TSきつねはサイバーパンクの夢を見るか   作:ハム山公男

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鉄と殺意と、大いなる第一歩

 サイバネティックエデンの世界において、あなたはワールドエンド・シティの一市民となる。

 ギャングとして、裏社会のトップを目指すもよし。

 コーポレートとして、資本主義に身を寄せるもよし。

 あるいはフリーランサーとして、働き口と日銭に頭を悩ます日々でもいい。

 

 ただ、忘れることなかれ。

 この街ではなにもかもが自由である事を――

 

「という事らしいけど、まあとりあえずフリーランサーかなぁ」

 

 自身のアバター完成度にうっとりするのを終えた俺はログイン直後に現れた今後の行動指針を示すウィンドウを閉じ、周囲を見回した。

 

 サイバーパンク。まさしくそのジャンルを体現したようなサイエンスでフィクションな摩天楼。

 空を見上げればホログラムの企業広告が表示され……え、ちょっと待って。リアルの企業の広告も混ざってね?

 

「ええっと……へえ、リアル企業の車とかバイクとかあるんだ?」

 

 バイクはちょっと興味があるかもしれない。というか、移動手段の確保は急務なんじゃなかろうか。

 なんたってこのワールドエンド・シティ、事前に店長に聞かされた話によると『地表の土地面積だけで』実に100キロメートル四方というとんでもない広さをしているのだから。

それが公式サーバーだけで100あるので、収容人数は推して知るべしである。

 

 というわけで、第一目標を移動手段確保に据えて、ワールドエンド・シティでの第一歩を踏み出そうとした俺が見たものは――

 

「ヒャッハーーーーーーー!! どけどけどけどけェ~~~~!!!」

「えっ」

 

 俺に向かって突っ込んでくる大型トラックだった。

 後ろにはそれを追いかける治安維持機関の人間が操っているらしい統一規格のバイク。

 

 衝撃、急転する視界、爆笑するチンピラの声。

 

「悪ィなニュービーちゃんよぉ! だがこの街でボケーっと突っ立ってる方が悪いんだぜェ~~~?」

「煽ってる暇があったら後ろの連中どうにかする方法考えろボケッ!! ああくそ、どうする!? ただの運び屋クエのはずだろこれ!?」

「ぶべっ!」

 

 クソ硬い地面に叩きつけられた俺を尻目に、トラックとバイクたちは走り去っていく。

 後には即死こそしなかったもののHPが大幅に削れた俺だけが残された。あの野郎、口ぶりからしてプレイヤーだな??

 

 NPCが、通りすがりらしきプレイヤーが、憐れむような目でこっちを見ているのが分かる。クソが。

 

「……………………上等ォ」

 

 ゆらり、と立ち上がってトラックが走り去った方を見る。

 目が、必要なものを探してぐりんぐりんと動き回る。舐めるように街中を見回し――そして見つけた。

 

 『Rent a car』の看板を。

 

「ブチ転がすッッッッ!!」

 

 俺のワールドエンド・シティでの第一歩は、鋼鉄と殺意に彩られたものになった。

 

 ☆

 

「ああクソ、車高え! なんか、なんか初期所持金額でもイケるやつないのかよッ!?」

 

 探した結果、めちゃめちゃボロいバイクが一つだけ見つかった。そのレンタル料、なんと保険込みで所持金と全く同じ1000IUC。

 バイク備え付けのタッチパネルに手の平を叩きつけると、所持金が引かれてバイクのロックが外れた。ヒュー! ハイテク!

 

 跨ってアクセルをふかすと、まるで運転の仕方を『知っている』かのように全身が動く。システムアシスト付きとはまた親切で助かる!

 

「絶対逃がさねえからな!!」

 

 瞬間、ボロバイクとは思えない速度で俺は道路へと飛び出し、例のトラックを追いかけ始めた。

 

 運転――否、操作はアクセル、ブレーキ、重心移動での左右の動きのみ。

 一応現実で免許は持っているもののレースゲームはわりと苦手な方なので、操作が簡単なのは非常に助かった。オートマ最高だな!

 

「見つけたァ!!」

 

 幸いクソ長い直線道路だったおかげで、連中の事はすぐに見つけることが出来た。ポリスのバイクの群れと、その先頭を走る大型トラック!

