────。

 

 ……?

 

「遅いですよ」

 

 何故だ、どうして追いつけない!?

 彼よりも速い筈!それを更に増幅したというのに!?

 

 イグニッションは加速し続ける。《騰騰せよ、我が魂(ソウル・フューエル)》の効果はH()P()()()()()()()()()()()A()G()I()()()()()HPゼロ(死ぬ)手前で止まるセーフティは無く、上昇はスキルの任意終了と同時に消滅する。

 

 常人にとってはとても扱いづらいスキルになるだろう。とはいえ【爆燃機関 ユーロビュート】は特典武具、選ばれた人間にのみ行使を許可される無二の武具だ。

 

 故に《騰騰せよ、我が魂(ソウル・フューエル)》は彼に相応しいスキルとなる。

 

 【首無し】により、HPの減少はもはや彼を殺す理由にはならない。

 不尽の魂により【ユーロビュート】は燃え上がり、加速し続ける。

 

 プラス数値のHPだけで言えば、およそ四桁前半程度で限界を迎える。

 

 だが、《魂を刈り取るモノ(グリム・エグゼキュター)》と《騰騰せよ、我が魂(ソウル・フューエル)》のコンボ、そして彼自身が負った損傷によりHPはゼロを超え──。

 

 ──マイナス30万、およそ超級職ですら殺し得る数値である。

 

 そして彼にとってHP消費とは()()と同義だ。

 

「VVVVVAAAAAAAAARRRGGGGAAAAAA!!!!」

 

 加速は止まらない、【騎兵】で習得した《衝撃緩和》も効果を十二分に発揮するが、それでも衝撃を殺し切れはしない。

 デュラハンは次第に刃こぼれが目立つようになってきたが、それが止まる理由にはならない。

 

「ッ【amplifirer(増幅)】!【amplifirer(増幅)】!」

 

 【モルド】も負けじと増幅をするが、それでも置いて行かれる。

 そして【モルド】の敵は彼だけではない。

 

 兎が、猫が、狼が、そろいもそろって邪魔をする。

 どうでもいいものに水を差されることに対して、【モルド】は無性に腹が立ってしまった。

 

 自己を得る前であれば無意味な攻撃として意識外に追いやれた筈のものが、今は無性に腹立たしい。超然とした存在が堕ちた瞬間というべき瞬間と言えよう。

 

 だが、イグニッションにも異変が起きる。

 背中に強く残った黒煙は体中に広がり、全身を呑み込まんとしていた。

 

 この黒煙が広がり切った時が自分の負けだという事をイグニッション自身も理解していた。

 

 【モルド】は周囲の使()()()()()情報を読み取り、再び結晶に込めて複製しようとするも、三人に砕かれ全て未遂に終わる。

 

 四対一の応酬はその後も続き、遂に時は来る。

 

 【モルド】は自身のHPがもはや風前の灯であることを察すると共に最後の猛攻を開始した。

 

「Oo────!」

 

 触腕にデタラメな属性を纏わせ四方八方無差別に攻撃を始める。天属性や地属性と言った三代属性は勿論、今や使用者の居ない絶属性ですらも含まれていたが使用している【モルド】は何が効果的で何がそうでないかという判別がついていない。

 

 彼我の差を決定的にしたのは()()に尽きる。

 全能と言っても差し支えない力を持っていようと知らなければ宝の持ち腐れであり、限られた力しか持たずともそれを最大限にまで持って行ける経験があればそれは切り札になりうる。

 

 イグニッションを蝕む黒煙は実に身体の9割を呑み込む。

 瞬き一つすれば完全に吞み込むほどにまで黒煙は広がっている。

 

 それでも、越えていく。

 

 【モルド】は見た。遥か彼方より自身を見つめる()()()()()とも言うべき存在を。

 【モルド】は見た。眼前より迫りくる、自身を殺し得る異形の激怒を。

 

 理解する。人型は()()()()()に呼応して来たのだと。

 理解する。自身が自身として確立できたあの()()は、この激怒なのだと。

 

 目の前で振り上げられた凶刃(デュラハン)を避ける事は出来ない、【モルド】の()はここに確定する。

 諦めにも似た感情を抱いたが、イグニッション()に興味を抱いたのは事実であり……その興味は更に増大した。

 

 ワタシを殺す者、殺害者。お前の事を、もっと────。

 

 解析完了。一手遅れて終わったその作業はもはやどうでもいいものになっていた。

 

「終わりです」

 

 一瞬の内に脳天から端までを両断され、HPは遂にゼロになる。

 

 余力を振り絞るように触腕が動き、執行者へと伸ばされるがそれは届かない。

 

 やがて【モルド】は、イグニッションを覆う黒煙と共に霧消した。

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