「…終わったんだな」
あの日の再現の様にヘッドギアを外して起き上がる。だがあの日と違う事と言えば気持ちが少し晴れやかな事だろうか。
【ユーロビュート】は倒した。特典のアナウンスも受け取ったから確実だ、これで街の人達も少しは気が晴れてくれると良いのだが…。
今は絶賛独り暮らし中なのでここに居るのは俺一人、俺の生活を咎めるのは誰も居ない…がまぁ生活習慣病とか怖いしそれなりに食生活はしっかりしないとな…。
ご飯を食べながら掲示板とかを巡ると【UBM】討伐報告をするところがあったので覗いてみる。前より増えてるな…。
ふとここに書き込もうかとも考えたのだが、俺的には誇らしい事では無かったのでやめておいた。討伐された【UBM】を見るとどれも強そうな名前ばかりで、その討伐者のジョブもこれまた強そうであったり面白そうであったりと初めて見る物ばかりだった。
「【戦士】、【銃士】…おぉ【武士】まであるじゃん幅が広い」
まぁこんなのもあるんだなって事でスルー。
他にはお得な情報とかを巡って色々な所を回っていたら結構時間が経っていたみたいで、色々身支度を済ませてその日は寝た。
──────
「ビバ帰還」
「おかえりなさいませ、私が来てからは初めてのデスペナでしたね」
「そうだな」
あの時の事を反省点交じりで話し合う。交差の時に受け流すのは良かったがその時の姿勢はどうだったとかスキル使用後の動きは早さに任せたものだったから改善の余地あり等々。
「…ん?」
町が騒がしい…いや、
「あっ!帰って来たよ!」
一人の子供が俺を見るなりそう言って何処かへ駆け出していく。因みにここはコルタナだが、その中の一区画となっている。実際はもっと広く大きいのだが如何せん俺はここしか知らないものだから視界に広がるこの街並みがコルタナだと思ってしまう。
子供が行ったきり、中々戻ってこない。その間も周囲の人たちはひそひそと俺とデュラの方を見て話をしている。なんだか悪口言われてるみたいで居心地が悪い。
「おぉ、本当に三日後に戻ってきましたね。旅人さん…いや、〈マスター〉さん」
なんだか意味深な事を言いながら現れたおじいさんは、周りの反応を見る限り偉い人なんだろう。ただまぁ俺は初めましてだしここの事全然知らないから何が何だかと言った感じで…。
「ふむ…そのレベルとジョブで【UBM】を討伐…更に三日後に戻って来る…まさに伝聞通りですね。ここ最近あなたの様な方が増えていると方々から聞き及んでおります」
…んん?伝聞?
──と言った感じで嚙み合わなくなった俺におじいさんは懇切丁寧に教えてくれた。何でも昔とんでもないドンパチをしていた時代があったそうで、その時に俺達みたいな特徴を持っている奴が台頭したことがあったらしい。
当時から呼称は〈マスター〉になっていて、ある時を境にめっきり見なくなったのだがここ最近になって急増しているとの事。
…これ多分サービス開始の事言ってんだよな…?あと三日後云々はデスペナだし…よく考えられて設定が出来てんな。
とまぁなんやかんやで話は進んで行き、ようやく本題に入った。どうやら俺とヤツの戦いを遠目に見ていた人が居たらしく、事の顛末は俺が戻ってくる前に共有されていたらしい。
しかし勝った事による問題もあった。
どうやらこのおじいさんを筆頭に別の街などへ救援を頼んでいたらしい。【UBM】が生半可な強さではない事は既に知れ渡っているので、それなりな規模の討伐隊が結成されてこっちに向かっていた最中に俺が倒してしまったようだ。
つまるところ仕事を横から掻っ攫ってしまったという事、移動費とか宿泊費とか装備費とか諸々はここの地区が持っていたらしく……まぁハッキリ言わせてしまえば無駄遣いも良い所と言った感じにしてしまったのが俺の様だ。
「…すみませんでした…」
「貴方が謝る事ではありません。寧ろ早期に討伐して頂き、こちらとしては感謝してもし切れないのが本音です…早いうちに落ち着くことが出来たので、ようやく彼らを送ることも出来ます」
そういっておじいさんは遠い目をする。
送る、その言葉が何を意味するのかは直ぐに分かった。
「そう…ですね」
何を考えて死んでいったのかは分からない。無念かもしれないし怒りかもしれない、もう大切な人と会えない事への悲しみかもしれないし絶望かもしれない。
