・イグニッション
二日後
「じゃあ、行ってくる」
町の人達にそう告げて出立しようとする。二日前の決意からやれるだけのレベリングや装備の調達、ジョブの見直しを行ってきた。
デュラへの騎乗にはスキルは必要なかったが、所持していれば騎乗中のステータスに補正だったりが入るらしいのでジョブを【軽装戦士】から【
レベリングに関してはデュラで飛ばしながら轢き潰せば大抵の敵は終わるので楽ではあった。【サンドゴブリン】は人型だったこともあり最初は凄く抵抗があったけど段々慣れてきた。…気を付けよう。
装備は初期装備からもう少しENDとかが優れている物に変えた。あとはフルフェイスのメットとロングソードを買った。メットに関してはいうまでも無いだろう、ロングソードは戦闘スタイルの変化が大きい。
初期装備のナイフではデュラの上から届かないし届かせようとすると転倒しそうになる。そこからロングソードに変えたわけだ、やり方としては水平に構えて横を通り過ぎるだけ、簡単。
「二人だけでよろしいのでしょうか…?もっと人を付けていくべきかと…」
「いや、大丈夫だ。逆に他の人は居ない方がやりやすい」
心配そうに声を掛けてくれたが、心配には及ばない。基本轢くか辻斬りスタイルだから人に合わせられないのが一番デカいけど…。
「早ければ今日、遅くとも三日後には必ず戻ってくる」
…多分スキル使うから三日後で確定だけど…。
「じゃあ、行ってくる」
デュラをチャリオッツ体に変化させて乗り込む。後ろからはどよめきが聞こえたが気にせず出発をする。
勝つか負けるかじゃない、絶対に勝つ。
────────
・????
生まれた時から、ソレは皆と違った。
周りと比べても小さい体。
周りと比べても薄く、柔らかい外殻。
周りと比べてもいっそう臆病な性格。
…そして背中から突き出た六本の角の様な物。
食事は全ておこぼれだった。そこに情けないという感情は一切ない。生き残るための戦略として生きてきた、格上が居る時は満腹な時を見計らって移動する、害する力が無いと判断される行動を取る。
もし襲われたら四つ足で逃げ出す。周りとは違う角の様な物……排気管から爆風を吹き出しながら。ソレは体内の器官が突然変異していたのだった。体内で自らの魔力を圧縮し、呼吸で取り込んだ空気と混合させて爆発させる。本来であれば火を吐く事の出来る種族だったが、火を吐くためのものが点火装置の役割を担う事になった為本来の用途で使うことが出来なくなっていた。
だがソレは満足していた。逃げ切れるだけ足は速く、仕留めた獲物を横取りできるだけの力を得た。そして傍から見れば情けない生き方を繰り返している内に
【(〈UBM〉)認定条件をクリアしたモンスターが発生)】
【(履歴に類似個体なしと確認。〈UBM〉担当管理AIに通知)】
【(〈UBM〉担当管理AIより承諾通知)】
【(対象を〈UBM〉に認定)】
【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】
【(対象を逸話級──【爆進竜 ユーロビュート】と命名します)】
そのアナウンスと共に、自分が変わったと自覚する。より深い思考が可能になり、より早く疾走できるようになったと直感で感じた。
「…GRUUU?」
世界が広く感じた。今なら違うかもしれないと思った。
手始めにニンゲンという群れの巣を周りに行ってみた、丁度呆けているヤツが居たので試しに走りながら腕を振り抜いて爪で斬り裂く。するとそのニンゲンはいともたやすく絶命した。
「……SHHH…」
【ユーロビュート】は理解した。群れるコイツらは弱い。それに勝手に離れて孤立する。
こんなに狩りやすい獲物はそうそういないだろうと考え実行に移す。
「う、うわぁぁ!?」
「モンスター!?」
「あわてるな!俺達で──グアッ」
弱い、弱い、弱い。いままでこんなにも弱いヤツらに自分は恐れをなしていたのか。
コイツらは獲物だ。勝手に孤立して狩りやすくしてくれる。
「GRUUUUSHAHAHAHAHA!!!」
孤立したヤツから殺して食らう。【ユーロビュート】は効率的な狩りを覚えた。
自然の世界では…この世界では自然の摂理と言ってしまえばおしまいだったが、【ユーロビュート】は気付かない。
あの時呆けていた者の…〈
────────
・イグニッション
「ではマスター、情報の整理をしましょう」
「そうだな、今は分からない事が多い」
こうして討伐に向かったは良いものの、実際問題分からない事の方が多く手当たり次第の行動になっている。その為移動を兼ねて情報の整理、そして奴の行動を把握することが必要だ。
辺りは静まり返っており、普段なら見かけるモンスターが幻だったかのように姿を消していた。恐らくヤツの影響だろう。
