スローター・ハイウェイ   作:バカの棺

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もっと速く書けるようになりたいものです。


十九話

・■■■ 

 

自分が失われていくのを感じる。自分という存在がほつれて宙に消えていく、積もった埃を払うようにふわりふわりと無くなっていく。

 

 ……何故私は発生したのだろうか?

 

 考えても答えは出ず、その疑問だけが渦巻く。

 最後に一度だけ手を伸ばすが届かない。彼も満身創痍と言った様子だがその姿勢は崩れない。

 

 気高さすらも感じられるその姿を前に私は何も出来ない。

 

 新たな疑問が生まれる。

 

 ……何故、イグニッション()を求めたのだろうか、知りたいと思ったのか。

 

 彼から目を離すことが出来ない、今すぐにでも手に入れたい。そう思う理由は何なのか。

 

 やがて、一つの考えが浮かぶ。

 

 ──私は、彼の側にいたかった。彼の怒りを知り、叶うならばそれを和らげたいとさえ思った。

 

 無秩序に散乱していたこの思考が、言語化と共に整列されていく。

 分からなかったが故の行動により数多もの生命が危険に晒され、犠牲も出てしまった。

 彼はそれを許さないだろう。許さないからこそ、私を殺害したのだから。

 

 《簒奪者》とは他称であり、自らがそう名乗った事などただの一度も無い。

 数多もの世界を食らい尽くし、停滞という名の永遠を作り出したソレに敵意は無い。

 

 ソレはただ寄り添いたかっただけだ。悲しみを、怒りを、生命の持ちうるあらゆる悪感情から救いたかっただけだ。

 人格を持たず機械的に思考するソレの結論が()()()()だったという話なのだ。

 

 【モルド】は理解した。己の望みを再確認し、行動に移す。

 散逸しつつあるリソースを再集結させ自身を作り変える。システムの解析は終了している、この程度造作も無い事だ。

 

 【UBM】がたどる結末も知っている。リソースが変換され功績者に合わせた姿……特典として在り方を変容させる。

 自身にそこまでの機能を持たせられていない事は分かっていた。なので()()で変容させれば問題ない。

 

 リソース()が散逸したら、また会えるという保証などない。もしかすれば自身がまた別の存在に生まれ変わる(移り変わる)のかもしれないが、それにどれだけの時間がかかる?

 変わった自分をもう一度自分と言えるだろうか?

 

 答えは否。

 

 私は私だ。この私だ。《簒奪者》から零れ落ちた端末、そしてそこからも変化した【モルド】である。

 今の私を以て彼の同行者になる事を望む。

 

 一部始終を見ているヤツらの為に不要な分のリソースだけを散らせて、私自身が()()()()()()見せかける。

 私は【UBM】として登録された。ならば()()になるのもおかしな話ではない。

 

偽装開始……〈UBM〉【虚蝕 モルド】が討伐されました    】

存在変質……MVPを選出します    】

【虚蝕 モルド】変更……【イグニッション】がMVPに選出されました          】

【崩界断刃 モルド】……【イグニッション】に【】を贈与します            】

 

 私は君から離れたくない、君と共にありたい。

 君がいたから私はこうなったんだ、有り体に言えばこれは運命の相手……いや、殺害者というべきか。

 

 運命の殺害者、私は君と共にありたい。

 

◆◆◆

・【大騎兵】イグニッション

 

 アナウンスが表示される。なんだかいつもと違うけどまぁ良い。

 

「「…………」」

 

 あの二人が呆然とした顔をしていたのが目に入った。M()V()P()()()()()()事に対してだろうが、なっちまったものはしょうがない。最後なんて言ってたかはさっぱり分からなかったが。

 因みにクロノとトムという名前であることを教えてもらった。

 

 そして、黒煙が晴れていく。風に乗って霧散していく様には一種の清々しさすらも感じ取れた。

 晴れた先には────()()の様な輪っかが残されていた。腕輪はゆっくりとこちらに近づき、手に取れとでも言わんばかりに目の前で静止する。

 

 手を差し出すと腕輪はほつれて糸の様に腕へ巻き付き、また腕輪に戻った。

 

 【】、装備品から確認してもそう表示されて名前が分からない。()()しない物とでも言うのだろうか?