 俺の甲高い声が聞こえたのか、トラックの助手席の窓から体を出してポリスに応戦していた男が驚いた様子でこちらを見た。

 

「ああん? おいおいニュービーちゃんが追っかけて来たぜ!?」

「マジかよめんどくせえな!」

 

 慌てた様子の男たちの会話が聞こえてくる。

 敵が泡を食ってるうちがチャンス。右手で腰のホルスターから初期装備のハンドガンを抜き、狙いをつけて……。

 と、その前に連中を追っていたバイクに声をかけた。

 

「ヘイポリス! あいつらを捕まえるなら協力したいんだけど発砲OK?」

「おお? ハンターか? 別に構わないが、その装備で大丈夫か?」

「大丈夫! サンキュー!」

 

 ようし言質は取った!

 

 この手のゲームでNPCとのコミュニケーションを取るコツはとりあえず『言質を取る』ことである。

 流石にフレンドリーファイアをしたら知らないが、無断で撃つと普通にこっちもしょっぴかれる可能性があるのだ。別ゲーでそういうの、嫌と言うほどに経験したからね……。

 

 走りながら片手で銃を構えると、おおよそどのあたりに弾が飛ぶかのアシストがレティクル周辺に表示される。いやマジで親切だな!

 しかし流石に片手で運転しながらのド素人の構えではどこに飛ぶか分かったものではないらしく、狙いが中々定まらなかった。

 

「……ええい! 当たるまで撃つ! 行けるだろ相手はデカブツだ!」

 

 発砲、発砲、発砲、発砲。

 そのほとんどは路面を抉るか車体に弾かれるかだが――弾倉丸々一つ分、計10発を叩きこんだところで、ようやくお目当てのタイヤがパンクした。

 もちろん一つパンクさせた程度で止まると思っちゃいないが、それでも走りづらくはなって速度下がるだろ……!

 

「なっ、おいニュービーてめぇ!!」

「悪いな、ニュービーだけどフルダイブでのPvPはそれなりに嗜んでるんだ。ひき逃げなんざして無事で済むと思うなよ……!!」

「チッ……!! おいトウリュウ、方針変更だ! 後ろの連中をブチのめすぞ!」

「ヒャッハーーーーーー!! 待ってましたァ!!」

 

 テンション爆上がりの声と同時に、助手席から姿を覗かせる――マシンガン!? マジか!

 慌てて連中の車体の影に隠れると、俺がいた場所を銃弾の雨が襲い、そして後ろを走っていたバイクをスクラップに変えた。NPCにもしっかり死亡判定が出たようで、明らかに後ろを走るポリス達の殺意のギアが上がった気配がする。

 

 しかし連中はここまでの一連の流れを織り込み済みなようで、ポリスたちが加速したのとほぼ同時にトラックが急激に減速した。

 

「潰れやがれ……!」

「やっべ!」

 

 俺を含め、多くのバイクが急ブレーキをかけたトラックに対応しきれず激突していく。

 ポリス達の命を奪うほどではなかったようだが、それでも大規模な追突事故が発生し、バイクとトラックが一塊になってスリップ、横転……。

 

「トウリュウ! 車体を盾にして殴るぞ!」

 

 流石にプレイヤーとして場数を踏んでいるらしい男たちは、横転する車内からスマートに抜け出し、車体を盾に銃を構えた。

 好戦的な笑みを浮かべる男。しかし、相棒からの返事はない。

 

「……トウリュウ?」

「へえ、この人トウリュウさんって言うんだ?」

 

 何故なら、一連の大事故をトラックの上に飛びついてどうにか回避した俺が、その相棒の喉元を初期装備のナイフで掻っ切ったからだ。

 

「悪ィ、すじこ……やられた……!」

「なん……!?」

 

 申し訳なさそうにしながら、俺の腕の中で光の粒子になって爆散するトウリュウさん。トウリュウ……登龍? 渋いなプレイヤーネーム。どう考えても遥か昔の漫画のチンピラみたいなセリフしか喋ってなかった奴の名前ではないと思うんだけど……。

 

 それにしてもこのゲーム、初期キャラであっても走るバイクからトラックの上に飛び移るなんていうスタントマンも真っ青なアクロバットが可能なのか。

 一か八かだったが、思った以上にこのゲーム、やれるかもしれない。

 

「さて、あとはあんただけだぜすじこさん。……なんですじこ?」

「筋子美味いだろうが!!!」

 

 驚くべきクイックドロー。相当ハンドガンに特化したキャラであるのか、手がぶれたと思った瞬間には俺の眉間に照準があっていた。

 あとは引き金を引くだけで、初期キャラである俺のHPなど一撃で吹き飛んだのだろうが……。

 

「がっ……!?」

「悪いなすじこさん。本命は俺じゃなくて、あんたらに仲間とバイクをお釈迦にされてブチギレ中のポリスメンだ」

「確保! 確保ォー!!!」

 