「では最初に、後方のキャラバンが目撃したという情報からです。【ユーロビュート】はかなりの速度で移動していると言っていました。いきなり現れて彼らを殺害し、そこから離れるのに一分もかかっていないとの事……さてマスター、疑問があると思います。無くても作って下さい」
ふむ、と息を吐いて考えてみる。
「なぜ目撃者である彼らが襲われていないのか」
「はい。私もその点が疑問になりました」
なぜ彼らは襲われなかった?足が…つまりAGIが高いというのなら被害キャラバンだけでなく目撃者である彼らを襲ったとしても何らおかしな点は無い。実際それが可能なだけの速度を出せる事は彼らから聞いている。
「推測される理由はいくつかあります。一つ目は、『目撃者を襲うだけの体力が無かった』です。マスターの記憶中から類似した物を探した所ネコ科のチーターという動物が当てはまりました」
成程。狩りに成功したはいいものの別の獲物を狙うだけの体力は残っておらず、そのまま退散したのではないかという事か。
「確かにチーターとかはそういう感じらしいが、恐らくその推測はノーだ。別にある筈だ」
「理由を聞いても?」
「相手は【UBM】、一回の狩り程度で…それも戦力差が大きかった相手に体力切れを起こすのか?というのが理由だ」
話を聞く限り彼らの護衛は【戦士】が一人、【盾士】が一人、【司祭】が一人。
もしその程度でバテるのだとしたら相当燃費が悪いし、戦闘力が低すぎる。護衛の彼らを責めるつもりは一切ないが、掲示板で報告のあった【UBM】は時期もあるだろうが数は少ない。それも討伐までこぎつけた事例は更に少ないし、こぎつけた例もパーティを組んでかつその全員のレベルがいかつい数字をしていた。どんな廃人共だよ…。
…ちなみにその数少ない討伐報告パーティの名前にリアル宗教の教祖の名前があった時は腰を抜かした。まさか本名でやらないだろうし名前をかたどった別人だろう。
「まぁ、そんな恐ろしい戦力にレベル13のマスターが挑むのですから無茶な話です」
心を読んだのかデュラは呼応するように言った。その声色はどことなく自分を奮い立たせる時のようでもあった。
「だが引く理由にはならない」
「えぇ、その通りですとも。言おうとしてた事取らないでください」
…お前…。
「では二つ目、『人数の違い』です。襲われた彼らは聞くところによると十から二十の人数で移動しており、対する目撃者のいたキャラバンは五十人程。そうやって考えるならば納得は出来ると思います」
確かにこれは分かる。人数が少ないなら襲う、多ければ手を引く…俺達がやるゲームとかでも似たような事はある。そしてそれは自然界にも適用されることは多いと聞く。だから群れを作る動物がいるんだ。
「それはいい線を行っている気がするな。群れを作って天敵から身を護る動物は多い、そして今回は俺達が襲われる側に回った。筋は通る話だ」
俺も似たような事をしろと言われれば同じことを考える。より少ないリスクで、より少ない消費で確実に手に入る方法を選ぶのが定石というものだ。
「そして三つ目、これはあまり自信がありませんが上げるとするなら…『町から離れた者から順に襲っている』というものです。街から一定距離離れた者でしょうか、それともただ離れただけかは分かりませんがそのような説も浮かびました」
……『人数の違い』、『町から離れた者から順に襲っている』…俺が襲われた時はどんな状況だった…?
狩場に人が多かったから人があまりいない外れの方に行った。その過程でコルタナからはどんどん離れていた。
「…まさか」
街という群れから離れた者を…その中でもより孤立した人から襲っているのだとしたら。
…ふと視界にある物が入って来た。見覚えのあったソレ…露出した岩だろう、それは俺が丁度初めて死んだときの…ヤツに襲われた時……の─?
「──デュラ!!!」
「エンジン全開でかっ飛ばしますから舌噛まないでくださいね。まぁどうせ
一気にフルスロットルまで加速しより外へ離れる。そして先程まで続いていた轍に異なる方向からの線が上書きされ、その線は俺達を追って続く。
「GRYYUUUUUUYYYYYYYYYY!!!!!!!!」
エンジン音の様な声を響かせながら…ヤツは孤立した俺達を追って来た。
【爆進竜 ユーロビュート】
追跡者の名前は予想通りで、視認した瞬間…あの時の感情が蘇った。
かつて
「「…殺す(します)」」
これより始まるはジャイアントキリング。
椋鳥玲二…レイ・スターリングがこの世界に入るころには既に風化している伝説。かつて掲示板を騒がせた事件──『コルタナのデッドヒート』はかくして始まった。
───レベル13でレベル26の【UBM】を単独討伐した。それが事件の概要である。
次回は恐らく最初から最後までバトル&シリアスです。キャラは今後増やしていきたいなと考えてます。
5/31追記
UBMの報告について修正しました。時系列としては発売して間もない頃にしようと思っているのですがおかしい点多々あると思います。もし見つけても大目に見ていただけると助かります。