嫌な言い方をすれば俺はあくまで下手人を始末しただけ。そこに良い感情は存在しなかった。
「あなたが気負う事ではありません、無関係な身でありながらそれほどまでに考えていただいている事に、私達は嬉しさすら感じていますよ」
「そんな……俺は…」
『マスター』
……
『勿論、マスターの言いたい事もわかります。ですが彼らも彼らで乗り越える…いえ、受け止めようとしているのだと思います。ずっと引きずって、今も生き返ってくれたら…と、考えるのはマスターが最も嫌う事な筈です』
その一言でハッとさせられる。今俺が言っているのはグチグチと引き摺ろうとしているだけの事であり、デュラの言う通りソレは俺が最も嫌いな事だ。
『おじいちゃん、どうしておきないの?』
『…それはね、遠い…本当に遠い所へ行ってしまったんだよ』
あの時の事を思い出す。俺がガキの頃に祖父は死んだ、天寿を全うしたのだ。それでも俺はよく分からず、何故ここに居るのに何処かへ行ったと言うのかが分からなかった。
色々理解してきたころに思ったのは『そうか、行ってしまったんだな』というシンプルで、しかし薄情とさえも感じ取れることだった。
涙がボロボロと溢れて止まらなかったのを覚えている。
『まだあの人が生きていたら──』
『あの人だったら──』
そんな言葉が出る度に俺は辟易としていた。その考えはまだ受け止め切れていないヤツがいう事だ、いつまで妄言に浸っているんだ。
いないなら、そう考えろ。いない事が大前提の考え方で生きるんだ。
ドライな考え方だと言われることもあったが、それでもこの考え方は変えなかった。何より俺が嫌だったんだ、そんなたらればで生きる事が。
「…そうですね…その人達が──」
安らかに眠れるように。そう言いながら目を伏せる、おじいさんも俺の行動には何も言わず同じように目を伏せてくれた。
彼らの魂が、安らかに眠れるように。
その後、街の皆さんから礼という事でお金を渡されそうになったが丁重に断らせていただいた。この後に控えているだろう様々な補填に回して欲しいと言って俺は街の外れへと向かった。
街の外れ、つまりは俺とデュラが初めて出会った所だ。
「なんだか懐かしい気分です、ここでマスターが気絶するくらいに驚いたのも…思い出すと面白くて笑ってしまいます」
「実際には一か月どころか一週間も経ってないと思うんだがなぁ…その中のたった一日が濃いとこうも長く感じるんだな」
初めて会って、そこからドライブして、そこからレベリングして……【UBM】を倒した。
…【UBM】といえば。
「そういや特典武具ってどうなったんだ?アナウンスは確か聞いたんだけど」
特典武具、その単語を聞いたデュラはニヤリと…表情は変わっていないが絶対二ヤケてるだろこれ。
というか装備欄とかアイテム欄を見てもアナウンスで来ていた【爆燃機関 ユーロビュート】なんて文字は見えなかった、一体どこにあるんだろうか?
「どこにも見当たらなくて焦っているかと思われますが、ご安心ください。
〈エンブリオ〉の装備欄?……あ、これか。
そこには【爆燃機関 ユーロビュート】の名前がハッキリと写されていた。
だが肝心のデュラは何処に装備しているんだ?外見は何一つ変わってないし、装飾とかも変わらずだ。
「装備、と一概に言っても全部が全部手に持ったり装着する物でも無いらしいですよ。現に、私が装備しているのは…ココですから」
そう言ってデュラは自分の胸に手を当てた。何言ってんだコイツ?
「特典武具…武具とは言ってもその形態は多岐にわたります。剣や盾と言った手に持つ物から鎧や外套等の身に着ける物、そして変わった事に身体の一部になる事もあるそうですよ」
自慢げに言うデュラを見てなんとなく理解してきた。
「成程、つまり…今回受け取ったヤツはデュラの一部になったって事だな?」
「その通りです。【爆燃機関 ユーロビュート】は私の機関部…つまり
なんか想像できないな…言ってしまえば心臓とか肺が機能をそのままに別の物に変わるって事だろ?もし似たような事例がマスターの方であるならぜひとも感想を聞かせて欲しいね。
「…メイデン体?てことはチャリオッツ体の方だと?いや機関部ってまさか」
「はい、そのまさかです。ではお見せしましょう、新しい私の姿を!」
変☆身、だなんてふざけた事を言いながらデュラはチャリオッツ体に変化する。
それ毎回言わなきゃダメなの…?