 俺のHPが銃弾で消し飛ぶよりも早く、ブチギレモードのポリスによるスタンロッドがすじこさんの後頭部に叩きつけられ、地面に倒れ伏したのだった。

 

「ねえどんな気持ち?? ナメ腐ってたひき逃げしたニュービーのせいでクエスト台無しになってどんな気持ち???」

「……どう見てもネカマなニュービーに一つアドバイスだ。このゲーム、ちゃんとある程度ロールプレイをした方が対NPCの好感度が上がるぞ」

「えっマジのアドバイスじゃん」

「ひき逃げの詫びだ……ぐわー!!!」

 

 どうやらポリスによる袋叩きでHPがゼロになったらしく、目の前ですじこさんの肉体が砕け散る。

 ……多分ギャング側のプレイヤーであるだけで、案外普通のプレイヤーだったのかもしれない。ちょっと申し訳ない事をしたか。いやまあ初心者相手に思いっきりひき逃げしたわけだしそうでもないな。

 

 その瞬間、俺にのみ聞こえたのであろうファンファーレと共に、クエストクリアとレベルアップを示す表示が現れる。

 どうやらポリスに協力して犯罪者を捕縛するという行為自体が、一つのクエストとして設定されているらしかった。マジか、こんな突発的な事態なのにすごいな……。

 

 報酬を確認するためログを開こうとしていると、ポリスの一人が話しかけてくる。

 

「やあ、協力に感謝するよ。君は……その様子だと新人のハンターか?」

「ええと、はい。今日この街に来たばかりで」

 

 ハンター、がなにかは分からないが、おおよそフリーランサーと相似だろうとあたりをつけてさりげなく新人である事を匂わせて返答する。

 実際、これに反応できるほどのAIが積んであるゲームはそうそうないが……。

 

「そうか、なら一つ忠告をしておくが、あのトラックの中身には触れない方がいい。面倒事に巻き込まれたくなければな」

 

 このゲームはちゃんと反応するのだと、店長に聞いてはいた。

 ……いやそれにしたって凄いな? これもしかしてチュートリアルじゃないか?

 

「えっと、どうしてですか?」

「積み荷が欲しいなら漁ってもいい。だが大抵この手の積み荷は、どこかの企業やギャングの息がかかっているものだ。

 我々も余計な連中と事を構えるのは御免でね。協力の報酬として見て見ぬふりはしてあげるが、それで面倒事に巻き込まれても我々は協力しない」

「うわぁ……そういう事ですか」

 

 案の定だ。これは恐らく『治安維持クエスト』の報酬チュートリアルだ。

 さっき報酬を確認したところ、手に入ったのは経験値のみだった。しかしRPGにおけるクエスト報酬と言えば、経験値、金、アイテムの三本柱。

 そしてこのポリスの話を総合すると、あの荷台には残りの二本柱である金、アイテムが積んであるんだろう。

 

 積み荷の金とアイテムを報酬として取っていくのは自由……しかし、それが原因で『どっかの勢力とのクエストが発生する』可能性もある、と。

 

「御忠告ありがとうございました。お勤めご苦労様です」

「うむ。君が敵に回らない事を祈るぞ」

「それは俺……あー、ボクも祈っておきますね」

 

 一応先人のアドバイスに従い、多少なりともロールプレイをしつつ俺は横転したトラックに近寄る。それを見て、ポリスメンは苦笑いをしていた。

 

 報酬が増える上にクエストも発生するかもしれないんだよなぁ! 当然貰うだろ!

 

「さて、なにが出るかな、なにが出るかな~」

 

 ――しかしこの時、俺はまだこのゲームをナメていた。

 ゲーム開始直後、ろくにチュートリアルを受ける事もなく、世界観もふわっとしか理解せず。

 そんな悪い事にはならないだろう、というゲーム慣れしているが故の油断もあって。

 

「オープン! おお、4000IUC……! 初期金額の四倍は悪くないんじゃねえの? あとは……んん? なんだこれ?」

 

 小さなチップ。この世界ではデータチップと呼ばれるらしい記憶媒体。

 まさかそれがとんでもない面倒事を引き連れてくるとは、この時の俺は思っても見なかった。

 

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設計図:ASUKA N-999 Tails Of Anima

等級:レジェンダリー

装備必要ステータス:ACT10

所有者:モノノフ幹部 ミシマ・アヤセ

 

飛鳥BEC製サイバネティクス『Tails Of Anima』の設計図。

開発本部より流出した試作品。腰椎と接続した幻影の尾は見る者を惑わせ、分身と光学迷彩を可能とする。

プリンターによって製造可能。

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…………え、強くね?」

 

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