 

「……特典?急ごしらえで特典化機能を付与していない筈なのに……?」

 

 後ろの方で何か聞こえたが嫉妬の言葉だろう。目の前で特典お披露目されたら俺も嫉妬するもん。

 

「マスター」

 

 少々浮ついた気持ちは相棒の声で落ち着いた。

 

「この後、どうしましょう」

 

 ……あ。

 

『HP回復できるアイテムあったっけ?』

 

「あるにはありますが、現状のHPをどうにかできるほどではありません」

 

 ステータスを確認するとHPは脅威のマイナス34万、元々のHPが8000くらいだったからこれはもう凄いことになってしまったぞ!

 

『ねーなんとかできないの?』

 

「無理ですね。暫くはこのまま(首無し片足なし)でいるしかないのでは」

 

 腕輪をちょいちょいと触ってみるが何も起こらない。特典っぽいし何かしてくれても良いと思うのだが!?

 コンコンと腕輪を指でつつきながら喋りかけるも反応は無い。

 

『あ』

 

 両手を離したことで支えを失う。そうなればどうなるか?当然倒れる。

 デュラの視界の中で倒れる俺の体を見届けると同時に意識が薄まる。そして眠気にも似たものを感じながら俺は微睡む。

 

◆◆◆

 

 …………。

 

「…………」

 

 …………。

 

「…………」

 

 目の前に居たのは黒子かと思うような真っ黒い人。

 

 誰だよ。

 

「……ん、なんと、言おう、か」

 

 寝たと思ったら起きてるし真っ黒い空間だしでもう滅茶苦茶や。

 ……いやこれ見覚えあるな?

 

「……お前【モルド】か?」

 

「そう、だ。わたし、は、きみが、いう、【モルド】、で、ただしい」

 

 【モルド】の喋り方はぎこちない。なんというか()()()()と言った感じだ。

 

「……ん、すこし、まて……あー、あー、これで良さそうだな。君達の言葉は覚えた」

 

 すぐに流暢に喋られるとそれはそれで怖いな。

 もしかして()()()に答えていたらマズイ事になっていたのでは?と考えた途端ぞわりと悪寒に襲われた。

 

「この形では初めましてになるかな、私の殺害者」

 

「いきなり何言ってんだおめー」

 

「何か変な事を言ったかな?」

 

「変な事しか言ってねぇよ、なんだ『私の殺害者』って」

 

「事実だろう?私は君に殺されたのだから」

 

 うーむ微妙に話が通じているが常識が無ェ。

 おまけに言っている事は事実ときたもんだから否定のしようがない。

 というか何でここにいるのかよく分からんな、前のは捕まったからだろ?もしかしてあの腕輪触ったから?

 

「君をここに呼んだのは、他でも無く謝罪の為だ」

 

「謝罪ぃ?」

 

「私は……そうだな、数多くの生命を危機に曝した。そして命を奪った、いくつもの命を」

 

 その中には、当然ティアン()も含まれているのだろう。

 

「私の所業が君にとってどのような意味を持つのか、今ならば理解できる。罪深い行いだ」

 

「許されたい、という訳では無い。だが私は償いとしてこの形を選んだ……君の武器として、力になって、君の望みをかなえる一助になりたいと……そう考えている」

 

「……」

 

 思う事が無いと言えば勿論嘘になる。こいつのせいで色んな人が傷つき、目にはしていないが命を落とした人も少なからず居るだろう。

 全員を救えなかった、なんて綺麗事を言うつもりは無い。俺も俺が救えるだけの人は救えたつもりだ。救える人間を救えただけでも価値はある……そう信じたい。

 

「一つ聞くが、あれはお前がやろうと思ってやった事か?」

 

「……この、思考が現れる前は意志というものが存在しなかった」

 

「そうか……」

 

 人形は力なく項垂れた。その手は所在が無さげに揺れるが、遂にそれも大人しくなる。

 さながら判決待ちの罪人だ。そしてそれを()()()()裁くのは……俺である。

 悪意のない害とは全く困る物であり、迷惑なものだ。

 拳を一度握りしめ、緩める。じんわりと熱を感じた。

 

「──なら、良いだろう」

 

 無造作に手を差し出す。

 

「……喜んで、我が殺害者」

 

 真っ黒な手が、俺の手を取る。かと思えば人形は跪き俺の手の甲に軽く口づけをした。

 