「別にそんな事は無いです」
「えぇ…」
と、ともかく気を取り直して変化点を見て行こう。さっき言ったように機関部を見てみると、そこにあったのは以前よりも大型化された機関部、つまりはエンジンだった。
あとはエンジンの大型化が関係しているのかマフラーの本数も増えた、最初は一本だったのが今は六本…六本である、一体どうなってしまったんだ。
「結構変わったけどステータスが変わったりはしたのか?」
「勿論です。マスターの戦闘スタイルにアジャストした結果ステータス補正が見事にAGIですよ」
おぉ、AGIなら今よりももっと速く走れるって事か。消費MPは変わってないっぽいし燃費が良くなった様だ。
【爆燃機関 ユーロビュート】の名前を選んで詳細を見てみると今言っていた補正だとかスキルなどを見ることが出来た。
【爆燃機関 ユーロビュート】
〈逸話級武具〉
爆ぜる燃焼で疾駆する亜竜の概念を具現化した逸話の武具。
極めて良好な効率を持つと共に装着者の走力を増強する。
※譲渡・売却不可アイテム
※装備レベル制限なし
装備スキルを見てみると二つあり、一つは《???》となっており詳細どころか名前を見ることも出来なかった。解放条件とかがあるのだろうか?
名前が見えた方はスキル名が《爆燃騰血》となっていて、スキル詳細はこのようになっていた。
《爆燃騰血》:MPが20%を下回った際自動発動しMP+100%プラスAGI+100%、一秒ごとにMPを20%回復。100%に到達後回復効果が終了し、AGI上昇は発動後1時間有効。72時間に一度使用回数を回復、ストックは2。
「「………」」
…これは何と言うか…その…
「強くね…?」
「魔法職だったら喉から手が出そうな代物ですねコレ…」
いやMP二倍からの5秒で満タンとか…AGIに関してはそこまで欲しがられなさそうだけど回復とかに関しては大分破格な性能してるぞコレ。いやAGIとかに関しても大分スゴイ事になってないか?俺まだ下級職だよ?
「確かに強いと感じる物ですがマスター、今の貴方は他の方と比べれば弱いというのはお分かりですね?」
ウグッ、痛い所を突いて来る…。
「まず騎乗スキルは1で止まっていますから伸ばす必要があります、上げれば上げる程騎乗物への補正であったりより精密な操作等々が出来ますから優先度は高いです」
「そしてジョブのレベルを上げましょう、そして上級職に上がってゆくゆくは超級職も目指しましょう。勿論エンブリオである私も形態を上げる必要があります」
「それに分かっていますか?今の私は第一形態、特典武具こそあれどまだまだ下の下です、ここから第二第三と上がって行くのに際してマスターの戦闘スタイルや考え方等様々な要因が成長に絡んできます、マスターが軟弱になれば私も軟弱になる…という事です」
…
「マスターは何を望みますか?何故〈
……最初は、ただ早く飛ばしたいとか飛ばしながら夜空を見上げたいとかそんなのだったけど、今は違う。
答えは簡単だ。
「速攻でかっ飛ばして速攻で片づける、俺の目の前で
「その為に俺は強く、速くなる」
俺の言葉を聞いたデュラは、ヴェールの向こう側でふっと息を漏らし微笑んだ。
「その言葉を待ってました。
ぐっとサムズアップをして見せるデュラを見てなんだか気分が良くなってくる。そうだよな、そうこなくっちゃ。
「よし、ちょっと足を延ばしてみようぜ!強くなるためにも色んな所に行ってみたいしな!」
「賛成です」
そうとなれば話は早い。荷物をアイテムボックスに詰めて荷支度を済ませれば早速デュラに乗り込む、まだコルタナに居てもいいんじゃないかと思う気持ちはあるが俺が居なくちゃいけない訳じゃない。
俺は、俺なりのやり方で強くなる。
目的地はどうしようか?
「それならアルターはどうでしょうか?」
「どこがどうとか全然わからないし、じゃあアルターにするか!」
スロットルを上げて軽快に走り出す。やっぱり走りながら感じる風は心地良い。
ある程度レベルも上がっているので周りのモンスターに襲われてもそこまで脅威に感じる事は無くなった。たまに出て来るヤバそうなのはガン無視決め込んで逃げてるけど。
この調子なら割と早い段階で着けるのではないかとも思った、いや思ってしまった。
大抵そういう事を考えると何か余計な事が起きて日程がズレたり予定取り消しとかいろいろと起きる。なんだよ作業順調に終わって定時で上がれると思ったら設備トラブルでフル残とか頭イカれてんのか?
…まぁそう思うようになったのもわかる通りリアルの方で色々あったんだよ。
俗に言うフラグって奴か。長々と何を考えてるんだって話だけどまぁ結論だけ言えばこうなる。
面倒事がやっぱり起きた。
何が起きたかと言えば、砂漠のど真ん中でぶっ倒れてる人が居た。今にして思えばこれはまだまだ序の口だったしこの後の方がよっぽど面倒な事だった。
体感だと滅茶苦茶期間空いちゃいました。あとデュラの容姿説明地味に間違えてたのでこっそり修正しました。
6/12追記
色々修正しました。ジョブに関しては分からんばっかなので大目に見ていただけると助かります。(読み返してはいるのですがなかなか追い付けていないのが現状です)