「壊すことしか出来ないこの力だが、うまく扱ってくれると助かる」

 

◆◆◆

 

 とん、とん。

 心地よい刺激を受けながら微睡から覚める。意識が明瞭になり視界に入ったのは見下ろされた俺の体、そして体に添えられた手。あと背中に当たる柔らかいナニカ。

 

「おや、起きましたね」

 

 相棒の声から察するにあの会話の裏では爆睡かましてたんだろう。少し恥ずかしい。

 

『寝てた?』

 

「えぇ、それはもうぐっすりと。私が膝枕(こう)していても目が覚めなかったくらいには」

 

 ははぁ成程膝枕か、んで頭が無いから胴体を乗せているという事ね。

 

『ちょっと恥ずかしい』

 

「私に膝枕されてるんですよ?少しは喜んでみたらどうですか?」

 

『んー普段のお前知ってるし』

 

「……」

 

 溜息を吐かれる。何もおかしなことは言ってない筈だが。

 というかシュウ達が近くに居ない。置いて行かれたのだろうか?

 

「シュウさんは周辺の救助活動を、そしてあの二人組は事態の収束と共に姿を眩ませました。追跡も視野に入れましたがマスターの安全が第一なので」

 

『ん……それは、なんといいますか……』

 

『ありがと』

 

 感謝の言葉を皮切りに沈黙に包まれる。木々のざわめきすらもこの激戦の後では鳴りを潜める。

 あれ?俺なんかまずい事言った?

 

「……そういう事、言えるんですね」

 

 《感覚共有》により与えられる感覚はあくまでデュラのものである。視覚は勿論、嗅覚も、味覚も、そしてなにより……()()も。

 嗅覚と味覚は実感することが無く、今まではもっぱら視覚だけを目的に運用していた点が大きいだろう。聴覚は完全に無意識のうちにあったのもあり、有難みを実感する機会は()()()()

 

 言葉にした本人しか知覚できないような、ほんのわずかな感情の揺れ。俺はデュラの聴覚を通してそれを聞いた。

 鉄面皮、顔面蒼白レベルの肌、気まぐれでかまってちゃんなアホ馬、最高の相棒。俺の中でデュラはそういう扱いだった。

 だが、感情の揺れ……安堵や慈しみを感じ取った俺の脳内には新たな認識が生まれてしまった。

 

 ……まさか、一瞬とはいえコイツを()()だと思うなんてなぁ……。

 

『ほぉ……』

 

「なんですかいきなり」

 

『いや何でもない』

 

 閑話休題。

 ともかくとして目下の問題は解決したようであんまり解決はしていない、HPは未だにマイナスだし俺の片足も綺麗に────。

 ……あれ?

 

 無い筈の場所に重みを感じる。まさかと思い動かしてみると思い通りにすいすいと動く。

 

「……おや、気付きませんでした」

 

 デュラも驚いた様でさわさわと触り始める。

 理由は分からないが戻ってきていたのだ、俺の()()が。

 だがその足、少し妙でもあった。

 

 良く見なくともその違和感は顕著にあらわれていた事に気付くと共に、()()()()()という表現が間違っていた事にも気付く。

 ──結晶。黒い結晶が俺の足代わりになっていたのだ。

 

「結晶……まさかっ……!」

 

 デュラは俺が使っていたランスを持ち出すと左足めがけて振り上げる。

 

『タ、タンマタンマ!』

 

『多分悪いヤツじゃないってコレ!』

 

 腕輪がキラリと光を反射した。恐らく()()()()ことなんだろう、それなら悪いモノじゃない筈だ……多分。

 

「……マスターがそういうのでしたら」

 

 ゆっくりと降ろし、ランスを俺に戻す。

 その後も現状の刷り合わせとか色々で時間を食った。

 最終的にはシュウの救助活動に加わり、その中には馬を失ってしまった御者がいた。

 相棒への説得の結果、俺が御者になる条件で馬車を引き生存者をギデオンまで連れて行った。

 

 この事件の翌日、ログインした時に()()()()()()()としてリルやら装備やらのアイテムをたんまりと配布された。

 その中に【ガチャ券】があり、このゲームにもガチャがある事を知ると共に数多の苦い記憶がよみがえった。

 

 因みにHP回復目当てで行ったギデオンの教会で、近衛騎士団だとか名乗る連中に包囲されたのはまた別の話である。

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